花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

「LA COPIA, IL FALSO E IL FINTO」

2022-11-02 19:47:15 | 西洋絵画

NHK-BS番組「贋作の誘惑」を見ながら

https://www.nhk.jp/p/ts/6QJPZ5QL6M/

5月にボローニャのFさんから送っていただいたカラヴァッジョ作品を中心にした或る論考を想起してしまった。番組の方は「贋作」であったが、こちらは「コピー」に関する論考なのだが...。

RODOLFO PAPALA RIPRODUZIONE DELLE OPERE D'ALTE(美術作品の模造)」

カラヴァッジョ《聖マタイと天使》の最初のヴァージョンは第二次世界大戦末期のベルリン砲火で焼失し、現在では残されたモノクロ写真でそのイメージを知るしかない。ところが、フィンランドの画家 Antero Kahila が果敢にも《聖マタイと天使》の再現(模造)に挑んだ。

https://www.stiftung-stmatthaeus.de/programm/veranstaltung/vernissage/

(上記↑URLサイトの写真をクリックすると拡大できる)

ちなみに、論考のテーマ「LA COPIA, IL FALSO E IL FINTO」の訳語であるが、Fさんの見解では

・La copia=模写作品 または模倣 ・Il falso=贋作 ・Il finto=偽物

ということだった。(深謝です!!>Fさん)

さて、論考の内容だが(拙略訳なので誤訳等があったらすみません

「作品保護のため、或いは、失われた作品を交換する必要性と、視覚的および環境的な観点から効果的な選択を行う必要性により、模写画家によるコピーと、写真製版またはデジタル複製手段の使用との間のジレンマが生じている。 これは、贋作(Il falso)と偽物(Il finto)のどちらが優れているかという問題にもつながる。」

例えば、ローマのキエーザ・ヌォーヴァ(サンタ・マリア・デッラ・ヴァリチェッラ)にあったカラヴァッジョ《キリストの埋葬》であるが、作品保護のため、現在はヴァチカン絵画館に所蔵されており、キエーザ・ヌォーヴァには代替として Michael Koch による模写作品が元の礼拝堂に設置されている。

カラヴァッジョ《キリストの埋葬》(1602-04年)ヴァチカン絵画館

Michael Koch 《キリストの埋葬》(19世紀初頭)キエザ・ヌォーヴァ

「しかし、美術作品には、その「イメージ」に還元できない深みがある。」

私的にも、この代替模写作品は当時の礼拝堂の様子を偲ぶことができても、やはりヴァチカンのオリジナルの素晴らしさには及ばない寂しさを感じるのだ。

一方、パレルモのサン・フランチェスコ・ダッシジ教会のサン・ロレンツォ祈祷堂から盗まれた《パレルモの生誕》は、現在写真コピーが元の礼拝堂に設置されている(らしい)。私的には残念ながら実見できなかったが、もしかして、写真の持つ味気無さを見ずに済んだのは幸いかもしれない。

「芸術作品には、技術的、職人的、文化的、実存的、政治的な重層的深みがあり、その「イメージ」という用語の最も表面的な意味に還元することはできない。この厚み(深み)はオリジナルの抑えきれない個性を構成している。イメージとしては写真撮影、コピーさまざまな複製に適してはいるが、芸術作品としては、多かれ少なかれ、それに近しい他の作品の源泉となりうる。見えるもの、見えないもの、すべての次元(ディメンション)を含めて再起動するのだ。

コピーは、それ自体が偽造であることが明らかにされた場合、贋作ではない。贋作は、悪意、署名の消去、作成者の誤解を前提としている。コピー(模写)は、それぞれの傑作が引き起こす影響の歴史の中で、最初にして最も近い効果(結果)である。

作品が元のコレクションで利用できない場合、忠実なコピーがその存在を再解釈することは正当であり、これは芸術作品でもあるコピーを通じてのみ行うことができる。」

ということで、酷い略訳スミマセンだが、要するに、 Antero Kahila の《聖マタイと天使》の再構築(模造)は正当である、ということなのだろうと読んだ。もしかして、誤読、理解不足かもしれないので、その場合はご容赦くださいませ



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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ソ連軍の不手際 (山科)
2022-11-03 07:36:48
>第二次世界大戦末期のベルリン砲火で焼失し

このカラヴァッジョ作品はドイツ軍降伏後にソ連赤軍兵士の管理のもとでの管理不行き届きで、ベルリン近郊の砲台要塞が爆発した事件で、焼失しました。この要塞にかなりの数の絵画が保管されていたのです。
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Unknown (momo)
2022-11-03 22:24:35
花さま
Buonasera
本日はありがとうございました😊
久しぶりにお会いでき、お話できて良かったです。

先程、お伝え忘れましたが「贋作の誘惑」見逃しました😅
いつかの再放送に期待します(笑)

「LA COPIA, IL FALSO E IL FINTO」の解釈(?)なるほどなぁと思いました。
なかなか、贋作や偽物を観る機会はありませんが(笑)
コピーには理由ありなんですね。
今度、コピーを観るときはその背景も思いながら鑑賞したいと思います。
またChiesa Nuova に行きたいですね😆
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失われた「聖マタイと天使」 (むろさん)
2022-11-03 23:34:10
聖マタイと天使のカラー再現画像、数年前からネット上などでよく目にしています。例えば下記wikipediaに掲載されているもの。ご紹介の画像と比較してみたのですが、同じもののようですね。
https://en.wikipedia.org/wiki/Saint_Matthew_and_the_Angel

最近では日本でも北斎の疫病神の絵馬のカラー復元(須佐之男命厄神退治之図、向島の牛嶋神社、関東大震災で焼失)がNHK番組で紹介されていました。現代の技術ならばモノクロ画像からカラー復元は十分可能なようですから、聖マタイと天使の復元画像の色彩もほぼ信用していいと思っています。

この聖マタイと天使については下記サイトで拡大画像を見ることができます。
https://library.nga.jp/discovery/fulldisplay?context=L&vid=01NGA_INST:IMAGE&search_scope=ImageCollections&tab=ImageCollections&docid=alma991731733804896
(投稿上の規制でgovをjpに置き換えていますので、govに戻してください。)
また、下記URLではベルリンのカイザーフリードリッヒ美術館等で被災・焼失した作品の画像(但しモノクロ)を見ることができます。ルカ・シニョレッリのパンの饗宴、ボッティチェリの聖母子と天使、カラヴァッジョのフィリデ・メランドローニ、フィリッポ・リッピの慈悲の聖母などが目を引きます。特にパンの饗宴はどんな色だったのか知りたいものです(カラー復元画像が掲載されている情報をご存じならご教示ください)。
https://www.nga.jp/research/library/imagecollections/features/kaiser-friedrich.html
(投稿上の規制でgovをjpに置き換えていますので、govに戻してください。)

なお、パンの饗宴やフィリデ・メランドローニはベルリンのフリードリヒスハイン高射砲塔の火災で失われたようですが、聖マタイと天使は、この高射砲塔ではなく、テューリンゲンの岩塩坑という説もあるようです。(池上英洋著「失われた名画」の展覧会、大和書房2016より)

<パレルモのサン・ロレンツォ祈祷堂から盗まれたカラヴァッジョの「生誕」
以前「大人のヨーロッパ街歩き」というテレビ番組でこの祈祷所の内部が映されたことをご紹介しました。私は再放送を2018年に見て、該当部分の数分間だけを保存してありますが、その後再放送はないようです。
2020-05-25映画「盗まれたカラヴァッジョ」を見逃した(涙)に対する5/26のコメント
https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/8115fdb5963d43adc94feed5b5a5c172#comment-list
今後も再放送は期待できないようですから、内部の映像に関してはなんとかします。
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ベルリンでの焼失 (山科)
2022-11-04 06:54:30
ベルリンでの焼失事件については米国ワシントンナショナルギャラリーの文章がありますが、URL貼れないので、当方ブログURLにしました。
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山科さん (花耀亭)
2022-11-04 21:41:59
この記事では簡単に「ベルリン砲火」と書きましたが、既にこのブログで詳細に書いているので、繰り返しを避けました。
https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/721c96d88fa0f48583fbf535a42b6864
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momoさん (花耀亭)
2022-11-04 22:25:59
こちらこそ、ありがとうございました!!
で、「贋作の誘惑」ですが、NHK-BSなので、きっと再放送があるはず。気長に待ちましょう😉

>贋作や偽物を観る機会はありませんが(笑)
確かに(笑)。でも、もしかして、所蔵元も気が付いていない贋作や偽物を、知らずに観ている可能性もあるかも(^^;

本当にまた Chiesa Nuova に行きたいですよね!!😢
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むろさんさん (花耀亭)
2022-11-04 23:04:47
なんと!Antero Kahila の復元作品はwikipediaにまで掲出されているのですね。でも、作者の記名が無いのは失礼な気がします(^^;

>カラー復元画像が掲載されている情報
Kahilaは元々カラヴァッジョ作品を数多く模写していたので、《聖マタイと天使》の復元に挑んだようです。なので、カラヴァッジョの焼失作品については復元がありうるかもしれませんね。(もしかして、現在進行中だったり??)

>聖マタイと天使は、この高射砲塔ではなく、テューリンゲンの岩塩坑という説も
だとしたら、その後どうなったのでしょうかね??
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山科さん (花耀亭)
2022-11-04 23:08:52
ブログURL、ありがとうございました。
《聖マタイと天使》はテューリンゲンの岩塩坑という説もあるようです(^^;
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