座布団の上で冒険を待っている。行き先は私の一存では決められない。
待つ時間は相手の手番であり、私の時間でもある。
ご飯が炊けるのを待つ間、ご飯の時間であり私の時間でもある。雨が上がるのを待つ間、雨の時間でもあり私の時間でもある。
棋士が漕ぎ出す船を待っている。本当の強者は手番に関係なく手を読むことができるが、私はどうだろう。読み以前に、空想に耽る時間も大事にしたいと思う。私は扇子を開き、空想に風を送った。
仕掛け前の腰掛け銀をみながら、私はいつかの猫を思い出していた。下校途中に気がつくと後ろをついてきていた。不思議な猫は誰のものでもなく、しばらくの間みんなの人気者だった。雲が流れ、煙が漂い、炎の中からサムライが現れた。時代劇だ。ばったばったと悪を斬り捨てて行く。サムライは個であって普遍でもあった。刀が鞘に収まってエントランスに猫が現れる。猫は人目を忍んで金銀に近づいたり離れたりを繰り返す。
腰掛け銀をみていると、様々な風景と変化を想うことができた。想うところがある限り、読む材料には事欠かない。
「指されました」
空想の庭から戻ってくると、何か指されたようだ。
思ってもいなかった手が、盤上に現れている。
横から眺める時間は絵画のように動かないのに、自分に突きつけられた時間は激流のように落ちていく。
(もうゆっくりしていられなくなった)
私は大きく扇子を広げて肩にのせた。
これが私の翼だ。
さあ、どこへ飛ぼうか。
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