牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

和牛が危ない 5

2016-01-31 09:30:17 | 和牛産業



繁殖牛子牛生産現場における増頭の現状はどうなのだろうか。
今後増頭が期待できる状況として4つのケースが考えられる。
1.既に多頭化を実現している生産者がさらに増頭する。
2.若年生産者による増頭や若者による新規生産者の実現。
3.女性生産者による増頭。
4.肥育現場での子牛生産。
5.農外企業者による参入。

1.鹿児島県で200頭規模の子牛生産を実施している経営者の話である。
「生産技術が実績的に安定していれば、10頭を20頭にするも、100頭を200頭にするも、そんなに難しいことではない。
現場での作業は一定していて単純だから、労働力との兼ね合いであることがわかったので、100頭から200頭に増やしてよかったと思っている。」
この経営者にとって結果的に資金はかかっても、子牛価格の高騰により、返済の目処は明るいはずである。
おそらく、このような認識を持って多頭化を実現している経営者は増頭を実現されていることであろう。

2.減頭の最大の要因は、飼育者の高齢化があげられると前述したが、高齢者の中には多頭化が実現していなくても、後継者のあるケースもある。
関西のある地域では、数年前飼養頭数が底値に至るほど減少したが、その後は増頭はしていないが減少もしていない。
暮れの挨拶にと、そこの生産者10名ほどが来訪された。
開口一番の筆者の「皆さん、いい顔をしておられますな・・」に笑顔の返礼であった。
メンバーは50歳代2名、他は20~30代の若者で有り、全員が後継者であり、増頭にはやる気満々の様子であった。
彼らの将来に大いなる期待感を抱いて見送った。
また、高卒後航空自衛官になったが、数年後和牛繁殖の夢を捨てきれず自衛官を辞し、県の農大に入学し、卒業後資金を借りて40頭規模の畜舎を建てた。
ところが、繁殖雌牛を導入するにも高騰のため、入手難となり暫く空舎の状態が続いた。
そこで、離農する高齢者が手放す経産牛をぽつぽつと入手したり、無理して子牛を入手しながら、4年目に入り漸く30頭に増やし、昨夏から子牛の上場が実現した。
このように夢を持つ若者も現存している。

3.肥育センターにいると子牛登記のデータをパソコン入力していると、女性生産者が微増していることに気づく。
昨晩秋、沖永良部から女性和牛部会10名の強者らが来場された。
なかなかの研究熱心で有り、父牛のことや地域の肥育成績などを食い入るように尋ねたり、記録しておられる。
好景気が火を付けた感があり、女性の経済観念や成績と価格との関わりに異常な興味が受け取られた。
女性に出来るのが牛飼いで有り、高く売れるのも牛への愛情に繋がっているようであった。
今から30数年前、当時の故上坂章次和牛登録協会会長も「これからは女性が和牛を飼う時代」と冊子を編集して啓蒙されたことがあった。
沖永良部の女性部会のパワーに、くさばの陰で同会長もほくそ笑んでおられよう。

4.現状の高騰では、将来の肥育経営が暗転しかねないと感じている多頭肥育の経営者は少なくないと判断している。
そのような事態を回避するには、一環経営が良策として繁殖部門を取り入れている箇所も増加しつつあるとのことである。
肥育現場での繁殖経営には、問題点も多く、一から畜舎や素牛を導入するには、子牛の高騰が足かせになっている。
最大の問題点は、繁殖技術のノウハウを取得している担当者が従事しなければ、繁殖障害や分娩から子牛育成に事故率が多発しセンター閉鎖に至った例も聞く。
技術者の問題が経営を左右する。

5.牛は繁殖経営も肥育経営も、経営者自身が牛の飼養技術を習得していなければ、目的を成就させるのは至難のことである。
企業経営者が安に利益を夢見て牛飼いに触手するには問題点が多すぎる。
上記4.の事案同様である。
いずれにしても、家業が歴代の牛飼いであるケースは、様々に払拭できる解決案はあろうが、そうでなければ、上記2.の後半に記述したように、しかるべき技術者から専門的に学んでからの就農が不可欠である。



和牛が危ない 4

2016-01-14 23:37:09 | 和牛産業
日本における黒毛和種の減少は、和牛肉の供給減だけに終わらない。
子牛生産者の減少が子牛生産頭数を減少させているが、そのことによって、離農者数の増加、家畜人工授精師・獣医師・地域JA担当者・家畜商・種雄牛管理者、家畜市場の統廃合、肥育頭数減に伴う肥育担当者減、子牛生産や肥育頭数に伴う飼料業界や動物薬業界等、牛の生体や枝肉や部分肉の運送業界、食肉市場・食肉卸売り・部分肉処理や内蔵取り扱い業界・食肉小売り等流通業界、食肉検査や格付業務等々への諸々の影響は計り知れない事態になる恐れが危惧される。
そればかりではない、頭数減によって諸に影響を受けるのは、畜産振興協会や各府県の外郭団体である配合飼料安定基金協会、畜産衛生指導協会などと、最たるものは全国和牛登録協会であろう。
これらの組織団体は存続に拘わる重大な影響を被ることになろう。
勿論、国や地方自治体など行政にも及ぶこととなるが、このことにより全国の消費者の食生活の内容も変化せざるを得ない事態となる。
これらの現象の顛末について、列記した様々な関係者、列記漏れの関係者のお一人おひとりの方々は、この現象をどのようにとらえておられるだろうか。
これから年度末や新年度を控えて係る業界関連の会議等の開催が目白押しと想像されるが、その場に於いて「和牛が危ない」現状を話題提供して頂き、増頭あるいは現状維持への具体的な対策を論じて頂きたいものである。
このことは、関係者であれば他人事ではなく、我がことなのである。
具体的にお願いしたいのは、国民の生命と財産を守る役目を担っておられる国会から地方議員の皆様にこの事実を理解して頂き、対策を講じて頂くことであり、そのことでことの解決が効率よく解決の目処が立つからである。
和牛に拘わり凡そ50年経過し、和牛の危機を感じたのは昨今のことである。

和牛が危ない! 3

2016-01-08 18:50:34 | 和牛産業
鹿児島県経済連から、新年度(28年1~12月)の県内14家畜市場別の開設日と上場頭数が届けられる。
予定頭数のため、実際の上場頭数には若干の違いがあると判断しなければならないが、27年度と比較することで、市場上場頭数の大凡の推移がわかる。
年間上場頭数が1,000頭未満の市場では2~5%の増頭傾向が見られるが、上場数2万頭に近い曽於では2,140頭減少の11%と予想以上の頭数減となり、1.5万頭規模の肝属でも7.8%の減少傾向である。
4,000~7,000頭規模では、姶良・徳之島が5%程度の減少、鹿児島中央・種子島では現状維持である。
これまで減少傾向にあった薩摩は5.3%の増頭となっており、関係者の努力の結果が伺える。
3年前、減少傾向の全国の中で、善戦していた徳之島が、28年度の予想では残念ながら6.5%の減少の見通しとなっている。
全県的には、27年75,320頭、28年71,520頭で、年間3,800頭が減少し、減少率は5%となっている。
これらの減少傾向が続けば、鹿児島県では10年を待たずに半減することが予測できる。
1頭70万円の子牛が3,800頭消滅することで、26.6億円の資源が消滅することになる。
県全体で28年は約500億円の資源価があるが、10年後には半減し、和牛産業は厳しい時代を迎え、係る産業界の影響力は測りきれない事態を迎えることとなる。
健闘している薩摩のように、曽於や肝属には増頭を健闘して貰いたい。
鹿児島県では主要産業である和牛復興のために、県が旗振りとなって国を動かし、和牛資源の確保のための気勢をあげるべきである。

和牛が危ない! 2

2016-01-06 12:29:05 | 和牛産業
 主産地が危ない

「去年は1日500頭出ていたのに、今年は400頭に減っていた。」
鹿児島県の著名な家畜市場の和牛子牛の上場頭数の話である。
多少オーバーな表現であろうと察しているが、例え話半分としても50頭減でも10%の現象である。

主産地である南九州地方では、他産地からの繁殖用雌子牛の引き合いが続いている。
このケースでは、血統重視で100万円クラスの品質の高いものの引き抜きである。
高額となれば生産者が手放すは仕方のないことであるが、将来性の高い繁殖用候補牛が地場からいなくなる。
3~4年たてば、地場の繁殖牛の品質が低下することになり、他産地のが優れた子牛を生産する。
その結果、主産地は主産地ではなくなり、生産地としてのシェアが縮小する。

その一端を示す兆しが見え始めた。
一昨年神戸で開催の近東共進会では、京都生まれの京都育ちの京都牛が最優秀賞を獲得し、昨秋京都で開催の同共進会では滋賀県生まれの滋賀県牛が最優秀賞を獲得した。
全国的な産業の発展を期待するなら全国の地場産牛が能力を高めることは大変結構なことである。
しかしながら、この傾向が現実の事態となれば、これまで主産地として和牛産業の発展に寄与し君臨してきた南九州の将来性に一抹の危惧を感じざるをえない。

和牛産業が危ない!

2016-01-03 16:01:50 | 和牛産業
久方ぶりにコラムを再開しました。

最近、黒毛和種の子牛上場数が、全国的にまばらではあるが数%程度の減少傾向が続いている。
そのために、未曾有の子牛高や牛肉高である。
暮れの平均子牛価格は80万円で2年前より25万円、枝肉価格はBMS6で2,200円前後で2年前より750円程度の値上がりである。
繁殖も肥育経営者各位は、いずれも佳い正月が迎えられたはずである。
そしてこの傾向を永続的に持続させようとほくそ笑んでおられよう。
しかしながら、肥育部門では、素牛高で、2年先の枝肉相場を戦々恐々として見守りつつ、短期的には繁殖生産者ほどの収益率ではなかったはずである。

これまで、和牛の相場は山あり谷ありが一般的として認識されてきた。
今はその山を迎えたと認識されているかもしれない。

新年早々、関係者各位に水を差す気はないが、今の高騰の原因を子牛生産者や関係団体者は的確に認識しておられるだろうか。
今回の山・谷は従来と異なることを認識して頂きたい。
現行のままでは、10年後は数10%、20年後には半減に至ることになる。
半減はそれだけ和牛の繁殖や肥育産業の減退に繋がる由々しき状況となり、その傾向は一途を辿ることになる。

生産者の増収は、枝肉の卸しや小売り関係者には厳しい状況のようである。
和牛の生産は究極的には消費者が産業を存続させてくれるわけだから、消費者に安全安心に加えて安定した生産基盤作りを国は講じる必要がある。
減少に歯止めをかけるのは今だと判断できるが、10年後の対策など不毛の策に他ならない事態となるは火を見るより明らかである。
高齢化等社会問題が和牛界に危機をもたらす要因となっていて、生産者の努力だけでは解決に至らないと判断している。
和牛産業という日本の食文化や、若者の就農意欲の高揚のためにも、立ち上がる時がきた感がある。
関係者は全国規模で立ち上がるべきときが到来している。