「はのねくさのね」はODH草の根歯科研究会の会報です。
成熟した市民社会における歯科保健文化の創造を目指す、健康な歯と口の大切さを患者学の視点で広める、
それが目的だそうです。
代表の岡田弥生さんは以前もブログ(歯磨きをいやがるとき)で紹介しましたが、
「むし歯って磨けばとまるんだよ、削ってつめるなんてもったいない」というご著書もあります。
小児歯科それも、健診をお仕事にされていて、予防診療の話ではいつも盛り上がってしまいます。
以下は4月発行の「はのねくさのね」での、岡田先生の巻頭言です。
許可をいただけたので転載します。
子育て中の方で、どうしてこんなにつらい?意味もなくイライラする・・・という理由のない解決策のない暗闇で泣いている方は、
「モラルハラスメント」の被害者でないか、考えてみる必要があると思います。
モラルハラスメントは証拠の残りにくい精神的な家庭内暴力です。
健診では、しばしば、自覚のない被害者に出会います。
自覚がない方への声のかけ方は大変難しくて、この夏支援者としての力をつけるため養成講座に参加します。
「究極の予防医療」と岡田先生と話し合っています。
以下転載です。
「モラハラのない対等な関係」
離婚したくて結婚する人はいない。歯を悪くしたくて歯科医院に行く人も、悪くしようと思って治療する視界もいない。
しかし、家庭という密室内のことが外から見え難いように、歯科医院も閉鎖的なことが多い。
悪気のあるドクターなどいないが、患者さんのために最善を尽くしているつもりでも、他の歯科医からみると首を傾げたくなる治療や
言語道断のこともある。
それで患者さんが満足なら何も言うまい。
どんな名医でも医療の限界と不確実性もあり、100%の治療は保証できない。
思わぬ結果をも受け容れられる信頼関係は、どうしたら築けるのか。
モラルハラスメントを最近知った。セクハラが社会的に認知され、パワハラ、アカハラ、ドクハラと、職場・大学・病院、
あらゆる場での人権侵害が明らかになった。
モラハラは精神的暴力で、優位な立場を悪用し、巧妙に相手の人格を貶める。
決して対等な関係では起きない。
雇用・被雇用が、支配・被支配という権力関係に陥らない職場は心地よい。
院長とスタッフの関係は、患者との関係にも影響する。
治療をする側・受ける側が、お互いに信頼し尊重しあい、真に対等な関係を築くことができるか?
職種や立場、性別や年齢を超えての人権意識が、不幸な結果を避ける道である。
アリス・ミラーはヒトラーやナチス指導者の養育過程を丹念に調べ、教育に潜む問題を提起した。
子どもらしい感情を抹殺する家庭での厳しい躾が、ナチスへの熱狂的な支持の基盤となったという。
加害者と被害者が惹かれあうモラハラという言葉で、輪郭が一層明らかになる。
加害者は権力欲、自己中心性が強く、ある種の才能や魅力があり、弁舌に長け、一見カッコよく、人々を惹きつけ、
指導者に相応しく感じる。
一般的に日本人は幼少時から上下関係に敏感で、多くの日本人はモラハラをすることも受けることも当然と感じる。
うまく擦り抜ける術を心得た人が、学校や社会で生き残っていく。
年間三万人の自殺者の背景に、モラハラが見逃されているのではないか。
さて、障害にわたり健康な歯を保つには、自分にあったよい歯科医院を見つけることが望ましい。
適当なマッチングは歯科医院に限らず良い関係の基礎である。
配偶者同様、歯医者も慎重に真剣に選び、誠実に関わってほしい。
戦争指導者が自衛のためと国民を鼓舞するように、加害者は「我こそが被害者」と言い募る。
従順を強いられた人は強者に与しがちである。
暴力の仕組み、権力の構図を見抜くには知恵を勇気が要る。
環状島の図解は秀逸である。何も知らない善意の加害者にならないために、弱者への共感をベースに、
一人ひとりの人権を尊重していきたい。
お互いが自由な意思で結びつく、真に民主的なモラハラのない社会を目指したい。
参考図書
「モラルハラスメント 人を傷つけずにはいられない」
「魂の殺人 親は子どもに何をしたか」
「環状島 トラウマの地政学」
「対等な関係」って、いつも思いますが、とても心地よいですね。