牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

事故率

2011-08-31 22:43:40 | 予防治療


8月31日が当方の年度末である。
当年度は例年より厳しい年であった。
例年度より肥育成績が思わしくなく、それに加えて枝肉相場が低迷したことが影響した。
枝肉相場の低迷要因は、牛肉の消費動向が低迷したことによるが、肥育成績では肉質(BMS値)の平均が前年比1弱下がり、枝重でも約10kg程度下がった。
増体量と肉質の関係は、系統にもよるが比例する傾向があり、結果的に食い込みに何らかの影響があったことは、結果的に否めない。
その理由として考えられることは、素牛の血筋が年々複雑化していることが考えられる。
今から10数年以前であれば、鳥取系に兵庫系を交配することでそれぞれの経済形質を有する遺伝子の発現は、単純には二者択一での発現であったが、現状では、日本中の和牛雌牛は鳥取・兵庫・島根などの系統の血液が全て関わりがあり、それらの系統間でも様々な能力差があるもの同士の掛け合わせが進み、複雑怪奇な血統を呈するようになった。
これでは、優れた種雄牛を交配しても必ずしも優れた子牛が発現するとは言い難く、複雑な結果となる可能性がある。
現状では、これらの影響を受けている可能性を否定できない。
何故なら同じ両親を持つ子牛であっても、その肥育成績は一定していないケースが多々あるからである。
また、肥育成績の低迷のひとつに、輸入稲ワラの品質の劣化やオーストラリアにおける干ばつによる粗飼料の品質低下も無関係ではないと判断している。
ところで、当年度における当方での事故率であるが、年間を通して約1,000頭を飼育しているが、死廃数は5頭に終わり1%未満であった。
肥育結果の低迷の中で、せめてもの事故率低下であった。
今回も、次年度こそは事故率0%の目標の達成を期している次第である。



祉間過形成発症牛のその後の経過

2011-08-27 23:53:47 | 牛の病気


2011.6下旬、1頭の肥育牛に祉間過形成に罹患したことを記したが、まだ完治していないが、その後の経過を写真をもとに報告したい。
前述では、発症患部を洗浄し薬剤処理してテーピングしてその後の様子観察とした。
その後1週間後の7/5に、獣医師により患部のテーピングを外したが、好転の兆しがないことと、患部の腐食が飛節方向に転移する可能性も考えられるとして、2名の獣医師により患部である右後肢の外蹄部分をワイヤで切断し、抗生剤とチンク剤を塗布し、漿液等を吸収させるとして紙おむつを巻き、その上からテーピングしさらに赤色のテープで再度テーピングした。(写真1~5)
その後は1~2週間間隔でてーぴんぐの交換を繰り返し、術後53日目の8/26にテーピング無しにする旨、取り外した状態が写真6~8である。
術後2週間後には、四肢での歩行に慣れ、患部である右後肢を僅かばかり庇ってきたが、現在も歩行や起立には支障はない程度まで回復した(写真6)
写真8が患部の状態であるが、当初の切断面は周囲から中央部に向かって順調に肉盛りしているが、中央部のみ漿液が滲み出ている状態であった。
そのため、テーピング無しにするには時期尚早と判断して、抗生剤とチンク剤を塗布しテーピングした。(写真9~10)
獣医師の判断では、2週間後にはテーピングを外せるのではないかとのことであった。
今回のテーピング後の起立状態が表の写真である。






























10



夏場対策

2011-08-22 22:24:34 | 肥育

曇天や雨天日が続いていることから、一時期の猛暑時は肥育牛らもかなりのストレスを受けて、昼間に熟睡する時間が少なかったが、このところの昼間30℃、夜間や朝方には22℃前後の気温となり、昼間はゆったりとした様子で熟睡(写真)している。
今週末になれば、再び猛暑が戻ると予想されているが、8月が過ぎれば、次第次第に秋の気配が訪れる。
肥育牛らは、秋の気配を感じ始めた頃になれば、夏場のストレスの影響を受け、潜在的なVA欠乏から、肝機能の低下や低カル症状が出やすくなる。
このような症状を抑えるために、VB群やパントテン酸カルシウムなどを夏場に与えるなどの対策を取ることで、食欲低下など夏場対策を回避できる。
VA欠乏対策については、再々述べてきたように、生後月齢24~25ヶ月が過ぎる頃になれば、四肢の浮腫や視力低下、慢性の軟便など同症状が出ない程度に、微量のVA剤の補給が必要となる。
仕上げ末期には満肉となり、食い込み量が徐々に低下することで、肉の光沢や決めしまりが充実する。
ところがこの補給が過ぎれば、出荷月齢に至っても順調に増体し、皮下や筋間脂肪の蓄積割合が高くなり、ロース芯面積は小さめとなり形も悪く、BMS値も期待できなくなる。
その結果、歩留まり基準値もAにランクされない。
写真の1群は、当初9×4.5mのスペースに7頭飼いであったが、途中で2頭を間引いて仕上げ期に入りそろそろ24ヶ月になるが、体重は全頭揃って750~780kgの範囲に至っている。
スペースが広いことで、競合は一切なく、ゆったりと育っている。
スペースを広くしている理由は、可能な限りストレスを与えないという家畜福祉を重視していることにある。
このことが、前に5等級のすき焼き肉を貼り付けたが、良質の割合が高くなった感がある。


除角の効果

2011-08-18 22:50:56 | 牛の管理

肥育牛の除角については前述したが、雌牛の気性の荒さのために雌牛のみに除角に踏み切った旨の記事を載せた。
除角は当方では初めての経験であり、競合防止が目的であったが、除角によりその競合の防止は確実に効果が認められた。
その競合が皆無となったことから、除角雌牛らは自由気ままに採食が可能となったことから、群内の全頭が同じような肉付きとなり、体重差が少なく揃って肉用牛タイプの肥育牛に仕上がりつつある。
何を今更の内容であるが、初体験としての感想である。

A欠

2011-08-17 23:39:50 | 牛の病気

夏場になってから,肥育末期を迎えようとしている去勢牛数頭にA欠乏症(写真上)と思われる症状が出始めた.
四肢の浮腫である.
8月5日にV-ADE剤(ビタロング)を1袋(50g)を投与した.
そして,その5日後に同牛の四肢を撮ったのが写真下である.
意外と早く腫れが減った.
この牛は以前より食欲が良好で,増体速度も良好であったが,A欠症状が出て,
食い込みが極端に減少した.
去勢牛の場合,増体の良好な牛にA欠症状が出やすいが,この牛も,A欠症状がなくなった途端,再び食い込みも戻ってきた.
写真上の状態で出荷した場合,ズルが全身に出やすい.
四肢の腫れが出た場合は,即出荷でなく,治療してズル症状が回復してから出荷した方が得策である.




高温のための断水

2011-08-10 22:31:16 | 牛の管理


近年地球上の気象現象にゲリラ現象という集中豪雨が世界各地に襲来して、記録的な被害をもたらしている。
また一方では、記録的な無降雨日や高温日が持続するという現象が起きている。
1昨日も関東地方ではゲリラ的な集中豪雨に見舞われたと言うが、関西では気温38度を記録するなど高温日であった。
当センターは山の湧き水を利用しているが、地下水が乾き気味となり通常よりかなり少ない通水のために、肥育牛らは、水量に合わせて配合飼料の食い込みを調整しているようであるが、このような事態に備えて、もう一つの取り水のお陰で、そのような事態を回避している。
しかしながら、長期天気予報では、この先10日くらい好天日が持続するようであり、非常に危険な状況である。
このような高温の影響は、思わぬ事態を引き起こしてしまった。
山からの湧き水を約10屯の二つの水槽に溜めたものを落差を利用して各畜舎へ配っているが、落差の少ない1カ所の畜舎が断水となった。
原因は気温が上昇したために、送水用のゴムパイプが膨張し、パイプ内にエアーが溜まったためと判明した。
猛暑の中、場員らは応急対策として200や300リットルのタンクに満タンの水を軽トラで搬送したり、パイプの対策のために大汗しながら懸命であった。
主たるパイプの数カ所にはエア抜き装置があるが、問題のカ所にはそれがなかった。
昨今のような高温が持続すれば、同様の断水が予測されるので、抜本的な対処が不可欠と考えている。

難しい雌牛の肥育

2011-08-05 19:47:59 | 肥育

去勢牛の肥育が90%を占めているが、雌牛の肥育結果が今一である。
具体的には、兵庫系の血液割合の多い雌牛の成績はまずまずであるが、九州産の雌牛は仕上げ体重は大きいが肉質は今一である。
聞くところによると、南九州では年間生草が収穫できるために、親子ともに生草を食い込んでいてビタミンAの蓄積量が多いため、肥育時にビタミンAが体内から抜けきらないからだと聞いたことがある。
前述したが、母牛群は鹿児島産で登録点数も80点程度が大部分であるそれらの産子について、生後6ヶ月の子牛を長期に乾草を飽食させて肥育した雌牛は、肉質が期待できている。
体重が600kgに足らなくても、ロース芯面積は70~80が大半である。
粗飼料効果である。
産地は同じ鹿児島でも九州産は、こうはならない。
生後6~9ヶ月の間での乾草の摂取量に差があるためであろうと判断している。
鹿児島県内の家畜市場では、特定の購買者が、著明な種雄牛の産子の雌牛であれば、金に糸目を付けずに落札しているという話をよく聞くことがある。
つまりは、父母牛の血統がものを言っているのであろうか。



精魂のブランド肉が

2011-08-04 19:35:53 | 雑感

和牛肉のブランド化は、全国の100を超す主産地で立ち上げられ、とくに前沢牛や米沢牛などは、マスコミにも旨く取り上げられて、あれよあれよのうちに著明なブランドとして知られるようになった。
その東北地方のブランド肉も、放射性セシウムの被害を受けて、多大なる影響を受けつつある。
生産者は、肥育技術を駆使し係るブランド肉として仕上げた段階で、強烈なカウンターパンチを受け、その対応に困窮し、ただ唖然としているという状況であろう。
個体の経済価値が高いだけに、その影響は優に億単位を超す損害を受ける生産者も少なからず存在されていよう。
被爆した牛肉は、その品質が良否に拘わらず、有無を唱えることもなしに廃棄処分される。
50万円前後の素牛代に加えて、多量の穀類などを摂取させ、およそ2年間を要して肥育管理を費やした結果である。
仕上がった牛肉は、我々国民の貴重な食料であり、文化でもある。
損害を受ければ、その分は国民一人一人に累を及ぼすことになる。
補償すれば済むという問題ではない。
原因者総意は、そのあたりの現場や国民の思いをどのように考慮しているであろうか。

ルーメン内PH調整

2011-08-03 19:32:30 | 予防治療


肥育牛が育成期から仕上げ期になって、配合飼料の摂取量が10kg以上になり順調に増体し始めた頃に、問題となるのが、ルーメンアシドーシスである。
配合飼料を多量摂取することで、ルーメン内のPHが酸性になることはよく知られている。
このような状態を放置することで、とくに夏場の食欲の減退やルーメンアシドーシスを罹患するケースが多々ある。
その結果、肝膿瘍や蹄葉炎に至ることも知られている。
このような結果にならないためには、濃厚飼料と粗飼料の摂取バランスが良好であれば、問題はないが、育成時から粗飼料の食い込みが少ない牛はルーメン内のPH調整を行うことで、かかる疾患を予防できる。
当センターで今夏から導入しているのが写真にある商品名アルカリックスで、鉱塩様のブロックになっており、内容は重曹がメーンとなっている。
写真下の白っぽいのがそのブロックである。
重曹は弱アルカリであり、牛が舐めることでルーメン内を中和する効果があることから、アシドーシスを予防できる。
ただ、難点は鉱塩のように常時舐めてくれない。
舐めるのは、何らかの体不調を感じたときに舐めているようである。
導入後8ヶ月経った頃から鉱塩と並べて置いておくことにしている。
写真下の同ブロックは、同時に異なるマスに置いたものであるが、よく舐めるマスと舐めないマスがあり、牛らが勝手にPH調整を行っているようである。
オレンジ色は鉱塩である。



スクープ写真

2011-08-01 22:11:09 | 牛の躯






一時にんまりしそうになる写真を貼り付けた。
本日の昼休みのことである。
熟睡中の去勢牛の生理現象の様子であるが、希有なシャッターチャンスである。
被写体は、寝たまま囂々と長々と放尿しており、つまり、お寝しょの様子なのである。
この様子を正面から覗き見するなどは悪趣味で、人なら犯罪行為だろう。
が、牛らの場合は健康観察の一端であるからには、これは許容できる貴重な光景である。
人の場合同様に夢心地で爽快感を味わっていることであろうか。