牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

子牛の餌付け

2009-01-29 19:47:34 | 子牛



最近、父親から繁殖牛の管理を任された若者から電話があり、「2月の子牛市に出すのに、餌をなかなか食い込んでくれないが」というものであった。
詳細に聞いてみると、生後数ヶ月目の頃から、乾草と稲わらを半々にして与え、子牛育成用のペレットを与えているという。
粗飼料を与えることはよいが、競り市以前に稲わらを与えていることに、食い込みの悪さの原因があると判断した。

最近の子牛の管理については、以前ブログで紹介したが、3年前だっか、徳之島で200頭近い繁殖牛を家族で管理されている牧場を見させて頂いたことがある。
其処では、生後数日で離乳して、その後3ヶ月間は哺乳ロボットで保育していた。
この間、粗飼料は一切与えず、人工乳と哺乳時用のペレットのみで育てていた。
人工乳には、下痢防止などの添加剤が混ぜられており、殆ど下痢や肺炎などに罹らないとのことであった。
数10頭がいるクリープ房が2箇所有り、それぞれに一箇所の哺乳ロボットが設置されていた。
子牛たちには、ロボットが哺乳量や哺乳時間などを感知させるためのセンサーが装着され、一箇所のロボットに向かって子牛たちが、一列横隊に順番を待っている。
センサーで個体管理が出来ていて、決められた量を飲んでしまえば、ストップされ、順番を割り込んでも、その授乳時間が来なければミルクは出ない仕組みになっている。
次第に、子牛たちはその仕組みを学習するようになり、実に上手に授乳していた。それらの様子は、見ていても楽しくなるような光景であった。
3ヶ月間は、胃袋の中に異物や雑菌などを入れないために、粗飼料を与えない。
人工乳とペレットのみで、胃内にストレスを与えないことから、胃も順調に発達し、子牛も順調な発育をするという。
3ヶ月が過ぎてから、良質の乾草を徐々に与え、増量して粗飼料の利用性を高めることで、ルーメン内環境が順調に発達して、健康な状態で順調な発育が得られるというものであった。

子牛を母乳で育てれば、子牛は生後1月も経てば、母牛の餌を食べることから始まるケースが一般的である。
この様な場合は、生後1~2ヶ月経った頃から子牛専用の飼槽で哺乳時用のペレットを置き餌として慣らし、3ヶ月目から良質の乾草を与える。
子牛市に出す頃までの子牛には、乾草を2~3kgを食い込むようにして、育成用の配合を過食させない程度に与え、繊維が荒く、タンパク質(DCP)の少ない稲わらの給与は、胃に負担となり効率の良い給与法とは言えない。

肥育素牛となった子牛たちには、仕上げ用配合飼料を給与開始する生後15ヶ月目までの粗飼料は、乾草のみとするケースが一般的で、その後から徐々に稲わらに切り替え、1月くらいで本格的に稲わらだけを与えるようにしている。
だから、若者が稲わらを子牛に与えているというのは、乾草だけの場合より、胃にストレスと成りやすく、発育が劣ることになる。
導入牛の中には、乾草よりも稲わらを好んで摂取する子牛がいる。
この場合も、早い内から稲わらが与えられているためであろうと判断している。
乾草を順調に食い込んでくれないと、優れた素牛ではないのである。




放線菌症と稲わら

2009-01-28 19:38:20 | 牛の病気



昨年の春頃には、導入して数ヶ月の肥育牛に放線菌症が多発し、酷い時は30%程度に頬腫れの症状があり、その原因追及に獣医師とともに苦慮したものである。
その結果、大鋸屑やオーツヘイやバーリーストローなどを疑ったものである。
ところが、昨夏頃まで、多発し治療していた放線菌症が現在は、その名残が1頭いるだけで、新に発症した牛は昨夏以降全くいなくなったことに最近気付いた。

それで、何故放線菌症がなくなったかを考察してみると、一つの要因が浮かんできた。
それは、肥育牛用粗飼料をバーリーストローから稲わらに替えたことであり、その経過はそろそろ10ヶ月目になる。
ここでは、放線菌など何らかの菌類による影響も否定は出来ないために、確定したことではなく経過段階であるが、現況からバーリーストローであろうと考えている。

バーリーストローは、稲わらのように桿が硬くはないが、細くトゲトゲして素手で触るとかゆくなる。
そこらに何らかの原因があると判断している。
同症にかかった牛は、その70%程度は、治癒し難く食欲が若干低下するため、肥育成績は芳しくない。
稲わらの利用には、肥育の全期間給与した頃には、今回の効果とともに、肥育成績がさらに向上することを期待しているところである。



牛飼いが思うこと

2009-01-27 22:01:51 | 予防治療


コメントを頂戴した。
資金力だけで畜産分野を翻弄させてほしくないという主旨には、筆者も同感である。
牛飼いのプロであって始めて資金力は生かされ、かかる産業に貢献できるからである。
多頭化には、相当数の人材が必要不可欠であるが、それらに従事するには、当然のことながら個々の牛たちから目を反らすことのない牛飼いのプロであることが要求される。
相場低迷期こそ千載一遇のチャンスと記したが、それには、それらを意識すべきが欠落していたかもしれないが、経営の現状に照らし合わせた上でのチャンスだと考えている。
大型牧場が危ないという話があったが、その危機感については他人事ではない同様の気配を感じている。
原油高、飼料高騰、前年度までの素牛価格、それに枝肉価格の低迷は、想像以上に深刻な状況下に至っている。
技術は経営に最大の味方になるが、優れた技術があっても、経営に対する熱意と研究心がなければ、ただの技術に過ぎない。
良く聞く話であるが、牛が死んでも数日間気が付かないレベルのケースがあると。
この様なケースでは、牛の事故率がかなり高いことが予測できる。
仕上がり間近の肥育牛は、1頭当たり80万円以上の欠損にもなる。
事故率は1%未満に抑えなければ経営は成り立たないとも言われている。
この様な厳しい状況下で、離職者を就農させるべしの機運があるが、全くの部外者がいきなり就農では、再度の離職者に成りかねない。
行政施設等で、分野別技術指導や就農支援をそれらの前提とすべきである。
また肝心の枝肉価格についての現状は、枝肉重量が480kgで枝肉単価が1,500円の枝肉価格は72万円に留まってしまう。
素牛価格が65万円であれば、40万円程度の赤字が残ることになる。
この単価が1,800円であっても20万円の赤字である。
大規模であればあるほど、年間千頭を出荷することで、2億円の赤字を抱え込むことになる。
この様な肥育経営は、対岸の火事ではなく、やがては、肥育産業の低迷から、子牛販売相場に跳ね返ってくることになりかねない。
肥育経営者と繁殖経営者間に壁を意識するようでは、お互いが共倒れの事態を供用することに成りかねない。
この両者が肉用牛に係る産業をより発展させることが、自らの経営安定にも繋がると信じてやまない次第である。

肝膿瘍

2009-01-26 18:51:04 | 牛の病気


最近出荷した去勢牛に肝膿瘍があり、その写真が携帯で届けられた。
肝膿瘍が酷く、肝臓自体が硬直し肝廃棄されたとの報告があった。

そもそも、肝膿瘍が何故発症するかである。
一般的には、粗飼料の摂取量が少なく、濃厚飼料主体で、常に多量摂取することで、発症すると考えられている。
また肥育当初に粗飼料の利用性が芳しくない肥育牛に発症しやすいとも言われている。
濃厚飼料主体で、多量摂取した結果、ルーメン内の絨毛の間に濃厚飼料が挟まり、その度合いが多くなり絨毛が団子状態となり、絨毛の機能が低下し、やがて次第に絨毛が剥がれ、胃壁が荒れてしまい、その部分から雑菌などが侵入し、血管を通じて肝臓内などに膿瘍を来し、写真のような肝膿瘍が次第に広がり、肝臓が機能低下するために、触手すると硬い状態となる。
肝膿瘍だけでなく、肺膿瘍のケースもある。
内臓検査時に、同疾患の程度により、肝廃棄だけか内臓廃棄かが行われる。
肝膿瘍は、高い増体速度を要求される乳用肥育牛では、濃厚飼料を多量摂取させるために、多発し易いことが知られている。
肥育牛に肝膿瘍が発症するケースには、ビタミンAの欠乏症により、体内のあらゆる器官内細胞が劣化し機能低下することから、肝膿瘍の発症を助長していることも考えられる。
生後20ヶ月令頃から配合飼料を多量摂取するため、体重が急激に増加するが、この時期に飼料摂取量の10%以上の粗飼料を確実に摂取させることと、最低限度のビタミンAなどの補給があれば、肝膿瘍は予防できると考えている。
とくに数頭の群飼いの場合は、飼料給与時に個体間差が出ないように留意する必要がある。
これらを留意するように徹底したつもりでも、今回のような結果がもたらされ、自らに柳眉を逆立てさせている次第である。






繁殖経営の拡大を考える

2009-01-25 00:02:05 | 繁殖関係

今のように子牛相場が下落した時に肥育素牛を多量に競り落とすのは、農業者以外から肥育を始めた畜主にその傾向が多いようである。
物流や相場の動向に目利きが長けているためであろうか。

北海道の馬牧場が和牛繁殖経営に切り替えたという新聞記事の見出しを見た。
将来は1万頭を目指すとあった。
さすが北海道ならではのスケールの大きさと壮大な夢に「凄い!」 の一言であった。
このところの子牛相場の低迷期は同繁殖経営を拡大したり、新規に取り組もうとしている就農者に取っては、千載一遇のチャンスであろう。

千載一遇のチャンスだけでは、ことの成就には至らない。
資金力や牛を飼うノウハウ、とくに牛の繁殖技術を修得していなければならない。
それらに恵まれていれば、即実践すべき時である。
何事でも産業を軌道に乗せて成功しているは、そのチャンスに間髪を挟まず決断力を行使するか否かであろう。

但馬牛のこと

2009-01-22 19:27:22 | 審査
但馬牛の話である。

但馬牛の特徴は、牛の審査項目である品位資質にある。
一見して但馬牛は、骨味、被毛皮膚、頭頚や体格部位などがしなやかで、実に美しい風貌をしている。
これが肉質に深く関わっていると言われてきたが、肉質の中でも、それらは脂肪の質に関係していると考えている。

10数年前に食肉市場関係者から聞いた話である。
「牛皮を剥ぐ時、但馬牛はすぐに判ったものだ」 と。
話によると、但馬牛は楽に皮が剥けたというのである。
皮の油が更々していたから剥ぎ易かったらしい。
要するに、但馬牛は他産地の牛と比較すると油の質が違っていることを強調した。
筋肉内脂肪(サシ)の蓄積割合がかなり高くなっている現在でも同様なのだろうか。

また通常、胸腰最長筋の肩から腰に至るまでサシの蓄積具合は肩に近く、腰に近い部分がその割合が高い。
ところが但馬牛は、肩から腰までほぼ均等に蓄積している。

肝心な牛肉の味であるが、科学的な根拠は持ち得ていないが、昔からサシの蓄積度も高いが、よくサシが他に比し甘く感じられるのは確かである。
同様のサシの入り具合では、その質がしつこくなく、さらっとしている。
だからサシの程度が多くても、意外と多量に食することが出来る。
これが関係者の但馬牛の特徴だという。
とくに、その特徴は雌牛にあるという。
だから、但馬牛の雌牛を素牛とする松坂肉のブランドが生まれたのであろう。

出荷を迷う

2009-01-21 14:10:56 | 肥育


多数頭の肥育牛がいると、様々な疾患などが発症する。
その都度、治療すべきかそれとも出荷するかでその判断に窮することがままある。
治療する場合は、疾病が回復可能の程度にあるか否か、それまでの発育具合や月齢などが判断材料になる。
生後20数ヶ月例になっている場合は、肥育牛特有の疾患の場合が多い。
ビタミンA欠乏症、脂肪壊死症、低カル症、鼓脹症等々のケースが多い。
これらの疾患の場合は、治療し回復しても、肥育結果は往々にして芳しくない。
そのため出荷を計画することになる。
その他の疾患の場合は、抗生剤などを用いることで体内残留が制限されるケースもあり、万が一の場合(回復しない)を考慮して出荷するケースもある。
今朝は、生後30ヶ月令で750kgの雌牛が、後肢がやや腫れて歩行に支障を来し、食欲不振となりなかなか立ち上がりにくく成っているのを発見した。
本日は定期の出荷日で、6頭の出荷が準備されていたため、体不調の牛の同様の決断に迫られ、結果的に6頭の出荷牛の内、最も元気そうな牛と交代して出荷することとした。
基本的には、出荷時の生後月齢が、28ヶ月令以降であれば、出荷途中や市場での繋留中に事故のない様、危険性を考慮して早めに出荷するようにしている。
今朝のような事態になることは良くあるが、それらの処置については、臨機応変に判断し、対応することが結果的に得策である。

分娩開始を携帯で知る

2009-01-19 20:59:42 | 繁殖関係



今朝の日本農業新聞によると、分娩が始まるとそれを携帯電話が知らせてくれるというものがあった。
技術の進歩は日進月歩と言うが、深夜布団の中で眠っていて、携帯のコールでその時を知らされて、畜舎に出向いて分娩介助に遅れることもなく確実に立ち会えるという。
この仕組みは、分娩が始まると体温が若干下がることを応用したもので、分娩間近の牛の膣口内に温度センサーを挿入しておき、通常より0.4℃下がると備え付けのセンサーにより携帯がコールするというシステムのようである。

今から20数年前まで、分娩が近付けば夜間何回か分娩房を覗かねば成らず、これが氷点下では厳しいものがあった。
その頃、監視カメラを分娩房へ設置し、モニターを自室で見られるようになり、子牛の前足が見え隠れするようになってから分娩へ駆け込むことで用が果たせて、隔世の感があると興奮したものであった。
モニターを監視するのも、夕方から深夜、朝方まで数回以上は必要であった。

それが、今時にいたり、布団の中で熟睡しながら、携帯コールを待つのみとは、文字どおり隔世の感である。
この様な技術の進展は次世代に何をもたらしてくれるのであろうか。
ロボット介助であろうか、人工子宮による生産工場であろうか。

それにしても、膣口内に温度計では色気のない話で、リストバンド用の温度センサーでも現行技術で間に合うのではないだろうか。

繁殖牛用連動スタンチョン

2009-01-17 23:41:38 | 牛の管理


この光景は、20年前に撮影した繁殖用牛群のヒップラインである。
50数頭用の連動スタンチョンにロックされてヘイレージを採食中の光景でもある。
この連動スタンチョンは、78年に設置されたものであるが、当時としてはまだ珍しいものであった。
牛間の競合防止が目的で設置されたが、それだけではなく、群内の牛を容易に捕獲するのに実に重宝であった。
種付けや妊娠鑑定、予防注射や治療時に保定させるのにすこぶる利便性の高いものであった。
現在では、日本国中の繁殖牛を飼われている箇所では、この連動スタンチョンが導入されている。
この写真では、子牛の姿が見えないが、子牛たちは、子牛専用のクリープ房でふすまを採食中であった。
この様に1列に並ぶと、牛たちの栄養度を把握しやすい。
何よりも、発情発見が楽で、疑わしければ、その時点で直検して種付け適期が判定できる。
そのため、年々受胎率も向上し、90%を越すようになった。
ちなみに、親牛群には、年間を通して、イタリアンライグラスなどのヘイレージ約25kgと一般ふすま1.5kgを給与した。



盗み飲み

2009-01-16 20:18:31 | 子牛



80頭の繁殖用雌牛で子牛生産している牧場で撮った写真である。
生後3ヶ月令までは母乳を利用しているために、朝夕の授乳時間になれば、繋いで給餌中の母牛たちの房内に子牛たちを入れる。
和牛の場合、乳房に貯留される母乳の量は個体差があるために、母乳が少ない母牛の子牛たちは、母乳の比較的多い牛の母乳を盗み飲みし始める。
ひとたび盗み飲みした場合は、その母牛を覚えておき、実母より先にそちらで飲むようになる。
盗み飲みされる母牛はそのことを感知していて、後肢で蹴るなどして追い散らそうとするが、子牛たちは、その様なことに屈することなく執拗に食いついて飲み続けるため、親の方も根負けして写真のようになってしまう。
盗み飲みされる親と子は、次第に痩せたり、発育が鈍くなり、盗む子牛は、順調に発育する。
この様なことになるから、最近の子牛育成は、生後直後に初乳を数日間飲また後は、人工保育に切り替えている。
ここでは、生産費の低コスト化のために、上記のような育成法を取っている。
盗み飲みは、酷い時には、後方から2頭、横から1頭と3頭もぶら下がっている場合もある。
広い運動場付きの房に放し飼いであっても、結構盗み飲みしている。
子牛に盗み飲みさせることは、高い育成技術とは言えない。
双子であればやむを得ないが、それ以外は、親1子1のコンビが授乳を切っ掛けとする親子関係であるのが正常である。
基本的には、生産者個々の体験を生かし、飼養標準などの給与モデルを生かすのが極無難な育成法であろう。