牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(22)

2009-04-27 23:54:00 | 雌牛


⑪調教をする。
繁殖雌牛に調教をさせる必要は、ほぼなくなった。
昔は肉用牛ではなく、役用に牛は飼われていたため、田畑で耕起などを強いるには、人の言うことを素直に聞いてくれる牛でなければ、作業効率が悪かったため、調教することは当然であった。
牛が生後約12ヶ月令になった頃、鼻環を通し、鼻環装着時の痛みが僅かばかり残っている間に、鼻環に手綱を付けて、調教を開始する。
調教は、牛を静止させる、前進(並足・速足)させる、左や右に廻らせる、後すざりさせるなどを手綱一つでこれらが出来るように根気強く教えて農作業に備えたものである。
現在でも、調教して子牛生産に備えることは、マイナスではないが、差ほどの必要性はない気がする。
共進会などに出てくる牛たちは、調教されているものも多い。
晴れの舞台に立つからには、手綱一つで、言うことを聞かせた牛たちが、体型の素晴らしさに加えて、立ち姿の素晴らしい良い格好を聴衆に披露している。

繁殖雌牛の育成(21)

2009-04-26 10:46:20 | 雌牛

写真上は蹄が伸びて、つなぎが弱くなっている。写真下は、削蹄により、蹄の角度が正常になり、つなぎが従前通りしっかりと成った状態である。



⑩削蹄を定期的に行う(3)
蹄の裏側を蹄底と呼ぶが、牛の蹄が伸びると言うことは、全体的に伸びるのと、伸びることによって蹄の立ち角度が変わるために、つなぎなどの立ち姿も変形し、身体を支えるのに次第に支障を来すことになる。
それは、蹄が伸びることによって同様に蹄底も分厚く伸びるため、蹄の角度が変形する。
全体の長さを整えたら、蹄底のどの部分を切り込むかで、蹄の立ち角度が変わったり、内蹄と外蹄の切れ込みが密着し過ぎたり、逆にV字状に開いたりする。
熟練を重ねて、そのポイントを熟知するほかない。
その他、削蹄鎌ではなく、植木鋏を改良したものを使って削蹄する方法もある。
牛をコンパネを敷き詰めた枠場の中へ入れて、鋏で削蹄するものである。
この方法は、熟練すれば、削蹄鎌同様の削蹄が可能であるが、経験が浅ければ、和牛の雌牛には、荒削りのため、最後は鎌で仕上げる必要がある。
この方法は、1頭の牛を同時に二人で2本づつ削蹄出来ることから、3~5分で削蹄可能なため、1時間もあれば20頭の削蹄が出来る。
この削蹄法は、見ているだけで感動するくらいすっぽりと切れる。




削蹄鎌でなく、特殊な植木鋏で簡便に削蹄する。
牛用枠場の地面にコンパネを3枚敷いた上に、牛を保定して削蹄する。



蹄の長さは指4本残してその先に鋏を入れて、後は蹄底を切り落とし、蹄の周囲や中央部を切って整えて終わる。



この方法は、牛がガサつかなければ、2名同時に削蹄出来るため、四肢を持ち上げるてまもなく短時間で楽に出来る。




この上下2枚の写真は、当該鋏で切り落とした蹄である。



繁殖雌牛の育成(20)

2009-04-25 19:39:52 | 雌牛


⑩削蹄を定期的に行う(2)
また、和牛を放牧管理している場合、削蹄の経験がないという情報もある。
さて、和牛の育成雌牛の具体的な削蹄法は、基本的には昔ながらの削蹄鎌(写真2)、ヤスリ(蹄鑢:写真2)、削蹄鋏(センカン)、削蹄用の刀((19)に貼り付けた写真1)などを用いるのが一般的であり、削蹄師などによる削蹄も同様である。
経験豊かな削蹄師などは、四肢の一つひとつを左腕で持ち上げながら牛を保定させて、右手で削蹄する方法がとられている。
四肢を削蹄し易くする方法には、牛専用の枠場に入れて、枠場の柱に四肢を持ち上げた状態でそれぞれ繋いで削蹄したり、四肢を持ち上げる補助と削蹄する術者が二人コンビで削蹄するなどの方法がある。
削蹄は、通常前肢から行い、偶蹄目である牛の蹄は、中程で左右に分かれている。
蹄を持ち上げて身体の内側にある蹄を内蹄といい、身体の外側にあるのが外蹄である。
最初は内蹄から削蹄し、内蹄が終われば外蹄を行う。
削蹄鎌の握り方は、内蹄や外蹄または、前肢や後肢の蹄の切り方によって、鎌の柄の握り方が、握り手より先に持ってくる場合と、逆に手前にくる場合があり、柄の握り方を変幻に替えて効率よく蹄を切って整える。
蹄が思い切り伸びているような場合は、削蹄用鋏や刀を用いて蹄の毛際から指4本分の辺りで先端を切り落としてから鎌で整える。
切り整えたら、削蹄用ヤスリで蹄の周囲のトゲトゲした部分を丸く擦って整えれば、削蹄は終了する。
問題は、蹄を如何に整えるかである。
削蹄を行う場合は、牛の蹄の正常な形や立ち角度を熟知してかからなければ、なかなかうまくいかない。

繁殖雌牛の育成(19)

2009-04-23 22:38:31 | 雌牛
⑩削蹄を定期的に行う(1)
野生種らは、蹄が容易く伸びない環境で生存している。
万が一蹄が伸びたとしても、彼らの責任である。
だから削蹄を定期的に行うことは、家畜化した人間の当然の行為なのである。

蹄が伸び、変形することで、なかなか妊娠しないという例をよく聞くことがある。
牛の削蹄を疎かにする結果、蹄が伸び過ぎ形が変形することで、つなぎが弱くなり、体重を支えるのに支障が起きて、歩様にも支障を来す。
その結果食欲が減退し、次第に体調異常に陥ることから、体型が崩れたり、ホルモン異常から繁殖障害を来すことになる。
管理法によっては、削蹄を必要としないケースもある。
牛の飼育場のコンクリートフロアーを設置時に、コテで慣らさないで、ガサガサにやや粗めに仕上げたり、使い古しの竹箒でスジを入れることで、そこで飼われる牛の蹄は、伸びても摩耗するため伸び難くなる。
但し、スキットステアローダーのバケットなどをフロア内で滑らせて走らせると、20年持たないでツルツルになり、削蹄効果はなくなる。

写真1は伸びすぎた蹄の先端を切る刀で、刀は木槌で叩いて使う。

繁殖雌牛の育成(18)

2009-04-22 22:36:16 | 雌牛


⑨手入れをする。
牛を手入れするというのは、本来当たり前のことである。
牛たちによって、我々は生計を立てているからには、常に牛たちに愛情を注ぎながら、日常を接することは当然である。
牛飼いなのに、牛捌けや金ブラシのないことは、考えられないことである。
繁殖用の子牛を丈夫に育てるために、子供の頃は稲わらを叩いて柔らかくして束ねたもので、牛の体表面を毎日逆さ擦りさせられたことを思い出す。
わら擦りしてやると牛たちは、実に気持ちよさそうで満足げである。
牛へのわら擦りは、人の乾布摩擦の効果のように、体表面の血行を良好なら占め、食欲維持や健康維持に役立つためであった。
前回の鳥取開催の全国和牛能力共進会では、宮崎県から出品された全ての牛たちの被毛は、密植して細く柔らかく、ふんわり感があって、素晴らしいものであった。
おそらく、同県の関係者の指導により、入念なわら擦りが行われたであろうと推測している。
同共進会での宮崎県産のように、常に牛たちを美しくして育てることは、経済効果にも繋がる例である。

繁殖雌牛の育成(17)

2009-04-20 17:13:18 | 雌牛



⑧日光浴をさせる。
日光浴は、家畜に限らず必要である。
牛の体内で蓄積されるビタミンBなどは、暗い畜舎よりも直射日光を浴びる方が多くを蓄積できて、強健な体調維持には極めて重要であり、順調な受胎に深く影響をもたらしている。
そのため、和牛繁殖農家などでは、庭先に長時間繋いで、足腰を鍛えると同時に日光浴が昔から行われ、現在でも引き運動以上に実施されているようである。
多頭化では、運動場付畜舎にすることや、天井を高くするなど、採光を取り入れる工夫も重要である。
放牧管理では、日光浴の必要性もなく、高い受胎率と成っていると聞く。

繁殖雌牛の育成(16)

2009-04-19 16:43:57 | 雌牛

⑦引き運動をする。
引き運動については、繁殖で多産させるためには、足腰を鍛えておく必要がある。
そのためには、引き運動や強制的な歩行装置を利用して歩かせる工夫が必要である。
多頭化により飼養頭数が増加したり、道路事情が車社会になったことで、引き運動の実施には厳しい条件下にある。
以前は、数頭飼いが大多数の頃は、夕方になると大人や子供たちが牛に牽かれながら、引き運動をする光景が多々見られたものである。
引き運動の途中で、行き付けの川があり、綺麗な川面に牛を入れると、流れの水を心ゆくまで飲んで、暫くはゆったりとして佇み素晴らしい光景であった。
その他にも川では、牛を洗ってやったり、削蹄の前日には、少しばかり長めに入川させて、蹄を柔らかくしておくなどもあった。
引き運動が日課となることで、人にも牛にも足腰の鍛錬やコミュニケーションの場となり、引き運動が、牛飼いの基本的な効果をもたらしていた。
現在のような多頭化による群飼いでは、その様な風情はなかなか見られなくなった。
引き運動が、物理的に不可能となったことで、牛の運動量を増やすために、飼育場に広めの運動スペースを設けて、餌場と給水場を最も距離のある位置に設置することで、広い運動スペースをフルに生かすことで、可能な限り歩数を増やすことに繋がる。
足腰を鍛えさせるために、牛に鞍を背負わせて、丸太などを牽引させているケースもあると聞く。
引き運動ならぬ牽き運動である。

写真は、昔懐かしい牛の引き出し風景(全国和牛登録協会編和牛百科図説;'70より)

繁殖雌牛の育成(15)

2009-04-18 14:30:17 | 雌牛



⑥矯角する。
矯角をすることは、現時では大多数に於いて不要になってきている。
以前は、登録検査や共進会を意識して、殆どの雌牛には、矯角が行われていた。
現在でも、それらの影響を意識して実施しているケースを見かけることがある。
そもそも矯角とは、子牛から成畜への成長段階に伸びる牛の左右の角を、大きさ形、角度伸びる方向などを一対として同じ形状にバランス良く整えることである。
だから、矯角された牛の角は、見るからに格好良く見えるのである。
筆者は、矯角を習ったことはあるが、自らの実体験がないので、その昔習った恩師の玉稿によるが、矯角は、牛の角が7~9cm伸びた頃で、まだ角質が軟弱で固定していない状態から始める。
通常最初の矯角には、幅6~7cmの伸縮性のない布片を用いて、左右の角が寄るよう角がすっぽり隠れ気味に強く巻き付ける。
布片の締め加減は、牛が時々頭を振る程度が良く、振らないのは効果が少なく、度々振るのは強すぎる。
角が寄ると角根部の角表面の縦筋が曲がるから、それを見ながら酷く曲り過ぎないうちに止める。
第1回目の角寄せは、1日位でよいが、その後は、角の伸び具合や寄り具合を見ながら1~1.5ヵ月毎に行い、2回目以降は、2日間くらいかけて矯角を行い、生後14~15ヵ月令までに終えるとある。
この他、左右のバランスの悪くなった角の矯正や、後ろ向きの角の起こし方や前向きの角の起こし方などがある。
矯角は、予め角の形状をどのように矯正するかを設定しておくことが大事である。
以前は、畜主によって角の形に特徴があったものである。

写真は第5回全国和牛能力共進会特別賞「顔品」に選定された牛である。('87)

繁殖雌牛の育成(14)

2009-04-17 20:01:54 | 雌牛


⑤鼻環を装着する。
鼻環については、肥育牛の場合は不要と考えているが、繁殖雌牛の場合は、鼻環があった方が捕獲し易いことは事実である。
ただ、牛には鼻環があるが故に、鼻環を人が掴むことでの痛みがあるために、常に人から避ける体勢を取っているようである。
もともと無ければ、牛と人とのコミュニケーションにより、捕獲をいやがらないケースも多々ある。
群飼いで、連動スタンチョンを設置して管理する限りでは、鼻環は不要である。
足腰を鍛えるための引き運動をする場合や分娩癖の悪い牛の場合などは、鼻環がある方が便利なことはある。
また、共進会などに出品する場合も、鼻環がある方が格好が付く。
さて、鼻環の装着法であるが、農耕牛であった頃は100%鼻環が必要であった。
その当時、鼻環を装着する器具と言えば、梅など木質の硬い木を削った穿孔棒で鼻孔内の鼻中隔軟骨の最も薄い隔膜に穴を開け鼻環を付けていた。
その後65年頃から鼻環全体が塩ビ製でそれを装着する器具が出回るようになった。
その器具は鋏状のもので、鋏の刃の部分に丸い輪っぱがあり、予め鼻環をその輪っぱにセッティングしておくが、鼻環の両端は2cm程度離れたままである。
また鼻環の両端に工夫がなされ、片方が鋭利に尖り、もう一方の端は、片方の尖った先端がカチッとはまり込む構造となっている。
器具にセッティングしたまま、その尖った部分を鼻孔内鼻中隔軟骨の最も薄い隔膜に当てて、両方の柄を思い切り挟み込むことで、軟骨を突き抜け、鼻環の両端同志がうまくドッキングしてロックがかかり、鼻環装着がワンタッチに出来る構造になった。
それが現在でも一般的に利用されている。
鼻環が装着されたら、頬綱を付けて鼻環を固定するのが一般的なようであるが、むしろ固定しないほうが、鼻孔内の軟骨は丈夫で早く回復する。
将来、調教や共進会を目指す場合は、手綱を括る位置が木製の台木付きで従来型の鼻環が格好が付く。

繁殖雌牛の育成(13)

2009-04-16 18:39:07 | 雌牛
写真は親牛も仔牛も生後まもなく除角した牛たちである。


④除角する(3)
これらの除角を行う場合は、多量の出血が予想されることから、こめかみ周辺を大きめの輪ゴムなどできつめに縛ってから除角することにより、出血がかなり抑えられる。
しかし、何れもかなりの馬力が必要であったり、器具自体に重量感があったり、切断面が窪んでしまったり、一長一短ある。
2)3)5)は、やり方によっては、瞬時に除角出来るが、他は瞬時という訳にはいかない。
体力を差ほど必要としないのは、4)5)であり、ワイヤによる切断は、次第にワイヤに熱が加わるために、止血の効果がある。
器具を用いて角の生え際を切断した場合、何れも直線的な出血に見舞われる。
以前は、こめかみを締めつけることをしていなかったため、出血は想像を絶するものであった。
そのため術者の作業衣は、真っ赤に染まったものである。
止血は、木炭を燃やしハンダごて様の先が尖ったものや鉄筋などを真っ赤に焼いて、出血箇所を焼いて止血するのが一般的である。
出血が収まれば、乳房炎軟膏などを塗布して細菌等の侵入に備える。
また、サルファ剤の粉末を切断面に振り掛けガーゼでカバーすると大事に至らなかったこともある。
止血後数時間支障がなければ、一安心である。
筆者は、何れ除角するなら、生後間もない時期に除角する方が、子牛の除角時の痛みなども軽減され、跡形もなく除角出来ることから、この方法を推奨したい。
以上が除角の道具であるが、願わくば、子牛の頃からコミュニケーションを親密に取り、除角不要のまま牛たちと共存すべきと考えている。
一方、除角ではないが、角にカバーを装着することで競合防止などの効果があるとした角カバーが市販されている。
角が10cm程度伸びた頃に、角カバーをビス留めして装着する。
角カバーの材質は、ゴム製で内部にアルミと思われるものが使用され、左右の角用にコンビとなっている。
装着した角は、月齢が経つに従って、いずれも同じ方向に垂れ下がる。
矯角時に加重を加えることで角を整えているが、牛カバーの自重(片方約150g)のために垂れ下がることが考えられる。



角カバー



角カバーを装着して1年後は角は下向きに垂れ下がる(メーカーのパンフレットから引用)