かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

戦略以前 ―― 生き残るお店の大前提

2010年03月12日 | 書店業界(薄利多売は悪くない)
お店のブログに、抜井諒一さんによる『群馬伝統 銭湯大全』の紹介を書きました。

この銭湯に限らず今、街から姿が消えかけている業種というものは実にたくさんあります。

そればかりか、小売に限らず農林漁業をはじめ、ありとあらゆる既存業種が、不況の影響というだけでなく衰退し続けている現実があります。

こうした現実に直面した多くの人々は、新しい商品の開発や新規事業の試み、経営戦略の見直しなどを考えていますが、私には、消えゆく銭湯の取材を重ねた抜井さんのつぶやいた一言がとても印象に残っています。

「まず清掃が行き届いていなければダメなんですよ」

銭湯が衛生管理をきちんとしていなければならないことは当然でしょうが、銭湯に限らず、人がなんらかのサービスを受ける空間である限り、小売に限らず、どんな業種でもまずきれいで清潔感があることが大前提なのです。

このように何がなくともまずこれだけはしっかりしていなければならないということが、他に3つあります。

第2は、そこで受けるサービスや商品が「適切な」価格であること。
なにごとも安ければよいものではない。
高すぎるものが受け入れられないのは当然ですが、それは単純に金額の問題ではなく、価格相応の付加価値がともなってこそ、受け手は満足できるものです。

この問題は、要点のみにさせていただいて、さらに大事な問題があと二つあります。

それは、本屋の仕事をしていてつくづく感じることなのですが、商品が「絶えず入れ替わる」ということ、「新鮮な情報にあふれている」ということです。
時代が厳しくなればなるほど、普通のやり方では通用しないのではないかと思い、ついこだわりの商品というものをどんな業種でも持ちたがります。
それは、とても良いことで必要なことです。

しかし、飲食店でも雑貨屋さんでも本屋でも、そのこだわりの商品の市場規模を適切に判断することなく、こだわりのものを置き続けることにこそ意味があると思ってしまいがちなものです。
ところが、多くのお客さんは、そのこだわりの商品は褒めてはくれますが、多くのものは毎回買うようなものではないのです。

私自身、最もよく利用する店とは古本屋なのですが、自分にとってどこが一番利用する店かと考えてみると、必ずしも良い本がたくさん棚においてある店というわけではなく、絶えず商品が入れ替わっている店こそが、良く通う店であり、また良く買う店なのです。

話題の店などの噂を聞くと、できるだけ足を運ぶようにしていますが、趣味のいい店で品揃えのすばらしい店だとは思いながらも、2,3カ月後にまた行ってみると、前に来た時と同じものしかおいていないので、趣味の良さを褒めることはするのですが、自分が買うものはなにもない、という結果に終わってしまうのです。

よく利用するかどうかということでは、新刊本屋であるか古本屋であるかに限らず、図書館や博物館のような場合であっても、そこに期待する新鮮な情報や、こちらが驚くような新しい情報がなければ、2回目3回目はありません。



そして最後にあげる第4の問題は、その職場の従業員のやる気、働きがいのもてる環境を大事にしているということです。
よく顧客満足、お客さまが第一という考えかたが言われますが、最近になってようやく、坂本光司先生の『日本でいちばん大切にしたい会社』がベストセラーになったことなどもあり、顧客満足よりも従業員満足の方が優先するという考えが認知されだしてきました。

どんなにお客さまが大切といっても、そこで働く従業員がやる気を出す職場環境が整っていなければお客様を大切にする心は持つこと持続することができない。
この職場環境が整っているということは、必ずしも昔の労働組合が要求する労働条件や福利厚生設備の充実のことではありません。
仕事そのもににやりがいを感じられるような環境を経営側が提起できるということです。

それが、同時に会社の活力・持続力にとっても経営そのものにとっても最も重要な部分であることにようやく多くの職場で気づき始めました。


これからさらに経営環境は厳しさを増す時代だと思います。
いかなる業種でも、なんとかしなければと様々な戦略を考えて経営革新をはかろうとすることと思いますが、どんな立派な戦略をたてようが、まずこの4つがきちんとしていない事業が長続きすることはありえないのではないかと思うのです。


時代にのっているはずの立派なポリシーのある自然食品の店などには、とくにこの傾向を感じます。
無農薬でからだにいい食品であることはわかります。
でもちょっと価格が高い。
それもわかります。
安全な食品、健康に良い食品です。
でもスーパーにならぶ安くてそこそこに新鮮な食品とくらべてどれだけ美味いのか?
理念だけでなく、どこかで決定的な強みを持ち合わせていないと、
お客さんはなかなかファンにはなってくれません。
増してや明るく清潔な店舗でなければ、その掲げる理想の信用というものも、相当な個性でも打ち出していない限り支持され続けるものではありません。
期待されながらも、なかなか長く続く店がないのは当然のことと思えます。

不況だデフレだ、政府の政策が悪い、業界の体質が悪いなどと嘆くまえに、
まずこの4つの原則の徹底こそが、いかなる業種でも前進し続けるための大前提なのだと感じます。


コメント
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