松虫通を少し越えたところでバイクは溝にはまっていた。動けなくなった? 忘れられている? 目の前に信号があるかのよう僕は足を止めて残されたバイクのことを考えていた。
タイムスリップしてたまたまこの溝にはまってしまったの。緑の男たちから逃れるために、主人を思い自らの判断で身を隠したの。主人と喧嘩して拗ねてはまっていたけれど、草たちに囲まれて「いつも風を切ってるんだって?」意外とよくされて、居心地がよくなってずっとそのままいるの。空を飛んでいたけれど燃料切れになって落ち着いたところがここなの。道を走っていたけれど突然大地が歪んで挟まれてしまったの。主人が新しい車に乗り換えてから駐車場にいる時間が長くなったことに耐えかねて、家を出てきたけれど行くところもなくて溝にはまってしまったの。あるいは……。
「さあ、乗ってください」
ポニーは突然、口を開いた。
バイクについて考えていたけれど、いま目の前に存在しているのはバイクなどではなく、生きたポニーだった。どうして気づかなかったのだろう。
「新しいポメラがあなたを待っています!」
「僕を知っているの?」
「さあ、早く乗って!」
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