牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

母牛の登録点数

2010-11-29 23:11:23 | 素牛


肥育素牛の導入先は、この2年間では9カ所であるが、そのうちの1カ所は当センターの関連施設である。
子牛市場からの8カ所(950頭)について、導入した素牛の母牛の登録点数を調べたところ、産地によりその平均定数に特徴があることが判明した。
これは、当方が導入した牛に限定したもので、一般的なものであるとは言い難いため、単なる目安である。

平均点数は、肝属中央が83.4、次いで曽於中央の83.0であり、この2市場が群を抜いて高い値であった。
肝属と曽於は、鹿児島県内でも、伝統的に和牛の産地として、育種や増産に定評があり、県内でもとくに秀でたライバル意識を持って改良を進めてきた地域であり、そのことがこの登録点数に現れているのであろうと判断している。
この2市場に次ぐ残りの6市場の平均点数は、81.8が2市場、81.7、81.6、81.0、80.8であった。

肥育成績と母牛の登録点数間には、必ずしもプラスの相関関係にあるとは言い難いが、牛の体型や資質などの表現形が優れていることで、足腰が強く発育に優れているということから、増体能力と密接な関係がある。
導入時のDGについても、生時体重が不明であるが、すべての子牛を30kgとして算出した平均DGは曽於1.0kg、肝属0.98kgと高く、その他は九州産3市場と東北産1市場では0.9~0.95kg、東海産1市場が0.88kgであった。

このように優れた母体を有する主産地でも、現在子牛価格が低迷している。


飼料計算

2010-11-27 16:17:30 | 飼料


訪問者から要望のあった飼料計算を記述するが、日本飼養標準(肉用牛)によれば、飼料計算を含む本誌の内容が納められたCDが添付されている。

肉用牛に給与するための飼料計算を行うには、予め日本飼養標準などを参考にして次の①~③を調べておく必要がある。
①飼料計算を行おうとしている牛の飼養形態に応じて、現体重とその増体レベルを想定する。
②①の想定に基づき、日量必要なDM(乾物量)やCP(蛋白量)やTDN(養分総量)を調べる。
③給与を予定している何種類かの飼料について、DMやCPやTDNなどの成分量を調べておく。

上記①について、肉用牛の雌子牛で現在体重175kgあり、増体レベルはDG1.0kgとする。
②①に該当する各成分の必要量はDM4.76kg、CP789g、TDN3.3kg
③成分等については、
 A.チモシー乾草(輸入)     DM80.8%、CP7.5%、TDN62.8%
 B.イタリアンライグラス乾草 DM86.1%、CP10.5%、TDN53.8%
 C.育成用配合飼料 DM77%、 CP17%、TDN70%
○計算法(1) 予め、次のような給与量を想定する。
△1案 [A=3.0kg、C=3.0kg]
MD値を求める
A3.0×0.808=2.424 C3.0×0.77=2.31 AC(MD)=4.734kg 26g不足
CP値を求める
A3.0×0.075=0.225 C3.0×0.17=0.51 AC(CP)=0.735kg 54g不足
TDN値を求める
A3.0×.628=1.884 C3.0×0.7=2.1 AC(TDN)=3.984kg 684g多い

上記の計算結果では、MDとCPの必要量は僅かに不足し、TDNは逆に若干多すぎる結果が出たため、再度給与量の補正が必要となる。
次案を設定して同様の計算を行い、それぞれの成分において約5%以内の誤差の範囲内で給与量を算出する。
とくに、直接栄養成分であるCPとTDN値を重視し不足の無いように配慮する。
○計算法(2)
 △2案[B=3.0kg、C=2.8kg]
MD値を求める
A3.0×0.861=2.583 B2.8×0.77=2.156 AB(MD)=4.739kg 21g不足
CP値を求める
A3.0×0.105=0.315 B2.8×0.17=0.476 AB(CP)=0.791kg  2g多い
TDN値を求める
A3.0×.538=1.614 B2.8×0.7=1.96 AB(TDN)=3.574kg 274g多い
2案では、外国産チモシー乾草を国産イタリアンライグラス開花期乾草へ変更して算出した。
TDN値が約7%程度多いが、単種の成分ではないために、若干多目でも問題ない数値である。
現実の給与に当たっては、さらに複雑な給与設定を行うほど、多岐にわたる様々なミネラルやビタミン等が補足できることで、必要成分の目安はより精度が増すことになるので推奨に値する。
適量な計算結果が得られない場合、2~3種類の餌に固執せず、単味飼料などを補足して必要量を算出する。
飼料計算は上記項目だけで万全ではなく、代謝エネルギーやリンやカルシウム、ビタミン等を同計算に加味することで、家畜の体調維持には不可欠である。

カラフルな鼻環

2010-11-24 19:51:30 | 素牛


鼻環の色も様々である。
同じ市場から導入した肥育もと牛たちであるが、生産農家や施設などで買い置きされている鼻環を無造作に装着されたものであろう。
これだけの色があれば、それぞれに目的や経歴などを鼻環で色分けしてあれば、導入後の管理に参考になる。
もちろん子牛育成時であっても同様であろう。
たとえば、
①父親ごとに色分けする
②産次別に色分けする
③病歴名ごとに色分けする
④AIやETなどで色分けする
⑤産地別に色分けする
折角鼻環を装着するのであれば、このような試みもあろう。
現状では、子牛生産地で装着されてくるために、肥育現場ではそれらを生かすことはないのが現状である。
上記の内、最も現実視するのは、③である。
病歴がわかる牛は、その後の予防や罹病履歴牛の肥育成績などの参考となる。
当方では若者たちが病名ごとに鼻環にビニールカラーテープを付けているが、監視時にそれらがよく目に付きやすいために重宝している。
鼻環の種類で産地がわかるケースは、宮崎産の真鍮製鼻環や木製鼻環の肝属産などである。

牛飼いの初心と基本

2010-11-22 17:02:57 | 子牛


生後月齢6ヶ月で導入する子牛の育成法に基本的な問題があることに気が付いた。
常日頃、日本飼養標準(肉用編)を飼い方の指針とすべしが持論でありながら未熟な経験が独りよがりな対応であったことにも猛省中である。
6ヶ月令といえば、子牛用の飼養法が必要な月齢である。
該牛らが、乾燥を実によく食い込み夕方になれば、ゴムまりのごとくパンクしそうな腹容となることに、ふと思い出すことがあった。
今から約30年前、繁殖用雌子牛の栄養レベルに差を設け、それらの後年における繁殖成績を調査する試験を行ったときのことであるが、低栄養レベルの子牛が粗飼料の食い込みはよいが、腹容だけ大きくつまりはシケ牛となったが、現況の6ヶ月令の子牛たちも、以前の状態に近い子牛となっているのである。
離乳直後からの仔牛の飼料には、可能な限り多種のミネラルや高タンパク質が要求される。
それらが不足することで、子牛は肩から背・腰に至り、尖った格好となり、腹容だけがやたらと大きくなり体高の伸びが停滞し順調な発育ができない。
飼養標準を参考にすると、6ヶ月令子牛の給与飼料の内容については、Cpレベル16%のものを与え、体重160~175kgでDG1.0kgを確保するには、Cp830gが必要とある。
従来使用してきている肥育前期飼料はCp14%レベルであり、現状での飼料給与を計算すると、Cp値は700g余りでかなりCp値が不足している。
この月齢では、Cp17%を含有する子牛用配合を与えることで飼料計算値を満たすことができる。
覆おうにマンネリ化が常在化しがちである。
常に、初心に返ること、基本に忠実であることの重要性を今更ながらではあるが、再確認した次第である。

同一市場から入れる

2010-11-15 18:39:00 | 家畜市場


同一市場から素牛を定期的に導入しているケースは多々ある。
その理由は、次の条件を満たすからである。

①長期にわたって、同一市場から導入することで、当該導入市場産出の肥育牛の枝肉成績が把握できるために、安心して導入できる。
②生産地の母牛群の血統や発育が全国レベルにある。
③子牛生産者とその母体群の能力が、実績的に把握できている。
④そのレベルでの導入頭数が潤沢に揃う。
⑤枝肉評価に見合う競り価格で導入できる。
⑥地域的な特定の疾患がない。
⑦当該生産地での子牛生産方式が一定していることと、それに対して育成から仕上げまでの肥育法に実績を得ており、経験的に当該生産牛ならという飼いやすさがある。

導入先は、1~2箇所ではないため、他の箇所の場合でも同様な根拠に基づいて導入している。
当センターでは、特出した素牛を競り落とすことはなく、健康で、発育がよく、まずまずの血統であれば、競りの対象としている。
市場価格の平均程度の素牛を主軸にし、平均を中として相場が上がればその中の下程度、相場が下がれば中の上程度をターゲットとしている。
得てして、中の下辺りからでもA5クラスは頻発することがある。
この目安が的確であれば、経営が安定する。

先ずは水槽へ

2010-11-11 00:23:19 | 素牛

南西諸島から到着する肥育素牛らは、3日間連続で開設される家畜市場に、生産施設から運ばれ、初日競りにかけられる子牛は3日間市場に留め置きされ、それから船とトラックで2日目の朝到着することになる。
写真の子牛たちは、同生産地から到着したばかりで、やや眼がくぼみ、瞼がほんの少しばかり腫れぼったく、脱水症状とまでは進んでいないが、疲れた様相である。
トラックから降ろすと一目散に水槽に駆け寄り一斉にぐいぐいと飲み始めた状態である。
中には水槽の位置をなかなか探しかねている牛もいるが、やがては全頭が水槽に口を付けることとなる。
飼槽には、前もって乾草が置かれてあるが、空腹よりも喉の渇きを潤す方が先である。
水を飲んでから乾草を食う牛食わぬ牛それぞれであるが、とりもなおさず疲れと睡魔のために一斉にへたり込むように頭を肩の方に曲げた状態で横伏して熟睡である。
これらの状態は一晩過ごすことにより、疲れや空腹から解放されて平常に戻っている。
以前、シケの際、南西諸島から関西方面へ移送したとき、1車は鹿児島港へ、半車分(15頭)は太平洋上をそのまま大阪南港へ運んだが、鹿児島湾へ入った子牛らは、湾内が波が荒くストレスで到着後全頭が肺炎などに罹り治療したが、南港組は無事であったことがある。
このように船上で海上がシケてしまうと、牛たちはかなりのストレスを受け、極端な場合は下船と同時に犠牲になることもあるために、気象情報を詳細に入手しながらの買い付けとなる。
今回は、海上は穏やかで安堵の到着であった。

導入直後の除角

2010-11-09 17:16:59 | 牛の管理
写真①は除角に使用する塩ビ用カッターである。




写真②は、除角中の様子であるが、導入と同時に角の生え際から約1cmの辺りを、カッターのハンドルを片手で2~3回カチカチと挟むと実に容易に切断できる。
これ以上生え際の近くを切断すると血が吹き出してくる。
瞬時に切断できることから、対象牛が暴れることが少ない。





写真③は除角直後の切断面であるが、僅かに血がにじむ程度である。





写真④は富士平工業製の「ニューこてじゅう」であるが、牛の除角切断面の止血用コテである。除角と同時に写真の先端の丸く平たい部分をガスで内部から熱した状態ですり合わせるようにして止血する。
最初に充てた瞬間、頭を振るが、その後は痛がることもなく、実に簡単に1頭当たり2~3分で除角は終了する。





写真⑤は止血後の切断面である。





写真⑥は除角後4ヶ月目の状態である。


この方法での除角は、以前のキーストンなどを用いた除角と異なり、出血が無く対象牛の除角時のストレスはかなり軽減される。
術者が血まみれで除角していた頃とは雲泥の差である。
性格の荒い牛だけを対象にしているが、主として雌牛を対象としている。


いつも後の祭り

2010-11-02 17:00:50 | 素牛


マイコプラズマに罹患した導入子牛が断続的に診られるが、獣医師の試行錯誤の甲斐あって、一応の治療法が定まったようである。
獣医師に感謝感謝である。
9月に初発があり、過去30年間では発症の経験がなかっただけに、同菌の常在が案じられているところである。
聞くところによれば、「何を今頃になって経験した?」といわれるほど各地で発症を経験しているようである。
宮崎県での口蹄疫の発症により、九州地方が市場閉鎖となったことから、肥育素牛を探して見知らぬ家畜市場から4回導入したが、それらの疾病情報を意識すべきであったと、後悔の念である。
結果的には、このような経験をすることで、より効率的な肥育経営を会得することにもなる。
発育の善し悪しや体型、血統を詳細に吟味するのも必要であるが、一目することで、健康な牛であることを直感する審査眼を経験的に得ることが、経営にどれだけプラスになるかを改めて実感できた次第である。
 

畜魂慰霊法要

2010-11-01 23:21:30 | 予防治療


逝きし牛たちの霊魂に慰霊を捧げる法要を10月29日午前11時から実施した。
法要は、地元の90歳を超えた寺の住職により厳かに執り行われた。
折からの雨も、その法要時間だけは晴れ間を覗かせ、獣医師、地域行政や地域団体の関係者、取引業者、当センター関係者ら35名の参列者であった。
正午から一堂に会して昼食会となり、行政機関等から畜魂に対する挨拶を頂戴した後、会食となった。
従来、献杯の音頭となっていたが、道路交通法等を鑑み、酒類の提供を省略したため、献杯まで省略するという事態となった。
家畜を育てて、販売することは、その先には、彼らの生命を犠牲にして、とりわけタンパク質資源として、経済的にも食料源としても、我々の生活の手段として重要不可欠な存在となっている。
このことを、常に理解するとともに、注視しながら自らの産業の発展に寄与しなくてはならない。
その意識を新たに持ち続けるための年中行事でもある。