慶応大は5月20日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って有望な既存薬を探し出し、全身が動かせなくなる難病「筋薗瑶値索硬化症(ALS)」の患者への臨床試験(治験)で病状の進行を約7ヵ月遅らせる効果を確認したと発表した。
患者のiPS細胞で病気を再現し、効果が高い薬を見つける「iPS創薬」の手法を活用。
チームは「世界で初めてiPS創薬の有効性をはっきりと示した」としている。
チームは患者の血液細胞からさまざまな細胞になるiPS細胞を作製し、神経細胞に成長させ、既に別の病気で使われている1232種類の薬を加えて効果を調査。
安全性や脳内に薬剤が入るかどうかを勘案するなどして、パー・キンソン病の薬「ロピニロール塩酸塩」を候補に選んだ。
治験の対象はALS患者20人。
片方のグループには半年間、毎日薬を投与。
別のグループには有効成分が入っていない偽薬を飲んでもらった。
その後の数力月は両グループともに薬を投与した。
死亡または病状が悪化するまでの期間を比較した結果、偽薬を与えたグループでは約22週間だったが、最初から薬を投与したグループでは約50週間で、約7ヵ月の差が出た。
具体的には、偽薬のクループでは1年後までに約9割の患者が歩けなくなったり、しやべれなくなったりしたのに対し、薬を投与したグループでは約4割にとどまった。
ALSは筋肉を動かす脳内や脊髄の運動神経の障害で筋力低下などが起きる病気で、国内の患者は約1万人。
発症してから死亡したり呼吸器の装着が必要となったりするまでの期間は20~48ヵ月とされる。
チームの岡野教授は「一日も早くALSが致死性の病気でなくなるよう最大限の努力をしたい」と述べた。
今後はさらに患者の数を増やして有効性を詳細に確認する。
別の病気で既に使われている薬を転用して特定の病気に役立てる試みも創薬の一手法とされている。