牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

拘りの畜主

2012-04-19 20:21:09 | 繁殖関係

前回の研修見学会の2軒目の産直牧場である。
口蹄疫感染を懸念して、シューズカバーが準備され、開口一番「最近外国へ行った人の見学は出来ません」であった。
飼育頭数は1,100頭のうち、160頭は繁殖雌牛で一環経営牧場であった。
興味を惹かれたのは、この繁殖部門である。
先ず、美味しい牛肉を生産するための素牛確保のために繁殖を始めたという。
その後、繁殖用雌子牛を導入する際、但馬牛では小格のために飼いにくい。
肉質系で少しでも飼いやすい素牛作りのため、但馬系の血の濃い他所の雌子牛を導入し、それに兵庫産の精液を交配して、オリジナル但馬牛を生産していた。
それらから生まれ肥育され、BMS11~12の成績がでた母牛は、著明な種雄牛間で受精卵を増産して他牛に移植して素牛を生産しているという。
繁殖牛群の個々は、顔品や角質が良好で品位があり、見るからに但馬牛群であった。
分娩房では、分娩用のセンサーや360度を写せる監視カメラとその映像がパソコンで確認でき、畜舎を離れているときは、携帯電話にもLIVEで受信できる仕組みが取られていた。
分娩直後の子牛はカウハッチで1週間程度飼い、その後は哺乳ロボットに替えて集団管理に移行していた。
一方、繁殖雌牛の管理については、妊娠が確認されるまでは、写真下のような広い運動場を利用して、運動や日光浴をさせ、妊娠が確認されれば、写真上にあるように乳牛の連動スタンチョン様の牛床に妊娠牛を並べて繋養し管理されていた。

畜舎から道路を隔てたところに、産直及び飲食用の建家があった。
この建家の中で、畜主の複合経営の内容について、自信と意欲満々の講釈が続いた。
産直するには、商品に特色が必要であり、それは「美味しい牛肉」で勝負していると言い、美味しい不飽和脂肪酸含量の高い牛肉を生産していると熱弁であった。
75才くらいに見える畜主はパソコンを持ち歩き、新情報を入手し、プラスになることは即試すという意欲の持ち主でもあるようであった。
新技術もさることながら、哺乳ロボットの導入に関連助成を受けるなど、経営手腕は一筋縄ではなく、参考になる事例が多々あった。
畜主曰く「とにかく牛と会話していれば、何らかのアイデアは浮かんでくる」同じような助言を故上坂章次京大教授から聞いたことを思い出した。
牛に関わり経営にかけている拘りの言葉なのであろう。
店舗の周りには、テレビ取材の予告チラシが貼られていた。







戻牛

2011-06-22 19:08:48 | 繁殖関係

今年に入って、繁殖を終えた老雌牛4頭が繁殖部門から戻ってきた。
繁殖部門から不妊がもとでの老雌牛が、肥育部門へ戻ってきたら、自家生産した子牛を保留したり、肥育素牛として導入した雌牛の内、繁殖用として供用出来そうな雌子牛を貸与している。
それらの老廃雌牛のことを当センターでは「戻牛」と称し、暫く老廃牛肥育を行って出荷している。
この4頭の繁殖成績を調べてみると、11産が3頭、10産が1頭で合計43頭の子牛を出産して戻ってきたことになる。
初産から最終分娩時から算出すると、4頭の平均分娩間隔は13.7ヶ月となり、まずまずの繁殖成績を残したことになる。
和牛資源を増やしたという観点からは、極めて良好な結果であると判断できる。
当方では、受胎する間は人工授精を実施しており、13~14産の多産牛は当たり前の状態である。
多産次子牛は肥育成績が右下がりの傾向にあるが、繁殖経営をプラス維持するには、更新間隔を長引かせることで、母牛の償却費などの低コスト化が実現している。
~写真は無関係~


和牛繁殖農家を訪問

2011-05-21 18:34:50 | 繁殖関係


黒毛和種の繁殖牛を10数頭飼育している生産者を訪ねた。
「昨夜一杯飲んでいる間に、雌が生まれていた」と言うことであった。
稲ワラを主としてイタリアンライグラスの生草や乾草を3分の1程度混ぜて与え、濃厚飼料は一般ふすま1kgに繁殖牛用の配合飼料を500g程度あたえていた。
この給与法は、配合飼料を僅かずつでも与えていることが、正解であり、自家産粗飼料だけや単味飼料だけでは、各微量要素に欠け、食欲不振や下痢、繁殖傷害を起こす可能性が高い。
市販の配合飼料には、それらが混合されているために、少量でも毎日の給与であれば、十分に補足されていることになる。
子牛の毛色が真っ茶色というケースもあるが、そのようなケースでは、ミネラル不足が考えられる。

もう一つ気がかりなことがあった。
雌牛の人工授精記録が一覧表にして掲示されていた。
それには、母牛名と人工授精日、交配精液名などが横軸に記録されていた。
人工授精の際、交配精液はどうして決めているのかに対して、人工授精師が勧めるままに実施しているとのことであった。
母の父勝忠平、母の父の父平茂勝に百合茂を交配したケースもある。
人気牛を並べる根拠を聞いても、「これなら良い」としてOKしたという。
挙げ句、雌が生まれたら但馬系の精液を交配するための交配であれば、全くの無意味ではなかろう。
地元の改良組合などで、その辺の勉強会を開くなど、地元産の和牛改良のための指針作りの徹底が必要であると感じた次第である。
ちなみに、一覧表であるが、母牛の次には母の父、母の父の父を加えて人工受精時に参考にしたらどうかと蛇足を加えた。



待機牛並の飼育が未だに影響している

2010-09-29 01:02:25 | 繁殖関係
岩手に続いて、今朝南西諸島から1車到着した。
二月おきに開催される市場であるので、そろそろ待機牛の必要は差ほど無いはずであるが、
相場も下落し、何故か当該市場全体の子牛が通常ではなく、去勢子牛でも、華奢で繊細な感じがして雌牛かと思えるほど、かなりの発育不良が見られた。
平均日令は約310日で、市場測定の平均体重は約240kgであり、DG値は0.7kg以下であった。
全体的にこれらの数値が低いことは、口蹄疫の問題がらみで、長期の待機が予測された頃にJAなどの指導で、飼料給与等はやや抑えめにとの指導があったことを生産者から聞いたことがあったが、それらが今回の子牛らにも影響していたものと判断している。
この状態が改善されなければ、次回の子牛らのことも気がかりである。
この春まで同様に、DG0.9kgを確保する飼い方に戻し、通常の商品価値のある子牛生産に日頃から心がけるべきであったと考えられる。
今回の同市場でもDG0.9~1.0kgの去勢子牛は、44~45万円程度の競り値であり、正常な発育を保持することの良否が伺われている。
一方、この現状からにわかに改善しようとする意図から、濃厚飼料主体で給与量を増加させるなどは、さらに深刻な事態が想像される。
それは、子牛の時期からの濃厚飼料多給は、肥育段階になってから、ルーメンアシドーシスなどに罹りやすいからである。
予め、このような悪循環にならないような飼育設定を策定し実施して頂きたいものである。
これには粗飼料と濃厚飼料の給与バランスなどについて、日本飼養標準を参考とした飼い方に改めるべきである。
あまりにも、低コストが故に、母牛も子牛たちもひもじい思いをしてきた結果となっているが、これでは牛ら自体"モウ達せがない"と泣き叫んでいたに違いない。

写真は、岩手産子牛であり、疲れから一斉に休息中の状態である。


優れた母牛群

2010-03-21 00:34:52 | 繁殖関係


関係する和牛繁殖施設では、約80頭の母牛による子牛生産を行っているが、生産された子牛のほぼ95%は当センターで肥育素牛となっている。
これらの産子の肥育成績を集計すると、様々なデータが得られている。
母牛よって、その産子の肥育成績は実に千差万別に現れている。
連産させて、成績の思わしくない母牛は肥育に回し、新たに更新牛を揃えることにしている。
これまで4連産した子牛の肥育成績が、BMS11・10・10・11を格付けされた母牛がいる。
この母牛はサシの発現能力が極めて高いことが伺える。
このように安定して子出しの優れた母牛がいる反面、BMS10があったり5・6と産次により低迷しているケースやその逆で4・5であったものが突如として10・11の成績を上げるケースもある。
この場合は、交配した種雄牛との相性の影響がシビアに出たものと思われる。
これまで、南西諸島から数千頭導入しているが、それらの肥育成績を分析する限り、優れた能力を発揮する素牛を産出している子牛生産者がいることも確かであるが、優れた子牛を生産している繁殖農家は、優れた能力を有する母牛群を保有されているのであろうと判断している。
その裏付けとして、当方の子牛生産では全頭同様の飼育管理の結果、前述のような優れた産子を生むものや差ほどの能力を示さない母牛など千差万別であり、生産農家の飼育技術だけではなく、優れた遺伝能力を有する母牛の存在があることを今更ながら実感している次第である。
前述の優れた母牛の妹牛の導入を考えたが、1昨年の秋に10産目として上場されていたらしいが、その後は出場していないことから、既に更新された模様であり、後の祭りであった。

分娩予定日

2010-02-19 21:56:03 | 繁殖関係


黒毛和種について、分娩予定日を換算するのに昔から、種付け月から3を差引、種付け日に10を加えて求めてきた。
この算出法の根拠は妊娠期間が285日とされていたからである。
現実にそれに照らして計算すると、283~285日となる。
黒毛和種の子牛登記書には、該牛の種付け日が印字されている。
08年11月以降、鹿児島県下から導入した417頭の在胎日数の平均を算出した。
その平均値は、290.4日で標準偏差は4.81であった。
従来の計算値からは5日以上も在胎日数が伸びていることになる。
以前は長期在体とされていた300日以上が16頭もおり、285日とそれ以下は71頭(17%)で、286~290日は143頭(34.3%)、291日以上は何と203頭(48.7%)であった。
また雌雄別では、雌289.45日(55頭)、去勢290.56日(362頭)であり、雌子牛の方が若干短い値であった。
このように在胎期間が伸びてきている理由には、和牛の成熟値が大きくなったことが考えられるが、生時体重が大きいほど在胎期間が長いかの傾向は見られなかった。
給与飼料や血統による影響などが関わっている可能性も考えられる。
この様な数値から、分娩予定日の目安は、種付け日に15日を加えて求める方が現実的であると感じた次第である。

和牛経営に挑む

2010-02-16 18:48:08 | 繁殖関係



「牛飼いはなかなか難しいです」
脱サラから数年、農家の跡取りとなった60歳間近の子牛生産者の言葉である。
親の牛飼いを見よう見まねで和牛の繁殖を行っていると言うことであった。
年老いた親が飼っていたという10数頭の母牛が飼われており、母牛の栄養状態は、太り過ぎず痩せ過ぎず、適当な状態で飼われていた。
数頭飼いなら素人でも周囲の先輩などのアドバイスで牛飼いは出来ようが、多頭飼育ともなれば、牛は何故草を食うかなどの特性や飼料給与法、牛の発育など成長の特徴、発情・人工授精・妊娠から分娩などの繁殖に関することなど牛の基本的な知識の有無が効率的な経営を遂行する上では、重要となってくる。
聞くところによると、周囲から生後3ヶ月経ったら親と話して、子牛用の餌に慣らすようにと言われたが、どのような乾草をどれくらい、育成飼料をどれくらいでどのように増やしていったらいいのか、子牛が良く下痢をすることがあるが、それは何故だろうかなどとも聞かれた。
そこで、牛飼いの手ほどきについて、地元経済連や獣医師などにわからないことは積極的に問いかけて理解されることや手っ取り早いところでは、子牛市場名簿などに「淡路和牛飼養管理マニュアル」などと子牛の発育に沿った飼料給与などが掲載されているケースがあるので、それらも注視して参考にするのも現実的な対応であり、技術が備わればオリジナルな飼い方を実践してはどうだろうかと勧めた次第である。
一方、高校卒業後海自で5年間入隊生活を経て除隊して、将来和牛の繁殖経営を行いたいとして、この4月から農業大学校で2年間学ぶという青年にあった。
人生色々あるだろうが、このような青年に会えて、和牛関係者として頼もしく感じた次第である。
農大卒業後の彼の実践力を見極めたいと思っているところである。
志を持って農業大学校などで基礎知識を学び、それらを習得した若者達がその知識を活かして成果を挙げているケースが多くなりつつある。
話を戻すが、脱サラで牛飼いに苦慮している彼には、中央畜産会または畜産技術協会などが、発行している牛飼いの手引き書があるので入手するようにアドバイスした次第である。
~和牛子牛を上手に育てるために~ など

多産

2010-02-01 17:56:21 | 繁殖関係



写真は15産した黒毛和種のベテラン雌牛である。
筆者の頭髪はそろそろ霜降り状態だが、この牛は睫毛が白くなっていた。
(社)全国和牛登録協会では、15産を果たした牛を表彰している。
しかし、鹿児島県では、10数年前からこの表彰を辞退している。
産次が進むほど、その産子の経済能力が低下することから、母牛の早期更新を促す狙いや、
早期更新することで、雌子牛の繁殖牛としての供用率が高くなることなどが考慮にあった。
そのこと事態が、和牛繁殖経営にプラスなのかの結論には辿りかねないが、多産することで低コスト生産に繋がることだけは疑う余地はない。
健康で何時までも多産可能な繁殖雌牛であれば、その能力を完全燃焼させることが、畜主の果たすべき姿ではないだろうか。
改めて、写真にあるベテラン牛の功績を讃えたくなる。

共同育成

2010-01-27 22:05:33 | 繁殖関係



引き続き、鹿児島でのことである。
車で移動時に、全く人気のない山間の畑の中に畜舎があったので、見学させて貰った。
和牛の雌牛が40頭位い飼われていた。
子牛は1頭もいなく、生後10ヵ月令から24ヵ月令程度で、かなり栄養状態が良く、一見肥育牛の様でもあった。
暫くしたら、一人の老人が軽トラで巡回してきた。
この飼われている牛のことを聞いたら、4人の繁殖農家が、更新用の繁殖用雌子牛を共同で育成していて、人工授精して妊娠が確認されたら、それぞれの繁殖牛舎へ移動させて管理し、分娩させていると言うことであった。
4名が交替で育成舎の管理をしており、発情を発見したら人工授精師に連絡して種付けしているという。
1畜種当たり40~60頭の繁殖規模であり、1畜種当たり年間5~6頭の更新頭数で、育成期を共同分業することで、効率的な管理体制が取れると言うことであった。
粗飼料には、自家製の稲わらと乾草が飽食給与されており、濃厚飼料は育成専用の配合飼料を給与されていた。
各畜種は、育成舎へは軽トラで数分の位置にあると言うことであり、和牛産地さながらの共同管理方式であると感じた次第であった。



情熱

2010-01-26 22:23:30 | 繁殖関係


本州などから見れば、鹿児島の粗飼料生産は牧草にしろ、稲わらにしても気象条件に恵まれている。
それだけ粗飼料の自給生産環境に恵まれていることで、その経営手腕が活かされれば、和牛の繁殖経営では、低コスト生産が実現可能である。
見学した農家のうち、数頭から20頭規模では、写真にあるように、既にイタリアンライグラスを青刈りして自家産の稲わらに20~30%程度混ぜて親牛にも子牛にも与えているケースが大部分見られた。
親牛には、カッティングベールローラーで結束した稲わらもイタリアンライグラスも細切することなくそのまま与えられていた。
子牛には、それぞれを3cm程度に細切して混ぜて与えているようであった。
聞くところによれば、1月セリで去勢牛が53万円で売れたと50歳代の畜主が顔をほころばせていた。
又、その前夜、初産で雌牛が無事に生まれたと安堵の笑みをほころばせていた。
牛を飼うことに情熱のほどが伺われた瞬間でもあった。