今村夏子著『むらさきのスカートの女』(2019年6月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。(好書好日)
近所に住む「むらさきのスカートの女」が気になる〈わたし〉。自分と同じ職場で働くよう彼女を誘導し、その生活を観察し続け…。狂気と紙一重の滑稽さ。〈わたし〉が望むものとは? …
2019年芥川賞受賞作品
「わたし」は、近所に住む<むらさきのスカートの女>と呼ばれる女性のことが気になって仕方のない。
語り手である「わたし」は<むらさきのスカートの女>と友だちになりたいので、ストーカーじみた執拗な視線で、<むらさきのスカートの女>の挙動を詳しく語る。
そのために「わたし」は<むらさきのスカートの女>を「わたし」と同じホテルの清掃員として働くように誘導したりする。
(文中でも、たとえば「女」と省略することなく、<むらさきのスカートの女>と邪魔になるほど繰り返し書いている。)
「わたし」のことは何も語らずに、もっぱら<むらさきのスカートの女>について語っているのに、語り手の「わたし」のことを語っているようなことになってしまっている。「わたし」も<むらさきのスカートの女>も、孤独で生活は厳しい。
むらさきのスカートの女:一週間に一度くらい商店街のパン屋でクリームパンを買って、公園の決まったベンチで食べる。商店街では目立ち、公園では子供たちのいたずら対象になる。日野まゆ子。
わたし:語り手。「黄色いカーディガンの女」。権藤チーフ(?)
所長:ホテル清掃会社の所長。マネージャーはホテル側の担当者。
塚田チーフ:ホテル清掃会社の清掃員で<むらさきのスカートの女>を指導する。
他のチーフ:浜本、橘、など
初出:「小説トリッパ―」2019年春季号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
今村夏子ファンの私的には五つ星だが、独特の雰囲気になじめない人も多いと思うので四つ星に。
今村作品は、淡々と進む文章の中、フッと笑える記述も混じるのだが、相変わらず、なんとなく不穏で不安にさせる語り口だ。話の筋もただよってどこに行き着くのか分からない。しかも、その底にしっかり根付いているのは孤独なのだ。
三島賞受賞のときに、これからの抱負を問われ、「そういうのはないです。今後なにが書きたいとか、全然思わないです」と答えた超寡作作家。
2013年に結婚して娘さんもいるらしい。よかった、よかった。