牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

和牛肥育危機感

2019-06-07 09:28:14 | 肥育


現在、素牛価格は好調で、枝肉価格は低迷している。
なのに子牛市場では低迷で悲鳴を上げながら、肥育関係者が素牛を高値で落札している現状がある。
大丈夫だろうかと危機感を感じている。

◎肥育素牛価格は依然と好調である。
好調の理由には様々ある。
①素牛の発育がかなり改善されている。
DG1kg以下の子牛が少なくなり、1.3~1.5kgで以前は見られなかった発育の良好な子牛が見られるようになった。
子牛用育成配合の品質とその利用の仕方により結果が好転していると判断している。
飼料効率を高める添加剤もその一因になっていると聞く。
また血統、つまり増体能力を期待した交配で増体速度が改善されている。
肥育素牛を入手する段階で、肥育終了時の枝肉価格を期待するために、仕上げ体重の大型化が望まれることから発育の良い系統間の交配が進められている。
②肉質の良好な系統間交配が全国的にみられている。
どこの子牛市場でも、「安福久」母体の子牛が増加し、これらの子牛は発育が良好なれば、確実に高価で落札されて、市場平均を引き上げている。
△特に去勢子牛の全国平均価格は80万円以上を維持している。
△マルキンの経費計算では肉専用種の素牛価格は72.3万円としているが、黒毛和種以外の和牛の価格を加味すれば、その辺になるのであろうか。

◎枝肉価格は低迷している。
R1/6/6に関西のとある食肉市場で、あるイベントがあり、雌8去勢14頭が出品された。
格付け結果は5等級9頭、4等級13頭
①平均枝重475.8kg、平均枝単価2,424.8円、平均枝肉価格1,153,699円、内臓等20,000円、販売価格1,173,699円(税抜き)
②平均素牛価格(推定・イベント用を加味)850,000円、生産費468,135円(マルキン参考)、経費計1,318,135円
③単純差益 -144,436円 
つまり大赤字の結果である。

◎枝肉消費低迷の理由
①輸入肉の増加
②日本経済の低迷により、若者の和牛肉離れ
③季節的に低迷

◎さて対策は
日本経済の立て直し。
夏に向けての焼き肉消費の回復を期待。
素牛価格を15万円下げて導入する。
飼料費等の値下げなど経費の節減を図る。
事故率を徹底して下げる。
泣き言ではないマルキンの発動。

格付け割合

2012-02-20 21:48:28 | 肥育

和牛去勢牛の枝肉単価(kg当たり)の傾向は、5等級2,200円、4等級1,750円、3等級1,400円、2等級1,100円が目安となっている。
従業員を抱えている肥育センターの場合、飼育期間通算1日当たり平均飼育経費は1頭当たり620~650円程度が想定できる。
仮に650日間を要する肥育であれば、40.3万円~42.25万円の経費と素牛代金を加算した額以上の販売額でないと欠損となる。
詳細には、配合飼料の摂取量の大小で個々の牛の採算は異なってくる。
素牛代金が48万円であれば、88.3~90.25万円がベースとなる。
ところが、この金額は最近の枝肉相場からは厳しいベースである。
個々の出荷牛については、枝肉重量の平均を500kgの場合枝肉単価は1,870円、480kgでは1,950円を要する。

一方、年間における経営を安定させるには、枝肉重量と肉質等級の分布割合をペイするレベルに持って行かなくてはならない。
仮に枝肉重量を500kgとした場合、最近の市況から算出すれば、5等級は110万円、4等級87.5万円、3等級70万円、2等級55万円となる。
つまり、現状では5等級だけが黒字に繋がっていることになる。
補填金の51,300円を補足して4等級が何とか+となる。
補填金頼みは計算の外に於いて、肉質等級の格付け割合がペイするには、
例えば
5等級20%、4等級50%、3等級25%、2等級5%で86.0万円
5等級25%、4等級50%、3等級20%、2等級5%で88.0万円
5等級30%、4等級50%、3等級15%、2等級5%で90.0万円
現状では、これ以上の成績でなければ黒字経営には持って行けないことになる。
つまり、和牛肥育の場合、経営を左右するのは5等級率の増減である。
雌牛の場合は、枝肉重量が少ないが、去勢牛と同じ格付けであれば、枝肉単価は約10~15%高く、素牛価格が若干安価であることと飼料の摂取量が少ないことから経費が嵩まず、安定した肥育成績次第では、経営的なうまみがある。
枝肉単価はあくまでも平均値であり、目安である。

過肥

2012-01-09 17:16:22 | 肥育

写真の牛は忠冨士号の産子である。同牛の産子でなくても交配によっては、去勢牛の中に増体能力の極めて高い牛がいる。
体重が900kgを越しても、食い込みが留まらず、写真のように1トンに至る仕上げ牛が出る。
統計的には、枝重が重いほど肉質評価も高い傾向にあるが、写真のような牛は、必ずしもそうとは限らない。
腹容がしっかり閉まり、牛が涸れてくるまでには、未だ3~4ヶ月は必要だが、このような牛は、大食漢だけに経費がかさみ、それだけの肥育効果が期待できるかは、疑問である。
しかも、最近の市場では大貫物が敬遠される傾向にあって、3~4等級程度では競り価格も厳しく競り落とされる可能性が高い。
5等級であっても、その傾向は如実に見られている。
相場堅調であった頃であれば、枝重さえ稼げれは、赤字にはならなかったが、現況では飼料代等経費が嵩むだけ厳しい状況である。
このような大貫物になる原因は、増体系の血統であったり、濃厚飼料と粗飼料を混合させたり、どちらかと言えば、肥育末期まで粗飼料過多で食い込み量を制限しないままであった結果であろう。
育成期から、濃厚飼料と粗飼料のバランスを考慮し、結果的にDG値を0.75kg程度に抑えた給与体系を堅持する。
生後月齢20数ヶ月に至った頃からは、ワラなど粗飼料の給与制限を徐々に行い澱粉質の摂取割合を高くしながら肥育を進め、次第に仕上がり状態に移行させれば、月齢が進むにつれて配合飼料の食い込みも次第に減少し、旨く仕上がることになる。
個々の牛を担当者が常に詳細に観察し、仕上げへの流れを乱さないような飼い方へ持って行くべきである。






近況から

2011-12-04 10:31:40 | 肥育

年末商戦に入ったというのに、枝肉単価が低迷している。
黒毛和種去勢牛A5クラスでも2,000円割れである。
牛肉消費が依然低迷しているためである。
畜産現場では、超円高が継続中であるにも拘わらず、それに見合う飼料費の値下げは見られない。
オーストラリア産粗飼料は、品薄のための取り合いだとかで、逆に値上げである。
この状況ではなかなか低コストどころではなく、肥育生産者には厳しい状況が続いている。
先日開催された近畿東海北陸連合枝肉共進会の審査委員長の好評で、去勢牛の部では、「上物率が89%を越し、肉量肉質ともに最近にない好成績であった」と言うものであった。
共進会ならではの好成績であり、競り価格も1万円を越すなど大盛況ぶりであった。
しかし、通常の食肉市場での枝肉成績は、同共進会のような成績とはかなりの差があると聞いている。
成績が上がらず、枝肉単価が今一では、肥育経営者は厳しい状況下での越年となる様相である。
成績が上がらない原因の一つは、前述したかもしれないが、全国で生産される子牛の大部分に、その3代祖に兵庫産の血統が交配されているために、従来通りの肥育を継続しては、食い込み量や肥育期間などは若干の差が見られ、その影響から、仕上げ結果が従前通りの成果が得られなくなっている。
これらと同等の血統を持つ素牛であっても、肥育した結果、最優秀賞になるケースもある。
それは、その血統を吟味しその血統にあった肥育技術を会得し、実践している成果であろうと推測している。
そのような優れた技術を肥育業界全体が共有することが、今後の課題であろう。
一方、子牛市場では、今回の小林市場における去勢子牛の平均価格は50万円を越す高値であった。
全国からの購買者がボタンを押した結果であろうと推測している。
子牛生産市場でも、差別化が歴然としつつある。
質量兼備の優れた子牛生産を共有することでブランド化が実現することになる。
現状では、肥育成果が期待される素牛を購買者は所望しているようである。

肥育雑感

2011-10-12 18:04:10 | 肥育



宮崎産の肥育牛を目下出荷しているが、出荷を初めて半年が経過し、漸く枝量・肉質ともにまずまずの成績となってきた。
当初は、兵庫系の血液割合が高いと見て、やや抑えめの肥育を心がけたために、体躯の肉付きが思うようにいかなかった。
そのため、当初の導入から半年経った後の導入牛から鹿児島産同様に多量摂取を心がけた結果が、最近の成績となって現れている。
宮崎産は4月20日の口蹄疫発症の日に導入して以来その後は疎遠となっている。
また宮崎産は、鹿児島産と比し、去勢牛はその差が見られないが、雌牛も去勢牛並みの成績である。
一方鹿児島産の雌牛は、枝重が大小疎らであり、肉質も今一の成績である。
鹿児島産は競り市前に、生草を与えるために、肥育中期に至ってもビタミンAが抜けきらないから結果が出ないとある飼料メーカーの担当者の話である。
うなずける話であるが、ならば、宮崎では生草を与えていないのであろうか。
鹿児島や宮崎のいずれの産地も同様に、多頭化することで、自給粗飼料の割合は減少することが考えられることから、生草だけの問題では無さそうである。
雌牛は安価良しの導入にも問題がありそうである。

さて、産地によって肥育の手法を考慮しないと結果が得られないことは、これまでも多々経験してきた。
淡路産にも結構手こずった経緯がある。
兵庫産特有の肉質はまずまずでも雌雄ともに枝重が期待出来ずに、期待通りの結果に至らなかった。
粗飼料や配合飼料の給与加減を我慢して我慢しながら、やや時間を掛けないと、期待通りに結果が出ない。
九州系の去勢牛であれば、粗飼料と配合飼料の給与バランスを心がけ、斑無く食いこませさえすれば、結果が着いてくるので、肥育がやりやすい。
口蹄疫発生以来、敬遠していた宮崎産素牛の導入を近々再開する予定である。

給餌の機械化効果を目算する

2011-09-23 19:33:21 | 肥育

当センターでは給餌作業の機械化は、稲わらクラッシャーぐらいで、殆んど進んでいない。15棟ある各畜舎は古く、1棟当たりの平均飼育頭数が70頭程度であるため、機械化してもペイしないと判断してきた。
配合飼料等は全て手やりだが、その長所として牛の観察が行き届き疾病率は極めて低く、死廃率は1%未満であるが、手やり斑のために肥育成績にも斑が出やすい。
そこで目下、自動給餌器などの機械化を考慮中である。
同器を導入するには、その設置効果が具体的でなければならない。
機械化することで給与量が一定し複数回給餌する効果により、日量の摂取量が増加することから、増体効果が期待出来、その相乗効果から肉質の向上も実現することが予測出来る。
つまり枝肉量の増加と肉質の好転により枝肉の販売金額も増大する。
一方、同器の設置費用は単純計算では1頭当たり3~4万円の設置費用が掛かる。
大型センターなどでは、費用負担が大きいために、契約飼料メーカーなどに設置負担させているケースもあるようである。
改めて、機械化の目標として、枝肉量を5~10%増加させ、肉質の向上をはかり、その結果枝肉単価を5~10%上げることを最低の目算とした目標を立てた。
これが実現することで、従来の販売額より1頭当たり最低(5%増)でも7~8万円増加することになる。
摂取量が増加した分の飼料代約1.5万円を差し引いても5.5~6.5万円の設置効果が見込める計算となる。
設置可能な畜舎550頭で約2,000万円が必要であるが、設置後軌道に乗れば、少なくても400頭出荷することで、ペイする計算となる。
機械化の効果は、現実にはこの程度の設置効果ではなく、上物率が安定的にアップしたと実施センターの畜主から聞いている。
大型肥育センターの大部分が機械化しているが、労働力の軽減だけでなく、肥育成績の向上に繋がるからである。
投資をするからには、この程度の設置効果に見合う心意気と日頃から意欲的に高い飼育技術を生かす実践が不可欠であり、その挙げ句経営効果が得られるはずと睨んでいる。

台風接近

2011-09-02 22:40:35 | 肥育

これまで畜舎などが台風の被害を受けたことは、記憶にない程度で風水害には縁遠い環境下で肥育を行ってきた。
しかし、今回はそうも言ってはおれない。
現在四国沖と言うが、まともに関西地方を直撃しそうな気配である。
今回の台風は雨台風のようであるが、古い畜舎の雨漏りや風力を受けるカーテンなど案じられる。
横風を受けて、舎内が水浸しになりかねない。
直接被害を受けるのは、水源地が砂利で埋まり断水の恐れがあることである。

目下、南西諸島へ素牛導入に出かけているが、同諸島では台風の被害は無さそうであり、今度の日月に掛けて受け入れることになっているが、台風一過後のため、牛らの到着には支障は無さそうである。
問題は、明日の夕刻関西に到着予定の担当者のことで、航空便が運行されるかが気がかりである。
とは言っても、船酔いする子牛たちが出なければよいが祈るのみである。


夏場対策

2011-08-22 22:24:34 | 肥育

曇天や雨天日が続いていることから、一時期の猛暑時は肥育牛らもかなりのストレスを受けて、昼間に熟睡する時間が少なかったが、このところの昼間30℃、夜間や朝方には22℃前後の気温となり、昼間はゆったりとした様子で熟睡(写真)している。
今週末になれば、再び猛暑が戻ると予想されているが、8月が過ぎれば、次第次第に秋の気配が訪れる。
肥育牛らは、秋の気配を感じ始めた頃になれば、夏場のストレスの影響を受け、潜在的なVA欠乏から、肝機能の低下や低カル症状が出やすくなる。
このような症状を抑えるために、VB群やパントテン酸カルシウムなどを夏場に与えるなどの対策を取ることで、食欲低下など夏場対策を回避できる。
VA欠乏対策については、再々述べてきたように、生後月齢24~25ヶ月が過ぎる頃になれば、四肢の浮腫や視力低下、慢性の軟便など同症状が出ない程度に、微量のVA剤の補給が必要となる。
仕上げ末期には満肉となり、食い込み量が徐々に低下することで、肉の光沢や決めしまりが充実する。
ところがこの補給が過ぎれば、出荷月齢に至っても順調に増体し、皮下や筋間脂肪の蓄積割合が高くなり、ロース芯面積は小さめとなり形も悪く、BMS値も期待できなくなる。
その結果、歩留まり基準値もAにランクされない。
写真の1群は、当初9×4.5mのスペースに7頭飼いであったが、途中で2頭を間引いて仕上げ期に入りそろそろ24ヶ月になるが、体重は全頭揃って750~780kgの範囲に至っている。
スペースが広いことで、競合は一切なく、ゆったりと育っている。
スペースを広くしている理由は、可能な限りストレスを与えないという家畜福祉を重視していることにある。
このことが、前に5等級のすき焼き肉を貼り付けたが、良質の割合が高くなった感がある。


難しい雌牛の肥育

2011-08-05 19:47:59 | 肥育

去勢牛の肥育が90%を占めているが、雌牛の肥育結果が今一である。
具体的には、兵庫系の血液割合の多い雌牛の成績はまずまずであるが、九州産の雌牛は仕上げ体重は大きいが肉質は今一である。
聞くところによると、南九州では年間生草が収穫できるために、親子ともに生草を食い込んでいてビタミンAの蓄積量が多いため、肥育時にビタミンAが体内から抜けきらないからだと聞いたことがある。
前述したが、母牛群は鹿児島産で登録点数も80点程度が大部分であるそれらの産子について、生後6ヶ月の子牛を長期に乾草を飽食させて肥育した雌牛は、肉質が期待できている。
体重が600kgに足らなくても、ロース芯面積は70~80が大半である。
粗飼料効果である。
産地は同じ鹿児島でも九州産は、こうはならない。
生後6~9ヶ月の間での乾草の摂取量に差があるためであろうと判断している。
鹿児島県内の家畜市場では、特定の購買者が、著明な種雄牛の産子の雌牛であれば、金に糸目を付けずに落札しているという話をよく聞くことがある。
つまりは、父母牛の血統がものを言っているのであろうか。



和牛肥育の今後は

2011-06-16 23:29:32 | 肥育

低迷中の肥育経営についてのコメントを頂戴した。
和牛の子牛相場は、全国的に下落の傾向にあり、今後も暫くはその傾向が持続されることが予測されている。
しかしながら、素牛価格が下がっても現行では、枝肉価格も低迷中で差益が残らないのも事実である。
このような状況に至ったのは、景気低迷に連動している潜在的な牛肉消費の低迷に加えて、東日本大震災と原発事故の影響、ユッケなどによる食中毒の影響などによることは周知のことである。
食肉卸売業によれば、ユッケに用いられていたモモ肉や一部のウデなどに加えて、内臓とくに肝臓の動きがかなり減少し冷凍庫が満杯になりそうだとのことである。
この状況はお盆前までは続くと予測しているようであった。
最近の肥育経営では、大げさに5等級:4等級:3等級の格付け割合が25:50:25%であれば、平均差益は±0円と見なした考え方である。
現状では、この±0円を確保するのに四苦八苦の状態である。
これを打開するには、①当たり前のことであるが、素牛選定時に数揃えでなく、子牛を見抜く審査眼を高め、仕上げ時の枝重や肉質レベルを想定した競り価格の上限を設定してセリに挑む。
②その他の必要経費の低コスト化。
③①②の成果を上げることにより3等級でも損をしない肥育を行う。
この3点を重視して取り組んでいるところである。

一方、子牛価格の低迷は肥育サイドでも、大きな不安定要因の一つである。
この数年、西日本を中心に子牛生産頭数が年ごとに減少しているが、子牛価格の低迷が、この減少に拍車が掛からねばと案じられる。
東日本大震災で好調であった東北地方の子牛生産にブレーキが生じたこともかなりの重大事である。
子牛生産と肥育経営の関係では、あちら立てればこちら立たずの関係であるが、景気動向が好転し、牛肉の消費が回復することにより、互いの関係も改善し互いの経営も安定する。
当方でも、100頭足らずの子牛生産部門もあり、部門ごとに赤字を出さない経営を目指しているところである。
そのために子牛生産でも、データに基づいた交配計画や、出荷時期を早めたり、配合飼料の給与体系を抑えるなどで低コスト化を図って、1頭30万円でも赤字にならない経営の確立を目指している。