エア・チェック三昧だった中高生を経て、カセット・テープには録音した後「やはり消そう」とか、「この曲の後には、これしかないだろう」などと試行錯誤の跡が残る。
2011年現代のデジタル/コピペ文化と大幅に異なり、カセット・テープを聴くには早送り・巻き戻しは出来ようとも、曲順を並べ替えたり、間を詰めたり、などという高尚な事が出来なかった。
時には、カセット・テープの間のムダ部分をカットし・セロテープで繋げるという「高等な手術」を試みもしたが、注意せねばならないのは、カットはA面・B面共にカットされるので、相当なテクニックと鍛錬を必要とした。
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よくネットで「家出捜索」の如く「これ何ですか?」募集しているように、曲名・アーチストは分からないが、後で聴いてみて「コレはイイ!」という曲があったりする。
NHKに電話して「いつの何時ごろの放送でかかった曲はなんですか?」という質問をして、係りのおじさんが、タイム・スケジュールと資料をめくりながら・・・
「いいかい。これはね。ジョニ・ミッチェルの”れでぃーず・おぶ・ざ・きゃにおん”って曲だ。
峡谷の女ってヤツかね。。。へへへ。」
と憎めないおじさんに助けてもらった暖かい経験もある。
しかし、ランダムに録音したり消したり・・・そういう行為を繰り返した後に放置されたカセット・テープという物は、整理のために聴き出したら、曲の途中であきらめてストップ・ボタンを押した後に、下からムニュ~っと顔を出すように出てきた音楽が「ああ、いつ録音したか分かんないけど、イイ曲だなあ・・・困ったなあ・・」という事態が付き物だった。
こんな「曲名・アーチスト名不明」の音楽のナゾ解きを、2011年44歳になっても、実は続けている。
そんな曲は、まだまだたくさんある。
「聴ければいいじゃないか」というのは正論なのだが、やはり、そのルーツを知りたいのは、ヒトの本性。
あきらめがつかないもの・・・。
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そんな中、神保町の古本屋で、当時より高価な’80年代のFM雑誌を「たぶん、この当たりに聴いたはずだ・・・。」と目検討とカンで買い、その番組表をめくりめくり、やっとブチ当たった捜査線上に現れた曲が1曲ある。
それは、結果から言うとフリーズというバンドのインストゥルメンタルの曲・「スパイ・オブ・バクダット」という曲。
録音の元は、どうやらクロスオーバーイレブンに違いない・・という、大捜査から判明したもの。
ところが、フリーズというバンドは「I・O・U」という曲では、アーサー・ベイカーがプロデュースしてヒットしたが、それ以外のネタが’80年代に存在しない。
アーサー・ベイカーは、当時、ニューオーダー「コンフュージョン」、シンディ・ローパーの12インチなどを手がけたが、この「I・O・U」という曲の感じとカセット・テープのメロディアスでフュージョンの香りもする曲とは相結び付かない。
自分はとにかく、日々もんもんと中古レコード屋さんめぐりをしていた。
何も、この1曲に限らず、掘り出し物を発掘に・・・。
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そんな中、1枚300~500円で、前回の「BON」テープの話題同様、野外のエサ箱で風にさられて「後は売れなきゃ、廃棄処分だな。別に万引きに会っても構わない。そのほうが処分するのは楽だ。」という店主によって絶壁に立たされたレコードがたくさんある。
ボクは、ガラクタ同然で、風に吹かれたレコードたちを、手を汚しながらめくる。
かなり傷んだレコードも多く、確かに「これは売れないな。」という代物もあったが、こういう中に発見があるもの。
妙に気を引くデザインに1枚取り出して見ると、それがなんとフリーズのLPレコード!
「観た事も無いデザインのレコードだ。」
興奮しながら、ウラを見ると「あった!B面最後の曲だったんだ”スパイ・オブ・バクダット”」
感極まり、ニンマリ・・・。
かなり荒く扱われてきたせいで、輸入盤でもあり、ジャケットの傷みもひどいが、中身は「聴ける」レベルの盤質。
ベガーズ・バンケットのレーベル・デザインも相変わらずカッコイイ。
店主には「宝」を掴んだことを気取られまいと何気ない顔でお金を払い・買う。
店を出てから、再度ニンマリ。
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レコード・プレイヤーからmp3に変換して、最近よく、この「スパイ・オブ・バクダット」を聴く。
こういう埋もれた名曲がたくさんこの世にはあるんだろう。
次世代に歴史的遺産を繋ぐのは、神保町のような古くても中身を重んじる稀有な町の文化だが、そういう中、多くのレコードが処分されていくのは忍びない。
それを拾いながら公の場に広げるのも、自分らのようなサブ・カルチャー人間たちの役割なのだと思う。