眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

迷子の子

2012-11-16 00:40:20 | 夢追い
 家を借りることになった。
「前に行った?」
 行ったことはあるけれど番地は知らないと姉は言う。
「一緒に行こう」
 車はテープかと訊くとCDだというのでCDを見つけに部屋に行ったが、見つけたと思うとそれはDVDだったりマークボランだったりした。マークボランは姉の感性に合わず受け入れられないのだ。早くしろ。
「家具は庭に置いていくの?」
 雨に濡れてもいいのかと訊くとお兄ちゃんの本棚だと母が言うが、雨についての答えが欠けているので不満が残った。
「お父さん行ってくるよ」
 お父さんの顔を見て来いと兄が言うが、そう言う間に父が下りてきた。パソコンはどうだったかなと言って、父は1つも顔を見ないので困ったものだ。
 カルテがまだだ。1枚を手にとって見るとそれには治療方針の変更が記されていて大事なカルテだった。助けないから助けるに矢印が渡っていて、医師のわだかまりがとけるとある。1枚でも多く持って行きたかった。
「もういいから」何がいいのだ。
 何も書いていない人はどうするのかと訊くと連れて行かないと母は言い、放っておくのよと姉が答えた。
 音楽を聴くはずが車内で流れているのは世界一受けたい授業だった。
 見知らぬ子供がゾンビの真似をしながらフロント硝子に張り付いているのをはねのけて車は発進した。すぐに別のいじめの現場を目撃することになり、停止して注意したのだった。

 男は焼きそば王にふさわしい威厳を持って丘を下ってくる。シャドーボクシングの息を吐きつつ、丘を下りながら緑を狩っている。見る見る間に体中を緑で染め上げ、支え切れなくなると手伝ってもらった。果たしてその緑は食べられるのだろうか。それはニラ科の一種でニラの仲間だった。海賊時代に学んだ知識から、食べられることを知っていたのだった。
「いらない」
 と言うが何か食べなければと母は言った。
 煮えたぎる鍋を両手で抱えていた。その中にはもう1つの別の鍋が入っている。その中には釜が入っていて、中では米が煮えたぎっていた。
「何か食べなければ」
 とうとう米は火を噴いて燃え始めたが、母はそんなことにはおかまいなしだ。襖に飛び火して燃えていたが、消火器は取っ手もなくて役立たずだった。カーテンを千切って叩いて火を消した。使い道のない消火器を玄関の外に出しておくことにしたが、猫が間違って持っていかないかという心配が、早くも湧いてきた。

「散歩に行ったね」
 母が父の思い出を話していた。犬は柱についた傷を見つめている。まだ幼い頃自分でつけたのだ。
「散歩に行ってくる」
 思い立ったように兄が言った。
「どこまで?」
 兄は行った。夜だったし、どこまでかわからなかったので、一緒に行かなかった。

 おじいさんを覚えているのか熊は洗濯物を取ってきてくれる。まだ乾いていないものを持ってくることもあったが、ぼけているので仕方がない。少しずつよくなっていけばいいとおばあさんは笑った。
 パスコの隅のシェイクスピアには行かずにお正月の録画を見るが、巻き戻してもなかなか現れなかった。後ろ向きに流れないし、家の外で動いている暇な人たちと同じ速さで動くのだ。「ワインを買わなくちゃ」誰かが正月らしいことを言っていると奇想天外な動物たちが動き始めた。

 犬用のトングを持って家を出るともう昼になっていた。兄の姿はなかった。歩いている内に、兄に追いつくことは不可能なことのように思われた。あらゆる瞬間にもう兄が帰宅しているように思え、無駄足ばかりが伸びていくように思われた。こうなるのなら一緒に行けばよかった。あるいはまだ夜が少しは残っている間なら、手がかりも残っていたかもしれないのだけれど。犬連れの女の人を坂の向こうに見ると急に心が折れてしまった。犬連れではない自分を恥じ、自らを恥じる自分を哀れみながら坂を下った。調和したものたちからは逃げなければならない。来る時に見えなかった白い砂が一面に盛り上がりながら緩やかな傾斜で湖まで伝っているのが見えた。不純なものは何もないように見えた。
 女は母と話をしながら坂を下りてきた。2匹の小犬が先走りながら、いつの間にか僕の横に並んでいた。
「食べれるの?」
 手の中は白く満ちていて、良い香りがした。女は聞こえているのにただ笑っていた。子供のように、もう一度訊くのをためらって、僕はあれこれ推測していた。食べられるものが、この辺りにあふれているとしたら、それは少しおかしなことのように思えた。不純なものは何もないように見えたけれど、それ以上のことははっきりとわからなかった。
 手から砂が零れ終える頃、再び1人だった。
 どこまできたのだろうか……。(どこからきたのだろうか) また、夜だった。 


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