「おはよう。昨日は付き合わせてすまなかった」いつものように源太郎は遅刻した。
「ああ、おはよう。驚いたけれど、お前らしくもないな。本当に付き合うのか」看護婦がいないことを確認して、源太郎に聞いた。一瞬、源太郎は答えに間があった。
「おう、そういうことだ」
「院長には、話しいつするんだ」
「もう少しあとだな。またダメになるかもしれないから」
「相変わらずだな。でも彼女は真剣だろ。だったらいいじゃないか。お前も年貢の納め時だよ」
「お前だって、昨日玲ちゃんと相性良かったようだし、どうだ彼女は」
「馬鹿言うなよ。子供だよ」
「そうかな、俺はいい娘だと思うがね」源太郎が、お前には渡さないぞと言わんばかりに、あえて一義に推薦していることが解った。
「お前、まさか二股じゃないよな。帰り道に玲子さんは、おまえのことばかり話していたぞ。そんな娘をあの場所に呼ぶとは、お前おかしいんじゃないか」
「あの子が、しつこく言いよるから、終息宣言だよ」なんだ、やっぱり彼女だったじゃないかと想像通りに一義は安心し、玲子の話はすべて事実だということを改めて納得した。
「呆れた奴だな。二人を泣かしたら許さんぞ」
「そこで、頼みだ。香さんと上手く行くまで、あの娘を頼む。ちょっと色々あってな」と源太郎が意味深に言ったので聞き返そうとしたところに、看護婦の深雪が入って来たので「解った」とだけ一義は答え、源太郎は右手を挙げて診察室を出て行った。
「おはようございます。先生は昨日早く帰りましたね。デートですか」看護婦の深雪が、意味ありげに朝の挨拶をした。
「昨日は、事務長と久々に飲み会ですよ」
「やっぱり、遊び人との飲み会ですか、と言うことは、コンパですね」
「違うよ。大学時代の集りだよ。それより、カルテ持って来て」
「面白くない飲み会ですね。近頃事務長まったく誘ってくれないんですよ。イタリアンがいいな。先生から言ってもらえませんか」
「わかったよ、診察始めるよ」一義は、玲子のことをふと思った。さほど年が違わない深雪とくらべると玲子の欲の無い素直さが際立って見えた。
紫檀で作り込まれた書棚が並び、あきらかに金のかかった院長室に源太郎は入った。
「お前。近ごろ、家にこないな。母さんが、うるさくてかなわん。たまには家に寄れ」
「院長、病院では事務長と呼んでくれよ。俺にも立場がある」
「何言ってんだ。事務長らしい仕事していたら、そう言うよ。毎度まいど看護婦連中と飲み歩いているらしいな」
「冗談じゃないよ。今月は一回もない。昔の親父だって、似たようなもんだっただろ」
「口数だけは事務長だな。まあいい、山本君の爪の垢でも処方してやりたいよ。とにかく、家に寄れ」
「解ったよ。ところで院長、タイで開かれる学会、誰を行かせます。製薬会社がせっついてますよ」といって、製薬会社が持ってきた資料をひらいた。
「気になっていたんだ。山本君に頼もうと思っているが、彼も忙しいからまだ言っていない」
「僕から一義に言いましょうか。鞄持ちもいるし」
「お前、又一緒を企んでいるのか。ダメだぞ。お前は遊びだからな」
「彼一人で行かせたら、この前みたいに製薬会社と喧嘩になりますよ。彼に行かせるなら、俺がついて行けば安心だろ」
「確かにそうだ。山本君は融通がきかないところが玉に傷だな。わかった。お前から言ってくれ。空きが出ないように、代診の手配も頼むぞ」
「アメリカン航空です」と玲子の同僚が受話器を取った。
「第二係の吉田さんお願いします。大和病院の大和と言います」と源太郎は事務的に顧客を装った。
「ハイ、吉田ですね。しばらくお待ち下さい」しばらくすると、玲子も事務的に電話に出た。
「ハイ、吉田です。いつもお世話になっています」
「おう、源太郎だけど、今日時間あるか」いつものしゃべりに源太郎は戻った。
「お客様、その便でしたら定刻に到着する見込みですね。お問い合わせでしたら、直接到着カウンター案内にお回しいたします」
「解った。新橋の葵で待っている」
「ありがとうこざいました」といって、玲子は受話器を置いた。
「よくかかって来ますね。大和病院さん」
「ええ、偉い先生のお迎え見たいですね。一度名前覚えられて、対応したら電話してくるんです」
「そうなの、あなたも大変ね。私なら、すぐ振っちゃいますよ」源太郎は携帯電話を使っていたが、まだ携帯電話が普及してはいなかったので携帯電話を持たない玲子に直接電話することはできなかった。相手の立場もあり、直接用件は言えないので、いつの間にか玲子は事務的な言葉の中で返事をするようになった。
「源太郎さん。だいぶ待ちました」
「何が定刻だよ。四十分遅れじゃないか」
「ごめんなさい。それより、何の話しなの」
「飲みたかったのさ」といって、お代りを頼むと同時に玲子の飲み物を注文した。
「それなら、打田さんにお願いしたらいかが」
「馬鹿言うなよ。彼女は空の上かもしれないのに、連絡できるかよ」
「てことは、私、合間の浮気相手なの」
「おお、そうだな。そーゆーことだ」
「知らないわよ。私、いつか本気になりますからね」
「いいよ。黙っていればわからないから」
「へえ、一義さんに連絡しようかしら」玲子はいたずらの目をして、グラスを少し上げていただきますという仕草で呑み始めた。
「お前も言うようになったね」
「ええ、これでも私、大人の男の人に教わりましたから」
「誰だ、そいつは」源太郎は解っているが、あえて聞いた。
「馬鹿ね。源太郎さんですよ。安心して。ところで、打田さんとは、どうなの、ねえ」
「そんなことはどうでもいい。俺と一義と来月中旬にタイに出張するんだが、玲ちゃん休みとれるかい」
「えっ。旅行なの。来月なら今からお願いしたら、シフト調整できると思うけど、何日」
「三泊五日」
「うーん。五日間か。土日挟めば大丈夫かな。それより何時」
「十六日の土曜日からさ。決まりだよな」
「ちょっと待ってよ。給料日前だし、しかも山本さんとご一緒なんて。源太郎さんなら多少は甘えられるけど、無理よ」
「ああ、費用は気にするな、全部病院持ちだよ」
「そんなことできるの、ダメよ。私、そんなことできないわ」
「大丈夫。製薬会社の招待旅行だから。ただ、パーティーがあって、同伴者がいるのさ。俺も、一義も独身だろ。香さんと玲ちゃんなら俺たちも安心だし、一義も香さんも英語は問題ないから、俺と玲ちゃんは飲み食いしてればいい」
「本当なの。でも大丈夫かな」
「何が」
「だって、ホテルの部屋」
「俺と一義、香さんと玲ちゃんで同室にすればいいだろ」
「私、山本さんと一緒でもいいわよ」源太郎の反応を見たくて、玲子はいたずらっぽく聞いた。
「ダメだろ。それはだめ」
「何でよ。だって、源太郎さんと香さん一緒がいいんでしょ」
「ダメだよダメ」
「なにいってるの。私と結婚すると言っておきながら、香さんみたいな、美人の彼女がいた人のダメなんて、信じないわ」
「それは、大人しかわからないこと、玲ちゃんも大人になればわかるよ」
「ふん。打田さんはさん付け、私はちゃんだよね。私、行かない」
「悪かったよ。玲子さん、頼むよ。事情はちゃんと説明するから。でも今は、信じてくれよ」
「そう。それなら、今日は、私、内縁の妻で通しますからね。大人の女として扱ってね。いいわよね」
「ハイ、ハイ」
「おい、山本先生いるか」
「あら、遊び人」
「病院だぞ。事務長と言えよ」
「ハイ、遊び人の事務長。先週は先生とコンパだったでしょ」深雪は、意味ありげに言った。
「馬鹿言うなよ。大学時代の集りだよ」
「へえ、山本先生もう同じこと言っていた。じゃ、本当なんだ」
「いいから、先生は」
「今CTです。もう少しかかりますね」
「解った。あとで、きてくれるように頼んでくれ」
「はーい」
「おう、忙しいところすまんな」
「ああ、診察が長引いたので遅くなった」
「構わんよ。ところで、来月の十六日から、薬剤学会でタイに出張してくれるように、院長から指示があった」
「やだよ、製薬会社の奴だろ」
「あの製薬会社は出入り禁止にした富士製薬だよ。今回は違う。でな、俺も行く。お前一人だと又喧嘩するからな。それで、同伴者が必要なので、俺は香さんを頼んである。お前は、玲子ちゃんを頼め」
「馬鹿言うなよ」
「そう言うだろうから、俺が根回ししてある。休暇ももうとってある。お前から連絡すれば、準備は終わり。ああ、それと、お前はヤダだろうが、俺と同室、香さんと玲子ちゃんが一緒。文句ないだろ。パーティーだけは同伴だけど、俺には香さんがいるので会話は問題なし、お前は大丈夫だ。玲子ちゃんだって航空会社、日常会話くらいできる。久々の旅行だし、いいだろ」
「お前とは違って、俺には患者さんがいるんだよ」
「わかっているよ。だから東を代診に手配した。東ならお前、文句はないだろ」
「ああ、彼なら安心だ。でもあいつよく、受けてくれたな」
「お前、俺を誰と思っている。事務長だよ、大和病院の」
「又、何か、裏工作したな」
「裏も表もあるかよ。素直に頼んだら、オッケーだよ。まあ俺の人徳さ。じゃ、いいな」
「香さん、色々ありがとう」
「大和さん。飛行機の手配とホテルは、大丈夫よ。でもホテルは別々でいいの」
「ああ、問題なし」
「でも私、大丈夫かなと思っているの」
「気にすることはない。あの学会は、ほとんど外国人、会話もすべて英語。そんなところに、俺が三分といられないことは、香さんが一番知っているよね。玲子ちゃんだって、さすがに、大変だよ。彼には大和病院の院長になってもらわないといけない。そうしないと、病院の行く末は心配だ。だから、今回、この学会で、彼の存在価値を不動のものにする必要がある。それを、助けて欲しい。頼むよ。上手くいけば、親父に話すから」
「解ったわ」
「ああ、おはよう。驚いたけれど、お前らしくもないな。本当に付き合うのか」看護婦がいないことを確認して、源太郎に聞いた。一瞬、源太郎は答えに間があった。
「おう、そういうことだ」
「院長には、話しいつするんだ」
「もう少しあとだな。またダメになるかもしれないから」
「相変わらずだな。でも彼女は真剣だろ。だったらいいじゃないか。お前も年貢の納め時だよ」
「お前だって、昨日玲ちゃんと相性良かったようだし、どうだ彼女は」
「馬鹿言うなよ。子供だよ」
「そうかな、俺はいい娘だと思うがね」源太郎が、お前には渡さないぞと言わんばかりに、あえて一義に推薦していることが解った。
「お前、まさか二股じゃないよな。帰り道に玲子さんは、おまえのことばかり話していたぞ。そんな娘をあの場所に呼ぶとは、お前おかしいんじゃないか」
「あの子が、しつこく言いよるから、終息宣言だよ」なんだ、やっぱり彼女だったじゃないかと想像通りに一義は安心し、玲子の話はすべて事実だということを改めて納得した。
「呆れた奴だな。二人を泣かしたら許さんぞ」
「そこで、頼みだ。香さんと上手く行くまで、あの娘を頼む。ちょっと色々あってな」と源太郎が意味深に言ったので聞き返そうとしたところに、看護婦の深雪が入って来たので「解った」とだけ一義は答え、源太郎は右手を挙げて診察室を出て行った。
「おはようございます。先生は昨日早く帰りましたね。デートですか」看護婦の深雪が、意味ありげに朝の挨拶をした。
「昨日は、事務長と久々に飲み会ですよ」
「やっぱり、遊び人との飲み会ですか、と言うことは、コンパですね」
「違うよ。大学時代の集りだよ。それより、カルテ持って来て」
「面白くない飲み会ですね。近頃事務長まったく誘ってくれないんですよ。イタリアンがいいな。先生から言ってもらえませんか」
「わかったよ、診察始めるよ」一義は、玲子のことをふと思った。さほど年が違わない深雪とくらべると玲子の欲の無い素直さが際立って見えた。
紫檀で作り込まれた書棚が並び、あきらかに金のかかった院長室に源太郎は入った。
「お前。近ごろ、家にこないな。母さんが、うるさくてかなわん。たまには家に寄れ」
「院長、病院では事務長と呼んでくれよ。俺にも立場がある」
「何言ってんだ。事務長らしい仕事していたら、そう言うよ。毎度まいど看護婦連中と飲み歩いているらしいな」
「冗談じゃないよ。今月は一回もない。昔の親父だって、似たようなもんだっただろ」
「口数だけは事務長だな。まあいい、山本君の爪の垢でも処方してやりたいよ。とにかく、家に寄れ」
「解ったよ。ところで院長、タイで開かれる学会、誰を行かせます。製薬会社がせっついてますよ」といって、製薬会社が持ってきた資料をひらいた。
「気になっていたんだ。山本君に頼もうと思っているが、彼も忙しいからまだ言っていない」
「僕から一義に言いましょうか。鞄持ちもいるし」
「お前、又一緒を企んでいるのか。ダメだぞ。お前は遊びだからな」
「彼一人で行かせたら、この前みたいに製薬会社と喧嘩になりますよ。彼に行かせるなら、俺がついて行けば安心だろ」
「確かにそうだ。山本君は融通がきかないところが玉に傷だな。わかった。お前から言ってくれ。空きが出ないように、代診の手配も頼むぞ」
「アメリカン航空です」と玲子の同僚が受話器を取った。
「第二係の吉田さんお願いします。大和病院の大和と言います」と源太郎は事務的に顧客を装った。
「ハイ、吉田ですね。しばらくお待ち下さい」しばらくすると、玲子も事務的に電話に出た。
「ハイ、吉田です。いつもお世話になっています」
「おう、源太郎だけど、今日時間あるか」いつものしゃべりに源太郎は戻った。
「お客様、その便でしたら定刻に到着する見込みですね。お問い合わせでしたら、直接到着カウンター案内にお回しいたします」
「解った。新橋の葵で待っている」
「ありがとうこざいました」といって、玲子は受話器を置いた。
「よくかかって来ますね。大和病院さん」
「ええ、偉い先生のお迎え見たいですね。一度名前覚えられて、対応したら電話してくるんです」
「そうなの、あなたも大変ね。私なら、すぐ振っちゃいますよ」源太郎は携帯電話を使っていたが、まだ携帯電話が普及してはいなかったので携帯電話を持たない玲子に直接電話することはできなかった。相手の立場もあり、直接用件は言えないので、いつの間にか玲子は事務的な言葉の中で返事をするようになった。
「源太郎さん。だいぶ待ちました」
「何が定刻だよ。四十分遅れじゃないか」
「ごめんなさい。それより、何の話しなの」
「飲みたかったのさ」といって、お代りを頼むと同時に玲子の飲み物を注文した。
「それなら、打田さんにお願いしたらいかが」
「馬鹿言うなよ。彼女は空の上かもしれないのに、連絡できるかよ」
「てことは、私、合間の浮気相手なの」
「おお、そうだな。そーゆーことだ」
「知らないわよ。私、いつか本気になりますからね」
「いいよ。黙っていればわからないから」
「へえ、一義さんに連絡しようかしら」玲子はいたずらの目をして、グラスを少し上げていただきますという仕草で呑み始めた。
「お前も言うようになったね」
「ええ、これでも私、大人の男の人に教わりましたから」
「誰だ、そいつは」源太郎は解っているが、あえて聞いた。
「馬鹿ね。源太郎さんですよ。安心して。ところで、打田さんとは、どうなの、ねえ」
「そんなことはどうでもいい。俺と一義と来月中旬にタイに出張するんだが、玲ちゃん休みとれるかい」
「えっ。旅行なの。来月なら今からお願いしたら、シフト調整できると思うけど、何日」
「三泊五日」
「うーん。五日間か。土日挟めば大丈夫かな。それより何時」
「十六日の土曜日からさ。決まりだよな」
「ちょっと待ってよ。給料日前だし、しかも山本さんとご一緒なんて。源太郎さんなら多少は甘えられるけど、無理よ」
「ああ、費用は気にするな、全部病院持ちだよ」
「そんなことできるの、ダメよ。私、そんなことできないわ」
「大丈夫。製薬会社の招待旅行だから。ただ、パーティーがあって、同伴者がいるのさ。俺も、一義も独身だろ。香さんと玲ちゃんなら俺たちも安心だし、一義も香さんも英語は問題ないから、俺と玲ちゃんは飲み食いしてればいい」
「本当なの。でも大丈夫かな」
「何が」
「だって、ホテルの部屋」
「俺と一義、香さんと玲ちゃんで同室にすればいいだろ」
「私、山本さんと一緒でもいいわよ」源太郎の反応を見たくて、玲子はいたずらっぽく聞いた。
「ダメだろ。それはだめ」
「何でよ。だって、源太郎さんと香さん一緒がいいんでしょ」
「ダメだよダメ」
「なにいってるの。私と結婚すると言っておきながら、香さんみたいな、美人の彼女がいた人のダメなんて、信じないわ」
「それは、大人しかわからないこと、玲ちゃんも大人になればわかるよ」
「ふん。打田さんはさん付け、私はちゃんだよね。私、行かない」
「悪かったよ。玲子さん、頼むよ。事情はちゃんと説明するから。でも今は、信じてくれよ」
「そう。それなら、今日は、私、内縁の妻で通しますからね。大人の女として扱ってね。いいわよね」
「ハイ、ハイ」
「おい、山本先生いるか」
「あら、遊び人」
「病院だぞ。事務長と言えよ」
「ハイ、遊び人の事務長。先週は先生とコンパだったでしょ」深雪は、意味ありげに言った。
「馬鹿言うなよ。大学時代の集りだよ」
「へえ、山本先生もう同じこと言っていた。じゃ、本当なんだ」
「いいから、先生は」
「今CTです。もう少しかかりますね」
「解った。あとで、きてくれるように頼んでくれ」
「はーい」
「おう、忙しいところすまんな」
「ああ、診察が長引いたので遅くなった」
「構わんよ。ところで、来月の十六日から、薬剤学会でタイに出張してくれるように、院長から指示があった」
「やだよ、製薬会社の奴だろ」
「あの製薬会社は出入り禁止にした富士製薬だよ。今回は違う。でな、俺も行く。お前一人だと又喧嘩するからな。それで、同伴者が必要なので、俺は香さんを頼んである。お前は、玲子ちゃんを頼め」
「馬鹿言うなよ」
「そう言うだろうから、俺が根回ししてある。休暇ももうとってある。お前から連絡すれば、準備は終わり。ああ、それと、お前はヤダだろうが、俺と同室、香さんと玲子ちゃんが一緒。文句ないだろ。パーティーだけは同伴だけど、俺には香さんがいるので会話は問題なし、お前は大丈夫だ。玲子ちゃんだって航空会社、日常会話くらいできる。久々の旅行だし、いいだろ」
「お前とは違って、俺には患者さんがいるんだよ」
「わかっているよ。だから東を代診に手配した。東ならお前、文句はないだろ」
「ああ、彼なら安心だ。でもあいつよく、受けてくれたな」
「お前、俺を誰と思っている。事務長だよ、大和病院の」
「又、何か、裏工作したな」
「裏も表もあるかよ。素直に頼んだら、オッケーだよ。まあ俺の人徳さ。じゃ、いいな」
「香さん、色々ありがとう」
「大和さん。飛行機の手配とホテルは、大丈夫よ。でもホテルは別々でいいの」
「ああ、問題なし」
「でも私、大丈夫かなと思っているの」
「気にすることはない。あの学会は、ほとんど外国人、会話もすべて英語。そんなところに、俺が三分といられないことは、香さんが一番知っているよね。玲子ちゃんだって、さすがに、大変だよ。彼には大和病院の院長になってもらわないといけない。そうしないと、病院の行く末は心配だ。だから、今回、この学会で、彼の存在価値を不動のものにする必要がある。それを、助けて欲しい。頼むよ。上手くいけば、親父に話すから」
「解ったわ」