牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(27)

2009-05-09 23:36:16 | 雌牛






⑭子牛の頃からコミュニケーションを取る(2)
筆者は、機会を見ては親子牛群の中に入り、牛たちと戯れコミュニケーションを取り合っている。
軍手越しの手を彼らに差し出すとおそるおそる近寄ってくるが、群中では腰を屈めていると、筆者の周囲には群中の全ての牛たちが、難なく近寄り、鼻鏡を寄せ舌でコミュニケーションを牛たちの方から取りに来る。
牛の習性なのか、自らの体より小さい者には、興味を示し、相手に勝っていると思いこむのか、そのために意外と容易に接触してくる。
ところが、ひとたびその場で立ち上がると、牛たちはたちどころに散ってします。
相手の人間が自分らより大きいため、草食動物特有のひ弱さが飛散に繋がるのである。
だから、そのような場合は、そーっとそーっと立ち上がることにしている。
屈み込んでいる時に、軍手越しでいると、ホルスタイン種の子牛の如く、軍手を競争するかのように口にくわえて吸い込んでくる。
牛に餌を毎日与えていることだけで、コミュニケーションがとれていると思うのは、些か軽々に過ぎる。
人と同じように、日常のあらゆる行動の中でのこうしたコミュニケーションを再々取ることで、牛たちは人を信頼してくれるのである。
毎日の手入れであったり、引き運動であったりも有効なその手段である。
以前にも述べたが、飲酒運転は事故のもとであるが、牛飼いにとっても飲酒後の分娩介助などは、コミュニケーションを論ずる以前の問題である。
如何なる術者であっても、牛からみれば、豹変した怪獣の如きに見えるらしく、一瞬のうちに母牛は、猛獣化して突きにかかってくる。

繁殖雌牛の育成(26)

2009-05-08 20:13:12 | 雌牛



繁殖雌牛の育成(26)
⑭子牛の頃からコミュニケーションを取る(1)
繁殖用の雌牛や種雄牛候補牛の場合は、長年人と密接に付き合うことになる。
種雄牛は、ある程度調教が必要であるために、調教しながらのコミュニケーションがとれる。
一方、雌牛の場合は、多頭化が進むにつれて調教することもままならないのが実情である。
ところが、雌牛の場合は、毎年の予防ワクチンの接種、発情確認、種付け、妊娠鑑定、そして分娩とその介助、子牛の離乳と授乳など、雌牛が嫌がる行為に畜主など管理する者が立ち会うことになる。
この際、牛とのコミュニケーションがとれている場合とそうでない場合では、牛の畜主に対する対応が異なる。
問題は、分娩時に生まれてくる子牛に危害や隔離を警戒し、人間不信を抱く母牛が、異常な目つきになって、敵対心から、畜主を襲うなどの行為に出ることがある。
このような行為を取るようになれば、子牛に何らかの支障があっても、気安く対処できない。
また、この様な異常行動を取ることは、初乳を満足に飲ませなかったり、産後の後産停滞等を起こす原因にも成る。
この様な人間不信の気運を抱かせないために、子牛の頃から、人と牛の関係を常に良好に保つためのコミュニケーションが不可欠である。
時として話題になるのが、コミュニケーションを取るか、それに変わる設備を完備するかである。
多頭化の場合、連動スタンチョンなどを整備することにより、日常の飼養管理は餌で誘導することで省力出来るが、分娩時の対応となれば、まさに牛と人との関わりの問題が最優先するために、結果的にはコミュニケーション第一に考慮すべきである。

繁殖雌牛の育成(25)

2009-05-07 20:09:58 | 雌牛



⑬登録検査を受ける。
種付けを開始する頃になる生後14ヵ月令から30ヵ月令までの間に、全国和牛登録協会が実施している登録事業に添った基本登録や本原登録を受ける必要がある。
個体識別番号制度が実施されるようになり、登録を受けることが、直接経済効果に繋がるようになった。
登録検査を受けることにより、生時に登記された子牛登記に記録されている諸々のデータと登録検査対象牛の体型やその特徴及び審査標準に照らし合わせた全体的または体格部位の良否が点数で評価され記録保存され、これらの登録記載事項が、その産子や後代にまで連結される。
そのため、登録を受けることにより、代々の産子が血統的に保証されるもので、重要な役割を担っている。
登録検査は、誰が審査しても同様の得点となるような方式に改正されることが、審査の普遍性や効率的な改良を推進することに重要な意味を持つと筆者は考えている。

繁殖雌牛の育成(24)

2009-05-06 19:06:08 | 雌牛


⑫種付けを行う(2)
さて、大方が周知のことであるが、日本における人工受精は、47年頃から始まり、50年頃には種付け頭数の約40%に至り、その後は急速に普及して4年後には約75%までに普及し66年頃には90%を越した。同時に、66年年頃から凍結精液の利用が始まり、72年の凍結精液の普及率は70%に急増し、その後格段の保存性のある凍結精液の時代になった。
66年以前の人工受精は、保定された発情牛の膣内に膣鏡を挿入して、子宮頚管の入口当たりに精液を吸い込んだ長めのスポイドのゴム袋を摘んで受精していた。
その後、凍結技術の開発による精液の保管法や注入法が開発されて、ストローを使用するようになり、専用の鉗子で、頚管部の周囲を挟み込んで、膣の入口付近まで引っ張り出してきて、ストロー注入器を頚管中央部に挿入して受精するようになった。
所謂、鉗子法と呼ばれる受精法である。
その後、75年頃より直腸膣法という受精法が普及するようになり、受胎率が極端に改善され、現在に至っている。
この方法は、受精師が発情牛の直腸に片手を入れて除糞した後、直腸壁から子宮や頚管部および卵巣を手探りに把握して、左右の卵巣の内、排卵または排卵直前にある卵巣を確定して、予め挿入していたストロー注入管の先端を、排卵している卵巣の子宮角方向に直腸壁から誘導して注入受精する方法である。
この方法は、直腸内から生殖器官の配置や大きさ形を把握するには、かなりの熟練を要する。
当初のこの様子をして、大海の如きでつかみ所のない状態であると表現しながら習ったものである。

写真は、前述した連動スタンチョンにロックされ飼料摂取中の繁殖雌牛群であるが、同様にロックすることで、人工授精が簡便に実施できる。

繁殖雌牛の育成(23)

2009-05-01 21:01:53 | 雌牛



⑫種付けを行う(1)
前述したように、繁殖経営では、確実な受胎とその分娩がなければ、経営は成り立たない。
その確率を高めるために、繁殖牛を飼う関係者は、自らが、人工受精師の免許証を取得することに最大のメリットがある。
同免許を取得するためには、家畜改良増殖法の中で各県が独自の講習会を行い、牛豚に関する飼養技術、繁殖生理、人工受精、体外および体内受精卵移植、関連法規などについて、学科と実技が取り入れられている。
この講習を受けることで、牛に関する幅広い知識が得られる。
また、人工受精など畜産に関連する技術は、日進月歩で新しく展開しているため、この様な機会を生かすことも繁殖経営上有益となる。
人工受精など繁殖技術に関する情報発信としては、(社)日本人工受精師協会が出版している「家畜人工受精」(奇数月発行)や講習会などが実施されている。
育成雌牛の体重が約330kgに到達する頃を見計らって、最初の種付け(人工受精)を行う。
これが、育成牛への究極的な作業工程である。
この最初の種付けで無事に受胎することは、飼養コストの低減に繋がるために、是非とも成功させたい。
発情周期を2回3回と受胎が遅れれば、それだけタダ飯を与えることになり、回を繰り返すことで受胎しにくくなる。
受胎しないと言うことは、雌牛の生殖器官に何らかの生育不良があるか、ホルモンバランスの異常を来していることになる。
受精適期に至っていなかったなどは、論外である。
最近は、ホルモン周期のコントロールを制御して確実に受胎させる技術が宮崎・鹿児島などで開発され普及している。
最初の種付けに用いる精液の選定は、増体型で、生時体重が極端に大きいとされているものは避けて、難産に至らないような精液の選定を行うべきである。
願わくば、繁殖経営といえども、肥育のノウハウの上で、交配計画を立てることにより、購買者が必要とする血統や体型にそえるため、生産された子牛の商品価値をより高めることに繋がる。

写真は、連動スタンチョンにロック保定した状態で、人工受精している様子である。
群飼いの場合、繁殖牛は制限給餌のため全頭がロックを必要とすることや、発情確認、人工受精、妊娠鑑定、予防接種や各種治療などに、この連動スタンチョンが必要不可欠であり重宝される。

繁殖雌牛の育成(22)

2009-04-27 23:54:00 | 雌牛


⑪調教をする。
繁殖雌牛に調教をさせる必要は、ほぼなくなった。
昔は肉用牛ではなく、役用に牛は飼われていたため、田畑で耕起などを強いるには、人の言うことを素直に聞いてくれる牛でなければ、作業効率が悪かったため、調教することは当然であった。
牛が生後約12ヶ月令になった頃、鼻環を通し、鼻環装着時の痛みが僅かばかり残っている間に、鼻環に手綱を付けて、調教を開始する。
調教は、牛を静止させる、前進(並足・速足)させる、左や右に廻らせる、後すざりさせるなどを手綱一つでこれらが出来るように根気強く教えて農作業に備えたものである。
現在でも、調教して子牛生産に備えることは、マイナスではないが、差ほどの必要性はない気がする。
共進会などに出てくる牛たちは、調教されているものも多い。
晴れの舞台に立つからには、手綱一つで、言うことを聞かせた牛たちが、体型の素晴らしさに加えて、立ち姿の素晴らしい良い格好を聴衆に披露している。

繁殖雌牛の育成(21)

2009-04-26 10:46:20 | 雌牛

写真上は蹄が伸びて、つなぎが弱くなっている。写真下は、削蹄により、蹄の角度が正常になり、つなぎが従前通りしっかりと成った状態である。



⑩削蹄を定期的に行う(3)
蹄の裏側を蹄底と呼ぶが、牛の蹄が伸びると言うことは、全体的に伸びるのと、伸びることによって蹄の立ち角度が変わるために、つなぎなどの立ち姿も変形し、身体を支えるのに次第に支障を来すことになる。
それは、蹄が伸びることによって同様に蹄底も分厚く伸びるため、蹄の角度が変形する。
全体の長さを整えたら、蹄底のどの部分を切り込むかで、蹄の立ち角度が変わったり、内蹄と外蹄の切れ込みが密着し過ぎたり、逆にV字状に開いたりする。
熟練を重ねて、そのポイントを熟知するほかない。
その他、削蹄鎌ではなく、植木鋏を改良したものを使って削蹄する方法もある。
牛をコンパネを敷き詰めた枠場の中へ入れて、鋏で削蹄するものである。
この方法は、熟練すれば、削蹄鎌同様の削蹄が可能であるが、経験が浅ければ、和牛の雌牛には、荒削りのため、最後は鎌で仕上げる必要がある。
この方法は、1頭の牛を同時に二人で2本づつ削蹄出来ることから、3~5分で削蹄可能なため、1時間もあれば20頭の削蹄が出来る。
この削蹄法は、見ているだけで感動するくらいすっぽりと切れる。




削蹄鎌でなく、特殊な植木鋏で簡便に削蹄する。
牛用枠場の地面にコンパネを3枚敷いた上に、牛を保定して削蹄する。



蹄の長さは指4本残してその先に鋏を入れて、後は蹄底を切り落とし、蹄の周囲や中央部を切って整えて終わる。



この方法は、牛がガサつかなければ、2名同時に削蹄出来るため、四肢を持ち上げるてまもなく短時間で楽に出来る。




この上下2枚の写真は、当該鋏で切り落とした蹄である。



繁殖雌牛の育成(20)

2009-04-25 19:39:52 | 雌牛


⑩削蹄を定期的に行う(2)
また、和牛を放牧管理している場合、削蹄の経験がないという情報もある。
さて、和牛の育成雌牛の具体的な削蹄法は、基本的には昔ながらの削蹄鎌(写真2)、ヤスリ(蹄鑢:写真2)、削蹄鋏(センカン)、削蹄用の刀((19)に貼り付けた写真1)などを用いるのが一般的であり、削蹄師などによる削蹄も同様である。
経験豊かな削蹄師などは、四肢の一つひとつを左腕で持ち上げながら牛を保定させて、右手で削蹄する方法がとられている。
四肢を削蹄し易くする方法には、牛専用の枠場に入れて、枠場の柱に四肢を持ち上げた状態でそれぞれ繋いで削蹄したり、四肢を持ち上げる補助と削蹄する術者が二人コンビで削蹄するなどの方法がある。
削蹄は、通常前肢から行い、偶蹄目である牛の蹄は、中程で左右に分かれている。
蹄を持ち上げて身体の内側にある蹄を内蹄といい、身体の外側にあるのが外蹄である。
最初は内蹄から削蹄し、内蹄が終われば外蹄を行う。
削蹄鎌の握り方は、内蹄や外蹄または、前肢や後肢の蹄の切り方によって、鎌の柄の握り方が、握り手より先に持ってくる場合と、逆に手前にくる場合があり、柄の握り方を変幻に替えて効率よく蹄を切って整える。
蹄が思い切り伸びているような場合は、削蹄用鋏や刀を用いて蹄の毛際から指4本分の辺りで先端を切り落としてから鎌で整える。
切り整えたら、削蹄用ヤスリで蹄の周囲のトゲトゲした部分を丸く擦って整えれば、削蹄は終了する。
問題は、蹄を如何に整えるかである。
削蹄を行う場合は、牛の蹄の正常な形や立ち角度を熟知してかからなければ、なかなかうまくいかない。

繁殖雌牛の育成(19)

2009-04-23 22:38:31 | 雌牛
⑩削蹄を定期的に行う(1)
野生種らは、蹄が容易く伸びない環境で生存している。
万が一蹄が伸びたとしても、彼らの責任である。
だから削蹄を定期的に行うことは、家畜化した人間の当然の行為なのである。

蹄が伸び、変形することで、なかなか妊娠しないという例をよく聞くことがある。
牛の削蹄を疎かにする結果、蹄が伸び過ぎ形が変形することで、つなぎが弱くなり、体重を支えるのに支障が起きて、歩様にも支障を来す。
その結果食欲が減退し、次第に体調異常に陥ることから、体型が崩れたり、ホルモン異常から繁殖障害を来すことになる。
管理法によっては、削蹄を必要としないケースもある。
牛の飼育場のコンクリートフロアーを設置時に、コテで慣らさないで、ガサガサにやや粗めに仕上げたり、使い古しの竹箒でスジを入れることで、そこで飼われる牛の蹄は、伸びても摩耗するため伸び難くなる。
但し、スキットステアローダーのバケットなどをフロア内で滑らせて走らせると、20年持たないでツルツルになり、削蹄効果はなくなる。

写真1は伸びすぎた蹄の先端を切る刀で、刀は木槌で叩いて使う。

繁殖雌牛の育成(18)

2009-04-22 22:36:16 | 雌牛


⑨手入れをする。
牛を手入れするというのは、本来当たり前のことである。
牛たちによって、我々は生計を立てているからには、常に牛たちに愛情を注ぎながら、日常を接することは当然である。
牛飼いなのに、牛捌けや金ブラシのないことは、考えられないことである。
繁殖用の子牛を丈夫に育てるために、子供の頃は稲わらを叩いて柔らかくして束ねたもので、牛の体表面を毎日逆さ擦りさせられたことを思い出す。
わら擦りしてやると牛たちは、実に気持ちよさそうで満足げである。
牛へのわら擦りは、人の乾布摩擦の効果のように、体表面の血行を良好なら占め、食欲維持や健康維持に役立つためであった。
前回の鳥取開催の全国和牛能力共進会では、宮崎県から出品された全ての牛たちの被毛は、密植して細く柔らかく、ふんわり感があって、素晴らしいものであった。
おそらく、同県の関係者の指導により、入念なわら擦りが行われたであろうと推測している。
同共進会での宮崎県産のように、常に牛たちを美しくして育てることは、経済効果にも繋がる例である。