牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

舌足らず

2011-06-30 18:35:33 | 牛の鼻と口


牛を管理し、暇があれば牛を丹念に観察している御仁なら、写真の意図が理解できるはずである。
つまり、痒いところに手が届かないところを撮ったつもりである。
牛は、舌が手の代わりになると前述したことがある。
写真の牛は、舌足らずなのか、舌の使い方が下手なのかもしれないが、大方の牛は、頸を大きく揺らしながら背中の痒いところを舌先に力を入れて掻く。
また、尾をうまく振り回してハエやアブを追っ払らう。
このように絵になるような埃まみれの△の形状を残している牛を見ることは希有なことである。
日常管理の中で繁殖雌牛であれば、牛刷毛を使って背中をブラッシングするが、肥育牛の場合は余程のことがなければ刷毛を使うことはない。
それにしても、頸を後10cmも左右に振り回せば、痒いところに届くものを。
その後、筆者が取った行動は言うまでもない。

鼻環は新たに付けることはない

2010-06-26 00:39:18 | 牛の鼻と口



この写真は08.04.02に貼り付けたものである。
導入時に付いてくる鼻環は付けたままか、という問いがあった。
当方では、肥育牛舎の構造が育成用・仕上げ舎用と別々に建てられていて、育成期が終了後は全頭仕上げ舎へ移動している。
また、移動時などに削蹄を行う必要もあり、どちらかと言えば鼻環があった方が捕獲や保定などには楽である。
だから、付いてきた鼻環は外してはいない。
しかし、宮崎産の真鍮(しんちゅう)製の鼻環以外は、肥育途中でかなりの割合で摩耗して外れてしまうが、再装着することはほとんど無い。
有るとすれば、捕獲時に飛び上がるなど突飛も無い行動をとる牛に限られ、年に1度あるかないかである。
鼻環は無ければならないというものでもない。
鼻環がない方が楽に捕まえられ、写真のようにロープを掛ければ全く支障なく管理できる。

公共牧場や特定の個人牧場などで、人慣れせず、よく走り出す子牛を出荷してくる箇所があり、長い間牛飼いしていれば、それらの牧場が特定できて、次第にセリボタンを押し難くなる。
また和牛の飼育の歴史が、比較的浅い地方の場合も、人慣れしていないケースがある。
人のためにある家畜なのだから、もの扱いではなく優しく接してほしいものである。
牛に接していて、自分の足を踏まれたり、尾で顔を叩かれたりしたら、反動的に牛を殴る若者が居たことがある。
「罰当たりなことをするな! おまえさん誰のおかげで生活ができていると考えたことがあるか」と叱咤したことがあった。
最近、牛を殴るのを見かけなくなった。


鼻環を掛ける

2010-06-24 23:44:39 | 牛の鼻と口
時折育成牛が奇声をあげて泣き出すことがある。
慌てて現場に駆けつけると、大概は鼻環を柵などの取っ手などに引っかけた時である。
写真は、ウォーターカップの僅か3mm程度の窪みに鼻環が掛かった瞬間である。
牛自体が鼻環を僅かに緩めれば、難なく外れる状態なのに、外そうと後すざりする一方である。
後ろに回って尻をぽんと叩いたら、楽に鼻環は外れ、何もなかったように平然としている。
牛を飼育していれば、大多数の現場で同様の体験をしておられるはずである。
牛らは考えられないような状態で、このようにトラブルを起こす。
扱いを間違えれば、鼻環で鼻鏡を引き裂いてしまうこともある。
それだけ、このようなことのないように担当者が事細かに配慮してやらねばならない。
いっそのこと鼻環を装着しなければ起こりえぬことではあるが。
育成牛は鳴いて騒ぐが、成畜になれば奇声を出さないケースが多い。
よくもこの高さまで届いたものだと思うような所に掛けてしまっていることもあり、大方は牛の行動の意外性に舌を巻くことしきりである。

順調に育った牛の鼻

2009-10-08 17:54:07 | 牛の鼻と口



仕上げまで残り3~4ヵ月の去勢牛の鼻である。
見るからに肥育が順調に経過している牛の鼻である。
健康で食欲旺盛であることもこの写真から判断できる。
既に体重800kgをオーバーしているが、どう見ても増体型の牛である。
導入時から、粗飼料をかなり食い込んだ結果である。
どの牛もこの様に順調に経過してくれることを願っている。

ところで、今日から福島県で肉用牛研究会が開催されることになっていたが、コマネズミの如く過ごしているため、うっかり忘れてしまっていた。
昨夜、出版社の編集者から知らされたが、後の祭りであった。
夜来からの台風18号の来襲が参加者の脚を削いでしまったのでは無かろうかと懸念される。
来季は、京都での開催が決定しているようなので、拝聴したいと思っているところである。

鼻環

2008-12-02 18:24:26 | 牛の鼻と口







生産地によって、子牛に装着する鼻環の種類が異なる。
そのために、鼻環を見ただけで、産地がわかる。
最大生産地の子牛の鼻環は従来型で、あることに意外性もあるが、安価なのであろう。
緑色のプラスチック製鼻環なら○○市場の雌牛とか、紺色ならどこそこの雌牛という具合に、性別まで色分けしている市場もある。
個々の生産地を管轄する単位農協によって、長年同じ種類の鼻環を使用している傾向がある。
今回導入した曽於産は、写真上のように従来型で、鼻環の基部が木製である。
トウラクなどのロープを取りはずと前述したが、この従来型だけは、写真上のように導入後、新たにロープを装着している。
それは、基部の木製の部分が、下方にぶら下がるため、何かと房内の取っ手に引っかかり易く、鼻環で鼻鏡を切断してしまうおそれがある。
それと、鼻環を装着してそれほど経過していないために、餌などを摂取するときやウォーターカップで飲水中に、鼻環が邪魔になったり、痛がったりするため、写真のようにロープで固定している。
ロープを二つ折りにした中心部を鼻環の基部に括り、両方に伸びたロープを左右の耳の後ろから項で結わえる方法が一般的だが、その場合ロープが耳の前に来たり、頭部から外れて鼻環に垂れ下がると言うことが、多々あるために、写真上のように括ると滅多に外れない。
楕円状のプラスチック製の鼻環も同様なことはあるが、環の直径が若干小さいためと形状がシャープなために、従来型よりはましのようである。この楕円状のを写真上のようにロープを付ければ、環が小さいため、鼻孔の上側左右を次第に傷つけやすい。

牛の舌の役割

2008-04-04 21:31:46 | 牛の鼻と口
牛の舌は、口の中へ入った餌が飲み込んでも差し支えのない餌かどうかを舌で判別したり、味を感じたり、人の舌と同様の働きも有るが、餌などを口に取り込む働きもある。また、口周りや鼻孔の中を長い舌でなめながら掃除をする。この他にも重要な役目がある。手を自由に使えない動物特有の動作に体中をなめ回すという行為がある。何のための行為かと言えば、皮膚のどこかがかゆかったり、痛みを覚えれば、直感的に頸を大きく振り回して、その箇所を舌で力強くなめて回避する。
何故かゆいかは、牛に寄生するノミやシラミ、春から秋にかけてたかるハエやアブなどの被害である。その他、烏が牛の背中などを突く被害もあり、それらの箇所をなめて対処する。つまり、舌は人の掌に相当するのである。
牛の舌は意外と長い。50cm位有る。写真の舌は、舌の裏側である。黒毛和種の舌の上側つまり表側は、ねずみ色をしている。明治時代後半に、体格を大きく丈夫に改良する目的で、外国種を交配した。外国種は舌が白いため、その影響が現在でも確認出来ることがあり、中継ぎ、奥継ぎといわれて、継ぎのところから奥の方は白い色をしている。
牛の舌は、タンの名称で広く知られ、美味で重宝がられている。

肥育牛の歯は歯槽膿漏

2008-04-03 19:32:51 | 牛の鼻と口
牛の口は、大きい程よく育つと前述した。
同様に鼻鏡も幅広い程いいが、口が大きければ、当然鼻鏡も大きい。
口とは、餌を体内へ取り込む入り口だから、口なのだろう。
下唇の幅が広い程、口が大きい。
口腔内にある主なものは歯と舌である。
歯は前歯と奥歯があり、前歯は草などを口の中に食い込むためにある。口の中へ入った草などは、そのまま胃袋へ入っていく。牛の胃は、反芻胃で四つの胃が有り、食べた草はその一つ目の第一胃内に入る。反芻胃についての記述は後述するので省略するが、草を消化させる過程で、牛は反芻をする。反芻は、いったん第一胃に入った草を再度口の中に戻し、奥歯で咀嚼を繰り返し噛み砕いてから第2胃へ送る操作のことを言う。
前歯は咀嚼をしないため、下唇の内側にだけ有り、写真のように上側には歯がない。上唇は鼻鏡に繋がっているため、唇としてはその位置が確認できない。
奥歯は口の奥まった左右両側の上下にあり、反芻はこの奥歯で行われる。
本来牛は草食動物である。だから草が主食である。ところが肥育牛には、穀類や糠など濃厚飼料を多給する。しかも牛は歯磨きをしない。そのため、歯ぐきには糠などが詰まるため、歯槽膿漏状態となり、腫れて歯より歯ぐきの方が盛り上がったようになる。それでも肥育牛は、一般的に三歳までに出荷されるため、差ほど問題視されていない。奥歯は前歯ほどその症状は見られない。
繁殖雌牛の餌は、草が主体なので、歯ぐきは引き締まっていて歯槽膿漏になりにくい。


牛には鼻環が付けられる

2008-04-01 20:14:01 | 牛の鼻と口
耕耘機やトラクターが開発されていない頃、田畑を耕す動力源は牛や馬であった。つまり農耕牛であった。その頃の遺物が牛の鼻環である。農作業用に牛を思い通りに動かそうと、牛に鼻環を付けて、その痛みを利用して人の言うことを聞かせてきた。また鼻環があれば放し飼いなどでは牛が捕まえ易い。その習慣が今でも残っている。
牛に仕事をさせる場合、手綱一本で牛を自在に動かす技が調教である。手綱を付けるには鼻環が無くては成らない。
現在でも、牛の共進会などでは、手綱で身動き一つさせないように審査場に立たせなくてはならない。その様な場合は鼻環の存在が不可欠である。
しかし、肥育牛などは、必ずしも、鼻環は必要ではない。捕まえるには、角を利用すればいいのである。両角に回したロープを、鼻からあご辺りに巻き付ければ、牛は難なく捕まえ、引きつけも出来る。
鼻環を掴めば痛いために、牛は嫌がって逃げ回る。もともと鼻環がなければ痛みを感じることはないので、意外と容易く捕まる。
一方、鼻環を取っ手などに引っかけた場合、牛はそれをゆるめてはずす知恵がない。やたらと後すざりのみである。その挙げ句、鼻鏡が切れてしまい、美しい紋様の鼻紋のど真ん中から横一文字に切断され、生涯元通りに繋がることはない。かなりのイメージダウンである。そうなると当然鼻環を再装着することは出来ない。
ちなみに、鼻鏡がぽかっと開いたままになっても、餌食いには差ほどの影響はない。
鼻環のなくなった牛は、痛みを感じることがないため、鼻環の有る牛より容易に捕まる。


牛の鼻紋と指紋は同じ役割

2008-03-31 19:34:11 | 牛の鼻と口
健康のバロメーターにもなる牛の鼻鏡には、複雑な斑紋がある。この斑紋は類似していても同じ斑紋はないとされている。人の指紋と同じである。鼻紋は子牛から大人の牛になっても斑紋が変わることはない。
黒毛和種は、生まれると同時に人同様に血統や生時のデーターなどを記録し、鼻紋の写しを付けて全国和牛登録協会に登記申請する。これらにより、牛を間違えたり、誤魔化したり出来なくなっている。
鼻紋を紙に写すのを鼻紋採取と言うが、鼻紋のある鼻鏡は、昨日述べたように健康であれば、水滴が絶え間なくしみ出してくるため、採取がなかなか難しい。
水滴の出る鼻鏡を吸い込みやすい紙などで、数回拭き取り、専用の黒い墨を即座に斑紋のある部分に塗り、さらに即座に紙をセットしたロール状の鼻紋採取器で回転するように写し取るのである。慣れないとなかなかうまくいかない。
この様に、牛の鼻にも重要な特徴が存在している。

牛の鼻紋の型である。大まかにいってA~Dの4つのタイプがある。

牛の鼻鏡は健康のバロメーター

2008-03-30 15:55:43 | 牛の鼻と口
牛の両方の鼻孔の間を鼻鏡という。
鼻鏡は、牛の健康判断上、重要な部位である。鼻鏡は、通常汗が噴き出た状態であれば正常である。鼻鏡が乾いた状態であれば、発熱など体調異常を疑う目安になる。乾いた状態が即異常だとばかりは判断できない場合もある。肥育牛の場合、真夏の昼寝中などでは、よく乾いているが、人の存在に気づけば、にわかに湿り始めることもある。
写真上は正常な鼻鏡。

写真は発熱した牛の鼻鏡。