牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

放牧肥育の効果について

2010-04-07 20:39:38 | 肥育技術


導入牛の初期育成を運動場に放した方が良いか、舎飼いのみの方が良いかは、一長一短有ある。
当方では一マス8×15mの屋内に付随している運動場15×50mがあり、約20頭を凡そ3~4ヶ月間群飼いしている。
やや運動過多であるが、粗飼料や前期飼料の食い込みは抜群であり、その後の舎飼いでの増体成績も抜群である。
運動量の効果のために、強健で足腰の強さも当初から舎飼いの群より明らかに優れている。
しかし、運動量が多い分飼料の摂取量は多い。
そこで、最近はその育成舎での群飼いを中止している。

これらの飼い方の判断に窮していたところ、興味深い新聞記事が目に入った。
日本産肉研究会での研究報告の記事である。
和牛を放牧肥育した研究報告で、放牧により筋繊維の一つ赤色筋繊維が太くなり、6ヵ月間の放牧が終了し舎飼いでの本格的な肥育期間中にも同筋繊維の太さは衰えることなく維持され、結果的に増体結果が見られたというものである。
この結果を受けて、過去5年間の去勢出荷牛2025頭について、6箇所ある育成舎毎の肥育成績を集計比較した結果、上記育成舎(680頭)の場合、増体(枝肉量)は2番目、肉質(BMS)は1番目であった。
単純に判断すれば、運動効果があったことになる。

只、記事にあった研究報告では、運動場付きの肥育ではなく、放牧肥育と有り、牛は運動とともに生草を摂取していることになる。
研究の結果が、生草によるものか運動効果であるかは説明されていない。
敢えて言えば、おそらく、研究発表では供用数の詳細や大方の採食量や草種などは説明があったであろうが、新聞ではそれらが掲載されていなかった。
今後、同様の研究を継続され、効果の要因をさらに追求して頂きたいと願っている。
筋繊維は運動を行う、つまり人でもスポーツの効果により増強することは知られており、それに栄養を必要以上に加えれば、さらに筋肉量が増加するは予想できる。
研究者のコメントのように、放牧と筋肉の関係を明らかにしたいとあり、研究成果に期待している次第である。
これらの研究が肥育育成技術に活かせることをも期待しているところである。



相性

2010-03-18 19:17:26 | 肥育技術



相性は確かに存在しているようだ。
「枝肉成績とりまとめ」によると、特定の母牛つまり母方祖父系との相性がかなりの確立で現れている。
中には、どの種雄牛を交配しても高い確率で上物にランクされている母方祖父系が多々いる。
一例を挙げれば、平茂勝や美津福を父とする母親に、能力が高いとされる大方の種雄牛を交配して生まれた仔牛は上物率が高いことが示されている。
同様にどの種雄とも相性の良いものや、特定の関係のみに優れた相性を持つ組み合わせも存在している。
上物率80%を超す能力の交配で産出された素牛の場合、残りの20%は4等級に達していないが、これらの場合は、子牛が生まれてから子牛市場に出荷するまでの育成期や肥育期間内における何らかのトラブルや肥育技術などにより、本来の能力を引き出せなかったのであろうことが推測できる。
これらのデータと子牛育成時の発育を加味しながら、肥育素牛として経営上適正な競り価格を設定することで、肥育経営を遂行する上で大きなポイントになるはずである。


老廃牛肥育

2009-09-09 18:36:49 | 肥育技術



素牛導入時に雌子牛を年間7~8頭買って、繁殖部門の更新用に補充している。
産次が高くなった牛や不妊牛は、肥育部門へ移動して肥育の後に出荷している。
産次を10産以上経た牛らは、こんなにもやせ細るのかと驚くほど、小さくなって返ってくる。
子牛導入時に50kg加えた320kg前後の体重である。
これらの牛をおよそ10ヶ月間肥育して出荷する。
繁殖雌牛は、お産を繰り返すたびに、体重を増やしたり減らしたりと、毎年200~300kgの増減があり、しかも粗飼料主体で飼われているために、肥育を始めると食い込みが良いために、凄まじい増体を示してくれる。
300日で実に約400kg増体する。
これだけの期間を要して肥育することで、増加した筋肉や脂肪は肥育により新に生産されたこともあり、枝肉評価は老廃牛のイメージの評価ではなく、通常の若齢肥育に近い評価がついてくる。
BMS no.3~5、BCS no.5程度であり、枝肉単価は、1,000円前後である。
老廃牛のまま処分した場合、10万円にも満たないが、肥育することで約10万円掛けて、40~50万円で競り落とされる。
用済みにしては、素牛代が掛からない分、A5の上位クラスの差益がでる。
今では、枝肉購買者に欲しがられているくらいである。
互いにうま味のある老廃牛肥育である。
喜んでばかりではないのも老廃牛の肥育である。
肥育の初手の飼い方を間違えれば、廃棄処分になりかねないからだ。
食い込みがよいままに濃厚飼料を調子よく増量したものなら、たちどころに、食滞を引き起こす。
軽度なら回復するが、重症なら回復は見込めない。
最初は稲わらを多めにして、腹の足しとし、濃厚飼料は徐々に徐々にお椀一杯ずつくらいに増やして、時間を掛けて飽食へ持っていくことが、最大のポイントである。
老廃牛も、有用な資源である。


ビタミンAについて

2009-08-27 20:54:04 | 肥育技術


導入直後の素牛のビタミンA血中濃度を測定すると、低いものでは25(IU/dl)、高い数値では120(IU/d1)あるものもいて、かなりのバラツキがある。
これは、それぞれの生産現場の飼育環境が異なることと、とくに低い数値を示す場合は市場へ出す以前に風邪や下痢などの様々な疾患を患ったり、長距離輸送中のストレスにより、同Aの異常な消費があったことなどによるバラツキである。
導入時からこの様に低い数値では、順調な食欲は期待できない。
食い込みが悪ければ、増体どころではなく、体調維持さえままならない。
導入時に、一々採血して、それらを測定することは時間や経費が掛かり、なかなか現実的ではない。
この様な現状を回避するために、導入後約5ヵ月間は同剤の補給が必要となる。
数値が高い場合でも、補給によって体内要求を越す場合は、体外へ排出するため、全頭投与を行っても問題は起こりにくい。
数値が低い場合は、食欲不振や消化管内壁や関節等に支障が起こり、疾病を誘発しやすくなるため、牛が健康を維持し順調な食欲と増体を促すために、同ADE剤を補給することは当然の処置となってくる。
当方では、市販のADE剤ペレット(1袋1kg入り:10,000国際単位/g)を1頭1日当たり約2gを10日間隔で投与している。
その他、肥育前期用配合や乾草などによる同Aの体内蓄積量は、飼料標準に示されている基準値より、かなり高いレベルとなっている。
これにより、生後15ヵ月令では、血中濃度が約100(IU/d1)程度に揃え、その後は、同Aコントロールにより、50~60に落とし、それ以降は40~50で推移させ、仕上げ末期では30~35程度に理想的な数値を推移させることを目標とし、概ねミスをしない限りうまくいっている。
上記の取り組みが順調であれば、肥育後半の23~24ヵ月令頃に出やすいA欠症状は現れないが、個々の牛では、ペレットを摂っていない牛もいて、その頃にA欠が出る場合がある。
その場合は、同症状から早期発見して、経口同剤を一気に呑ませて、症状を出来るだけ早期に抑えることが肝要である。
コメントに応えて。

採血

2009-08-26 18:20:47 | 肥育技術



7~8年前から、肥育牛から採血して生化学検査を実施している。
全頭ではなく、導入時に5頭程度の採血を行い、それから生後15ヵ月令、21ヵ月目、25ヵ月目、そして出荷直前の5回を追次して実施している。
これまでの同検査では、ビタミンAの血中濃度は、以前農水省の研究班が提示したビタミンAのコントロールモデルに、概ね添った数値で推移してきており、肥育法に変化がないため、この1年間実施していなかった。
ところが、ここ数ヶ月、肥育成績が微妙に低下したため、同検査を本日再開した。
検査結果が判るには数日間かかる。

この採血法が以前とはかなり便利になった。
以前は、ステンレス製の採血針を頚静脈に差して、試験管に受けていたものである。
採血針が血管内でかすれたりして途中で留まってしまうと、順調に採血できた場合では、検査値に若干の差が出たものである。
今では、人の採血キットと同様で、採血管が引圧状態となっており、採血キットを血管にさせば、たちどころに採血管に血液が溜まる。
複数の採血管が必要な場合は、20ccなどの注射筒で血液を抜き、採血管に針をさせば、そのままで血液を移せて、実に便利になっている。

採血する術者により頚静脈から取ったり、肛門に面した尾部の付け根当たりから取ったりする。
また、採血は牛の保定次第で、失敗の頻度はかなり異なりる。
頚静脈であれば、牛の頭部をしっかりと保定し、採血する反対側頸部を凹状にし、採血する側を凸状にすれば安易に採血できる。
これは、採血だけではなく、補液する時などでも同様である。

採血なしでも順調な肥育成果が出ることが、もっとも良好なことであるが、肥育法が目的と異なる方向にいたっていないかを見極めるには、やむを得ない方策としている。



頼みの綱になる一冊

2009-08-19 20:21:23 | 肥育技術

昨日の続きである。
2000年頃に養賢堂から「ビーフプロダクション」(著者:善林明治)という冊子が発行され、著者からその1冊を頂戴した。
著者は産肉生理学が専門であり、同書はこれまでの飼育学的な著書とはひと味異なり、肉用牛の筋肉・脂肪・骨などを中心とした発生や成長そして生産過程のメカニズムについて、品種・性別・栄養レベル・肥育期間ごとに調査研究した自らの研究実績に加えて、世界中の関連研究をも網羅した内容となっている。
老いを重ねると鮮明となる記憶と、話が煩雑になるにつれ喪失しつつある記憶があり、その時の頼みの綱がこの1冊でもある。
頁を捲れば、筋肉や脂肪組織の構造であったり、それらの発生や筋肉内脂肪の蓄積のメカニズムなどが理解できる。
牛肉は何故旨いかや肉や脂肪の発色などの詳細項目もある。
今や著名人と成られた松本大策先生も、自らの玉稿の中に同書からの引用が見られる。
先達の声や専門書などは、長年掛けて修得する諸々を一纏めにして修得できる貴重な存在である。
これらの書籍は、なかなか熟読することはないが、側にあることで千人力の味方を得た如き安堵感がある。

新聞を読んで

2009-08-11 19:43:06 | 肥育技術



本日付けの日本農業新聞の末頁に優秀和牛生産事例が3例紹介されている。
1例目は放牧による低コスト生産、2例目は一貫生産事例で、経営者個人の取り組み、3例目は自治体や和牛改良組合における取り組み内容である。

1例目は、全国畜産草地コンクールにおいて大臣賞を受賞した青森県むつ市の鈴木悦雄夫妻の和牛繁殖経営が紹介されている。
和牛の飼育は、夏山冬里方式で、41.39haの放牧地を利用して、成雌牛65頭、育成牛10頭を飼育して、繁殖部門だけで、07年には3,735万円の売上があったという。
自家製堆肥を活用して放牧場や草地などに還元して、粗飼料は100%自家生産、濃厚飼料を含めても約80%が自給飼料で賄われ、徹底した低コスト生産が行われている。
そのために、子牛価格の変動に左右されない安定した繁殖経営であるというコメントが付記されている。
鈴木氏の放牧経営は、「和牛は草で育つ」の理念通りの理想的な経営内容となっている。

2例目は、子牛生産と肥育の一環経営をしいる静岡県の杉浦務氏の事例である。
この経営の特徴は、自家保留する雌牛の選定基準にあり、生ませた初産2産目を肥育し、5等級が出た母牛を残すというもので、種雄牛優先であった考えから、母牛の能力を重視する方針に替えたことにあるようだ。
この方式は、一環経営で、子牛育成から肥育までの飼育内容がほぼ全頭同様である中での選抜方式であることが信頼性を高め、優れた成果が得られていると判断できる。
優れた成績が実績にあれば、その遺伝能力は母牛に潜在的に保有されているはずである。その能力を一々確認しながら、同様の飼育環境で旨く活かしていることに、繁殖部門のみの経営より、効率的に取り入れていることが利点に繋がっている。
また、肥育分野でも、当センターでは、素牛選定については、常に同じ子牛市場で、兄弟牛を導入し、母体の能力と生産者の育成技術について、それらの肥育結果から、ピックアップして選定している。
これは、基本的には、母牛の能力を重視する考えであり、その選定思考は肥育結果からのフィードバックを活かすことで杉浦氏の思考に共通している。
この事例は、つまりは、常に如何に優秀牛を作出するかの意気込みの上で成り立っている成果でもある。

3例目は、各所の大型肥育センターや繁殖経営者などでは既に実施されている取り組みを遅ればせながら自治体なども、繁殖成績をデーターベース化して、繁殖雌牛の出産間隔・肥育効率などの能力を把握したいが狙いのようである。
繁殖雌牛の能力を重視するという取り組みは、10年以上前から全国和牛登録協会が繁殖雌牛の能力を重視した和牛アニマルモデルの基本理念となっており、今日の育種価表示などに活かされ、雌牛重視は繁殖経営者などには一般的で常識の範囲内にある。
雌牛重視が大事だというこれらの紹介記事事態、「今頃か!」であり、行政の取り組みの遅れを危惧する次第である。
が、取り組まないことよりはマシで、係る能力が把握出来るようになっても、それ以降の次の取り組みの方が、厄介である。
筆者も種雄牛と繁殖雌牛との交配結果を重視して分析しているが、両親が同じ組み合わせの全兄弟牛3頭を同様の肥育を行った結果、仕上げ体重はほぼ同様でも、肉質にはかなりの差があったり、3代祖が全く同じの去勢牛20頭の肥育成績についても、かなりのバラツキが見られ、同様の傾向とはならない結果がある。
加えて、繁殖者、育成者、肥育者がそれぞれ異なる環境下では、偶然に好成績になるケースもあるが、大方はバラバラである。
この様な飼育環境にある第一線で活かされる繁殖能力とは如何なものだろうか。
この構想が着実に成就し生産者の利益となることを大いに期待して止まない。

7ヵ月令の素牛

2009-06-01 21:23:40 | 肥育技術


この数年で、導入牛の肥育成績について、産地間差が様変わりしてきた。
年間約500頭の導入牛の内、その88%の平均生後月齢は9~9.5ヵ月令で、残りは、平均7ヵ月令である。
数年以前の7ヵ月導入牛は、発育に問題があったり、肺炎等の疾患も多く、その結果肥育成績は散々であった。
つまり、お荷物的な存在であった。
ところが、現在では、お荷物であった素牛たちが、5等級率80%以上という抜群の成績を収めるようになった。
一方、当方の育成舎は4棟のゾーンと、2棟のゾーンの2ヵ所に分かれている。
このうち、2棟ゾーンで育成した牛たちの肥育成績が芳しくなく、4棟ゾーンのうち、とくに導入月齢7ヵ月令のグループは抜群である。
この二つのグループに、肉質評価に差となる要因が何なのかを検討した結果、明らかに異なる要因が、2点浮かんできた。
それは、一つに、導入月齢の差、二つに導入から生後15ヶ月齢までの粗飼料の摂取量の違いである。
過去2年間、2棟ゾーンは、乾草の摂取量が1頭1日当たり平均2.5kgで、4棟ゾーンは、4.3kgであった。
4棟ゾーンで育成された牛たちの方が、肥育成績が良好であり、粗飼料の食い込み量の多さが、肥育条件である健康や腹づくりが可能となることから順調な飼料摂取量の食い込みなどに好影響を与えたものと考えられる。
とくに、4棟ゾーンで飼われた7ヵ月令の素牛については、約8ヶ月間粗飼料を飽食させ、生後15ヵ月令から理想的なビタミンAのコントロールが期間内に終了していることである。
これらの牛は、生後20ヵ月令になる頃には、やや肉太りの感となるが、そのことがむしろサシの蓄積には、功を奏しているようである。
これらの肥育牛は、粗飼料を長期間多量摂取したことにより、BMSの改善、リブロースの面積拡大や形状の良さに繋がったものと判断している。
粗飼料を多量摂取させるためのテクニックは、朝一番に給与する乾草を時間掛けて摂取させ、濃厚飼料は約2時間程度遅らせてから給与させるなどの手だてを臨機応変に取ることである。
素牛の導入月齢の若さが、育成用配合飼料を多量摂取していないために、乾草の多量摂取を実現するには好都合でもある。
写真は、生後6.5ヵ月で導入した素牛である。






枝肉共進会を生かす

2009-02-14 17:07:11 | 肥育技術
                写真:我らの潜在能力は生かされるのだろうか?


自らの肥育成績が、どのレベルにあるかということが気になるものである。
自らの経営が順調であるを確認していればそれは不要であろうが、常に自らが関わっている産業の推移やレベルは把握して置くべきである。
それらの手段には新聞や関連誌、JAなどから出される情報などを具に入手して置くことも大事なことである。
もっと身近で自らのレベルを確かめる手段がある。
地域や全国各地で開催される共進会や共励会などへ率先して参加することである。
参加するだけでは何の参考にはならない。
上場名簿を手に、枝肉を見ながら自らの枝肉と他の枝肉の仕上がり具合を格付けを含めて比較したり、枝肉単価を参考にしてみれば、自らの取り組みのレベルが理解出来る。
また上場名簿に全ての枝肉重量、格付け、枝肉単価などを記録することがとても重要である。
これらを数回またはそれ以上に渉って記録したものを基に、性別毎に出荷者や産地別の出荷月齢・と前体重・枝肉重量・格付け結果・枝肉単価などの平均値や偏差を出すことで、様々な傾向や目安が数字となって現れてくる。
これらが常に上位であっても大概は、慢心することはない。
それらの結果をもとにすると、自らの肥育技術のレベル確認や問題点が明らかになってくる。
次には、それらの問題点を具体的に改善する手だてが必要となってくる。
それを解決する手段としては、何時までも篤農家的に一人で疑心暗鬼しながら策を拱いている時代は過ぎ去ったと考える方が正解である。
あるとあらゆる技術情報を入手することが自らには、必ず得策なのである。
それらの情報は、プラスのものマイナスのもの様々であっても、それを自らで咀嚼できなくては、絵に描いた餅に過ぎない。
同時に、情報を得るからには、自らの情報を提供することも目的を得るには不可欠である。
高い技術を有する畜主には、臆することなく情報提供を懇願すべきで、10に1つでも入手できれば、成功したも同然である。
その様な心意気でキーを叩いている次第である。