夏からの暑さや高温を引きずって、秋の訪れも遅くなっていくうち、いつのまにやら11月8日(水)の立冬。
そして、昨日のつめたい雨。
今日は今日とて、終日の白い空と曇り。
一挙に冬めいた閉塞感。そんな一日。
広い空は空で自分から分離され、自分はこんな地上。
狭苦しい一室に幽閉されている。
立冬を超えはしたが、気分の中ではまだ秋。そう言いながら、家の中でホッカイロを引っ張り出して、モミモミしながらふところを温める。夕闇どきにやっとガチャガチャした周囲の雑音が去り、一人レコード観賞に向かう。
1983年この時期というと、相変わらずエアチェックにはげみ、ニューウェイヴ新譜をチェックしまくり、少ない小遣いをカセットテープとレコードに使いながら、一人の部屋で音楽を聴いていた。そんな40年前もこの2023年も同じような一人の夕闇どきを過ごしている。
そんな中で、“ガーデニング・バイ・ムーンライト”なるバンドの1枚も忘れられないレコードだろう。では彼らのレコードを当時聴いていたのか?と言えば、全く聴いていない。雑誌フールズメイトの新譜レビュー欄にある数センチメートル角のモノクロ写真とレコード評を読んだだけである。そのモノクロ写真と文章から醸し出されるイメージに酔っていただけ。何とかそのレコードを聴いてみたいと思いながら、輸入盤を買うこともかなわず、1983年どころか、80年代どころでもなく、20世紀が終わるまで、このレコードの中身を1曲すら聴くことがなかった。
何よりも当時はこのレコードジャケットの圧倒的なイメージのトリコになっていた。
12インチシングル「ストレンジ・ニュース」では、神経のシナプスが繋がり合うような文様をバックにした夜に起立した1本の樹、そしてそれに向かい合うコート姿の2人の影。LPレコードでは夜が迫る逢魔ヶ時の蒼さの中、うつむいた男と風車に手を掛けて登ろうとする男の姿。ジャケットを見ているだけで、ノイズ/アヴァンギャルド/サイケデリックといった世界と陰鬱で抒情的な世界が融合したような音が勝手に脳内で鳴ってくる。その聴いてもいない未知の音のイメージはティアーズ・フォー・フィアーズのファーストアルバムにオーヴァーラップしていて、彼らの音をもっと実験音楽寄りにしたイメージだった。この脳内イメージだけで1枚の架空音楽アルバムが出来るくらいのふくらみを持っていた。
このレコードを実際聴いたのは21世紀アタマのこと。やっとのことで手に入れたレコードなのに、いざ聴くと「なんだよ、こんなもんか」という感想で、それまで抱いていた幻想はあっさり壊された。こういうガッカリ感は、音楽を聴く数十年の中で何百回となく繰り返してきたけれど・・・聴かずに幻想のままで居た方が良かったのではないか?とまで思ったりもした。
それ以降は数年起きに取り出してみてはターンテーブルに乗っけて聴いてみた。そして「やっぱりダメだ」を繰り返し・・・。そんな彼らの唯一に近いLPと12インチが「すごいイイ」と体内に響き出したのは、この5,6年のこと。
ガーデニング・バイ・ムーンライト。。。というバンド名。月夜の下のガーデニング、とでもいうのか?この長たらしいバンド名が特有のイメージを喚起させる。メンバー2人がジョン・フォックスやトーマス・ドルビーなどのレコード制作に参加してきたというのもなるほどと思う。だが、楽曲によって作り方やイメージが異なるために、1つのバンドイメージの像を結ばない。逆に言えば、異なるイメージで制作された楽曲を集めたLP盤は幕の内弁当のようにいろどりあるが決定打がない。このへんがCD化されていない理由だろう。
でも、繰り返し聴いているうちに豊かなアルバムと感じるようになった。ジャパンやウルトラヴォックスを思わせるドラム・パーカッションにアクセントを持たせた箇所、“間”の取り方、サンプリングなのか?ところどころに挟まるリピート音の使い方、ダブ的な処理された箇所などアイデアも豊富だ。
最初に見たジャケットから勝手に抱いたイメージからはズレていたが、それを壊した後にやっと40年目にして「好き」と言えるアルバムに収まった。CD化はされていないようだが、YouT ubeにはアップされているので、ぜひぜひのおススメ盤。こんな薄暗い日に聴くと良い。
■Gardening by Moonlight「Chance」1983■