牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(3)

2009-03-30 17:19:47 | 雌牛



初種付けは330~350kgを目安にする。
始めて繁殖育成牛を育てる場合、どの月令に至ったら初種付けを行えばよいかが判らないケースは多いのではないだろうか。
初種付けを実施する目安は、和牛でもホル黒F1牛でも、月齢を目安にするのではなく、到達体重がその目安となる。
和牛の場合は、約300kgに到達した段階でも可能であるが、筆者の経験では、330~350kg程度がベターであると判断している。
それは、以前300kgで妊娠させて、分娩させたが、母体から胎児へ栄養が廻るために、300kg程度では、母体自体が、発育の段階にあるために、その体成熟が遅れる傾向があり、その後の健康維持や繁殖成績、子牛の生時体重などが今一の傾向があったため、多少でも、母体が体成熟してから種付けする方が得策と考えている。
その最低の目安が、330kg~350kgなのである。
和牛の雌子牛の場合は、発育速度に個体差が生じやすい。
初種付けを月齢で決めようとする場合、発育の良好な牛は生後月齢12~13ヶ月令で、330kgに到達するが、血統によって20ヶ月令で330kgに到達するケースもあったりするために、月齢よりも、体成熟の関わりから体重を目安にした方が理屈になかっていることになる。

写真は約6.5ヶ月の雌子牛であるが、この様な増体型で発育が良く、勢いのある子牛は、食欲旺盛であるために、330kg以前でも問題なく繁殖雌牛として供用していけるタイプの雌子牛である。

繁殖用雌牛の育成(2)

2009-03-29 13:09:22 | 雌牛



栄養度3~4程度で育てる。
以前ホル黒F1牛の雌牛で、栄養レベルと繁殖性についての試験に関わったことがあるが、この試験は粗飼料主体で、生後190日令から600日令までの間に高栄養区(A)、中栄養区(B)、低栄養区(C)を設けて、それぞれ7頭の計21頭を供した。

○育成期の発育成績
--開始日令--同体重-600日体重-期間DG
A--192.4----176.3----523.6----0.85
B--193.4----175.6----414.1----0.59
C--196.9----179.0----408.1----0.57


○初回妊娠月齢と体重
---平均月齢----平均体重
A--12.4(0.99)---331.0(36.7)
B--13.2(0.86)---332.0( 6.9)
C--16.1(2.30)---327.6(31.7)
  ( )は標準偏差

○4産までの繁殖成績
------初産--------------2産目---------3産目------------4産目
---頭数---平均月齢---頭数--平均----頭数---平均-----頭数---平均
A---7----21.7(1.00)----7--10.9(0.5)----3---18.4(1.1)----3---14.4(0.6)
B---7----22.6(0.85)----7--11.6(1.1)----7---12.3(1.6)----7---14.1(2.3)
C---7----25.4(2.45)----7--12.8(1.0)----7---15.2(2.2)----6---15.6(1.2)
*頭数は生産頭数、2~4産目の平均は分娩間隔、( )は標準偏差

栄養レベルは、A区は配合飼料を0.7kg/日、アルファルファーヘイキューブ飽食
B区は配合飼料0.7kg/日、同ヘイキューブ4kg/日
C区はイタリアンライグラスの生草飽食であり、飼養標準に準じてはいないが、A区とC区は、月齢とともに粗飼料の摂取量が増える形となっている。
発育結果は、摂取した栄養量に比例してA区が高い値を示した。
初種付けは、妊娠月齢より早く、体重が300kgに至った時点に人工授精を行ったが、栄養レベルの高いA区が順調な成績を示したが、C区はその平均がA区より約4ヶ月遅れた。
妊娠当初の体重は、栄養レベルの中程度のB区が332+-6.9kgの範囲内で妊娠したことになり良好な成績を示した。
4産までの繁殖成績は、栄養レベル中程度のB区が全頭分娩を果たす結果となった。
当初、繁殖成績が良好であったA区は4産を果たしたのは3頭だけであった。
また、4産終了時の生後月齢は、A区65.4、B区60.6、C区69ヶ月令となり、B区が産子数の合計でも28頭で結果的に優れた成績となった。

この試験は、F1牛での試験結果であるが、当然和牛についても、参考となると考えている。
この結果では、栄養レベルを高くするよりも、飼養標準に準じた飼料設定をすることが、順調に産次を増やす定番となることが参考となる。
育成時は、A区のようにかなり高くするのではなく、飼養標準通りか、若干高めに設定することの方が、初期の妊娠の結果を良好にするテクニックではないかと考えている。
故に、栄養度は3~4なのである。




繁殖用雌牛の育成(1)

2009-03-26 20:14:12 | 雌牛


導入した繁殖素牛は、順調に育成して、確実に受胎することが、繁殖農家の偽らざる願いである。
折角、お気に入りの子牛を高価で競り落としても、育成法が的確でなければ、不妊が故に肥育に回すことに成りかねない。
雌牛の育成に当たっては、①強健で足腰の強い雌牛に育てる。②栄養度3~4程度で育てる。③初種付けは、体重約330kgを目安とする。

本稿では、強健に育てることについて考えてみたい。
強健で足腰を鍛えさせることは、確実な妊娠や、順調に多産を重ねるためで、粗飼料主体でバランスの取れた飼料設定を遵守することと、体力の基本となる足腰の強化が必要である。
飼育場内に運動可能なスペースを考慮したり、強制的に歩行させる設備を設置するなどで強靱な健康と足腰を保持させる。
数頭飼いの場合は、引き運動などで、それに備えてきたが、多頭化では引き運動は物理的に困難となる。
個々には、牛にかなりの不可を背負わせる牽き運動を行っている特産地があると聞くが、これらは特例のケースであろう。
また、放牧管理している牧場などは、理想的なケースである。

日光浴

2009-03-24 23:11:20 | 牛の管理



桜の便りが聞こえてくる頃になったが、気温差が日替わりでやってきている。
肥育舎の育成牛たちも、つかの間の日だまりに一斉に顔出ししている。
このところの大鋸屑難のために、牛床が湿りがちのため、余計に直射光を欲しがっているようである。
高々2年間ではあるが、この様に太陽光を浴びせ、ビタミンBなどの体内蓄積を増加させ、肥育牛の健康に備えるために有益である。
種雄牛や繁殖雌牛などは、およそ10年間におよぶ長期間繋養されるため、繋牧や引き運動などを行いながら日光浴をさせている様子を見かけることがある。
これらも、牛の健康維持のための取り組みである。
日光浴により、風邪などに罹り難くすることと、足腰を鍛える目的がある。
前述したが、採光の悪い畜舎や天井が低く、通気性の悪い畜舎で肥育した枝肉の色は赤みの濃いことを確認している。

全国和牛登録協会賛助会員

2009-03-23 22:50:01 | 予防治療


社団法人全国和牛登録協会の個人賛助会員制度があることを最近知った。
この制度は、平成16年6月から始まった制度だという。
同会員の特典は、機関誌「和牛」や「和牛だより」の送呈と一部の定期刊行物の割引配布がある。
年会費は4,000円で、申込は、同協会の各県支部などで取り扱っている。
同協会の情報は「和牛誌」に詳細に掲載されているが、購読しないとそれらの情報はなかなか取得しにくいのが現状である。
繁殖牛を繋養する全員が、同協会の正式会員として入会し、会費を納めている。
これらの会員は、繁殖牛の登録検査を受け、子牛が生まれれば、子牛登記を行うとともに、同協会の支部や支所、JAなどからの情報が得られる。
しかし、肥育センターなど肥育関係者は、その情報を得るケースは少ない。
同賛助会員数もまだ数十件に過ぎないと聞く。
繁殖にしろ、肥育にしろ和牛改良の中枢である同協会から発信される情報を収集することは、その経営や技術向上の一端にそれらを生かす手段として有益であると信じている。
筆者も本日、賛助会員の申込書にサインして、明日投函する。
入会することで、同協会の事業内容や年間行事、和牛の改良に関する論文や和牛産地などの取り組みなども見えてこよう。
肥育関係者の入会を広げて、肥育現場からの情報や要望などを同協会へ提供する機会とすることが、和牛界全体の発展に寄与するものと期待している。


上物牛肉が売れない

2009-03-22 00:31:48 | 牛肉


昨今の経済不況は、牛肉生産に深刻な影響を与えている。
とくに、上物にランクされた牛肉の消費が前年比二桁台に落ち込んでいて、一層深刻な状態のようである。
枝肉の卸や店舗などでは、呑気に手を拱いていてはらちがあかないとして、進物用や通販などの新たなセットものを開発するなど、あの手この手の戦術をこらしていると聞く。
政府が支給する定額給付金などが、牛肉の消費に廻ることを深刻に期待しているとも聞く。
一方、この様な状況が枝肉相場の低迷をもたらしているが、肥育センターなどでは、これまで子牛市場の上位を占める子牛を購買していたにも拘わらず、最近は1頭20万円以下のみを購買する購買者も現れた。
経営の赤字を最小限に抑えるための苦肉の策であろうことが伺える。
子牛生産とは異なり、肥育では、この様な柔軟な思考で、経営の安定を目指すための一つの取り組みであろうと考えられる。
関係者として、消費の動向が上向きになってくれることを願わずにはおられない昨今である。

産業の盛衰は関係者の熱意次第

2009-03-17 22:29:43 | 予防治療


写真の牛は、一見鹿児島産とも思えるボリューム満点の牛たちである。
ところがこれらは、京都中丹家畜市場から導入した去勢牛であり、どの牛も大きな口をした増体抜群の牛たちである。
これまでの京都産牛は但馬系で、この様な増体型は皆無であった。
聞くところによると、今では鹿児島産の母体がかなりの割合で導入されているようである。
肥育サイドからは、むしろこの様な素牛の方が、肥育成績が得られるのは確かである。
しかし、これまでの京都牛のイメージは、次第に消滅の途にあると感じている。
地元関西における素牛導入市場は、兵庫と京都ぐらいとなった今、肥育関係者の京都牛に掛ける期待度は余りあるものがある。
しかしながら、このところ数年間は和牛子牛価格の高騰で、黄金時代であったと言うに、この間市場上場頭数は、年々減少傾向にあり、今では年間約700頭に至っている。
産業振興に具体的な対策が有るか無いかの結果がシビアに現れた一例であろうか。




雌雄同群

2009-03-16 22:37:44 | 肥育



写真は繁殖部門から搬入した生後約7ヶ月令の子牛たちである。
毎月5~6頭が搬入されるが、今回は去勢牛3頭、雌牛3頭の6頭である。
生後4ヶ月令頃から、粗飼料(乾草)を飽食させているだけに、搬入後も乾草の食い込みが実に良好である。
月齢が、市場より導入するよりも約2ヶ月若いために、乾草の飽食期間を7~8ヶ月間行うなど、これら特有の飼い方をしているが、結果的にそれが功を奏している。
これらは、雌雄同群としているが、雌牛の方が気丈に餌の摂取能力が高く、次第にボリューム感を増し、肉牛タイプとなる。
一方去勢牛は、体高などの発育は良好であるが、ボリューム感が今一となる。
その結果、雌牛の肥育成績は、去勢牛より良好である。
去勢牛の場合は、体重当たりの飼料摂取量の割合が少ないためであり、雌牛と同様な摂取割合に至るまで、摂取効率を高めることが必要である。
同じ施設から搬入されても、雌雄を別々に飼育した場合、雌の方が優れるとは言い難い結果となる。
この場合、雌雄同群だからの効果のようである。
雌雄を同群とするのは、生後約20ヶ月令までである。


種雄牛の成績は安定性が一番

2009-03-15 22:22:36 | 肥育
           今売れ筋の安福久号の産子(母の父は平茂勝号)

今から6~7年以前、平茂勝号の産子が導入されれば、しめた!と思ったものである。
それまでの神高福号や忠福号などとは、若干異なる結果が出始めたからである。
異なる結果とは、その大部分がBMS no.5以上で、それ以下が滅多に出なかったと言うことである。
素牛導入上で、この様な結果が見込めることは、大変重要なことである。
この様に、常に上物にランクされる産子を生み出す種雄牛こそが、安定していて、優れた種雄牛であると判断できる。
平茂勝号の場合は交配雌牛との相性に左右される度合いが少なかったことが伺われる。
種雄牛の産子の成績については、平茂勝号のようなタイプもあれば、その相性によっては極上の成績を見るが、2~3等級も出るといったような成績がバラツクものもいる。
むしろ、このタイプが一般的であって、それ以下の種雄牛は論外であろう。
過去に活躍した種雄牛はその時点では、光っていた訳であるが、高齢となれば、それらの成績は自然に右下がりの傾向を示す。
全国的に改良に貢献した平茂勝号にしても、その傾向は同様に推移している。
それは、枝肉の格付が時代とともに、その見方に変化があることと、子牛も産次が多くなれば肥育成績が右下がりになるのと同様な遺伝的退化が有るのかも知れない。
また今では、年々優れた種雄牛が造成されているはずなのに、BMS no.12を獲得するには、至難の業である。
その様な理屈を例えとするならば、安福号のクローン牛が再生されたが、果たして、当時の安福同様な成果をもたらすかは、興味津々である。


第6次産業と肉用牛飼育経営の今後

2009-03-14 23:33:45 | 予防治療
21世紀の農業は第6次産業が目玉だそうだ。
テレビを見て既に周知のことだろうが、実に複雑な産業の有りようであると感じた。
東大の今村奈良臣名誉教授が発案した産業らしい。
一次産業と二次産業それに三次産業を同一経営者が行う産業で、つまり生産から加工、流通販売(店舗)までを行うもので、これらの一次二次三次の数字を加えた数字6をもじって6次産業と名付けたという。
これを肉用牛飼育経営に例を挙げれば、子牛を生ませ、肥育した枝肉を加工し、牛肉を自らの店舗で販売したりステーキハウスを経営すると言うのが6次産業である。
これまで都会地郊外では、滋賀・京都・兵庫などでは以前から行っているケースはあったが、最近では、地方都市や、田舎の観光地などで、その様な例を聞くこととなった。
これらのケースでは、ファミリーレストランなどの牛肉の品質とは異なり、自家生産による明白な和牛肉で高級感のイメージがあることから、予約無しでは入れないケースもあるという。
現時の枝肉価格低迷期では、この様なケースでの経営は、それらに左右されることなく結果が得られることになろうが、不況による影響がないとは言い難い。
従来からの経営に、産業的地位を与えたに過ぎないために、これらを新時代の目玉としたところで、爆発的に6次産業が幅をきかせるとは考えられない。
産業の発展の段階では、それぞれの分野で、やむを得ず取り入れなければ立ちゆかぬ場合には、プラスαを導入することはある。
さらなる産業発展は、本来の業種を尊重しながら、そのノウハウを効率よく生かすことを継続することにあると認識している。
肥育現場では、子牛生産地の高齢化による離農者に代わり、肥育サイドが肩代わりして生産するケースが、今後の形になろうと予測している。
子牛生産者が一環経営で肥育を行う場合は、成功する例はあるが、逆に肥育関係者が子牛生産を行う場合は、問題点が多々ある。
肥育部門での繁殖では、肥らすことが本来のノウハウなので、繁殖雌牛を肥らせすぎて繁殖障害や異常分娩で子牛を死なすケースがままある。
肥育以上に繁殖技術は複雑で、我々人間同様の体調管理を維持するノウハウが不可欠である。