眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

雨と缶コーヒー

2009-12-22 17:21:56 | 猫の瞳で雨は踊る
ぼくの毛は地毛だよと書かれたTシャツが売られている街角で、ぼくらはバスを待っていた。
もう何日か待っていたのだが、今日は特別に雨が降りそうだった。

「もうコーヒーがなくなりそうだよ」
缶を揺すりながら、ぼくは言った。

「ケイジくんという友達が、いたような気がするんだよ。
小さかったから、わからないけど」
地面に鉛筆を立てながら、男は言った。

「ケイジくんは覚えているだろうか。
どっちでもいいけどね。
昔のことだから」

降り始めた雨に、ぼくは缶を差し出した。
「これでコーヒーが蘇ったよ」

「半分は、雨だろうけどね」

「薄まったコーヒーだよ」

「キミにはいないのかい?」

疑問符が大きな水溜りを作り、その中に夜を映し出していた。
夜は、始まったばかりのようでもあり、終わりかけているようでもあった。
車輪を引きずりながら、夜とは別の生き物がぼくらの前に訪れた。

「ぼくは行くよ」
雨の中で、男の声が聴こえた。

「あれがバスに見えるのかい?」

「それでも、ぼくはあれで行くよ」

ぼくは、動かなかった。
疲れて遠ざかってく男の背中に、缶コーヒーを掲げた。
光は車輪をつれて走り去り、ぼくはコーヒーを飲み干した。
もう、味はなかった。


*


瞳を閉じて雨音を聴く猫から、マキは自分のケータイを取り戻し開いた。
ケイジが頭の中で刑事に変換されたので、一瞬身構えてしまった。
「雨の日のバスって嫌よねえ。
傘から雫が、ぽつぽつとするから……」
けれども、次第に強まる雨に、マキの感想文はすっかり呑み込まれてしまった。
バスは、来なかった。



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