眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

雲の向こう

2013-04-25 00:44:01 | リトル・メルヘン
 時々振り返っては誰かが追いついてくるのを待っている。すっかり慣れているのか、女の子はヘルメットも被っていない。その速さでは、なかなか追いつくことは難しいだろう。滅多に車の通らない裏通りだった。空いっぱいに広がる白い帯に目を奪われながら歩いていると、急に止まった女の子とぶつかりそうになって、慌てて道の反対側に歩いた。彼女は一輪車を降りて身を乗り出すと、橋の下を覗き込んでいた。そうして川を眺めながら、大人たちが追いつくまで待つことに決めたようだった。

 歩道の真ん中で腰を落とす犬の影が見えた。飼い主が後始末をしている横を通り過ぎる。散歩する犬と飼主を、今日だけでも何組も見かけたが、つい先ほども腰を落とし留まる犬を見たばかりで、今日は何か特別な夜なのかもしれないと思った。
 歩道の端をスケボーに乗った男の子がゆっくりと通り抜けて行った。慎重にバランスを取りながら、まだ不慣れなのか体に小さな鞄を巻いた少年はゆっくりと私を追い抜いて進んでいく。その影はどこか、舞台を横切っていく坂田師匠を思わせた。
 横断歩道を渡った先に、まだ少年はいた。時々降りて、足元を確かめてから、また進み出す。相変わらずゆっくりと歩道の端を微妙にぶれながら進んでいく。常に少し先を行く少年は、私を先導し続け、私は決して彼を追い抜くことはできない。少年は次第に遠ざかっていくが、横断歩道に差し掛かったところでいつも追いついた。

 大きな交差点に差し掛かった時、少年はいなかった。右を見ても左を見ても少年はいない。横断歩道を渡ったところで、もう一度、辺りを見回した。もしかしたら、少し先を行っているのかもしれない。けれども、どこにも少年の姿はなかった。
 闇が覆った後でも、飛行機雲は、まだ空いっぱいに白く広がっている。
 その最先端に、少年はいるのだ。


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