【②の続きです。】
旅行から戻り、もしやと奈良国立博物館のHPを探してみると、ありました! ミュージアムショップの書籍をnet販売していただけるというページが。早速注文し、かの冊子が手元に届きました。青銅器ならではの深緑色の世界に、暫し遊ぶことができ、ボランティアの方がお話くださった、古美術商社「不言堂」初代社長:坂本五郎氏のコレクションの由来についても読めました。
カラー写真で見る青銅器そのものは勿論素敵で、青銅器の成立や文様についての解説も、たいへん興味深いものでした。
その中で、饕餮文(とうてつもん)の解説は、特に心に残りました。普段、漢検1級の勉強では、「饕餮」=むさぼる、ということ以上には思い及びませんでしたが、饕餮文について、『坂本コレクション 中国古代青銅器』には次のように解説してあります。
饕餮とは、戦国時代以降に成立した『呂氏春秋』『春秋左氏伝』中に「周鼎著饕餮、有首無身、食人未咽、害及其身、以言報更也。(周の鼎には饕餮というものが表されている。それは首だけで胴体がなくて、人を食べるときには飲みこんだ端から体中が害されて、その様はえもいわれぬ。)」と記載されている貪欲な怪物の名で、後の宋代に青銅彝器上の奇怪な動物の正面形の文様を、この「饕餮」に比定して呼び習わすようになった。けれども、元来は決して邪悪なものを意図したのではなく、動物の姿をした最高位の鬼神、または当時の天帝を表していたらしい。中央上方に天帝の象徴という箆形額飾り、下方に鼻が表され、これらをはさんで両側に、眼睛、角、胴体、尾、が表わされるのが基本である。中央付近は獣面の正面形となっているが、半身のみを見ると、獣の側面形として描かれているように見える。
【以下略】
……こうして読んでくると、何だか「饕餮」の文字までもが、次第に青銅器の文様であるかのようにも錯覚されてくるので、不思議です。
またこれ以来、時々見かける青銅器関係の漢字にも、より注意が向くようになりました。
たとえば、『週刊読書人』に連載されている円満字さんの「漢字点心」、遡って記事を追ってみる中で、
ちょうどこの関西研修旅行に我らが行った直後の2014年6月13日の記事「杯」に於いて、
「爵」も、本来は「さかずき」のこと。スズメの形をしていて、古代中国での功績の証として与えられたものだという。
という一節を見つけたり、
最近だと、2015年6月5日の記事「饕」に於いては、
数年前、円満字さんが街で見かけた中華料理店の名前「老饕」のお話から始まり、漢和辞典的知識である「饕」=「むさぼり食う」「貪欲な」という、あまり意味のよくない漢字のイメージとは違い、現代中国語の「老饕」には「美食」という意味があって、
欲望をあっさりと肯定してみせるこの姿勢は、ちょっとうらやましいような気がする。
と締め括ってあります。
さらに、この春うちの職場の図書館から除籍になって譲ってもらった『大漢語林』の囲み記事「青銅器――器形と文様」を、先の『坂本コレクション 中国古代青銅器』と併せて読むと、いろいろ一致して楽しいし、勉強になっています。
そんなこんなで、UPするまでに漫然と歳月が過ぎてしまった、奈良国立博物館の思い出についてでしたが、漸く気に懸かっていた記事に一区切りつけることができて、ほっと一息です。
なお、この記事を出そうとしていたこと自体を、気長にお心に留めてお声がけくださっていた何人かの皆様に、心より御礼を申し上げます。
旅行から戻り、もしやと奈良国立博物館のHPを探してみると、ありました! ミュージアムショップの書籍をnet販売していただけるというページが。早速注文し、かの冊子が手元に届きました。青銅器ならではの深緑色の世界に、暫し遊ぶことができ、ボランティアの方がお話くださった、古美術商社「不言堂」初代社長:坂本五郎氏のコレクションの由来についても読めました。
カラー写真で見る青銅器そのものは勿論素敵で、青銅器の成立や文様についての解説も、たいへん興味深いものでした。
その中で、饕餮文(とうてつもん)の解説は、特に心に残りました。普段、漢検1級の勉強では、「饕餮」=むさぼる、ということ以上には思い及びませんでしたが、饕餮文について、『坂本コレクション 中国古代青銅器』には次のように解説してあります。
饕餮とは、戦国時代以降に成立した『呂氏春秋』『春秋左氏伝』中に「周鼎著饕餮、有首無身、食人未咽、害及其身、以言報更也。(周の鼎には饕餮というものが表されている。それは首だけで胴体がなくて、人を食べるときには飲みこんだ端から体中が害されて、その様はえもいわれぬ。)」と記載されている貪欲な怪物の名で、後の宋代に青銅彝器上の奇怪な動物の正面形の文様を、この「饕餮」に比定して呼び習わすようになった。けれども、元来は決して邪悪なものを意図したのではなく、動物の姿をした最高位の鬼神、または当時の天帝を表していたらしい。中央上方に天帝の象徴という箆形額飾り、下方に鼻が表され、これらをはさんで両側に、眼睛、角、胴体、尾、が表わされるのが基本である。中央付近は獣面の正面形となっているが、半身のみを見ると、獣の側面形として描かれているように見える。
【以下略】
……こうして読んでくると、何だか「饕餮」の文字までもが、次第に青銅器の文様であるかのようにも錯覚されてくるので、不思議です。
またこれ以来、時々見かける青銅器関係の漢字にも、より注意が向くようになりました。
たとえば、『週刊読書人』に連載されている円満字さんの「漢字点心」、遡って記事を追ってみる中で、
ちょうどこの関西研修旅行に我らが行った直後の2014年6月13日の記事「杯」に於いて、
「爵」も、本来は「さかずき」のこと。スズメの形をしていて、古代中国での功績の証として与えられたものだという。
という一節を見つけたり、
最近だと、2015年6月5日の記事「饕」に於いては、
数年前、円満字さんが街で見かけた中華料理店の名前「老饕」のお話から始まり、漢和辞典的知識である「饕」=「むさぼり食う」「貪欲な」という、あまり意味のよくない漢字のイメージとは違い、現代中国語の「老饕」には「美食」という意味があって、
欲望をあっさりと肯定してみせるこの姿勢は、ちょっとうらやましいような気がする。
と締め括ってあります。
さらに、この春うちの職場の図書館から除籍になって譲ってもらった『大漢語林』の囲み記事「青銅器――器形と文様」を、先の『坂本コレクション 中国古代青銅器』と併せて読むと、いろいろ一致して楽しいし、勉強になっています。
そんなこんなで、UPするまでに漫然と歳月が過ぎてしまった、奈良国立博物館の思い出についてでしたが、漸く気に懸かっていた記事に一区切りつけることができて、ほっと一息です。
なお、この記事を出そうとしていたこと自体を、気長にお心に留めてお声がけくださっていた何人かの皆様に、心より御礼を申し上げます。