去年の3月に「意を決して」と書いた舌小帯のことは、いまだにコメントがつくほどの記事なのですが。
私も、堂々巡りになるのをやめたいと同じ内容の批判は今は削除しています。
そして、やはりこの問題の根深さを感じながら、実は杉並の問題の助産院の対応がやや変わったと保健師さんの報告も受け、
最近このことで、泣いているお母さんは確かに減ったな・・・とよかったなと思っていたのですが。
この春、舌小帯の切除で母乳育児中のお母さんの乳頭の痛みが減る、哺乳障害の改善もある、外国での論文もある、
積極的にしてはどうかという報告が小児外科医の先生から
小児科学会の雑誌にあり、びっくりしました。
もちろん、学会で科学的に検証されるのは大歓迎です。
そして、エビデンスのある治療なら受け入れられることでしょう。
大切なのは、患者も医者も納得できる治療であることだと思います。
シンポジウムでは、歯科・耳鼻科・小児科・小児外科・言語聴覚士の立場での発表がありました。
哺乳障害での安易な舌小帯切除を懸念していたのですが・・・
小児外科医の先生は、そこにこそ切除の意味があるので、早めの切除をという話でした。
でも、いくつかの疑問をクリアにしないと受け入れられないということを感じました。
まずは、哺乳障害があり舌小帯短縮があったら手術というけれど、切除しても改善がない場合も多いのではないかということ。
実際、今のところ、すごく良かったという人がいる一方、まったく変わらないと泣いている人はそれより多い印象をもっているから。
哺乳障害が舌小帯が原因だろうと思う症例はとても少ないと思えるから。
同じような舌小帯でも、上手に飲む子とそうでない子がいるので。もっとほかの要因が多いだろうと思うからです。
(手術の評価は母親へのアンケートであるけれど、客観的な評価でないように思えたのです。もちろん、ほかの体重増加などの指標もあったけど)
次に、早めに・・・という処置は、自然経過でほとんどの舌小帯短縮症が軽快するのだから、しないでもいい処置を受けることが多いのではないかということ。
歯科では構音障害を理由に現在普通に舌小帯短縮症の診断がされていて、その割合は約9~12%という数字でした。
(さらに、手術をする程度のものは、その1/3とのこと。年齢は哺乳障害の時期とは異なり、3歳くらいからです)
その小児歯科の先生のあと発表された小児耳鼻科医の先生は、
歯科で安易に手術されて(親は何をされたか理解すらしてなかった)感染し(口腔底の蜂窩織炎)、
呼吸困難になり(気道のすぐそばなので)緊急の気道確保が必要だった症例の報告もしてくださいました。
昔の小児科医(禁じられているけれど、昔は助産師も)は、出産直後の膜状の舌小帯をハサミでちょんときってたそうですが、
私が研修医をしてた頃はすでに禁止されてました。
研修でも、必要ない処置といわれ、経験はないです。
膜状のものの処置は、経験をしている医師にとっては本当に簡単なものだそうで、
されているご年配の小児科医の先生は「予防接種なみ」という話もありました。
歯科と耳鼻科の先生はきちんと縫合もされる方法でしたが。
(これは年齢が高いからだと思います)
(時間がたつと自然によくなる場合もある一方、血管が入り込んで処置が大変になる例もあるよう?だからやるなら早く?)
小児科医ではその処置は伝承はされていないという問題もあります。
実際にその処置が本当に必要なのかということは、まだまだ検証されないといけないと思います。
それほど必要性を感じないのですが・・・。
たまたま、そういう情報を伝える助産師さんに出会ってしまって、不安になりという症例の場合に、
必要ないということもできず(信頼関係のある助産師さんの紹介なので)お母さんを納得させるために、
切除をしないで切除したふりをしていることもシンポジストのご年配の小児科医の先生はあるそうですが、
そのあと、「おかげさまでよく飲めるようになりました」という報告があったり・・・
(つまり、切除が必要というわけでないが、不安が取り除かれる効果があったということ)
現在のところは、
「舌小帯の切除は哺乳障害ということで乳児期にする必要は基本的にない。
構音障害が起こる3~4歳以降に考えればいい。
まだまだ発達途上にあることを考えたら、5歳以降で専門医紹介でもいい。」
という基本方針でいいでしょう。
(ただし、発音のトレーニングができる小児を専門にみられる言語聴覚士は非常に少なく充分なケアがされていないことも問題)
歯科の先生の発表でもそういう話でした。
フロアからの母乳育児支援をされている歯科の先生のお話しでは、数はとても少ないが、
やはり舌小帯切除の有効な哺乳障害の赤ちゃんはいて、
その診断が大事という話は興味深かった。
指を吸わせて特徴的な舌の動きをとらえるフィンガーテストを紹介されてました。
いろんな立場の先生のお話しを聞けて勉強になりよかったですが、
では、診断は?適応は?本当に効果的なの?ということをもっと確実に検証しないと、だと思います。
さて、私がこんなひどいこと、と言ってた一部の助産師による
「舌小帯の問題です。この耳鼻科医に相談に行って。小児科の先生には相談に行かないで。」という話と、
その耳鼻科で筋肉までレーザーで切除する保険診療でない方法で12~13万円もかかるという話。
まったく話題にもなってませんでした。
私がフロアからその話をしたら驚きと苦笑で受け止められていました。
ですから、今回のシンポジウムでも保険診療でできる処置が大前提です。
やはり、受ける受けないは、どちらにしても、よく説明を受け、納得してからにしましょう。
今のところの私の結論は、今までと基本的には変わりません。
このことは、学会でもっと取り上げてもらい、検証が進めばいいなと思います。
その結果が科学的で納得できたら、舌小帯切除も受け入れられるだろうと思いますが、
まだ、今のところは不十分だと思います。
ガイドラインもできるのは、まだ先ではないでしょうか?
小児科医は、なかなか必要性を感じないと思います。
臨床をしているとそう思います。
舌小帯だけで、哺乳障害は説明できないのがわかるから。
つまり、同じ程度の舌小帯の状態でも、上手に飲める子とそうでない子がいて、ほとんどのお子さんは飲めているから。
舌小帯以外にいろんな要素があるからです。
力のない助産師ほど、そこの診断ができずに、またいろいろな工夫(抱き方、乳頭の含ませ方、授乳のタイミングとか)・技術や親への心理支援もしないままにすぐに子どもの舌小帯のせいにしている印象がある。
もっとしっかりと支援できる助産師さんがいっぱいいることを私は知っています。
切除が必要な子は8割から9割だなんて、とんでもないことです。
一つ。
大事なこと。
桶谷式の乳房管理を長年されている助産師さんのシンポジストの報告では、
「桶谷式で、呼吸障害と舌小帯を関連づけるのはやめるように」と数年前からなっているということでした。
もう一つ。
当たり前ですが、髪が立つ・呼吸が乱れる・甲高いなき声・よく泣く・そりがつよい・股関節が固い・自閉症とも関係・思春期が大変よ・・・
などなど、それらが舌小帯のために起こるということを言って、問題の助産師は脅したりするのですが、
そんなキーワードは全くでてきませんでした。4時間近くの討論の間、誰からも一言も。
当たり前ですね。科学的に検証しようという場なのですから。
いかにおかしなグループが存在しているか。
そして、勝手に「学会」と称する団体を作っているか。
ニセ科学に騙されないようにするにはどうしたらいいかも考えていかないと・・・
不安な人につけこむ商売はあとからあとから出てきますから・・・