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続源太郎(3)

2013年09月17日 | 腰折れ文
「源太郎と絵理香」登場人物や設定はすべて架空です。

「山葵は、美味いだろ」「初めてなの」「ああ、この山葵は美味いんだ。と言ってもお前の家のものだけどな」と笑った。
「俺たちは食べるだけしか採らないし、そして採ったものは残さない、だから勘弁しろよ。その沢蟹もだべてみろ」と箸を出さない彼女に言った。
絵理香は恐る恐る沢蟹を口に運んだ。そしてその美味しさに驚いたが言葉が出なかった。香ばしく、冷えたご飯に絡めて食べると、コリコリという食感が不思議だ。

「嫌なら残してもいいぞ。俺が食べるから」と言うと絵理香は大丈夫という仕草を見せた。「鰍も焼けた」と言って、少し醤油を垂らし、串ごと絵理香に渡した。
少しグロテスクな鰍を彼女はしばらく見ていたが、真似して、大きな頭の脇の背を食べた。
熱い。表面の焼き目がついたパリッとした皮が歯に当たり、そして柔らかい白身の肉にが口にはいると、その美味しさに驚いた。初めて絵理香は、「美味しい」と声を上げた。源太郎は微笑んで、彼女を見ていた。男友達は彼女がどれも口にして、最後に美味しいと言った事に驚いていた。

「足は痛くないか」と切株に座っている絵理香に声を掛けた。「大丈夫」と答えが返ってきたが、源太郎は「片付けはするから座っていろ」といい、釜戸の火を丁寧に消し、空き缶を綺麗に洗い、麻袋に入れ、あっと言う間に元の平地に戻した。そして男友達にタモなどの道具を渡し、自分の自転車の荷台を空け、絵理香が座れる様にした。「後ろに座っていけ。ガタガタするが、サドルにしっかり捕まっていろよ」
自転車のスタンドが、立ったままなので少し高い荷台に手伝ってまたがせた。「いいか」と言って自転車を前に押した。スタンドが、外れる瞬間、トンと落差で揺れた。絵理香がしっかり捕まっているのを確認して道を自転車を押しながら下っていった。

「源太郎くん。楽しかったわ。ありがとう」源太郎は頷き、道の小石を巧みによけながら、自転車を押している。男友達は荒れた道を、何時もの様にスピードをあげて下っていったので、もう見えなくなっていた。

木立ちの中を沢から吹く風を感じながら谷の出口まできた。絵理香の家の庭先にきて、自転車を止めたが、スタンドを立てるには、彼女の腰の下にある荷台を持たなくてならない事に源太郎は気づき、「自転車を手前に少し倒すから」と言って、ゆっくり倒した。絵理香は片足が地面について自転車から降りた。
「またな。ちゃんと足を消毒して、赤チンを塗っておけよ」といい源太郎は帰っていった。絵理香は源太郎が通りの門に消えるまで、見送った。
源太郎が家に着くと真っ白になった親父が農機具を片づけていた。

月曜日の朝、何時もの様に学校に行くと、男友達が、「野呂先生が職員室に来い」と言っていたと教えてくれた。職員室に呼ばれる事は、怒られると決まっていた。また小言を言われると思い、神妙に職員室に入ると、野呂が中二階にある校長室に一緒に来いと言う。これはただ事ではない。胸に手を当てても、悪い事は思い出せない。まして校長室という所に入った事もなかった。

丸めがねをかけた校長が座っていた。
「源太郎君を連れて来ました」と、日頃、君づけなどしない野呂が、気持ち悪い。
「源太郎君。君は日曜日に大関さんと山葵田に行ったそうだね」
何で校長が知っているのか。源太郎は、嘘はつけないので、頷いた。
「そこで、怪我をした大関さんを手当てして、自宅まで送ったらしな」
誰が喋ったのか、それが悪いことなのか。源太郎は不安になった。
「大関さんのご両親から、お礼を言って欲しいと先ほど見えて、君の名前を言ってかえった。いいところがあるじゃないか」
野呂が、口を挟んだ。
「こいつは、勉強はダメですが、そういう所はしっかりしています」
さも自分の手柄のように野呂は言い放った。
「野呂先生。その言い方は良くない。褒める時は、ちゃんと褒めなさい」
野呂は、ガニ股の足を揃えて、「はい」と答えた。あの怒ると直ぐにビンタが飛ぶ野呂を見て笑えた。
「僕はね。山葵田という所にいった事がない。今度、理科の授業で課外活動をしたいと大井先生から頼まれている。どうだい、君が先生役で山葵田を案内してくれるかね」
校長は昨年街の大きな学校から転任してきたばかりで、都会の先生だったから本当に知らないのだと源太郎は思った。
「こいつには、無理ですよ」と突然野呂が口を挟んだ。
「そんな事はない。君は頭越しに言いすぎる。やらせて見ることは大事だ。源太郎君。どうだ、やってくれるか。僕も参加するから」と校長は絵理香の家の了解もとってあるといい、源太郎に同意を求めた。源太郎は頷き、それを見届けて「頼むね」と立ち上がって源太郎の肩を叩いた。

「お前、ガリ版出来るか」と野呂が聞いたが、源太郎は昔ガリ版の鉄筆を壁に投げて遊んで、こっ酷く野呂に殴られて以来、触れたことなどなかったから、首を横に振った。
「それなら、大関さんにも手伝ってもらいなさい」と校長がいうと、野呂は、それなら大丈夫だと言った。

源太郎は、何をどうするかわからないので、「校長先生。僕は遊びならできますが、難しい事は無理です」と不安な気持ちをいうと、「遊びでいいから、やって見なさい。理科の大井先生には私から話しますから、放課後に大関さんと理科室に行きなさい」と校長はいって、野呂に彼女にも伝えるように指示した。校長室を出る時に野呂は、またガニ股を揃えてお辞儀をした。

教室に源太郎は戻った。