眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

聞き耳

2012-11-20 01:08:24 | ショートピース
いつになっても耳慣れたワードを拾わないので、もしやと思い聞き続けた。思った通り彼らは異国の人々だ。いくら聞いても何1つ理解することができないので、安心して聞いていることができた。ただ、人がいるという気配だけあればよい。私は足を伸ばし、耳を傾けた。猫と人との距離で。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

類は友を待つ

2012-11-20 00:29:23 | ショートピース
何度立上がろうとしても駄目だった。(あの頃はよかったけれど)進もうとしては邪魔が入り、心を開こうとしても闇の力によって押し戻される。もう駄目。(私を信じて)トモの声が聞こえた気がした。(あと少しだけ)ルイはトモが良い知らせを持ち帰るまで自分であり続けようと決めた。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デメニギス

2012-11-19 21:00:17 | 短歌/折句/あいうえお作文
天性の
メタルを巡り
憎しみと
ギターを抱いた
スパイがおどる

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホトトギス

2012-11-19 20:37:12 | 短歌/折句/あいうえお作文
ほとぼりを
ともにさました
時はすぎ
今日は冷製
スープのようだ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

迷子の子

2012-11-16 00:40:20 | 夢追い
 家を借りることになった。
「前に行った?」
 行ったことはあるけれど番地は知らないと姉は言う。
「一緒に行こう」
 車はテープかと訊くとCDだというのでCDを見つけに部屋に行ったが、見つけたと思うとそれはDVDだったりマークボランだったりした。マークボランは姉の感性に合わず受け入れられないのだ。早くしろ。
「家具は庭に置いていくの?」
 雨に濡れてもいいのかと訊くとお兄ちゃんの本棚だと母が言うが、雨についての答えが欠けているので不満が残った。
「お父さん行ってくるよ」
 お父さんの顔を見て来いと兄が言うが、そう言う間に父が下りてきた。パソコンはどうだったかなと言って、父は1つも顔を見ないので困ったものだ。
 カルテがまだだ。1枚を手にとって見るとそれには治療方針の変更が記されていて大事なカルテだった。助けないから助けるに矢印が渡っていて、医師のわだかまりがとけるとある。1枚でも多く持って行きたかった。
「もういいから」何がいいのだ。
 何も書いていない人はどうするのかと訊くと連れて行かないと母は言い、放っておくのよと姉が答えた。
 音楽を聴くはずが車内で流れているのは世界一受けたい授業だった。
 見知らぬ子供がゾンビの真似をしながらフロント硝子に張り付いているのをはねのけて車は発進した。すぐに別のいじめの現場を目撃することになり、停止して注意したのだった。

 男は焼きそば王にふさわしい威厳を持って丘を下ってくる。シャドーボクシングの息を吐きつつ、丘を下りながら緑を狩っている。見る見る間に体中を緑で染め上げ、支え切れなくなると手伝ってもらった。果たしてその緑は食べられるのだろうか。それはニラ科の一種でニラの仲間だった。海賊時代に学んだ知識から、食べられることを知っていたのだった。
「いらない」
 と言うが何か食べなければと母は言った。
 煮えたぎる鍋を両手で抱えていた。その中にはもう1つの別の鍋が入っている。その中には釜が入っていて、中では米が煮えたぎっていた。
「何か食べなければ」
 とうとう米は火を噴いて燃え始めたが、母はそんなことにはおかまいなしだ。襖に飛び火して燃えていたが、消火器は取っ手もなくて役立たずだった。カーテンを千切って叩いて火を消した。使い道のない消火器を玄関の外に出しておくことにしたが、猫が間違って持っていかないかという心配が、早くも湧いてきた。

「散歩に行ったね」
 母が父の思い出を話していた。犬は柱についた傷を見つめている。まだ幼い頃自分でつけたのだ。
「散歩に行ってくる」
 思い立ったように兄が言った。
「どこまで?」
 兄は行った。夜だったし、どこまでかわからなかったので、一緒に行かなかった。

 おじいさんを覚えているのか熊は洗濯物を取ってきてくれる。まだ乾いていないものを持ってくることもあったが、ぼけているので仕方がない。少しずつよくなっていけばいいとおばあさんは笑った。
 パスコの隅のシェイクスピアには行かずにお正月の録画を見るが、巻き戻してもなかなか現れなかった。後ろ向きに流れないし、家の外で動いている暇な人たちと同じ速さで動くのだ。「ワインを買わなくちゃ」誰かが正月らしいことを言っていると奇想天外な動物たちが動き始めた。

 犬用のトングを持って家を出るともう昼になっていた。兄の姿はなかった。歩いている内に、兄に追いつくことは不可能なことのように思われた。あらゆる瞬間にもう兄が帰宅しているように思え、無駄足ばかりが伸びていくように思われた。こうなるのなら一緒に行けばよかった。あるいはまだ夜が少しは残っている間なら、手がかりも残っていたかもしれないのだけれど。犬連れの女の人を坂の向こうに見ると急に心が折れてしまった。犬連れではない自分を恥じ、自らを恥じる自分を哀れみながら坂を下った。調和したものたちからは逃げなければならない。来る時に見えなかった白い砂が一面に盛り上がりながら緩やかな傾斜で湖まで伝っているのが見えた。不純なものは何もないように見えた。
 女は母と話をしながら坂を下りてきた。2匹の小犬が先走りながら、いつの間にか僕の横に並んでいた。
「食べれるの?」
 手の中は白く満ちていて、良い香りがした。女は聞こえているのにただ笑っていた。子供のように、もう一度訊くのをためらって、僕はあれこれ推測していた。食べられるものが、この辺りにあふれているとしたら、それは少しおかしなことのように思えた。不純なものは何もないように見えたけれど、それ以上のことははっきりとわからなかった。
 手から砂が零れ終える頃、再び1人だった。
 どこまできたのだろうか……。(どこからきたのだろうか) また、夜だった。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Mother Star

2012-11-15 23:21:11 | ショートピース
ひと眠りする時間になっても、少年はやがて来る怪獣との戦いに備えていた。備えて備えて、ようやく訪れた夜、怪獣が街に現れて3分もするともう眠ってしまった。夢の中で少年は空を飛び、自分の星に帰る。「どうして連れ戻してくれなかったの?」赤い眼をして、ウルトラの母を責める。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

途中下車~前途有望

2012-11-14 19:01:43 | ショートピース
制服のままかけつけた人もいた。「今、何しているの?」真新しいスーツを着ている人も見えた。一人が質問に答え、続いて二人目が答えたので一つの流れができてしまう。途中駅で降りると人のいない遠方を見た。青いクレヨンで変わらない空を描いた。描かなかったところだけが雲になる。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パン職人

2012-11-14 06:27:47 | 短歌/折句/あいうえお作文
反響を
四方に求め
夜明けから
口先だけが
人間になる
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泥棒猫

2012-11-14 00:52:09 | 夢追い
 窓を閉めていても、猫の争うような声が車内まで聞こえてくる。ひと時も休まる時はなくそれは続き、ようやく終わったかと思うと今度は前よりもより激しさを増して始まるのだ。鋭い爪は夜一面を引っ掻き回し、やがて粉々に砕いてしまうだろう。逃げ場はない。ただじっと待ち続ける以外に最良の選択はなかった。
「猫は恐ろしい」
 恐怖をほぐすために、言葉にしてみる。

 受付の席は不在になっていて誰に言えばいいのかわからなかった。曖昧に列を作りつつある踊り手のおばあさんに、座布団が欲しいと言うと、おばあさんは少し困ったような顔をしながらも個人的に小さな花柄の座布団を持ってきてくれたので、それを使うことにした。幾つもの部屋があったし、どこを使ってもいいのだったが、女が1人気ままに寝そべって本を広げている様子を見ると、そこに入って邪魔をすることは何か気が引けてしまう。複数の人によって使われている部屋に入ろうとするが、どうも彼らはみな知り合いのように見え、その密集は家族的なまとまりのようであって、その中に1人入っていくこともまた気が引けてしまう。居場所はない。
「サフランはないの?」
 ちょうど僕の近くに野菜が置いてあって、おばあさんと女の子はそれを見つけて部屋の奥へと入ってきた。
「あるじゃないの」
 大きく育ちのいい野菜もたくさんあったのに、女の子は小さくまとまった野菜を手にし、これがいいと言う。
「大きい葉は怖がってね」
 おばあさんは女の子にではなく、誰かに向けそう言ったけれど、僕は何のことかわからず声を出さずに笑った。大きな一歩を交互に踏み出しながら、女の子はおばあさんの背中にくっついて行った。

 枝が深い谷から絡みついてくる女の息の向こうから、足音は近づいてきて、ちょっと待てと言う。孔雀を身につけたような男はマジシャンのように現れて、双子の兄の方だと言うが、僕は弟のことを何も知らずどうしていいかわからなかった。
「女を渡せ」
 階段レースで勝負することになった。普通に下りるのかと訊くと男はそうだと答えたのでそれなら勝てると思った。レースが始まると男は2段飛ばし3段飛ばしを当たり前のように駆使し時を稼いだ。やはりそうか。男は踊り場に留まることもなく、手すりを乗り越えると階から階へと段そのものを飛ばして時を稼いだ。やはりそうだった。その時、僕は男の下り方に昔の自分を重ね見ていた。それ故に負けることなど少しも考えられないのだった。男は調子のいいうそつきに過ぎない。噴水広場に到着した時、勢いよく打ち上げられる幾筋もの水の頂点で、猫はサーカスのように踊っていた。
「猫は恐ろしくないのだろうか」
 男は言った。同時にレースを終えた2人は、互いを認め合った。

 ブラック団が部屋に入ってくると手荒い真似をすることもなく、ひと時停留した。静かに時を置いて出て行ったが、何かを盗まれたことは胸の真ん中がすーすーすることでわかった。
「ワゴンだ!」
 自分たちの一部であるかのようにワゴンを一緒に持ち入って、その上に色々と載せておいた。猫のまどろみのように時を振りかけるとそれはワゴンの一部のようになった。そうしておいて一緒に持ち帰ったのだ。
「物静かにだまされてしまったというわけだ」 
 ドアを開けるとすっかり暗黒で、町が盗まれた後だった。硯の中に、浅く水が溜まっているのが見えた。

 朝8時と同時に猫は僕の頭に乗り移ってそこに居住する計画を立てていたが、10分前から僕はもう身構えていた。
「とても無理」
 突然面白いことを言って油断させておいて、その隙に人の頭に乗り移るなんてとても自分にはできないと猫は打ち明けた。猫があきらめた瞬間、僕の頭に起きたざわめきの中から黒猫が飛び出してきた。恋猫ではなく、恋敵の猫だった。2匹は雲の行方を占いながら、朝の中に飛び立ってゆく。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

港町

2012-11-13 23:51:32 | ショートピース
見つけたと思って安心しているとそれは消えてしまった。「異国情緒ください」本当はどこにあるのか教えてほしった。異国情緒だけが心の安定を作り出してくれるから。「港町に行きなさい」旅人の答えを信じて港町を目指した。目標は少しだけ具体的になり新しい船出の予感が私を包んだ。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おぼしめし

2012-11-13 02:52:34 | 短歌/折句/あいうえお作文
オレンジの
星降る夜は
シャビに触れ
メッシに触れて
終演となる
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

忍者とコーラ

2012-11-13 00:23:58 | 夢追い
 散乱したごみ、みやげものが入っていた包装紙を拾い集めた。まだ濡れているものもある。ひどい有様だった。ここに兄をつれてきて眠らせよう。寒いかな。もしも、寒いなら毛布をかけよう。随分と集めに集めたから、善の埃が僕を包み始めている。男が目を覚ましたので、その口に水を注いだ。ジュッと音がして煙が上がった。
「コンビニで吸って悪いか?」
「悪くもない」悪くないよね。男は何度も念を押すように、繰り返した。
「悪くないよね!」
 正論らしく男の声が大きくなった。
「僕はコンビニ強盗だ」
「ドロボー!」
 男は僕の似顔絵をスケッチしながら足早に後退して行った。

 誰かが後をつけていた。急に止まったり、踊ったりしながら、どうにかまきながら学校の中に入っていった。校庭を抜けて体育館の中に入った。
「夏生まれだからブーツは履けない」
 弱音を吐くとそんなことはないよと姉がなぐさめてくれる。一年中生きている虫だっているのよ。屋上で育つ野菜だっているのよ。世界は変わり続けていくものなのよ。
「ほんと? 履けるの?」
 三月の雪だるまのように兄妹は力を合わせてブーツを重ねて、スライドさせながらドッキングさせた。
「まだだ!」
 少し早すぎた。
「先人のようにいかないで」
 幼い技術にはまだ血が通っていなかった。
「裏切ったな!」
 誰かが裏切ったようだった。最初の試みは失敗に終わった。
「練習ね」
 練習すれば履けるようになると姉は言う。練習で履けるものなのか。なぐさめが足元に落ちて、落ちては溶けてゆく。
「チャンス! チャンス! 練習のチャンス」
 どうにも駄目なのだ。やっぱり、夏生まれだから……。
「そこで何をしている?」
 権力が体育館の重たい扉を開いた。

 校庭の向こうの門は前よりも狭くなっていた。子供がカードをかざして中に入り込むと、扉は完全に閉ざされてしまった。逃げ道が一つ塞がれた。子供たちが横並びになってロープを張りながら迫ってきた。先生の的確な指示によって、集団となって僕を捕らえようとしているのだ。捕らえられてなるものか。けれども、僕の浮遊と、上昇は重たかった。子供たちの背丈の微か上を越えようとする時、笛が鳴って、ロープは網になって獲物を捕らえようとしていた。「それっ! 逃がすな」辛うじて縄の繊維に少し触れただけで、難を逃れた。
「名前は?」
 名前を知る子はいなかった。誰も僕の名を呼ぶことはできない。
「部外者だ!」
 先生の声が追いすがる頃、安堵の雲の下で僕は笑い、笑い声を聞いて泣いたりした。

 忘れられた道を歩くとほとんどの店は畳まれていて、そうでない店はひっそりと佇んでいた。店などに気を取られていたので誰かと肩をぶつけてしまう。お婆さんは紙の力士のように飛んでいって、向こう側の道で無事に着地した。道を隔てて謝るが、お婆さんは敵意を剥き出しにしている。「ちくしょー! 許さない!」お婆さんの声が耳元で聞こえた。
 大型バスの上に駆け上がって逃げた。「腹立つー。捕まえる。死んでも捕まえる!」捕まってはならない。死なれても困る。お婆さんは道を渡って、バスに手をかけた。本気で上ってこようとしているようだ。頂上での決戦を避けるため、こちらから下りた方がよさそうだったが、下を見ると駆け下りる自信がなくなっていった。
「こんなもの!」
 お婆さんが自分の頭の上のものを取るとお婆さんは一瞬男に見えて、それから若い女になった。お婆さんは女忍者だったのだ。全身を躍動させるようにして瞬時にバスを制すると忍者はすぐ僕の隣にいて、切れのあるハイキックを浴びせるとバスを下りて逃げていった。
「待て!」
 一転追う立場になるとバスを駆け下りることはわけもなかった。忍者の逃げ足は速く、その影を見失うまで時間はかからなかった。剥がれかけた商店街の壁には手配中のコンビニ強盗の似顔絵が貼られていた。

 父と電話がつながった。
「救急車呼ぶか?」
「うーん……」
 僕は曖昧にしか答えられない。
「よしわかった」
 父は救急車は呼ばず、自分が車で向かうから待つようにと言った。
 僕はその時間を利用して寿司をつまむことにした。母のところに行って、お茶をもらう。
 お茶は恐ろしく熱くて、茶碗に触れるだけで汗をかいた。寿司をつまむと口の中が生臭くなったような気がした。
 風呂場に行くとすりガラスの向こうに女の影が見えた。
「何?」
「いや。歯を磨くだけ」
 自分の歯ブラシを探すが慌てているせいかなかなか見つからない。何本も、カラフルな歯ブラシ、ボロボロになったもの、一度も使ったようでないもの、束になったもの、あることはあるのに、自分のものと思えるものだけが見つからなかった。何人もの家族、何十人もの家族、あるいは家族でない者もこの洗面所を利用しているのかもしれなかった。仕方なく自分の指を使って、指先に塩を塗って磨くことにした。恐ろしい塩だったのか、磨いていると歯が落ちた。口の中から落ちたのだから、最初は歯だと思ったのだ。次々と落ちてきて、それがひどく輝いて見えるので、それは歯ではないのだと思った。高価な石を砕いた物が口の中から出てきたのだ。
「疑われるでしょう?」
 そんな物が出てきたら疑われると母は言った。母自身も疑っているのだろうか。次々と石や金属を口の奥から吐き出した。気持ち悪くなってきて、咳き込んだ。
「あの時だ」思い出した。風船の下で、金魚やパンダに囲まれていた、あの時。
「どうして言ってくれなかったの?」
 あの時以外は考えられなかった。吐き出すほどに気持ち悪くなって、咳き込んで、最後は血が出てきた。
「大丈夫か?」
 父が戻ってきた。血を見て心配してくれるので、少し安心した。

 面会に来た兄と名人戦一番勝負が始まると同時に炊飯器のスイッチが入った。音が鳴ったら混乱してしまうと兄が抗議したが、僕は取り合わなかった。構わず時計を押せばいいのだ。時間が切れたら負けだよと兄に念を押した。いずれにしても最後に僕が勝っていればいいのだ。角をつかんだところで院長先生が来て、勝負はお預けになった。続きは、通信機能を使ってすることになった。絶対勝つからね。
 眠れない時が続いた。けれども、いつの間にか眠りの時に吸い込まれていたのだった。気がつかずに見ているのは偽の夢だった。眠れないという幻想の中で枕の上には蟻が三匹、いた。三という数字はもはや深刻でそれに満たなければ偶然という可能性も考えられたのだが。偽の思い出に浸りながら、偽のVTRを見た。偽のチームが偽のユニホームを着て、偽の試合の中で最初は硬かったり所々でミスも見られたが、ついに偽のチームメイトがゴールを決めた。僕は自分が出てくる場面を楽しみに待っていた。と金が寄って馬が入ったらどうするんだと僕は思った。
「そんなのは簡単に受かるからね」
 十五世名人は余裕の笑みを浮かべながら答えた。どうやっても受かるし、それ以上有効な攻め手が続かないという。
「最初に馬を引いたのがどうだったかね。むしろ車の上に残しておいたら困ったけど」
 十五世名人の言葉には重みがあった。
 兄は、待ちながら拍子抜けしていただろうか。僕は約束を忘れて、通信機能を使わなかったし、駒を並べてもいなかったのだ。偽の思い出の中で、僕はついに自分の出現を待ちきれずに病院を飛び出した。アーケード街の中に女忍者は、いた。

 ショーウインドウの中でマネキンとたわむれながら、女は大きな口を開けて口紅を手にしながら笑っていた。
「ついに見つけたぞ!」
 よくもやったな。メイクを直す手を止めて女忍者は僕と向き合い拳を交えた。手首と手首、肘と肘、腰と腰がぶつかって、骨が弾ける音が狭い檻の中に響いた。どこで覚えたのかわからなったけど、その時、僕はカンフースターになっていた。手は、犬になり蛇になり竜になり、星になった。
「よくもやったな!」
 白熱した勝負を道行く人は足を止めて見た。その時、二人は注目の中で互いのスタイルを認め合った。

「よかったら一緒に行く?」
「別にいいけど……」
 顔が緩まないようにしながら、彼女の後に続いた。何かを飲みに行くのか、食べに行くのか、遊びに行くのか、行くべきところに行くのか、理解のないまま、彼女の隣に並んで、どこまでも歩いた。知らない道をどこまでも行くと、やがて帰れなくなる。
「昔、家族で」
 家族でよく行った場所があると彼女は言った。そのような場所が突然現れたことを心より喜んで、彼女の案内に従った。
 壁と壁の間に、彼女は半身になって吸い込まれていく。先に行った彼女に、少し引き離されてしまった。無理だ。とても、無理に思った。
「最初だけよ」
 彼女は言った。戻れなくなる覚悟で、最初の壁と壁の間に入った。少し壁が動いたような手触りだった。一歩入ると壁全体が明らかに揺らめいているのがわかった。そういう仕掛けになっているのだった。進むほどに道が開ける。
「待って!」
 広がるあまり、ここがどこかわからなくなる。彼女は待たなかった。最初から、待っていなかったのかもしれない。広がりの先に、大勢の人の姿が見えた。何かを、待つように。
「走れ!」
 男は言った。手の中のコーラが僕を走らせなかったが、コーラの中で弾ける泡が記憶を溶かし、今までの道程の中で本当の目的を思い出させた。兄さん、持って来ました。ようやく、僕は兄さんにコーラを届けることができた。
「よーし。今度は走れるだろう」
 もう急き立てる必要もなくなったというように男は言った。みんなが列を作りながら、菓子や、パンや、アイスクリームを手にして誰かを待ちわびていた。それは僕かもしれない。
 もう一度、群衆の中に忍者の姿を探した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

離れ離れ

2012-11-12 19:13:40 | ショートピース
黙すると間もなく間が生まれた。「おめでとう」祝ったまではよかったが間もなく間ができた。間は成長してどんどん大きくなってしまう。だんだんと他人行儀にもなって、もう「おめでとう」と言う間でもない。元より離れていくことだけが定めで、「愛している」とは永遠に言えなかった。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雨上がり

2012-11-12 17:39:34 | 短歌/折句/あいうえお作文
iTunes
メールが破る
朝の中
還らぬ夢の
領土を想う

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

光と亀

2012-11-09 01:53:55 | ショートピース
誰よりもゆっくりと歩く背中に、上空から世界で最も速い光が届く。振り返る間も与えずその背を奪った。「もう離さない! これからはずっと一緒」と月は抱きついた。断ち切れない縁の果てに、月スッポンが誕生した。「もう比べられることもないね」世界の果てまで2人は一緒に歩んだ。#twnovel

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする