牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

子供らの見学に目尻が下がる

2009-02-26 22:59:58 | 予防治療


大阪府高槻市内の小学生が見学にやってきた。
始めて和牛(黒毛和種)を見た子供たちばかりであった。
始めは一瞬、たじろぎ気味であった。
牛はどんなものを食べて、大きな肥育牛になるかなどを説明したことで、彼らの興味は牛に餌を与えることであった。
乾草を一つかみほど持たせて、それぞれの牛に与えるように促すと、おそるおそる牛に近付き、身体はのけぞっているが腕だけを差し出すという仕草が、滑稽である。
それでも、牛が乾草をくわえると、「食べた!」と一斉に興奮する。
と同時に、牛に親近感が湧いてきたようで、何とか全部を喰わせようと真剣になる。
ほぼ食い終わる頃には、おっかなさも無くなる。
次には手を差し伸べて、牛を触ってみようとする子供が現れると、一斉にそのまねを始める。
牛に触れたことで、さらに興奮状態となる。
生まれて初めて、牛たちと戯れた経験は、彼らにとって生涯忘れることのない出来事となったはずである。
彼らが成人した暁には、和牛に関心を持ってくれればと期待感が過ぎる。
そして、ふと思うことがある。
ブログを書き始めた当時の角や耳や目などの話を、今はやりの食育教育の一環として、子供たちに話してやりたいと。
しかし、現実はなかなかその時間が取れそうにないのがジレンマでもある。

不味い除角

2009-02-25 19:40:46 | 牛の角
南西諸島や鹿児島県から肥育素牛を導入しているが、その雌雄比は1:9の割合である。
その雌牛の内7~8頭は、関係している生産牧場へ繁殖更新用として供用し、それらの更新対象の老輩牛は、再度当方に移動して約7~8ヶ月間肥育後出荷している。
10産前後分娩を経験した高齢牛であるが、枝肉重量450kg、BMS3~4、BCS5~6の枝肉により、単価800~1,000円で販売している。
これらの枝肉は、特定の購買者が待ってましたとばかり競り落としている状態である。




写真の牛は、95年生まれの繁殖雌牛であるが、96年夏南西諸島から導入し、繁殖用として供用し、繁殖を終えたとして再び当方へ戻ってきた老廃牛である。
ところが、当牛は、繁殖用に移動した際、除角したが、当方へ戻ってきた時に、除角後に伸びた右角が、頭部の耳の上側皮膚に突き刺さるように伸びていたため、獣医師に依頼して切断した。




突き刺さっている手前約1cmの箇所を鋸で深さ1cm程度挽いて、その挽いて出来た溝に線鋸を通し、左右の手で交互に挽いて角を切断した。
幸い、切断面には血管は無かった。
この線鋸を使用する理由に、左右に挽く際、かなりの摩擦熱が出るために血管があれば、止血されることを狙ったものである。
切断中は、結構加熱による煙が湧いて出た。




切断後の状態であるが、角は皮膚内に1cm余り突き刺さっていたが、これ以上ほーって置けば危険な状態であった。
その箇所には、乳房炎軟膏を塗布して終えた。
繁殖牛への中途半端な除角は、長年飼育するため、この様な事態に至る可能性がある。
家畜にストレスを与えないような管理を心がけたいものである。

船酔いする子牛たち

2009-02-24 22:45:29 | 素牛


南西諸島から導入牛を関西地方まで搬送するには、一晩以上かけて船便を利用し、鹿児島からさらに一晩トラックで運ばれてくる。
同諸島から神戸や大阪港まで船便のケースもある。
これらの子牛は、さすがにかなり披露状態で到着する。
とくに海上が荒れでもした時には、半数くらいが体調を損ねて到着することもあり、とくに夏場は、熱波が加わるために疲労度が増すようである。
生産地からの船便を仕立てる際は、子牛たちのストレスを軽減することが重要であり、それには天候を慎重に吟味して出船できる便を考慮する必要がある。
数年前の7月、鹿児島港へ到着した時には、船酔いのために、1頭の子牛が歩行困難状態となり、鹿児島市のと場に直送したことがあった。
疲労困憊状態の子牛が到着したら、ビタミンADE剤の皮下注やモラリックスなどを舐めさせて、疲労や緊張感からの回復を促し、余裕の休息や飲水が可能な環境を整えることも不可欠である。
およそ20年以前より、南西諸島から年間約350頭を導入しているが、これらの地方は台風などの気候条件下で生産されることから、強健性に優れていると判断している。
この様な遠方からストレスを覚悟で導入している理由については、係る地域産素牛が増体及び肉質についても安定した肥育成績を残しているからである。


風邪に罹る牛

2009-02-23 22:32:46 | 肥育


導入して1週間目の今朝、2頭の去勢子牛に風邪症状が出て、体温41℃を越しぼーっとして食欲が無い。
獣医師は午前中に抗生剤、ステロイド剤、解熱剤を筋注し、処置は2日間続けるとのことであった。
風邪の牛は、導入以降の乾草摂取量が少ない牛であった。
導入から風邪による発熱や下痢、強いては肺炎などに至れば、発症から治癒するまで、その間は増体しないどころか、減量しかねない。
肥育牛の飼育期間は限られているが、これらの疾患にかかることでその間の増体停滞または減量分を取り戻すことは出来ずに終わることになる。
それだけでは無く、その疾患により肝臓やその他の器官に蓄積されているビタミン類も無駄に消費され、挙げ句その後の肥育の段階では、ビタミンA欠乏症となりやすい。
肥育管理するには、そのことを念頭に導入後の5ヶ月間は良質乾草の多量摂取やビタミンAED剤等の補充を的確に行う必要がある。
風邪に罹れば、上記のような欠乏症に至らないために、出来るだけ早期に回復させる必要がある。
こちらでは、導入以降に乾草を順調に食い込まない場合は、食い込む量まで乾草を控えめにして、徐々に増量するが、その間ビール粕発酵飼料で体調維持のための調整用に徐々に加えている。
それでも、罹る牛は罹る。
子牛育成用飼料主体で飼われてきた導入牛が、乾草給与主体の管理に変わることで、ルーメン内微生物の生息環境に異常な変化が起こり、体調を損ねてしまったことが、引き金となり風邪などを罹患したものと思っている。


素晴らしきかな牛飼いども

2009-02-22 16:42:00 | 肥育


今週出荷の肥育成績一覧表を休憩室の机の上に置いた途端、一人の従業員が「3週続けてや!」と奇声をあげた。
当方では、毎週8頭ずつを出荷しているが、彼の担当している仕上げ舎から、3週続けて1頭ずつ出荷した。
その3頭が何れも5等級もしくは5等級に匹敵する黒字を出したからである。
その結果を感嘆している彼の姿を見て、筆者も思わず「よっしゃ!」と声を上げた。
担当者が、その成績を常に意識してくれ、その結果に満足している状況こそが、畜主の最大の喜びでもある。
日頃は口数の少ない彼であるが、常日頃から肥育の成果を意識していることだけで、担当者としては及第点である。
前述したように、他の従業員も同様に一覧表をその都度見ながら、その結果に気を掛けている。
素晴らしい連中である。
それだけに、牛たちも同様に感じてくれているはずである。

蹄葉炎で牛も人も辛い!

2009-02-21 15:52:42 | 牛の病気


久しく出ていなかった蹄葉炎罹患牛1頭が、1月前から出始めて、治療中であるが、回復は望めそうにない。
牛にとってはかなり痛い病気のようである。
だから立ったり座ったりの動作が辛いらしい。
餌を食べるために、写真のように肱を曲げたままどうにか食べている。
写真は排尿時のものであるが、同様に肱を曲げたまま用を足している。
育成時から、濃厚飼料の摂取量に比し、粗飼料の摂取量割合が極端に少なかったために起こる疾患ルーメンアシドーシスが原因になっている。
この様な牛は、導入後も粗飼料をなかなか食いつこうとせず、粗飼料の底の方をかき混ぜながら濃厚飼料を探しているタイプである。
この様な場合は、その生産者をチェックせざるを得ない。
調べてみると、意外にも、市場により多い少ないのあるケースがある。
先天性の疾患ならともかく、人の餌の給与管理によるだけに、子牛の管理については、目先の健康だけでなく、成長段階に影響のない様な健康管理に配慮して貰いたいと願っている。
牛は草で育つのである。

新たなファクタで枝肉を評価する

2009-02-20 23:50:46 | 枝肉


牛肉の美味しさは牛肉に含まれる脂肪酸の一つであるオレイン酸の量が深く関わっていると言われている。
このオレイン酸については、先に開催された鳥取全共でも話題になった。
今朝の日本農業新聞によると、長野県ではオレイン酸量とBMS値に一定のランクを設定して、その条件を満たしていれば、美味しい牛肉として認定すると言うものがあった。
また同新聞では、全国和牛登録協会の現場検定調査委員会関連記事中でも、オレイン酸に関する記事があった。
牛肉の味、とくにその美味しさにはオレイン酸やグルタミン酸濃度が深く関わっているなどが関係者により、科学的に究明されてきた。
これらを枝肉段階で測定できることも実現し、その結果を基に自信を持って消費者に美味しい牛肉が提供できるとして、食肉業界でも話題になっているようである。
今後の肥育生産者にとっては、オレイン酸濃度を高めるための技術構築が要求されよう。
サシ偏重の業界であるが、これらの新たな評価が加味され、究極的な高度のサシに依存しなくても、美味しい牛肉の生産が可能となれば、コスト低減に繋がる可能性をオレイン酸により、見いだせるかも知れない。
但し、その脂肪酸を得るために、穀類依存度の高い肥育が必要とされれば、なにをかいわんかや。

和牛の文化

2009-02-19 22:43:20 | 牛の管理


先達たちが牛飼いで培かってきた貴重な経験が、多頭化の上では生かされることは無くなりつつある。
以前は牛を丈夫に育てるために、わらで牛の体中を乾布摩擦様にわら擦りしていたものである。
わら擦りの効果は、体毛が細くなり柔らかくなったり、皮膚の血行が良くなり、皮手も柔らかく、牛が健康で丈夫になると指導を受けたものである。
また、以前は矯角して牛の角を左右バランス良く格好良くしていたものである。
大枚を叩いて導入した更新雌牛などは、毎日引き運動をして足腰を鍛え、わら擦りして体形を整えながら鼻環を通し頬綱を付け、鼻環の痛みが取れるころになると調教を始める。
牛を手綱一つで畜主が思う通りに動作させようと訓練させて、農作業の原動力として利用していたものである。
牛を登録検査や共進会などに出品する直前には、全身をわら擦りして後、米ぬかを入れた布袋で被毛を磨き、ピカピカに光沢を付けたり、角や蹄まで掃除して食用油で磨いて光沢を付けてそれに備えたものである。
この様に、牛に掛けた意気込みは凄まじいものがあったが、今ではその様な光景を見かけることは殆ど無くなった。
ところが今でも、その様な光景を見ることがある。
それは、5年に1回開催される全国和牛登録協会主催の全国和牛能力共進会に出品してくる牛たちである。
この様に今では例外的になった牛の手入れであるが、その手入れが、牛の能力を引き出す技術とは思われないが、和牛に拘わりを持つ文化の数々であり、牛を多勢に披露するには、貴重な技であることも確かである。
和牛文化と言えば、調教の究極技である「碁盤乗り」などは文化財として残していきたい技である。


宮崎県中央市場の子牛

2009-02-18 18:14:17 | 素牛


関西では、宮崎産の素牛が相当数導入されており、各種の枝肉共進会でも、上位ランクされている。
当方では、過去に宮崎産を導入したことは皆無であったが、この2月市で大型車1車導入した。
去勢牛が93%でその平均競り価格は約48万円であったが、市場平均が約50万円余であったので、平均相場より約5%安い素牛の導入である。
他産地の場合も、常にそのレベルのものを選定している。
新参者の参加のために、若干相場を上げてしまったようである。
大部分が兵庫系のため、鳥取全共時に感じたように、宮崎産雌牛の毛質の素晴らしさを彷彿させるような柔らかい毛並みで揃っている。
今は、時期的に冬毛で良好に見えるが、他産地の素牛とはひと味違うようにも思える。
良質の肉質が期待できそうな子牛たちである。
問題はこれからである。
兵庫系の血液割合の多い牛を、その能力をどれだけ引き出せるかである。
神戸肉同様に、導入後は多少長めに乾草を多給してから、じっくりと仕上げてみたいと思っている。
いずれにしても、20ヶ月先が楽しみでもある。
新たな挑戦でもある。

牛飼いのとりとめのない話

2009-02-16 19:24:39 | 子牛



購買者の立場からは、繁殖目的の子牛と肥育用では、子牛の見方の項目が若干異なる。
共通するのは、日令相応の発育、体全体の釣り合いの取れたボリューム感、欠損部位や疾患歴の有無と健康度合いなどである。
繁殖用の場合は、将来妊娠に耐えられる足腰の強さ、乳徴器では乳頭数や配置や柔軟性などに異常がなく乳房の豊かなものが望まれる。
最近では、とくに血統重視で最低3代祖にわたる種雄牛を吟味している向きがあり、母牛の体型や繁殖成績、登録点数、期待育種価などを参考としている。
種雄牛候補を物色する場合は、民間の種雄牛生産者などは、3代祖どころではなく、さらに数代遡って吟味していると聞いている。
優れた種雄牛を複数頭繋養している行政機関では、それらの産子雌に互いに交配したり、著明な種雄牛の精液を同様の産子雌に交配して新たな種雄牛候補を生産していることが、供用種雄牛の血統一覧から知ることが出来る。
血統を優先して購買するは、繁殖素牛に限らず、肥育素牛も同様である。
ところが、一発勝負の肥育では、なかなか血統通りには結果が出にくいのが現状である。
その点、繁殖雌牛の場合は、その交配の相性が交配種雄牛毎に異なるために、相性がよいものを交配することによって、その雌牛の能力は相性という相乗効果が生かされることになる。
しかしながら、その相性を例えば、1年ごとに突き止められれば良いが、生まれてからおよそ30ヶ月後でなければ結果が出ない。
結果が出ても、それを生かすには、4産目からとなる。
余談になるが、肥育結果により、BMS11~12の成績をもとに再度同じ母親の産子をゲットしようと市場名簿を見て、がっかりすることが多々ある。
それはタイプの異なる種雄牛を交配しているからである。
それでも、と購買して肥育した結果は、BMS8程度の例がままある。
全兄弟であれば、その程度のブレはあるが大きな差には成らない。
また全兄弟であっても、産次数が増す毎に能力低下の傾向があり、兄の成績を飛び越すケースは、確率的に極稀であるが、5等級の範囲であれば、同じ交配を続けるべきである。
これらを考えると、生産者と肥育者の情報交換は優れた能力の牛を作出する観点から必要不可欠のように思われて成らない。