京都大学の麻生川さんが日本の起業活動が低迷していることについてピリッとしたことを書いています。『ベンチャー起業家よ、失敗を誇れ?!』 (『日本の起業家育成の本質的欠陥』
上記の記事で麻生川さんが指摘されているように、日本人の起業行動が沈滞している現状には歯がゆさを感じながらも、現在は、大学院で技術をレバレッジとする起業家や社会起業家輩出のためのコース(社内新規事業創造も対象です)を担当しています。ちなみに僕には自ら創業した会社を成長させ、その会社を上場企業に売却してイグジットしたささやかな経験があります。
麻生川准教授が聞いた、アメリカコンコーディアベンチャーズ創立者兼パートナーで数年前からカリフォルニア大学バークレー校のビジネススクールでベンチャー教育の教鞭をとるナイーム・ザファー氏(Naeem Zafer)の言辞を引用します。
<以下貼り付け>
(1)『事業がおかしくなったら、なるべく早く撤退するか、倒産させてしまうのがよろしい。芽の出ないビジネスにいつまでもしがみついていないで、新たなビジネスを興す方が、よっぽどいい。』
(2)『事業ステージで社長を変える方がよい。即ち、立ち上げの時に相応しい社長が必ずしも、事業の次の段階でも適任とは限らない。そのような時は、社長を変えることで、会社のカルチャーを変え、新たな観点で展開を考えるのがよい。』
<以上貼り付け>
この2点は本質的に重要な点です。SVで働いている起業家の間では「世間智」のようなものですが、日本ではほとんで共有されていません。起業評論家は、このような言辞を紹介はしますが、なかなか行動様式としてキモに落ちていないところです。
「世間智」とは、日本人が好んで口にする文系・理系といった二項対立の図式を超えたところにあるプロとしてのプロトコルのようなものです。やや拡張していえば、麻生川さんがいうところの、グローバル・ビジネス・リテラシーの実務よりの発露とでも言えるでしょう。
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さて、日本では銀行から借入金がある状態で倒産させるのは個人保証という日本的に特殊なリスクを負わされる(chapter11は日本ではありません)ので、現実的ではありません。
上記(1)については、事業の対局を読み切って売却相手を探し、なるべく有利な条件で売却してイグジットしてキャピタルゲインを確保するのが王道です。しかし、これができない社長が多いです。自分の全存在を事業=ビジネスに埋め込んでしまい、会社を属人化させているような中小・ベンチャー社長は、どうしても割り切りができずに、期を逸してしまい会社とともに沈没、というケースが非常に多いのです。
この目的合理的な割り切り思考(プラグマティズム)がなければ、イグジットはできません。事業ユニット(会社)は市場で交換される非人格的な物象であることを肝に銘じて起業・経営しなければいけません。資本主義の精神を体現するのが起業家であり、起業家たるもの、ウェットな心情に流されて、会社に全存在を埋め込んでしまうような小さな器ではダメです。
やや逆説的になりますが、ゲゼルシャフトとしての会社を市場の中で交換の対象=物象として扱うためには、別次元で贈与関係の場=ゲマインシャフト(金銭、利害関係ぬきにつきあえる絆中心の人間関係、信頼関係)を保持しておくことを強くお勧めします。家庭、地縁の仲間、昔からの友達などです。このバランスが大切です。
上気の(2)については、創業後、成長ステージに入ったら、ナンバー2を採用・育成しておいて、将来そいつを社長にするため力量門地を見極めながら、権限移譲をしておくことが大事です。
M&Aステージで社長を交代するというのは、短距離リレーのバトンタッチ・ゾーンで最高速度を維持しながらバトン交換するようなものです。このゾーンはグラウンドのように整備されているわけではなく、むしろ魑魅魍魎が跋扈する獣道。したがってリスクに満ちています。
M&Aフェーズになれば、買う側、売る側、株主、新社長など、当然、露骨な私利私欲が蠢きます。とくに社会的な規範が薄弱化しつつある今日、私利私欲に流されれば、ゲゼルシャフトの住人は汚いことも平気でやります。既存株主に情報をリークしたり、対象会社と内通したり。汚いことにいちいち逆上していたら起業家は失格です。むしろ、そのような人間の行動を所与のものとして対局から清獨併せ飲み、平然と受け止める人間観が問われます。
対象会社幹部や次期社長を時にうまく泳がせたり、「用間」(孫子)として動かし状況を創ってゆくインテリジェンス(諜報謀略)能力が問われます。
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僕の場合は、起業するときに3つある会社の出口(IPO、M&A=会社売却、倒産清算)のうち、キャピタルゲインを得ることができるIPOとM&Aに出口を絞り込みました。経営コンサルタント出身者は、けっきょく個人の能力に依存したかたちで、ダラダラ会社を経営してしまいイグジットできないことがほとんどです。年をとったり、病気になったらThe Endです。入り口=創業時点で出口の戦略を構想しておくことが大事です。これは起業家が身につけるべき行動様式=資本主義のエートスのひとつです。
ちなみに、日本人一般に欠けているもののひとつは、入り口で出口を構想するシナリオプランニング能力であると思われます。とくに、組織を扱うエントランスとイグジットの結び方がダメなことが多いのです。ゲゼルシャフトであるべき組織を、ゲマインデ(共同体)化させてしまう悪い癖は、大東亜戦争の時の陸軍・海軍においても顕著でしたが、戦後もずっと企業組織、公共団体のなかに陰微に継承されています。
現在、ビジネス起業のみならず、社会起業への支援、Base of Pyramid起業支援もやっていますが、思いのほか、自らの起業経験一式が役立つ局面が多いので、よかったと思っています。人生なにが役に立つのかわからないものです笑)
自らの起業経験などというものは、経営現象の森羅万象のなかの芥子粒のような特異・特殊な経験です。しかしながら、そのような経験でも、経営理論やモデルで濾し出してみると、けっこう使えるのには多少ながらも驚いています。サッカー選手の経験のある人間がサッカー・チームの監督になる。臨床医の経験がある医者が、臨床指導者になる。プロ教育というのは、その道の専門的なエクスペリエンスが大事なのでしょう。
会社を経営するようになって、自分でも面白いなぁ、と思ったことがあります。それは、それまで、むさぼるように読んできたビジネス本や実務書に手が伸びなくなり、歴史宗教を含む古典を多読するようになったことです。
この文脈で、東西古今の古典に通じる麻生川氏と知己を得たのは妙なる縁起。僕が経営していた会社のアドバイザーにもなっていただきましたが、今も氏と東西古今の古典を材料にしてグローバル・ビジネス・リテラシーを、ベンチャーの今を語るのは、愉しいひと時です。
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結局それも、構成員一人ひとりが、「その組織で何をしたいのか」「その組織を通じてどう社会に働きかけたいのか」「どう成長し、どう卒業したいのか」というプランが無いからなんですよね。今の状態が未来永劫続く、という不思議な現像にとらわれているひとが多いですね。
共同体は、みずからの存続と居心地の良さの共有を自己目的化します。その結果、組織の機能性、戦略性が疎外されてしまします。このあたりは、名著『失敗の本質』の主題ですね。
経営者は、機能組織として会社を育成・成長させてゆくに従い、逆説的に共同体化しちゃうんですよね。
M&Aで会社を売るというのは、キャピタルゲイン以上に、ある種の葛藤(精神的ストレス)が伴いましたが、反面、深いリフレクションが得られ、また爽やかでもありいい経験でした。
2007年末のことだったので、あと数カ月遅れたら世界同時金融不況の波をもろに喰らってダメだったでしょう汗)
弁護士、税理士、弁理士の方々が設立する法人は、イグジットを目的としない、いわゆるライフスタイル・ベンチャーです。そうであれば、逆に共同体のいい面を前面に持ってくる経営もできるわけです。
そういう意味では、僕がやったようにイグジットを目指してゴリゴリやるっているのは、ちょっとマッチョプレナーすぎますね笑)
くすくすさんも、ぜひ頑張ってくださいね。陰ながら応援しています。
(生き残れればそれが正解、という結果論でしかない)
いろいろな存在がありうる。そしてそれらが組み合わさって、生態系として機能する。
今後ともご指導よろしくお願いします!