アズナブールの曲で、ダリダがヒットさせた曲を、いまフランスで歌のうまさに定評があるAmel Bentが歌う。「私のやり方」という訳でいいと思うが、本家のダリダと聴き比べてみるのも面白い。客席にアズナブールやカースが座っている。彼女には相当なプレッシャーがあっただろう。
【源太郎】登場人物や設定はすべて架空です。本文の引用等はしないで下さい。
四人は受付を済ませ会場に入った。すぐに招待した営業マンが源太郎に近付き小声で何やら話し、一義に挨拶をして一義と香をテーブルに案内した。
一義は椅子を引き、香を隣の席にエスコートした。源太郎と玲子は少し離れた席に座り、開会を待った。すでにウエルカムドリンクが注がれ、同じテーブルの招待客と会話が始まっている。遅れて篤が源太郎のテーブルにきて、玲子の隣の席に座り、玲子の姿をみて、源太郎にやるなと目配せして、玲子に丁寧に挨拶した。先ほどの営業マンは、一度は一義の席にいったものの、外人ばかりがすでに着席していたので、結局入口付近の同業者の席に着いた。
日本のように長々した挨拶も無く、主催者の簡単な挨拶の後、食事が始まった。香の美しさは会場の華になっている。二人は流暢な英語で同席の招待客と談笑していた。篤は玲子の肩越しに二人をみて、思惑が秀でていることに改めて感心した。
「玲ちゃん。いや、玲子さん、一段と美しいですね」
「橋本さん。御上手ね」
「ダメだよ。俺の彼女だから、手を出すなよ」
「馬鹿言え。親友の彼女は共有が常識だろ」
「源太郎さん。一度も褒めてくれないの。橋本さんに乗り換えようかしら」
「玲子さんなら、ウエルカムだよ」
「篤さんは、妻子がいる。ダメだ」源太郎は急に会話を分断した。
「源さんらしくないな。玲子さん。あいつヤキモチ焼いているんだよ。わかったよ、手を出さない」
くだらない話しがしばらく続いたあと、篤が源太郎に言った。
「玲子さんの前でも、話していいか」
「ああ、彼女なら解っている。大丈夫だ」玲子は話を遮らなかった。篤は、二人のことについてどうするか、源太郎に聞いた。
「篤さん、僕は病院の次期院長に一義を据えることに腹を決めたよ。僕は医者じゃないからその器ではない、親父はそのことを一番気にしている。僕には兄弟がいないから、苦労して作り上げた病院を他人に譲ることは親父の本意ではない。仕方のないことだ。だから、誰が見ても一義が適任だと思っているが、彼には経営センスはない。もし他人があいつの伴侶になったら、その影響は必ず現れる。でも、彼女が一義と一緒になれば、彼女の母親の償いになるし、血の繋がった娘だから、親父も満足するはずだ。問題は俺の母親だが、そのことは親父も墓場まで持っていくだろうから、悲しませることはない」
玲子は、一義が院長になることの意味をやっと理解した。篤は、源太郎の話に頷き、一義は父親が何度か援助を申し出たことに対して一切断ったことなど、調べた情報を話している。その時、美しい外人の女性が篤の隣に立った。
「ゲンサン。オシサシブリ」すかさず、篤は立ち上がり、椅子を引いた。
「オクレテ、ゴメナサイ」「大丈夫だよ。アンナはどうだい」「エエ、オカアサマニキイタケドダイジョウブ」「そうかい。安心したよ」
「ゲンサン、ゴショウカイクダサル」とセレナは源太郎に催促した。玲子は突然、目の前に、しかも、源太郎に馴れ馴れしい女性に驚き、その姿に見とれていた。背丈は玲子と変わらないが、顔は小さく真白で透き通る肌、そして何より濃い緑色のイブニングドレスをきこなしている美人である。
源太郎は、玲子を紹介して、このパーティーの同伴者であることを説明した。セレナは、自ら篤の妻であること、スペイン人で、娘がいること、玲子の聞きたいであろう事を短くもストレートに答えた。そして、源太郎に、篤から聞いていた彼女と直ぐに理解し、ウインクをして合格のサインを送った。源太郎は、セレナの名前の由来や、二人の馴れ初めを語った。そして始めて、玲子は自ら自己紹介をした。セレナは、社交辞令ではなく、源太郎にふさわしい女性だと評価した。
食事が済み、パーティーが終わる頃、源太郎が一義に本館のトップラウンジで飲むことを伝え、篤夫妻と玲子は会場を出ることにした。一義も同席した医者夫妻と飲むとの返事だった。源太郎が会場を出る時、営業マンの大石が同行したいと申し出たが、篤夫妻がスペイン語で話しているのを聞いて、自ら遠慮した。源太郎は、篤に礼を言った。この業界は、日本流の慣習が根強く、酒の席で売り込みを図る。そのために彼らは来ているが、鬱陶しいというしかない。そして、営業マンは、帰社すると旅先の話をネタに病院にアポなしで出入りする権利を獲得したと思い込む。源太郎はそれが嫌いだった。
篤も営業だが、彼は病院には来ない。しかも、銀座や赤坂にも行かない。しかし、病院への販売力はすごい。あいつらは足元にも及ばない。結局、不得意な語学で、その場で恥をかくことを恐れ、日本流の接待に持ち込めないと判断すると、自ら引き下がるしかなかった。それでも、帰社して営業した痕跡を残すため、あぶれた仲間内で、高価な店に出向き、噂話に終始して、領収書を戦利品として持ち帰り、部下に自慢するのが海外接待の実情なのだ。それを、わかり切っている篤は、セレナと英語ではなくあまり日本人が知らない彼女の母国語のスペイン語で話したのだ。これでは、多少英語がわかる営業マンでも太刀打ちはできない。セレナは篤の最大の武器だった。
窓際の席に着き、先ほどの話を篤と源太郎は始めた。セレナと玲子は笑いながら、この旅の話に盛り上がっている。それでも、玲子は源太郎たちの会話に左耳を立てている。源太郎は、父親に話すタイミングを何時にすべきか、篤に相談した。篤は帰国後の早い時期がいい言い、この一義と香に玲子との関係を話し、彼らにかけられたタガをはずすべきだと言った。そして、妹だということは、二人には絶対に話してはいけないと、忠告した。
源太郎は頷き。そこには玲子も同席させること、そして篤にも同席してくれることを確認した。その時、篤はセレナにスペイン語で説明しセレナも理解して、源太郎に了解のサインを送った。源太郎は、玲子に同意を求め、快諾した。そして、それからは、又それぞれの会話に戻った。
ひと時が過ぎた。一義と玲子はラウンジに現れ、四人の元に来て、丁寧に挨拶して座った。香は、酔いも見せず、しっかりとした口調でセレナに自己紹介し、グラスを傾けた。しばらく、パーティーの後の話を源太郎は一義に聞き、頃合いを見て、話し始めた。
「一義、香さん。実は、この前交際宣言を光琳坊で言ったが、僕の持病の浮気の虫がでて、香さん以上に好きな娘ができた。今、篤さんにも怒られていたところだ。香さんとは食事ぐらいの付合いでしかなかったが、その時は真剣だったことは理解して欲しい」香は、自分の予感は的中していたことに安堵して、そうだったでしょという自信を表情に出すことは避け、一義の顔を見て、玲子を見た。
「だから、お前はダメなんだ。いつだって、そうだろ。香さんにも失礼だし、話すのは旅が終わってからでも良かったじゃないか。それで、相手は誰だ」一義は解っているが、一応叱責して、相手を聞いた。香は、玲子だといい、一義の責を止めた。玲子は昨晩自分が体調を崩し、それが、ボタンの掛け違いになったと原因を分析し、香自身にも非があると言って、交際宣言はなかった事にしようと言って源太郎をかばった。
それまで黙っていたセレナが突然発言した。貴方達は間違っている。そしてなにひとつ真実の言葉で話していない。神に嘘をつていると、時折スペイン語が混じり、篤がその度に注釈を加えながら語る。
「貴方達は、皆ごまかしている。誰が好きなのか皆隠している。私は好きなら堂々と好きだと言うわ。貴方達は、la verdad monda y lironda(あるがままの真実)という意味を解っていない。その点源太郎さんは素直で、正しい行動をとった。それなのに、貴方達はごまかしている。玲子さんには何の罪はない、玲子さんには神が愛を与えたの。はっきり言うわ。香さん。貴方が本当に心に思っている人は一義でしょ。そのはずよ。だから源太郎さんの立場が悪くならないように、貴方に非があるようにふるまっている。そんなのは偽りよ」香には、セレナの言葉が突き刺さった。
「貴方達は気づいていない。香さんの美しい着物。素晴らしいわ。一義のカフスもきらりと光るわ。でも貴方達は気づいていない。神が与えた二人の共通点も、偽りの中では気づかないでしょ」源太郎はセレナが話してしまうことを恐れた。
「神は、二人の気持ちを試しているの。ほらね。同じ花なのよ。私にはそう見えるわ。だから貴方達は、なるべくして此処にいるの。貴方達はそれが解ったなら、源太郎と玲子さんを祝福すべき。心に正直にならないといけない」とセレナは興奮気味に話し終えた。話し合って合わせた衣装ではないが、セレナの指摘で、初めて一義と香はお互いの柄を見て、その意味を初めて気づき縁を感じた。セレナは源太郎に軽いウインクをして、どう、やるでしょという表情を浮かべた。
「源太郎。すまなかった。実はお前が玲子さんを本当は好きだと気付いていた。玲子さんを送った時、彼女の話で解っていた。でも、お前が香さんと交際宣言したので、それはそれで諦めようと、諦めるべきだと自分の気持ちを封印した。本当は香さんをあの旅行の夜から忘れられないでいた。でもどうすることもできなかった。すまん」黙って聞いていた香は、口を開いた。
「私は一義さんと出会った時から不思議な気持ちだった。母の葬儀の時に源太郎さんに偶然会った時、もう一度一義さんに逢いたいと思ったわ。勿論源太郎さんにお会いできたことは嬉しかったの。でももう一度逢いたかった。それで源太郎さんのお誘いに乗ったの。ごめんなさい」
源太郎は、それ以上二人に懺悔させるわけにはいかなかった。「いいよもう。残念だけど香さん僕の第二夫人ということでいいかな」「だめよ。絶対に認めないわ。第二も第三もね。私が認めないとだめでしょ」と玲子は茶化した。その場にふぅーと笑いが戻った。源太郎はやっと収まるべき所に落ち着いたと安堵し、残り少ない旅の時間を存分に過ごすことが出来ると思った。それは、二人も同様だった。
そして、篤がセレナと部屋に戻ると言い、一義と香は立ち上がりセレナにお礼を述べ、振り返りえった篤は右手をあげて戻って行った。源太郎は精算を済ませ、明日はお互いに楽しもうと話し玲子の手をとって立ち上がり、今夜は別々の部屋と言い、玲子はそれはいやだと答えている。おやすみの言葉を残して別館に戻って行った。
四人は受付を済ませ会場に入った。すぐに招待した営業マンが源太郎に近付き小声で何やら話し、一義に挨拶をして一義と香をテーブルに案内した。
一義は椅子を引き、香を隣の席にエスコートした。源太郎と玲子は少し離れた席に座り、開会を待った。すでにウエルカムドリンクが注がれ、同じテーブルの招待客と会話が始まっている。遅れて篤が源太郎のテーブルにきて、玲子の隣の席に座り、玲子の姿をみて、源太郎にやるなと目配せして、玲子に丁寧に挨拶した。先ほどの営業マンは、一度は一義の席にいったものの、外人ばかりがすでに着席していたので、結局入口付近の同業者の席に着いた。
日本のように長々した挨拶も無く、主催者の簡単な挨拶の後、食事が始まった。香の美しさは会場の華になっている。二人は流暢な英語で同席の招待客と談笑していた。篤は玲子の肩越しに二人をみて、思惑が秀でていることに改めて感心した。
「玲ちゃん。いや、玲子さん、一段と美しいですね」
「橋本さん。御上手ね」
「ダメだよ。俺の彼女だから、手を出すなよ」
「馬鹿言え。親友の彼女は共有が常識だろ」
「源太郎さん。一度も褒めてくれないの。橋本さんに乗り換えようかしら」
「玲子さんなら、ウエルカムだよ」
「篤さんは、妻子がいる。ダメだ」源太郎は急に会話を分断した。
「源さんらしくないな。玲子さん。あいつヤキモチ焼いているんだよ。わかったよ、手を出さない」
くだらない話しがしばらく続いたあと、篤が源太郎に言った。
「玲子さんの前でも、話していいか」
「ああ、彼女なら解っている。大丈夫だ」玲子は話を遮らなかった。篤は、二人のことについてどうするか、源太郎に聞いた。
「篤さん、僕は病院の次期院長に一義を据えることに腹を決めたよ。僕は医者じゃないからその器ではない、親父はそのことを一番気にしている。僕には兄弟がいないから、苦労して作り上げた病院を他人に譲ることは親父の本意ではない。仕方のないことだ。だから、誰が見ても一義が適任だと思っているが、彼には経営センスはない。もし他人があいつの伴侶になったら、その影響は必ず現れる。でも、彼女が一義と一緒になれば、彼女の母親の償いになるし、血の繋がった娘だから、親父も満足するはずだ。問題は俺の母親だが、そのことは親父も墓場まで持っていくだろうから、悲しませることはない」
玲子は、一義が院長になることの意味をやっと理解した。篤は、源太郎の話に頷き、一義は父親が何度か援助を申し出たことに対して一切断ったことなど、調べた情報を話している。その時、美しい外人の女性が篤の隣に立った。
「ゲンサン。オシサシブリ」すかさず、篤は立ち上がり、椅子を引いた。
「オクレテ、ゴメナサイ」「大丈夫だよ。アンナはどうだい」「エエ、オカアサマニキイタケドダイジョウブ」「そうかい。安心したよ」
「ゲンサン、ゴショウカイクダサル」とセレナは源太郎に催促した。玲子は突然、目の前に、しかも、源太郎に馴れ馴れしい女性に驚き、その姿に見とれていた。背丈は玲子と変わらないが、顔は小さく真白で透き通る肌、そして何より濃い緑色のイブニングドレスをきこなしている美人である。
源太郎は、玲子を紹介して、このパーティーの同伴者であることを説明した。セレナは、自ら篤の妻であること、スペイン人で、娘がいること、玲子の聞きたいであろう事を短くもストレートに答えた。そして、源太郎に、篤から聞いていた彼女と直ぐに理解し、ウインクをして合格のサインを送った。源太郎は、セレナの名前の由来や、二人の馴れ初めを語った。そして始めて、玲子は自ら自己紹介をした。セレナは、社交辞令ではなく、源太郎にふさわしい女性だと評価した。
食事が済み、パーティーが終わる頃、源太郎が一義に本館のトップラウンジで飲むことを伝え、篤夫妻と玲子は会場を出ることにした。一義も同席した医者夫妻と飲むとの返事だった。源太郎が会場を出る時、営業マンの大石が同行したいと申し出たが、篤夫妻がスペイン語で話しているのを聞いて、自ら遠慮した。源太郎は、篤に礼を言った。この業界は、日本流の慣習が根強く、酒の席で売り込みを図る。そのために彼らは来ているが、鬱陶しいというしかない。そして、営業マンは、帰社すると旅先の話をネタに病院にアポなしで出入りする権利を獲得したと思い込む。源太郎はそれが嫌いだった。
篤も営業だが、彼は病院には来ない。しかも、銀座や赤坂にも行かない。しかし、病院への販売力はすごい。あいつらは足元にも及ばない。結局、不得意な語学で、その場で恥をかくことを恐れ、日本流の接待に持ち込めないと判断すると、自ら引き下がるしかなかった。それでも、帰社して営業した痕跡を残すため、あぶれた仲間内で、高価な店に出向き、噂話に終始して、領収書を戦利品として持ち帰り、部下に自慢するのが海外接待の実情なのだ。それを、わかり切っている篤は、セレナと英語ではなくあまり日本人が知らない彼女の母国語のスペイン語で話したのだ。これでは、多少英語がわかる営業マンでも太刀打ちはできない。セレナは篤の最大の武器だった。
窓際の席に着き、先ほどの話を篤と源太郎は始めた。セレナと玲子は笑いながら、この旅の話に盛り上がっている。それでも、玲子は源太郎たちの会話に左耳を立てている。源太郎は、父親に話すタイミングを何時にすべきか、篤に相談した。篤は帰国後の早い時期がいい言い、この一義と香に玲子との関係を話し、彼らにかけられたタガをはずすべきだと言った。そして、妹だということは、二人には絶対に話してはいけないと、忠告した。
源太郎は頷き。そこには玲子も同席させること、そして篤にも同席してくれることを確認した。その時、篤はセレナにスペイン語で説明しセレナも理解して、源太郎に了解のサインを送った。源太郎は、玲子に同意を求め、快諾した。そして、それからは、又それぞれの会話に戻った。
ひと時が過ぎた。一義と玲子はラウンジに現れ、四人の元に来て、丁寧に挨拶して座った。香は、酔いも見せず、しっかりとした口調でセレナに自己紹介し、グラスを傾けた。しばらく、パーティーの後の話を源太郎は一義に聞き、頃合いを見て、話し始めた。
「一義、香さん。実は、この前交際宣言を光琳坊で言ったが、僕の持病の浮気の虫がでて、香さん以上に好きな娘ができた。今、篤さんにも怒られていたところだ。香さんとは食事ぐらいの付合いでしかなかったが、その時は真剣だったことは理解して欲しい」香は、自分の予感は的中していたことに安堵して、そうだったでしょという自信を表情に出すことは避け、一義の顔を見て、玲子を見た。
「だから、お前はダメなんだ。いつだって、そうだろ。香さんにも失礼だし、話すのは旅が終わってからでも良かったじゃないか。それで、相手は誰だ」一義は解っているが、一応叱責して、相手を聞いた。香は、玲子だといい、一義の責を止めた。玲子は昨晩自分が体調を崩し、それが、ボタンの掛け違いになったと原因を分析し、香自身にも非があると言って、交際宣言はなかった事にしようと言って源太郎をかばった。
それまで黙っていたセレナが突然発言した。貴方達は間違っている。そしてなにひとつ真実の言葉で話していない。神に嘘をつていると、時折スペイン語が混じり、篤がその度に注釈を加えながら語る。
「貴方達は、皆ごまかしている。誰が好きなのか皆隠している。私は好きなら堂々と好きだと言うわ。貴方達は、la verdad monda y lironda(あるがままの真実)という意味を解っていない。その点源太郎さんは素直で、正しい行動をとった。それなのに、貴方達はごまかしている。玲子さんには何の罪はない、玲子さんには神が愛を与えたの。はっきり言うわ。香さん。貴方が本当に心に思っている人は一義でしょ。そのはずよ。だから源太郎さんの立場が悪くならないように、貴方に非があるようにふるまっている。そんなのは偽りよ」香には、セレナの言葉が突き刺さった。
「貴方達は気づいていない。香さんの美しい着物。素晴らしいわ。一義のカフスもきらりと光るわ。でも貴方達は気づいていない。神が与えた二人の共通点も、偽りの中では気づかないでしょ」源太郎はセレナが話してしまうことを恐れた。
「神は、二人の気持ちを試しているの。ほらね。同じ花なのよ。私にはそう見えるわ。だから貴方達は、なるべくして此処にいるの。貴方達はそれが解ったなら、源太郎と玲子さんを祝福すべき。心に正直にならないといけない」とセレナは興奮気味に話し終えた。話し合って合わせた衣装ではないが、セレナの指摘で、初めて一義と香はお互いの柄を見て、その意味を初めて気づき縁を感じた。セレナは源太郎に軽いウインクをして、どう、やるでしょという表情を浮かべた。
「源太郎。すまなかった。実はお前が玲子さんを本当は好きだと気付いていた。玲子さんを送った時、彼女の話で解っていた。でも、お前が香さんと交際宣言したので、それはそれで諦めようと、諦めるべきだと自分の気持ちを封印した。本当は香さんをあの旅行の夜から忘れられないでいた。でもどうすることもできなかった。すまん」黙って聞いていた香は、口を開いた。
「私は一義さんと出会った時から不思議な気持ちだった。母の葬儀の時に源太郎さんに偶然会った時、もう一度一義さんに逢いたいと思ったわ。勿論源太郎さんにお会いできたことは嬉しかったの。でももう一度逢いたかった。それで源太郎さんのお誘いに乗ったの。ごめんなさい」
源太郎は、それ以上二人に懺悔させるわけにはいかなかった。「いいよもう。残念だけど香さん僕の第二夫人ということでいいかな」「だめよ。絶対に認めないわ。第二も第三もね。私が認めないとだめでしょ」と玲子は茶化した。その場にふぅーと笑いが戻った。源太郎はやっと収まるべき所に落ち着いたと安堵し、残り少ない旅の時間を存分に過ごすことが出来ると思った。それは、二人も同様だった。
そして、篤がセレナと部屋に戻ると言い、一義と香は立ち上がりセレナにお礼を述べ、振り返りえった篤は右手をあげて戻って行った。源太郎は精算を済ませ、明日はお互いに楽しもうと話し玲子の手をとって立ち上がり、今夜は別々の部屋と言い、玲子はそれはいやだと答えている。おやすみの言葉を残して別館に戻って行った。