青いドットが空を輝かせる。青はいつまでも青のままだ。車社会はどこへ行ってしまったのだろう。おじいさんは懐かしい歌を思い出すように、あの頃のことを頭に浮かべてみる。空想を遮るような奇声はいつもの侵入者だ。
「しっ!」
邪魔者のない駐車場を心行くまで駆け回る猫たち。時には敵と、時には友と、時には風のつくり出す魔物たちを追って。愛情をみせるでもなく、おじいさんはただ追い払うのみだ。
「遊び場じゃないぞ!」
猫はおじいさんの威嚇をいつも甘くみている。慌てて逃げ出すようなことはせず、駆けっこが一段落してからゆっくりと散っていくのだ。
「これはどういうことだ!」
ある朝、おじいさんの駐車場が高級車いっぱいに満たされていたのだった。それは奇跡のような光景にみえた。
「おばあさん……。これは?」
「あら、忘れたの? 夕べおじいさんが描いた絵じゃないの」
「そっかー」
空いたスペースをキャンバスにして自分の理想を描いてみたのだ。描いている時には夢中だったが、一晩寝るとすっかり忘れていた。一台一台が光ってみえる。だが、銭にならない。1円にもならないじゃないか……。
相変わらず猫たちはやってきた。高級車の上をお構いなしで駆け回って、自分の庭のように振る舞った。
「こらーっ!」
猫への愛情が芽生える様子はみられなかった。
「すごい値がついたわよ!」
「何だって、おばあさん」
おばあさんがネットにあげると高値がついた。
「おじいさんのポルシェ、2万円よ!」
「本当かね、おばあさん」
「すごい! すごい! 売れるわよおじいさん!」
「だけど、おばあさん……」
突然、おじいさんは顔を曇らせた。
「売れたところで絵の車じゃ動かせないじゃないか」
「大丈夫よ!」
心配無用とおばあさんは笑っている。
「おじいさんの車なら、空だって飛べるわよ!」
・
春めいた涙の上がる店先に
スケートボードキャットの帰還
(折句「ハナミズキ」短歌)
