牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

夏ばてはVA欠として現れる

2010-09-30 18:04:33 | 牛の病気

一頃の猛暑から解放され牛たちも食欲を取り戻しつつある。
高温などのストレスに加え、かねてよりVAの蓄積量が少ないために、夏場は肝機能も低下しがちである。
それらを回避させるために、VB群を配合に加えたり、梅雨以降からはパントテン サンカルシウムなどを飼槽内の配合飼料へ振り撒くなどで対応している。
それでも、写真のようにVA欠の症状を呈する肥育牛が出てくる。
前肢の間接の腫大もあるが、むしろ後肢の全体的な浮腫が気がかりである。
この状態を放置すると、いわゆるズルが全身に及ぶこととなる。
この牛は生後月齢が25ヶ月を超していることから、ビタロングを経口投与して対応している。
以前、この月齢に至った肥育牛に、同剤を投与したが肉質への顕著な低下は認められないという結果を得ている。
関係の研究者らによるVAコントロールのモデル曲線でも、この月齢以降は血中VA濃度を上げて、牛の健康管理に配慮したカーブとなっている。
これらの取り組みにより、仕上げ後半のVA欠はかなり回避される。


待機牛並の飼育が未だに影響している

2010-09-29 01:02:25 | 繁殖関係
岩手に続いて、今朝南西諸島から1車到着した。
二月おきに開催される市場であるので、そろそろ待機牛の必要は差ほど無いはずであるが、
相場も下落し、何故か当該市場全体の子牛が通常ではなく、去勢子牛でも、華奢で繊細な感じがして雌牛かと思えるほど、かなりの発育不良が見られた。
平均日令は約310日で、市場測定の平均体重は約240kgであり、DG値は0.7kg以下であった。
全体的にこれらの数値が低いことは、口蹄疫の問題がらみで、長期の待機が予測された頃にJAなどの指導で、飼料給与等はやや抑えめにとの指導があったことを生産者から聞いたことがあったが、それらが今回の子牛らにも影響していたものと判断している。
この状態が改善されなければ、次回の子牛らのことも気がかりである。
この春まで同様に、DG0.9kgを確保する飼い方に戻し、通常の商品価値のある子牛生産に日頃から心がけるべきであったと考えられる。
今回の同市場でもDG0.9~1.0kgの去勢子牛は、44~45万円程度の競り値であり、正常な発育を保持することの良否が伺われている。
一方、この現状からにわかに改善しようとする意図から、濃厚飼料主体で給与量を増加させるなどは、さらに深刻な事態が想像される。
それは、子牛の時期からの濃厚飼料多給は、肥育段階になってから、ルーメンアシドーシスなどに罹りやすいからである。
予め、このような悪循環にならないような飼育設定を策定し実施して頂きたいものである。
これには粗飼料と濃厚飼料の給与バランスなどについて、日本飼養標準を参考とした飼い方に改めるべきである。
あまりにも、低コストが故に、母牛も子牛たちもひもじい思いをしてきた結果となっているが、これでは牛ら自体"モウ達せがない"と泣き叫んでいたに違いない。

写真は、岩手産子牛であり、疲れから一斉に休息中の状態である。


東北産の子牛

2010-09-27 22:34:03 | 素牛


九州各県の和牛子牛市場が再開されて、ほぼ1月が経過した。
宮崎県では、どこの市場でも高値で取引されているようである。
政府支援や補償金などの後押しなどから買い支えられているのであろう。
それに比較して鹿児島県各産地では、宮崎県より10万円程度の弱含めである。
とくに、出荷頭数日本一の曽於や肝属などの著明な市場が苦心している。
一方東北地方では、岩手産なども宮崎産と同様な相場で推移している。
その東北から素牛を導入したが、やや過肥気味の子牛が多く、体型にもバラツキが見られた。
珍しい現象も見られた。
それは、導入牛の数頭に離乳直後に見られるような、数日間やたらと鳴く仔牛がいたことである。
最近では、早期離乳されるために、鳴く仔牛は滅多に見られなかっただけに、子牛の飼い方に地域間の違いを伺い見た感があった。
今秋まで高温日が続いているために、1車当たりの積載頭数を数頭減らして25頭にした。
写真は到着したばかりの運搬車内の子牛たちであるが、思ったより元気であり安堵した次第である。
いつものように、疲労回復と精神状態を落ち着かせるために、モラリックスを与えたが、今回は差ほど好んで舐めなかった。
疲れ過ぎの場合は良く舐めるが、思ったより疲れていなかったようである。




再度講演を拝聴して

2010-09-21 18:23:08 | 飼料

和牛に関して、給与飼料中の微量要素が不足しているという講演があった。
講演は京都大学大学院農学研究科の鳥居伸一郎助教である。
主なる内容は、同助教らが09年に実施された微量元素含量の全国調査(繁殖雌牛290戸、育成子牛(164戸)により、とくに繁殖雌牛への銅や亜鉛などの不足が明らかであるとし、繁殖牛では、毛色が日焼けしたように茶色になるとか、繁殖成績の低下、子牛の発育不足などに関係があるとし、日本飼養標準に標準値とされている値の倍程度を与えることで銅不足は解決するというものであった。
銅などの不足の原因は、繁殖牛に給与される粗飼料は含まれる銅の割合が少なく、銅の割合が一定量補充されている配合飼料の給与割合が少ないためであるとしている。
これらの元素を補給するには、これらが強化された配合飼料や総合ミネラル添加剤を用いると良いとのことであった。
これらのうち、毛色については、粗飼料主体で銅不足の状態で生まれた仔牛は茶色で、哺液剤などを与えることにより、毛色が黒くなり、3~4ヶ月頃乾草を飽食させれば、再び茶色となり、子牛市場を意識して、育成配合を増やすことで、再度濃くなると言う話もあり、うなずける面があった。
ある施設で、低コストが目的で、離乳後の子牛に良質のヘイレージを飽食させているが、発育も今一であるが、毛色がやたらと茶色であることに気づくことがあった。
この研究報告については、個々の飼育環境により問題なく飼育されているケースが多々あるはずであるが、その逆もあると言うことであろうと解釈した。
なぜならば、大多数の繁殖牛は年1産の分娩間隔をなし、繁殖雌牛の頭数に比し子牛頭数が下回っているとは実感していないからである。
繁殖経営者がそのことを意識しながら対処する情報源となったことは事実で興味深い調査研究であった。



講演を拝聴して

2010-09-16 23:22:13 | 牛の病気


9月15日から開催された第48回肉用牛研究会に参加した。
お目当ては特別報告「宮崎県で発生した口蹄疫について」宮崎大学堀井洋一郎教授の講演であった。
感染経路に繋がる話が聞ければと、密かに期待しての拝聴であったが、講演の内容は、口蹄疫とは、発症の経過とその規模などであった。

これまで、噂の域を脱していなかった初発の4月20日以前については、3月中旬までに児湯郡都農・川南両町の少なくとも10農家に同ウイルスの侵入があったとし、関係者の初動対策に問題があったことを指摘された。
とくに、同感染対策が万全であるべき公的施設である宮崎県畜産試験場川南支場などでの発症が現実となったことが、さらなる感染拡大を示唆した出来事となり、関係者には大きなショックであった。
感染防止への関係者の取り組みについては、作業の始業時と終了時には関係者全員の全身消毒が行われ、作業時の衣服の毎時の焼却が実施されるなど壮絶な対応であった。
児湯郡での感染経路については、様々な感染が考えられるが、今回の場合は、まだ結論は出ていないが、人による感染について否定できない。
国や県におけるそれぞれの口蹄疫発症に関する調査や検証についてはこれから進められるとのことであった。
口蹄疫は人への感染は無いとの公的報道が行われていたが、海外では過去に、発症には至らなかったが、1ヶ月程度のキャリアとなったケースの報告があるとのことであった。
この他、同講演では、感染や疑似患畜、ワクチン接種した牛など殺処分された家畜の頭数とその農家戸数、路上等における車両等の消毒箇所の数量や感染防止に従事した人数や県外からの応援者の延べ人数、同自衛隊員の延べ人数、殺処分家畜の埋設面積、各種イベントの中止に関する数字などが画面で示され、これらにかかる総費用は約2,300億円になるという試算などが報告された。

同講演を拝聴して、膨大な口蹄疫への感染拡大が、初動対策の遅れにあったことは、紛れもない事実であったことを再認識させられた次第である。
当初の3月中に、その何らかを疑う獣医師は一人や二人ではなかったはずであり、その関係者らがプロたる本来の原因究明を実施していたならば、10年前の発症規模に抑えられたであろうことを、今更ながら強く感じざるを得ない。
また、公的機関で家畜を飼育する施設関係者について、同教授は同県内では、最も感染防止対策が徹底している箇所であり、この関門が壊されたことについて、大変大きなショックであったとされたが、児湯郡では畜産施設が密集している中にかかる公的施設は存在しており、同感染は塞げたであろうか。
公的施設に勤務している職員の中には、おそらく畜産業を営んだり、その親族であったり、それらと近隣する職員の存在は無かっただろうか。
要は通勤を余儀なくしていることに感染の要因が少なくないと考えられる。
施設内への外部のみの往来を制限するだけでは、同対策を取ったことにはならない。
初動時から通勤者を泊まり込みにするとか、出入りには、感染中に全身消毒などの対策が取られたような処置が、同施設でも実施しなければ、真の意味の対策とは言い難い。
公的施設に繋養されている家畜は、その大部分が種雄牛や研究に供用されていて、国有であったり県有である貴重な家畜財産である。
それだけに、同教授らは先入概念的に、万全な対策施設として認識されていたのである。
講演から以上のような蛇足がよぎった次第である。

一方、16日の朝日新聞朝刊でも口蹄疫の中間報告が掲載され、概ね堀井教授の講演に沿ったものであった。






導入以前に打たれる予防注射

2010-09-13 22:53:13 | 子牛

年間500~600頭の肥育素牛を導入していると、導入して2~3ヶ月以内で、ヘモフィルスやRSウイルスが原因による疾患で死亡させることが珍しくない。
その都度、市場開設者宛にクレームを付けて確実に接種したかを問い合わせるのであるが、確実に接種しているので、市場や生産者の責任はないという回答が届く。
多くの場合、このような水掛け論で、泣き寝入りせざるを得ない状況である。
宮崎県や岩手県の場合は、市場名簿の説明メモに五種混合とヘモフイルスワクチンは全頭接種済みであると記述してあるのみである。
鹿児島県と京都府では、子牛登記書の裏にワクチン名と接種日が記録されている。
京都府の場合は、それに加えて接種した獣医師の署名付きである。
生産県により、その対応はまちまちである。
導入直後、2回目のヘモフイルスを接種する場合、鹿児島県や京都府産の子牛の場合は、前回の接種日が記されていることから、接種間隔が割り出せて、躊躇無く対応できる。
その他の県の場合、競り市直前に接種されていれば、導入直後に2回目の接種では、その間隔が短すぎることになる。
これらの産地の場合、予測しながら接種している状態である。
本来ポジティブリストやトレサビリティーの記録を全うする上では、いつ、どこで、誰が、何を接種したかを記録しなければならないはずである。
また、何らかの原因不明の疾患が発症した場合、家畜保健所へ採血などで原因調査を依頼することがあり、その際、接したワクチン等の詳細を聞かれることがある。
これらのことを考慮に入れれば、鹿児島県や京都府の場合は、問題のない対応がなされている。
頭数を日本一抱えている鹿児島県のケースをして、頭数が多いから面倒などとは、他の産地ではいえないはずである。
これが、購買者つまり消費者へのサービスであり、疾病記録の提出まで要望はしないが、関係者のまじめな取り組みを期待している次第である。


鼻梁の白斑

2010-09-09 22:41:59 | 子牛







導入子牛で気がかりなことがある。
写真にある鼻梁上の白斑のことであるが、これらの白斑は、生まれながらのものではない。
横一文字や横二線であったり写真下のように4列のものもある。
この白斑が出来る原因は、子牛の頭部は発育とともに日々大きくなるが、子牛に付けた「トウラク」「頬綱」などと呼ばれ頭部にくくりつけたロープを、畜主がいつまでも付けたままにしているため、顔を締め付け鼻梁にロープが食い込むなど傷が付き、それが治癒後に白斑として残るためである。
そのため、白斑はロープ跡が残るように、横向きである。
ここまでに至ることは、子牛らは長期にわたりかなりの苦痛を経てきたことになる。
うがった見方をすれば、複数の白斑があるケースでは、ロープを再々きつく締め付け直していることが伺われる。
子牛を販売して収入を得ることは、子牛あっての畜主の生活である。
子牛や親牛に常に感謝して牛飼いすることも牛飼いの生き方の一つでもある。
子牛に感謝していれば、このような白斑は出来ないはずでもある。
得てして、発育の良い子牛ほど、これらの被害になりやすいのかもしれないが、毎日給餌しているのであるからには、それらの観察も見逃してはならない管理の一つである。

寝首を噛まれる

2010-09-08 19:26:49 | 予防治療




4日早朝、牛ブログを書く右手をムカデに刺され、約5時間大変な痛みを感じる疼きに悩まされ、病院で世話になったにもかかわらず、2日目3日目と浮腫が酷くなり、今日の午後になり写真のようにやっと腫れが引いて5日ぶりにパソコンを開いたところである。
寝首をかかれると、ことわざがあるが、熟睡している首辺りに痛みを感じて手を当ててしまったのが不運の始まり、人差し指の先端をいやと言うほど噛まれ、小豆の半分ほどの出血を診ることになった。
慌てふためいて照明を付けたところ、自らの胸に12cmくらいのムカデが這っていて、仕舞いにはとうとう逃がす始末。
一方噛まれた指は途端にうずき始め、逃げたムカデのことが気がかりで、眠れるものではなく、殺虫剤を探してきて、潜り込んだであろう辺りにスプレーした。
3分も経たずにどこからともなく、もがきながら現れたところを殺処分とした。
それからが、生き地獄のごとしで、こんなに痛みが持続するなどとは、努々思いにもよらない七転八倒の体となった。
やれやれの経過にいたり、やっとの思いで安眠できそうである。
鉢物を多数育てていることから、それらに居着いていたものを部屋に持ち込んだようである。
猛暑の折、油断大敵である。



黄砂説に賛否

2010-09-03 18:26:36 | 牛の病気

過日の日本農業新聞によると、口蹄疫の感染経路について「黄砂説に賛否両論」というのがあった。
取りざたされている様々な感染経路の解明に当たり、黄砂説も100%否定はできないであろう。
その根拠として、黄砂にインフルエンザウイルスが認められたという説が取りざたされたからである。
疑われている口蹄疫に関しては、いつどこで発症しても不思議はないというコメントが新聞や雑誌などで引用されていることに鑑み、黄砂説に関しては早急な結論を得るより、時間をかけてでも白黒の決着を得る必要がある。
調査委員会などにおいて、大学や行政機関などで調査研究として、少なくても1ヶ年以上長期にわたり全国各地に特定した観測地点を設定して、黄砂に含まれるウイルスなどの飛来観測を進めてからでも遅くはないと考える。
問題は正確な感染ルートの解明が主目的であるからである。
鳥インフルエンザなどことがあれば、黄砂による伝播として話題になることがあり、それでやむなきとする傾向すらある。
それらの疑いを払拭するためにも係る調査が重要となる。
現在でも実施されているかもしれないが、渡り鳥についても同様である。
近く開催の肉用牛研究会では、「宮崎県で発生した口蹄疫について」の講演が企画されている。

朝日新聞視点欄を読んで

2010-09-02 00:17:12 | 予防治療
8月28日付朝日新聞の視点に「口蹄疫の終息宣言『遮断と撲滅』から脱却を」と題した萬田正治鹿児島大学名誉教授の記事の掲載があり、大変興味深く拝読した。

「口蹄疫に関しては、その根本的な問題は旧態依然たる国際獣疫事務局(OIE)の指針とそれに従う日本の対応策、そして近代化畜産にあるのではないか。」
「ウイルスなどの病原体に対して、人間を含む動物はその抗体を獲得し、抵抗力を身につけて対処し、これに対して病原体は耐性を獲得したり新型の病原体となって反撃する。再び動物は抗体を作る。この繰り返しが生物の進化であり、人が無菌化を進めれば動物の持つ免疫力を衰弱させ動物たちを危機に陥らせることになる。」
「今回、全頭殺処分ではなく発病しなかった家畜を残せば抵抗力のあるものを選抜する結果となり、低コストの有効な対策となっただろう。マスコミ報道は国民に恐怖感を与えたが、この病気は一般に人間には感染せず動物の致死率も低い。健康な家畜を育て抵抗力をつければ怖い伝染病ではない。」
「戦後の日本畜産の近代化は、安全性よりも経済効率を第一義に考え、規模拡大路線を推し進め、一極集中型の大量飼育で密飼いし、輸入飼料に依存してきた。これでは家畜本来の抵抗力は失われ、病気に弱くなる。感染した場合は一気に大量死することになる危険性を常にはらむ。」
「従って、OIEの指針を再検討し、近代化畜産の改善策に迫り、遮断と撲滅一辺倒の衛生行政から抜け出すことこそが、真の解決策だ。OIE加盟国として、口蹄疫を経験した日本から提言すべきだろう。」

この記事を拝読し、視点の内容は、本来有るべき思考ながら、実に斬新で、久々に延髄が揺り動かされ頭の中を駆けずり回っている心境となった。
それ以来筆者の脳裏には、この記事の内容が取り憑かれている。

同名誉教授は自然農法論者であり、合鴨農法の先駆者でもある。
今から8年ほど前、筆者が学んだ農業高校で創立90周年記念式典があり、ゲスト講演されたのが、当時の萬田教授であった。
演題は「農業が楽しい」であったが、全校生徒と式典に参加した卒業生や関係者らを前に、凡そ2時間の講演がなされ、小中学生でも理解できるような口調で、「農業は物を作るではなく、作物や家畜を育てるのが農業である」「植物も土も生きている」「循環型農業」「環境保全型農業」などのテーマについて講演され、それらの一言一言に、ハタと初心に導かれた心地になるほどの感銘を受けたものである。
この講演を拝聴していた在校生からは雑談は皆無であり、会場全体が異様とまでに静まりかえっている光景にも感銘を受けたことを思い出している。
萬田教授は当時鹿大副学長であったが、自らの自然農法を実践するために定年を前に退官されて鹿児島県の緑豊かな里で農業を実践されていると聞いている。
同教授の農業理念とは異なる思考の中にいるが、新聞の視点を拝読して、内容への反応は様々であろうが、自然農法を学問とされた学者らしい農業の原点を見つめた視点であると敬意を表したい思いである。