繁殖牛子牛生産現場における増頭の現状はどうなのだろうか。
今後増頭が期待できる状況として4つのケースが考えられる。
1.既に多頭化を実現している生産者がさらに増頭する。
2.若年生産者による増頭や若者による新規生産者の実現。
3.女性生産者による増頭。
4.肥育現場での子牛生産。
5.農外企業者による参入。
1.鹿児島県で200頭規模の子牛生産を実施している経営者の話である。
「生産技術が実績的に安定していれば、10頭を20頭にするも、100頭を200頭にするも、そんなに難しいことではない。
現場での作業は一定していて単純だから、労働力との兼ね合いであることがわかったので、100頭から200頭に増やしてよかったと思っている。」
この経営者にとって結果的に資金はかかっても、子牛価格の高騰により、返済の目処は明るいはずである。
おそらく、このような認識を持って多頭化を実現している経営者は増頭を実現されていることであろう。
2.減頭の最大の要因は、飼育者の高齢化があげられると前述したが、高齢者の中には多頭化が実現していなくても、後継者のあるケースもある。
関西のある地域では、数年前飼養頭数が底値に至るほど減少したが、その後は増頭はしていないが減少もしていない。
暮れの挨拶にと、そこの生産者10名ほどが来訪された。
開口一番の筆者の「皆さん、いい顔をしておられますな・・」に笑顔の返礼であった。
メンバーは50歳代2名、他は20~30代の若者で有り、全員が後継者であり、増頭にはやる気満々の様子であった。
彼らの将来に大いなる期待感を抱いて見送った。
また、高卒後航空自衛官になったが、数年後和牛繁殖の夢を捨てきれず自衛官を辞し、県の農大に入学し、卒業後資金を借りて40頭規模の畜舎を建てた。
ところが、繁殖雌牛を導入するにも高騰のため、入手難となり暫く空舎の状態が続いた。
そこで、離農する高齢者が手放す経産牛をぽつぽつと入手したり、無理して子牛を入手しながら、4年目に入り漸く30頭に増やし、昨夏から子牛の上場が実現した。
このように夢を持つ若者も現存している。
3.肥育センターにいると子牛登記のデータをパソコン入力していると、女性生産者が微増していることに気づく。
昨晩秋、沖永良部から女性和牛部会10名の強者らが来場された。
なかなかの研究熱心で有り、父牛のことや地域の肥育成績などを食い入るように尋ねたり、記録しておられる。
好景気が火を付けた感があり、女性の経済観念や成績と価格との関わりに異常な興味が受け取られた。
女性に出来るのが牛飼いで有り、高く売れるのも牛への愛情に繋がっているようであった。
今から30数年前、当時の故上坂章次和牛登録協会会長も「これからは女性が和牛を飼う時代」と冊子を編集して啓蒙されたことがあった。
沖永良部の女性部会のパワーに、くさばの陰で同会長もほくそ笑んでおられよう。
4.現状の高騰では、将来の肥育経営が暗転しかねないと感じている多頭肥育の経営者は少なくないと判断している。
そのような事態を回避するには、一環経営が良策として繁殖部門を取り入れている箇所も増加しつつあるとのことである。
肥育現場での繁殖経営には、問題点も多く、一から畜舎や素牛を導入するには、子牛の高騰が足かせになっている。
最大の問題点は、繁殖技術のノウハウを取得している担当者が従事しなければ、繁殖障害や分娩から子牛育成に事故率が多発しセンター閉鎖に至った例も聞く。
技術者の問題が経営を左右する。
5.牛は繁殖経営も肥育経営も、経営者自身が牛の飼養技術を習得していなければ、目的を成就させるのは至難のことである。
企業経営者が安に利益を夢見て牛飼いに触手するには問題点が多すぎる。
上記4.の事案同様である。
いずれにしても、家業が歴代の牛飼いであるケースは、様々に払拭できる解決案はあろうが、そうでなければ、上記2.の後半に記述したように、しかるべき技術者から専門的に学んでからの就農が不可欠である。