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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

運命の人

2019-01-30 00:03:36 | リトル・メルヘン

 昔むかしのことを考えながら歩いているとどんどん体が軽くなってゆくように感じられて、ますます弾むように先へ先へと歩いて行くと、時折風が吹いてかなしみが落ちて、かなしみが雨を降らせると、虹がかかりふわふわと虹の橋を歩いているとちょうど同じ頃に向こうからお姫様が歩いてきたので、結婚しました。
 めでたしめでたし。

3人の子供

2019-01-28 21:38:04 | リトル・メルヘン

 昔々あるところに3人の兄弟がいました。
 ある日、長男が末っ子を抱き上げて高い高いをすると、それを見つけた次男が駆け寄ってきました。
「危ないことをするな!」
 次男は長男を見上げながら一喝しました。
 めでたしめでたし。

消しゴムの旅

2019-01-25 01:26:08 | リトル・メルヘン

 昔々あるところにFの好きなおじいさんがいました。Fの駒音。Fの角出。Fのシステム。Fの文体。Fの端攻め。Fのお城。おじいさんはFの本を読み棋力の向上に努めました。好きと上手は別のもの。おじいさんは次第に自分の才能に疑問を持ち始めました。好きであることを疑うことは思いつきもしませんでした。その内におじいさんはまたFを好きになりました。Fの駒音。Fの角出。Fのよそ見。Fの文体。Fの端攻め。Fの地下鉄飛車。Fの注文。Fの消しゴム。
 消しゴムの回転を真似て詰将棋にも挑戦しました。最初は思うようにいかなかったものが、繰り返し練習する内にみるみる回転速度が増し、消しゴムはおじいさんの手の中を生き生きと回りました。まるで拡張されたおじいさんの身体の一部のようでした。おじいさんが命じるよりも早く、消しゴムは率先して回り始め、おじいさんが一休みした時でも、いつまでも高速で回り続けることがありました。
 けれども、消しゴムの回転とおじいさんの読みのスピードは、残念なことにつながってはいないようでした。7手の辺りに読みの壁があったからでした。おじいさんは気分によって消しゴムを数種類使い分けました。そのために、おじいさんは、いつでもポケットの中に幾つかの消しゴムを持っていたのでした。頭の中にFの問題を浮かべながら、ポケットの中の消しゴムに触れていることもありました。そうして好きなことを考え続けているといつの間にか時間が流れすぎています。
「お腹空いたな」
 おじいさんは消しゴムに乗ってF井寺までうどんを食べに行きました。
 めでたし、めでたし。

もう知らない

2019-01-24 22:55:37 | リトル・メルヘン

 昔むかしあるところにおじいさんがいたのだけれど、今はいませんでした。
「御免ください」
 旅人はおじいさんの家をたずねました。
「おじいさんは今はいないよ」
 と奥から若者が出てきました。
「おじいさんには世話になってね」
 と言う若者は他の惑星から来た凄い男でした。
「今まで数え切れないほど地球のピンチを救ってきたし、人々から感謝もされてきたけれど」
 若者はもう十分だという顔で、空になった缶を右手1つで握りつぶしてしまいました。
「これ以上こんなところにいたら自分が駄目になってしまう」
 つぶれた缶を投げ捨てながら若者は言いました。
「地球はどうなるんだ?」
 旅人は、こんなところなんて言う奴はとっとといなくなってしまえと内心思いながらも、一応問いかけてみました。
「知らんがな」
 若者はそう言い捨てると飛んで自分の星に帰っていきました。
 めでたしめでたし。

今はいない

2019-01-22 19:25:43 | リトル・メルヘン
昔むかしあるところにおじいさんがいたのだけれど、今はいませんでした。
「御免ください」
 旅人がおじいさんの家をたずねたけれど、誰からも返事はありません。
「誰かいませんか?」
 けれども、返事はありません。
「おじいさんはいませんか」
 おじいさんが家に住んでいたけれど、今はいないのでした。
 タイミングのわるい時に来てしまったな、と旅人は思いました。
 そして、今度はおじいさんのいる時にたずねるとしようと決めました。
「また来ます」
 旅人は、無人の家に向かってそう言うと帰って行きました。
 めでたしめでたし。


雲の向こう

2013-04-25 00:44:01 | リトル・メルヘン
 時々振り返っては誰かが追いついてくるのを待っている。すっかり慣れているのか、女の子はヘルメットも被っていない。その速さでは、なかなか追いつくことは難しいだろう。滅多に車の通らない裏通りだった。空いっぱいに広がる白い帯に目を奪われながら歩いていると、急に止まった女の子とぶつかりそうになって、慌てて道の反対側に歩いた。彼女は一輪車を降りて身を乗り出すと、橋の下を覗き込んでいた。そうして川を眺めながら、大人たちが追いつくまで待つことに決めたようだった。

 歩道の真ん中で腰を落とす犬の影が見えた。飼い主が後始末をしている横を通り過ぎる。散歩する犬と飼主を、今日だけでも何組も見かけたが、つい先ほども腰を落とし留まる犬を見たばかりで、今日は何か特別な夜なのかもしれないと思った。
 歩道の端をスケボーに乗った男の子がゆっくりと通り抜けて行った。慎重にバランスを取りながら、まだ不慣れなのか体に小さな鞄を巻いた少年はゆっくりと私を追い抜いて進んでいく。その影はどこか、舞台を横切っていく坂田師匠を思わせた。
 横断歩道を渡った先に、まだ少年はいた。時々降りて、足元を確かめてから、また進み出す。相変わらずゆっくりと歩道の端を微妙にぶれながら進んでいく。常に少し先を行く少年は、私を先導し続け、私は決して彼を追い抜くことはできない。少年は次第に遠ざかっていくが、横断歩道に差し掛かったところでいつも追いついた。

 大きな交差点に差し掛かった時、少年はいなかった。右を見ても左を見ても少年はいない。横断歩道を渡ったところで、もう一度、辺りを見回した。もしかしたら、少し先を行っているのかもしれない。けれども、どこにも少年の姿はなかった。
 闇が覆った後でも、飛行機雲は、まだ空いっぱいに白く広がっている。
 その最先端に、少年はいるのだ。


猫とミルク

2012-12-18 00:05:13 | リトル・メルヘン
 行く先々で人とぶつかった。
「ごめんなさい」
 そうして謝る時もあれば、何だ馬鹿野郎と言って逃げ出すことも多かった。逃げれば道は開けるような気がして、一時リセットボタンが押されるのだが、行く先々には知らない人がいて、知らない人だから大丈夫かと思いきや、また前と同じようにぶつかってしまう。ぶつかるついでにカフェに寄って、休憩する。おかげでカフェにたどり着く足取りだけは確かなものとなった。

 どこに行っても同じようにぶつかるのはどうしてだろう。違うところにたどり着いては、同じことばかりしている。
「そう。おまえと同じように」
 カフェの前には白く太った猫が横たわって入店の邪魔をしている。
「いらっしゃいませ」
 テーブルの上にマウスを置いて、化粧室に向かう。ノートPCはコーヒーが届いた後でゆっくり広げるのだ。
 もう長い間、人とぶつかり続けているので、ぶつかり稽古日記も膨大な量となっていた。記録を元にして反省するというわけでも、いつか誰かに見せるというわけでもないが、なぜか残しておくべきような気がして、長い間そうしていたのだった。
 手を洗い鏡を見ると、いつものように冴えない顔をした自分が立っていた。
「いつも代わり映えがしないな」

 自分の席に戻ると猫が腰掛けてマウスをつついていた。
 さっきまで表で眠っていた白く太った猫だった。意外と変わり身が早いものだ……。
「玩具じゃないんだぞ!」
 そう言って猫を向かいの席に座らせると、静かにコーヒーの到着を待った。
 猫は反省したのか、もう目を閉じて大人しくしている。


風の議員

2012-12-12 22:43:41 | リトル・メルヘン
「傾いているようですが」
 新しく建った塔は西日を受けながら、今にもこちらに倒れてくるのではと思われた。
「わざとそうしているのです。安全上」
 それで合っているのだと議員は言った。
「風の強い日に、自転車をどうすると思います?」
 風の強い日だった。歩道の端に隙間なく自転車が並んでいた。ずっと止まっている物もあれば、今止めたばかりの物もあるのかもしれない。何のことだろう……。風と自転車がどうしたというのだろう。

「今日は風が強い」
 自分が起こした風だというように威厳を込めて言った。
「こうするんです!」
 言葉と共に蹴り上げる。議員の黒い踵に押し出されて自転車は豪快にドミノ倒しとなり、音に気づいた人々が一斉にこちらを見た。
 私はすぐに議員から距離を取った。

 どうして握手なんてしたのだろう……。
 ほんの少し前に握った議員の厚い手の感触が、まだ残っていた。