ブロックの向こうにシロの鼻先が見えた。覚えていたんだね。よくここがわかったね。どうみても無理なのに、シロは僅かな隙間に鼻を滑り込ませようとしている。駄目だ。挟まってしまう。来ちゃ駄目だよ。
「誰かいるの?」
その時、継母の声がして、シロは鼻先を離すと身を引いた。間もなくシロは姿を消した。
ムチ師は馬や猪や犬を追いかけながらムチを振った。恐る恐る窺いながら近づくと、ムチ師は足を止めて振り返った。何秒か僕を見つめて、確実に人間であると認めた上で、接近してムチを振った。咄嗟に身を引くが、ムチの先が伸びて腿に当たってしまう。大丈夫、耐えられる。何度か接近を繰り返し、ダメージを受けながらもムチ師のスピード、ムチを繰り出すタイミング、ヒットした時のダメージの大きさを探った。
ムエタイのスターと棒のおっさんがやってきた時、ついに僕らは攻撃に転じた。犬が猪を追って駆ける時、馬は遠くを見ながら油断させ、その隙に僕は暴言を吐きながらムチ師をおびき寄せた。怒り狂ったムチ師は、横殴りにムチを振り回してくるが、既にそのスピードは見切っている。僅かに腿に当たったくらいで、背後から回り込んだスターのひと蹴りによって、ムチ師は滅びたのだった。
激闘を終えて空を飛んだ。スターも並んで飛んだ。棒のおっさんにはそうした能力はなく、棒を激しく回転させながら、大草原を駆けている。
「上手く方向を変えられる?」
ずっと悩んでいた問題を、横を飛ぶスターに思い切ってぶつけてみた。
「膨らんでしまうんだ」
「そんなの当たり前じゃないか」
少し拍子抜けするような答えだった。
「飛行機の歴史を考えてみろよ」
真っ直ぐ飛ぶのと曲がるのとではまるで違うとスター言った。
駅ビルの角を曲がる時にやはり膨らんで、もたもたとした。何かかっこわるいな……。
(本当にそうかな)
まだスターの言うことに納得はいっていなかった。
僕らは自分の意思で飛ぶのだから、飛行機とはわけが違うのでは。
「ターンか……」
機内にかけてスターは思い出したように言った。
「えっ?」
「これはシャンパンがうまいぞ」
西に回り込んだシロは新しいブロックの隙間を見つけた。隙間は前よりも大きく開いていた。鼻先を先に潜り込ませると同時に顔と体が続いて、シロは無事にそこを通り抜けてこちらにやってきた。真っ直ぐこちらに飛び込んでくるシロと抱き合って共に喜んだ。ブロックの障壁はもはや取り除かれた。残る問題は政治だけだ。日を改めて公の場に立つ。僕から言おう。
「結婚してくれ!」
「ちょっと待て!」
ブローカーが現れて、部署を変わってもらうと言った。
「遥かに優秀な犬がいるのだから」
完全にブロック塀が解体されると友達の犬もやって来て、家の中を普通に歩き回るようになっていた。
今日はまた庭から青い犬がやってきて、絨毯の上に上がり込もうとしている。
「お父さん!」
押し返しても押し返しても、青い犬は帰っていかない。
「この犬だけ駄目というのもな……」
父はわかっていないのだ。シロと僕がどれだけの仲だったのか。
「誰かいるの?」
その時、継母の声がして、シロは鼻先を離すと身を引いた。間もなくシロは姿を消した。
ムチ師は馬や猪や犬を追いかけながらムチを振った。恐る恐る窺いながら近づくと、ムチ師は足を止めて振り返った。何秒か僕を見つめて、確実に人間であると認めた上で、接近してムチを振った。咄嗟に身を引くが、ムチの先が伸びて腿に当たってしまう。大丈夫、耐えられる。何度か接近を繰り返し、ダメージを受けながらもムチ師のスピード、ムチを繰り出すタイミング、ヒットした時のダメージの大きさを探った。
ムエタイのスターと棒のおっさんがやってきた時、ついに僕らは攻撃に転じた。犬が猪を追って駆ける時、馬は遠くを見ながら油断させ、その隙に僕は暴言を吐きながらムチ師をおびき寄せた。怒り狂ったムチ師は、横殴りにムチを振り回してくるが、既にそのスピードは見切っている。僅かに腿に当たったくらいで、背後から回り込んだスターのひと蹴りによって、ムチ師は滅びたのだった。
激闘を終えて空を飛んだ。スターも並んで飛んだ。棒のおっさんにはそうした能力はなく、棒を激しく回転させながら、大草原を駆けている。
「上手く方向を変えられる?」
ずっと悩んでいた問題を、横を飛ぶスターに思い切ってぶつけてみた。
「膨らんでしまうんだ」
「そんなの当たり前じゃないか」
少し拍子抜けするような答えだった。
「飛行機の歴史を考えてみろよ」
真っ直ぐ飛ぶのと曲がるのとではまるで違うとスター言った。
駅ビルの角を曲がる時にやはり膨らんで、もたもたとした。何かかっこわるいな……。
(本当にそうかな)
まだスターの言うことに納得はいっていなかった。
僕らは自分の意思で飛ぶのだから、飛行機とはわけが違うのでは。
「ターンか……」
機内にかけてスターは思い出したように言った。
「えっ?」
「これはシャンパンがうまいぞ」
西に回り込んだシロは新しいブロックの隙間を見つけた。隙間は前よりも大きく開いていた。鼻先を先に潜り込ませると同時に顔と体が続いて、シロは無事にそこを通り抜けてこちらにやってきた。真っ直ぐこちらに飛び込んでくるシロと抱き合って共に喜んだ。ブロックの障壁はもはや取り除かれた。残る問題は政治だけだ。日を改めて公の場に立つ。僕から言おう。
「結婚してくれ!」
「ちょっと待て!」
ブローカーが現れて、部署を変わってもらうと言った。
「遥かに優秀な犬がいるのだから」
完全にブロック塀が解体されると友達の犬もやって来て、家の中を普通に歩き回るようになっていた。
今日はまた庭から青い犬がやってきて、絨毯の上に上がり込もうとしている。
「お父さん!」
押し返しても押し返しても、青い犬は帰っていかない。
「この犬だけ駄目というのもな……」
父はわかっていないのだ。シロと僕がどれだけの仲だったのか。