牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

肢蹄の審査

2011-07-08 23:58:12 | 審査
戻牛のことを前述したが、そのブログに記述した4頭は、全頭10産の分娩を果たして戻ってきた。
つまり結果的に強健で足腰の強さが裏付けされたことに他ならない。
これらの牛に共通していることに、登録検査時の肢蹄の審査減率が22~23である。
この減率では審査得点に換算すれば77~78点で厳しい減率である。
因みに登録点数は何れも80点前半である。
肢蹄の良し悪しは品位資質を連動させ、細くて強さを強調して、但馬牛のようなクリーンカットな肢蹄を良しとされた審査法になっているが、肢蹄に関しては長期のお産に耐えられる強健さが求められているはずである。
第10回全共では、50年ぶりの和牛維新を掲げ、新たな改革のスローガンとするならば、クリーンカットな肢蹄が強健に繋がっているのか、雌牛の繁殖成績に繋がっているのか、はたまた、肉質の善し悪しにどの程度関わりがあるのか、結論的にこれらの形質が科学的根拠に基づいているのかなどを明白にすべきであろう。
話を肢蹄の減率に戻すが、和牛の肢蹄はどの牛も本来強健である。
和牛の大半が減率20以上となっているが、10産を果たすような雌牛は、減率10の能力を有していると判断すべきである。
少なくとも、登録点数80点であれば、中躯等の減点に匹敵する減率に評価すべきである。
5産次の母親の体型を見ると、品位資質・均称や中躯等の検査時の減率は信じがたい現実となり、肢蹄だけは当時を現存している。
「つなぎ」が弱く歩様に欠陥が認められるものを除けば、多産次を評価すべく、その可能性を加味した肢蹄の減率や配点を現行より高い評価を行っても良いのではあるまいか。

牛を顔の正面から観察する

2009-08-01 23:37:42 | 審査

写真は導入から4ヵ月を過ぎた育成中の去勢牛である。
ここは、10数頭を群飼いする牛房で、導入から3~5ヶ月間経てば、5頭房へ移動しているため、年間3クールが入れ替わる。
そのたびに、房の前にたたずめば、写真のように並んでくれるので、この様子を良く撮っている。
この様に顔を見せてくれる牛らは、健康上に先ず問題は無いが、むしろ顔を覗かせない牛の方が問題が有りはしないかと気掛かりとなる。

牛の顔の正面に立つと、それぞれに異なる角の形や、体幅に関係する口の大きさや顔の広さなどに目が届く。
口の大きさや顔幅に比例して体幅などに現れるのは、肥育仕上げ期であるが、それらの片鱗がそろそろ見られる。
顔幅の広い写真両端の牛は、文字どおり体幅があり、将来増体が期待できそうであるが、この段階では、どの牛も同様の体付きをしている。
牛の増体能力を見るのに、もう1箇所見るところがある。
それは前胸であり、その形もそれぞれに異なっている。
この4頭の中では、右から2番目の牛は前胸が良く充実している。
この形を見ることで、他の牛に比し、胸底の位置がかなり低く、そのことが牛の体躯の深みのあることも理解できる。
この牛は、他に比し顔幅は劣るが、顔の長さがあり、人で言う面長の顔をしており、どちらかと言えば体幅に問題がありそうだが、体深があるために、体積があり仕上がった時の体型に優れていることが予測できる。、
前胸の厚みと言えば、両端の2頭は幅に富んでいて、既に肩幅などの厚みが出て大貫ものの片鱗を見せている。
3番目の牛は、顔幅に比し、前胸の幅や深みに寂しいものを感じさせる。
牛を良く観察することで、このように牛の様々な特徴も理解できる。

基本登録と本原登録

2009-07-17 19:13:46 | 審査


和牛の基本登録と本原登録の違いが知りたいというコメントを頂戴した。
登録事業に直接携わっている和牛関係者以外では、この違いを正確に認識している関係者は少なからずで、これまでこの様な質問がなかったことが不自然のような気がする。
筆者は和牛の登録に関する関係者ではなく、若い頃赤本(登録必携)を入手して囓った程度であり、いい加減に記述する訳もいかず、全国和牛登録協会に尋ねるべく電話したら、「和牛」誌編集者のY氏より、それぞれの資格条件等を記述した印刷物がFAXで届けて頂いた。
基本および本原登録について、その内容を掻い摘むより原紙に基づいて下記の通り書き写した。

■基本登録■
 
①繁殖牛として必要な基本的資格条件を満たした牛
②位置づけとしては肥育もと牛生産用としての色合いが濃い
③ただしこの中から、能力の極めて高い牛は、高等登録を経て、経営あるいは地  域の改良の柱となる種牛圏に入るルートあり
 
◎基本登録の資格条件
○血統条件
 雌雄共通
①子牛登記証明書を有するもの
②父・母・祖父母が登録牛(雄では、血液型検査で矛盾がないこと)

○遺伝的不良形質
①雌 制限なし
②雄 認定形質について抵触しないこと

○ 体型審査条件
①雌 本牛の審査得点77点以上
②雄 本牛の審査得点80点以上

▲登録を受ける月齢
 雌 生後14ヵ月~30ヵ月未満
 雄 生後12ヵ月~30ヵ月未満

■本原登録■

①和牛改良組合(和牛の改良増殖を集団的に取り組んでいる地域)のベースを構成する牛
②その主な役割は、改良の基礎となる種牛の供給
③この中から能力の優れたものが高等登録牛として改良の中核的な牛群を構成
④とくに和牛育種組合を結成し育種事業を展開しているところでは、選抜によって少数のエリート集団となる育種牛群に常に能力の高い種牛を
 幅広く供給する役割

◎本原登録資格条件
○血統条件
 雌雄共通
①和牛改良組合がある地域で、生産飼育されているもの
②子牛登記証明書を有するもの
③父・母・祖父母が登録牛で、父80点以上、母78点以上(雄は遺伝子堅検査で矛盾がないこと)

○遺伝的不良形質
 雌雄共通条件
①産子の状況から判断されるもの
  父母の産子に出現していないこと
  (1~3類、ただし父牛の2、3類を除く)
②遺伝子型が特定可能なもの
  雌 制限なし
  雄 認定形質について抵触しないこと

○体型審査条件
①雌 本牛の審査得点80点以上
②雄 本牛の審査得点82点以上

○期待育種価条件
△判明条件
 雌雄共通
①父母の育種価が判明
②父または母が未判明の時、父母の育種価が判明
  (導入牛の場合は生産地で①または②を満たすこと)

△育種価条件
 次のいずれかに該当するもの
(雌) 
①枝肉重量と脂肪交雑が平均以上
②脂肪交雑が上位1/4以上
(雄)
①枝肉重量と芯面積が平均以上で脂肪交雑が上位1/4以上
②脂肪交雑が上位1/10以上

△判定時期
 雌雄共通
①子牛登記証明書発行時
②登録申請時

▲育種価の条件
 期待育種価、正確度は父または祖父が0.8以上、母または祖母が0.4以上

▲登録を受ける月齢
 雌 生後14ヵ月~30ヵ月未満
 雄 生後12ヵ月~30ヵ月未満


基本および本原登録の違いは上記の通りであるが、基本登録を受ける牛は、アメリカで言うところのコマーシャル牛を生産するレベルの繁殖牛を対象とし、本原登録を受ける牛は、黒毛和種の改良を目的とした種牛を生産する繁殖牛を対象としていると解釈できる。
但し、アメリカのコマーシャル牛はその用途がほぼ100%肥育素牛生産にあるが、黒毛和種の基本登録牛の場合、その能力に応じて改良を目的とした種牛となるケースがある。
本稿について、誤記などがあれば、Yさんを始め登録関係者の補足をお願いする次第である。

Yさん、有難うございました。

但馬牛のこと

2009-01-22 19:27:22 | 審査
但馬牛の話である。

但馬牛の特徴は、牛の審査項目である品位資質にある。
一見して但馬牛は、骨味、被毛皮膚、頭頚や体格部位などがしなやかで、実に美しい風貌をしている。
これが肉質に深く関わっていると言われてきたが、肉質の中でも、それらは脂肪の質に関係していると考えている。

10数年前に食肉市場関係者から聞いた話である。
「牛皮を剥ぐ時、但馬牛はすぐに判ったものだ」 と。
話によると、但馬牛は楽に皮が剥けたというのである。
皮の油が更々していたから剥ぎ易かったらしい。
要するに、但馬牛は他産地の牛と比較すると油の質が違っていることを強調した。
筋肉内脂肪(サシ)の蓄積割合がかなり高くなっている現在でも同様なのだろうか。

また通常、胸腰最長筋の肩から腰に至るまでサシの蓄積具合は肩に近く、腰に近い部分がその割合が高い。
ところが但馬牛は、肩から腰までほぼ均等に蓄積している。

肝心な牛肉の味であるが、科学的な根拠は持ち得ていないが、昔からサシの蓄積度も高いが、よくサシが他に比し甘く感じられるのは確かである。
同様のサシの入り具合では、その質がしつこくなく、さらっとしている。
だからサシの程度が多くても、意外と多量に食することが出来る。
これが関係者の但馬牛の特徴だという。
とくに、その特徴は雌牛にあるという。
だから、但馬牛の雌牛を素牛とする松坂肉のブランドが生まれたのであろう。

和牛の雌雄の特徴

2008-10-07 23:30:47 | 審査
写真の4頭の牛たちは、雌雄各2頭ずつである。
和牛関係者なら、どの牛が去勢牛で、どの牛が雌牛かは、一目瞭然であろう。
四肢を有する哺乳動物の雌雄を確認する決定的な特徴は、体表面に露出している生殖器の違いである。
雌雄の生殖器の位置は、動物により異なり、和牛の場合、雄は後肢の股間に睾丸が下がり、ペニスは股間上部から腹部を経て包皮から排尿とともに排出する。
一方雌は、尾根部後方直下に牝性生殖器がある。
また、股間にある乳徴器は、雄の乳房はスペースはあってもその容量は確認できないが、雌の場合は、妊娠とともに肥大し、分娩後は日量約10kgもの乳の生産量を有するほどの容量をなす大きさとなる。
雄の乳頭は、成畜でも直径と長さが1cm程度あるが、雌の場合は、直径1.5cm、長さ約5~7cm位であり、授乳時にはそれらから若干大きくなる。
このように、雌雄の特徴は生殖器と乳徴器によって確定される。
この他、雌雄を外観的に見ることによって、雌雄の判別をしている。
先ず頭部では、雄は角が大きく、角の伸びる方向が真横や真上に伸び、雌牛の場合は、角が全般的に、細く短いが、雄のは太く長く、一見粗野である。
次に顔つきであるが、雄の額は、やや膨らみがあり顔幅が広く、瞼が重く(腫れぼったい)、口も大きく、所謂牡相を呈している。
雌の額は、平坦で、こめかみは締まって見え、口はやや細めである。
頸から後躯にわたり、雄はどちらかというと体幅があり、ボリューム感がある。
成畜になれば、頸の上部が肉盛りするが、俗称頚峰が目立つようになる。
雌は頸の幅が薄くきゃしゃな感じがするが、身体全体も同様の感がする。
足腰についても、雄は頑丈で、雌は繊細でスリムな感じである。
とくに、去勢牛は、雄牛の睾丸を切除し、中性化するために、雄牛の特徴より、体型と性格まで雌牛らしくなる。
これらの特徴を念頭に、雌雄を判断する。
そこで、写真の牛たちは生後15ヵ月令であるが、手前の左から2頭が雌牛で、他の2頭は去勢牛である。
このブロックの牛たちは、生後離乳時から同房で管理されている。


牛を見抜く

2008-08-01 19:06:06 | 審査


子牛や枝肉を品定めするのに、最近ではデータを重視して競りボタンを押すケースが多いようである。
昔より、より科学的で信頼性が高いことは、言うまでもない。
例えば、研修は受けているであろうが、大手のスーパーの若いバイヤーらは、枝肉を詳細に確認することなく、格付け結果をもとに、競っているケースが多いと聞く。
競り落とした品物は、損しない売り方を熟知しているから、それで良いのであろう。
しかし、子牛の場合は、データのみに頼っていると、えらい目に遭うことがある。
それは、データに出てこない健康状態や過去の疾病歴である。
導入後に、最も多いのが、肺炎歴で、それがもとで導入後2~3ヵ月目に、肺が腐敗して死亡したという例もある。
また、アシドーシスの例も多く、それがもとで、肝膿瘍などを誘引した例もある。
その時点で瑕疵があれば、宣告しなければならないが、過去のことは、一時的に治癒していればお構いなしだ。
そこで重要なことは、牛を見抜く審査眼である。
ベテランになれば、その辺のことは直感的に判断できる。
データーにでないのは、子牛の体型も同様である。
母牛については、市場名簿に登録点数が明示されており、大体の目安は判る。
(母親の点数と肥育成績の間には関係する相関関係はない)
子牛は、両親が代々受け継いでいる遺伝子があるため、必ずしも母牛の体型が子牛にもコピーされるとは限らない。
だから、見る目を養った上で素牛を選定するは常識的なことである。

以前、生体で枝肉を予測して入札していた時代があった。
その当時の枝肉購買者たちは、独自の審査眼を持っていたであろう。
その当時の関係者のその見方を記録にでも残しておくべきであったと、後悔の念で一杯である。
それが出来れば、超音波判定に替わるプロの目であったはずである。