
ゴミを拾い自転車を道端に寄せた。地味な作業が一段落を迎えた頃、落ち葉に触れると浮遊の感覚が戻ってきた。
古民家の壁をよじ登って軽く浮遊実験に入った。人気ないところから始める手もあったが、気が逸っていた。偉大な実験がこそ泥騒ぎに変わるかも知れない、危ないところでもあった。路地裏に着地した時、一服する料理人と顔が合った。「おつかれさま」と男は頭を下げた。同業者だと思われたのかもしれない。
浮遊コントロールに自信を得て一気に高度を上げた。高いビルをクリアする途中、浮遊して行く以外に垂直に壁を駆け上がる動作を取り入れてみた。これは映え増しだ。
最上階に近いところまで浮遊した時、室内で窓掃除をしている男と目が合った。男は驚いて雑巾を落とした。それから見えなくなって、戻ってきた時には手に缶コーラがあった。
「おつかれでしょう」
開いた窓から差し出してくれた。
体を傾けながらコーラを流し込んだ。この動作は映えるぞ。
「おー!」
地上からの歓声だろうか。
専門家の提案によって精密なスキャンを受けると、浮遊細胞の活発な拡散が認められた。翌月には『ムー』への掲載も決まった。
「重力コントロールに成功した唯一の存在」
唯一の……
わるくない響き!
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