ぼくの毛は地毛だよと書かれたTシャツが売られている街角で、ぼくらはバスを待っていた。
もう何日か待っていたのだが、今日は特別に雨が降りそうだった。
「もうコーヒーがなくなりそうだよ」
缶を揺すりながら、ぼくは言った。
「ケイジくんという友達が、いたような気がするんだよ。
小さかったから、わからないけど」
地面に鉛筆を立てながら、男は言った。
「ケイジくんは覚えているだろうか。
どっちでもいいけどね。
昔のことだから」
降り始めた雨に、ぼくは缶を差し出した。
「これでコーヒーが蘇ったよ」
「半分は、雨だろうけどね」
「薄まったコーヒーだよ」
「キミにはいないのかい?」
疑問符が大きな水溜りを作り、その中に夜を映し出していた。
夜は、始まったばかりのようでもあり、終わりかけているようでもあった。
車輪を引きずりながら、夜とは別の生き物がぼくらの前に訪れた。
「ぼくは行くよ」
雨の中で、男の声が聴こえた。
「あれがバスに見えるのかい?」
「それでも、ぼくはあれで行くよ」
ぼくは、動かなかった。
疲れて遠ざかってく男の背中に、缶コーヒーを掲げた。
光は車輪をつれて走り去り、ぼくはコーヒーを飲み干した。
もう、味はなかった。
*
瞳を閉じて雨音を聴く猫から、マキは自分のケータイを取り戻し開いた。
ケイジが頭の中で刑事に変換されたので、一瞬身構えてしまった。
「雨の日のバスって嫌よねえ。
傘から雫が、ぽつぽつとするから……」
けれども、次第に強まる雨に、マキの感想文はすっかり呑み込まれてしまった。
バスは、来なかった。
もう何日か待っていたのだが、今日は特別に雨が降りそうだった。
「もうコーヒーがなくなりそうだよ」
缶を揺すりながら、ぼくは言った。
「ケイジくんという友達が、いたような気がするんだよ。
小さかったから、わからないけど」
地面に鉛筆を立てながら、男は言った。
「ケイジくんは覚えているだろうか。
どっちでもいいけどね。
昔のことだから」
降り始めた雨に、ぼくは缶を差し出した。
「これでコーヒーが蘇ったよ」
「半分は、雨だろうけどね」
「薄まったコーヒーだよ」
「キミにはいないのかい?」
疑問符が大きな水溜りを作り、その中に夜を映し出していた。
夜は、始まったばかりのようでもあり、終わりかけているようでもあった。
車輪を引きずりながら、夜とは別の生き物がぼくらの前に訪れた。
「ぼくは行くよ」
雨の中で、男の声が聴こえた。
「あれがバスに見えるのかい?」
「それでも、ぼくはあれで行くよ」
ぼくは、動かなかった。
疲れて遠ざかってく男の背中に、缶コーヒーを掲げた。
光は車輪をつれて走り去り、ぼくはコーヒーを飲み干した。
もう、味はなかった。
*
瞳を閉じて雨音を聴く猫から、マキは自分のケータイを取り戻し開いた。
ケイジが頭の中で刑事に変換されたので、一瞬身構えてしまった。
「雨の日のバスって嫌よねえ。
傘から雫が、ぽつぽつとするから……」
けれども、次第に強まる雨に、マキの感想文はすっかり呑み込まれてしまった。
バスは、来なかった。