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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

秋の栞

2020-10-16 11:37:00 | 幻日記
「あ、あちー」
 地獄のような熱さだった。つけた足を引っ込めて服を着た。まだ踏み込むのが早すぎた。部屋に引き上げて時を待つことにした。その時が来たら、また改めて湯船に向かおう。
「お食べ」
 ばあちゃんがたこ焼きを持ってきてくれた。楊枝に刺して口に運ぼうとしたが、唇に触れた瞬間、身の危険を感じて引き離した。それは大変な熱さだった。とても今すぐ口に入れることはできない。その時を待って、僕はたこ焼きを食べることにした。
 それから僕は本を開いた。開いた瞬間、挟まっていた尻尾が抜けて猫が逃げて行った。猫の夢のあとに物語は広がっている。今こそ本を読む時なのだろう。時折、開けっ放しの窓から風が入ってくる。もう、秋である。




夏の残像

2020-10-16 04:41:00 | ナノノベル
 麦藁帽が並んでいた商品棚は、今はもうかぼちゃのオブジェであふれていた。熱狂の蝉たちはもういない。替わって到着した虫たちが秋のクラシックを奏でている。十月の旅人が、クーポンを握りしめて街をさまよい歩いている。
 素麺の包装がキッチンの隅で泣いていた。買い溜めした蒟蒻ゼリーも、まだたくさん余っている。「もっと夏は続くもの…」(夏は暑く長いもの)と思っていたが、気づいたら終わっている。何度終わりを経験しても、学習することができない。

 扇風機を片づけに倉庫に行くと、出損ねたお化けたちが膝を抱えるようにして座っていた。思いの外、出番がなかったらしい。
「もっと冷やしたかったのに……」
 女のお化けが怨めしそうに言った。彼女たちも学習の途中かもしれない。家の周りが湿っぽい空気で満ちていた。

「ハロウィンがあるよ!」
 この街のハロウィンはカオスの中にある。何者でも入り込むことができるのだ。
「本当?」
 お化けたちが、興奮したように浮き上がった。思った以上に大勢いる。そのまま出れば問題ないことを伝えたところ、ひゅーひゅーと喜んだ。
「土曜の夜にね」