かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

お金の取れない時代へ

2008年06月04日 | 無償の労働、贈与とお金
前回の「お金のかからない時代へ」は少し欲張りすぎて、もう少し内容を絞るべきでした。

「お金のかからない時代」へ行く前に、今、私たちが直面しているのは、
「お金の取れない時代」という厳しい現実です。
このことをもう少し補足しておきます。

前回紹介したダニエル・ピンク著『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』から、もう少し事例を引用します。

本書のなかの
〇第二の危機 -次から次へと湧き出す「競争相手」、という章の冒頭に、四人の姿の映った写真があります。
その四人はインドのムバイで働く人たちで、彼らこそ「ナレッジ・ワーカー」の典型であるという。

(以下引用)

多くの聡明な中流階級の子どもたちがそうであったように、彼らも両親の忠告にしたがった。
高校で良い成績を修め、有名大学でエンジニアリングかコンピュータ・サイエンスの学位を取得し、現在は大きなソフトウエア企業で働き、北アメリカの銀行や航空会社向けのコンピュータ・プログラムを開発している。
 ハイテクな仕事をこなす彼らだが、誰一人として1万4000ドル(約160万円)を超える年収を得ている人はいない。
 ナレッジ・ワーカー諸君!彼らが新たな競争相手だ。

(彼らと同等の仕事をこれまでのアメリカのホワイトカラーたちは、年収6、7万ドル(約700~800万円)程度の人たちで請負っていた。)

 西欧の水準からすれば少ない給料ではあるが、標準的なインド人の給料のおよそ25倍にあたる。それで彼らはバカンスを楽しみ、マンションを所有するといった、「中の上(アッパーミドル)」クラスの生活を手に入れることができるのだ。


 また、オランダ企業フィリップスは、中国で700人のエンジニアを雇っている。現在、中国では毎年、アメリカとほぼ同数のエンジニアを世に送り出しているのだ。
 最大の理由は賃金である。
 一般的なアメリカ人の半導体技術設計者は、月収7000ドル(約82万円)を稼ぐが、インド人デザイナーなら約1000ドル(約12万円)である。

 アメリカの一般的な航空エンジニアの月収は約6000ドル(約70万円)だが、ロシアでは月給650ドル程度(約7万5千円程度)だ。

 また、アメリカの会計士は月に5000ドル(約60万円)稼ぐが、フィリピンなら300ドル(約3万5千円)。だが、一人当たりの年収が500ドル程度という同国の水準に照らせば、これでも決して少ない額ではない。

 (以上引用終わり)


かつてブルーカラーの人びとが、海外の安い労働力や工場の機械化によってどんどん追いやられてきたように、今、ホワイトカラーの人たちが、同じ道をたどろうとしている。

本書は、このことはあくまでも、次に、では我われはどうしたらよいのか、ということを話す前提の記述なのですが、ここでは、この現実をしっかりと確認しておきたい。

そんなことをいっても日本はアメリカほどはひどくはならない、とか、うちの業種は関係ない、とか思うひともあるかもしれない。

ところが、自分のところがどんなに関係ないと思っても、まわり中の製品やサービスが、このような構造のもとで安く作られ、提供されるようになってきているのです。そのなかで、いくらうちは関係ないと思っても、それは、競争からとり残され市場からいづれは退場していくこと以外のなにものでもないことを肝に銘じなければなりません。

このことを想像すればするほど、管理部門の肥大したままの古い体質の企業や、雇用削減や賃下げの断行できない公務員が社会からとり残され、あるいは社会のお荷物として残るばかりになると思います。

私は、賃下げやリストラが絶対的解決策だとは決して思いませんが、生産性において桁違いの差が出る環境下に私たちが投げ込まれているということだけは、誰もがもっと理解しなければならないのではないでしょうか。

であるからこそ、ものの値段が、デフレだけでなく、技術革新とグローバル市場のもたらすものとして安くなる時代には、国や地方自治体の公共部門のコストが、まず抜本的に下げられなければならない実情が根底にあると考えねばならないと思います。

財政破綻と社会福祉コストの増大から、増税已む無しではなく、まず第一に全体のコストの大幅ダウン(無駄を省くだけでない)こそが考え方の根底になければならない。
お役所や議員の論議は、まだ世界全体が「お金の取れない社会」に入っていることを前提にしていない。
 財源(=税収)をなんとかすれば、問題が解決するかの議論しかしていない。
役人の無駄遣いを正すことは、もちろんですが、それよりも抜本的にお金をかけない方法へ向っていかなければならない。


今の世の中の議論からは、浮いた話に見えるでしょうが、そんな風に私は思います。



 

コメント
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