日本産科婦人科学会は8月28日、重い遺伝性の病気が子どもに伝わらないよう、体外受精した受精卵の遺伝子を調べる「着床前診断」について、2023年に計72件の申請を審査し、うち58件を承認したと発表した。
不承認は3件で、9件が審査継続中、取り下げが2件だった。
2022年の対象拡大後、件数の公表は初めて。
拡大前には認められなかった目のがん「網膜芽細胞腫」の患者からの申請も承認された。
学会によると、対象拡大前の2016~2021年の審査件数は計143件(年平均約24件)で、72件は約3倍に当たる。
東京都内で会見した加藤理事長は「従来諦めていた人が申請したのだろう」との見方を示した。
網膜芽細胞腫については「前回の申請時には(対象の)定義に当てはまらなかったが、今回は社会的背景などを加味した」と説明した。
一方で「何をもって『重い病気』とするかは考え方に幅がある。
学会だけで決めて良いのかという思いはある」と述べ、さまざまな関係者が参加する公的な審査体制の構築が必要だと訴えた。
着床前診断では、体外受精させた受精卵のうち異常のないものを子宮に戻すため「命の選別につながる」との懸念もある。
学会は従来、成人までに亡くなったり、日常生活を著しく損なったりする可能性がある重い遺伝性の病気に限定して認めてきたが、2018年に、生命に関わることは少ない網膜芽細胞腫の患者から申請があったことが契機となり、対象拡大の議論が進んだ。
2022年1月に新たな見解を発表し、同4月に運用を開始。
成人以降に発症する病気や、生命に直接影響を及ぼすことは少ないが身体の機能を失う病気に関しても検査を行えるようにした。