年月に関守なし…… 

古稀を過ぎると年月の流れが速まり、人生の終焉にむかう。

秋刀魚の歌

2015-10-11 | 俳句&和歌

◇◇◇  秋刀魚の歌

 サンマは「秋に獲れる刀のようなスラリとした形をした魚」から秋刀魚と書くそうだ。安くて栄養満点の大衆魚として人気があるが、もう一つ調理が簡単と云うのも人気の秘密である。塩焼きにしてカボスをギュッ!秋の味覚の代表とも呼ばれる逸品の出来上がりである。ここで炭火の七輪を連想するのは還暦を過ぎた世代であろう。
 七輪を思い出す世代にはもう一つ佐藤春夫の『秋刀魚の歌』も浮かんでくる。中学の国語の教科書にあったように記憶している。さんま、さんま さんま苦いか塩つぱいか。そが上に熱き涙をしたたらせて……  意味も解らず口ずさんでいたような記憶もある。
 実は『秋刀魚の歌』はとても中学生の教材になるような代物でないことを知ったのはずっと後になってからである。
 妻と別れた佐藤春夫が谷崎潤一郎の妻千代に横恋慕してスッタモンダノして二人の関係は険悪になり遂に絶交状態となる。後に谷崎が「奥さんゆずり渡し」を表明すると「細君譲渡事件」として、マスコミは世紀の大キャンダルとして大騒動となる。
 『秋刀魚の歌』は佐藤と谷崎の絶交中の確執の中で生まれたのである。詩の二節の中には、妻に逃げられた佐藤春夫の、千代に向けた思慕の切ない自嘲的な哀愁が謳われている。

  あはれ、人に捨てられんとする人妻と/妻に背かれたる男と食卓にむかへば、
  愛うすき父を持ちし女の児は/小さき箸をあやつりなやみつつ

 


  時を経た七輪出して戯れど火焚く場所なし捨てるもならず

  三陸の熱きサンマに冷酒の美味に隠れる波濤の嘆き


      秋刀魚焼くピンクソルトの煙りあげ

        絵になるな~丸に一文字サンマ載せ

 

※谷崎潤一郎=近代日本文学を代表する文豪 『細雪』な
※ピンクソルト=ヒマラヤ産岩塩で鉄分がピンクに発色