眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ピンクライオン

2012-05-24 21:47:50 | 夢追い
 楽しげな女の子たちの声が近づいてきたので、待合所を離れた。部屋の中にはもう使うことのないコルセット。女性的な形をしているのが嫌だった。捨ててしまいたい。けれども、それが病院の物だったとしたら返さなければならない。ベランダに飛び出しても鳥は逃げ出すこともなく、踊りの稽古をしている。屋上へ続く道は、多少危険ではあったけれど、誰かと顔を合わせるよりはいくらか優位で、そこに冒険をする価値があった。

「教えてくれ」
 何も持たないおばあさんが道をおりてきた。
「男たちはどこに行った?」
 少し怒っているようだった。誰もいないことが僕をいくらか親切にして、おばあさんが野球の続きを探しているのだと知った。おばあさんの代わりにあちらこちらを歩き回り、手がかりを探すがどこにも見つからなかった。もしかしたら55分だから、一時的に中断されているのかもしれないと思う頃、レンガ造りの一軒の家からユニホーム姿の男が出てきた。その顔には見覚えがあった。それらしい答えが近づいてくる、確信に似た気配があった。

「おばあさん。見つけたよ」
 ミルクと書かれていたので牧場だと思っていた。そこが野球場だったのだ。
 新しい座席はゆったりとしていて、照明がまぶしかった。華々しくDJが入ってくると、生まれつつある一体感に打ちのめされて下を向いた。目を閉じて頑なな昆虫のように存在を消していたのに、しばらくすると誰かが肩を揺すっていた。「お客様。眠るのだけはやめてください」いいえ違います。眠ってなんかいません。こうしていさせてください。空席を埋めるように自動的に座席が動き始め、臨場感が高まるように最適化されると、ゆったりとしていた座席がうそみたいに詰まった。興奮した子供たちの声に紛れることで、少し落ち着きを取り戻すことができた。始まる。いよいよ試合が、始まる。

「あのボタンは何?」
 柱についたボタンのことだ。
「病室が開くんだ」
 試合の興奮と高揚が残って、知らない人の質問にも答えてしまう。まぶしすぎた世界から離れれば、すぐに元の現実の中を歩き始めなければならない。薄暗い道を歩いて、トンネルに入ると途中工事中のため行き止まりになっていて、地下へと続く小さな穴の中を下りなければならない。透明なプラスチックシートの上には硝子の破片が散らばっていて、振動で落ちてしまわないように警備員が下から体を張って支えている。信じなければ先へと進むことはできなかった。地下通路を通り抜けて中庭にたどり着くと、一帯は金網に囲われていた。唯一の扉には鍵がかかっていた。

「中から開けてもらうしかない」
 彼は言った。警察に気づかれない方法があると言った。そして、僕たちは動物の鳴き真似を始めたのだ。きっと狐はこのように、鳴くのだろう。鳴いて、鳴いて、博士を呼ぶのだ。
 しばらく鳴き合っていると、出てきたのは博士ではなく野獣の方だった。ピンクライオンが牧場の中から飛び出してきて、金網に食いかかってきた。鋭い爪が先走る朝のように網の間から覗き、僕は後ずさった。
「大丈夫。金網を越えることはできない」
 彼らの言葉には耳を貸さず逃げ出した。地下通路へ戻る道は既に塞がっていて、できるだけ遠いところへ逃げる。

「どうして抜け出ることができたんだ」
 驚くような声がして、振り返ると確かにピンクライオンはこちら側の世界にいた。彼らが銃のようなものを構えているのが見えた。他に出口はないのか、必死で探して走り回った。
 どうしておばあさんの話を聞いてしまったのだろう……。力を貸したこと、答えを探し当てたことが迷い込むことの始まりだった。
 どこにもない。完全な囲い。金網をよじ登りながら、再び振り返った時、獣は放たれた網の中に捕らわれてもがいていた。けれども、それは時間の問題だ。
 もう一度、僕は狐になって鳴いてみた。

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いきなり文庫

2012-05-24 12:54:58 | ショートピース
長旅がつきものだった。途中、妖怪が出たり様々な邪魔が入ったりして、ようやく着いたと思ったらそれは幻だったりと、通常は三年かかるものだった。「今回、直通の空路ができましてな」雲の上から猿が言った。誰もが気軽に有難い本を手にすることができる世の中がようやくやってきた。#twnovel

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