中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

寝不足は経営責任

2024年02月28日 | 情報
以下の記事では、勤務間インターバル制度の導入を推奨しています。
小職も勤務間インターバル制度の導入を強く、推奨しています。

銚子丸、インターバル制で離職率低下 寝不足は経営責任
日経ビジネス 2024年2月21日

従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する「健康経営」の重要性が叫ばれている。
中でも近年問題視されているのが、ビジネスパーソンの睡眠時間の短さだ。

日本人の睡眠時間は、他国と比べても低い。
2021年の経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、
日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、調査対象となった33カ国中、最下位だった。

背景にあるのが日本人の労働時間の長さだ。
これには、高度経済成長期の成功体験を引きずる、企業経営者の意識が大きく関係している。
高度経済成長期、多くの企業は従業員同士を競わせ、業績を伸ばしてきた。
従業員側も「替えの利かない存在」になるべく、属人的な人脈やノウハウを積み上げ、
それを周囲に共有することなく、実績を積み上げて企業の期待に応えようとした。

しかし、こうしたやり方が通用するのは、働き手の数が多かった時代だけである。
今や、人手不足は加速度的に進行しており、もはや人材の「使い捨て」はできない。
少ない労働力で大きなパフォーマンスを上げるためには、
すべての従業員の業務量を能力に応じて適切に管理していく必要がある。
属人的な業務内容も、なるべく減らしていかなければならないだろう。

従業員の業務量を適正化できれば、皆がきちんと休みも取れるようになり、睡眠時間も確保できる。
「従業員が十分な睡眠時間を確保できない企業のトップは、経営能力があるとは言えないのではないか」。
ワーク・ライフバランスの浜田紗織取締役は、こう警鐘を鳴らす。

つまり、従業員の仕事に対する負荷や心身の健康を測る上でも、
これからの経営者は睡眠時間に着目しなければならないということだ。
睡眠に関するサービスを手掛けるニューロスペース(東京・墨田)の小林孝徳社長は
「うつ病患者は多くの場合、前兆として不眠症状の発症がみられることが分かっている。
そのため、うつ休職の防止策としても、睡眠状態の把握やケアは重要だ。
経営者の睡眠リテラシー向上も必須になるだろう」と話す。

休息を企業が確保する
時間管理型の職場における、睡眠時間の確保策として活用され始めたのが「勤務時間インターバル制度」だ。
これは、終業時刻から次の始業時刻までに、一定以上の休息時間(インターバル)の確保を義務付ける制度を指す。
これまでのように労働時間を規制するのではなく、休息時間をルール化し、それを厳格に守ることで、
労働者の働き過ぎを防ぐとともに、疲労の早期回復を目指すものだ。

海外ではすでに導入している企業も多い。
例えば欧州連合(EU)加盟国では11時間のインターバル確保が義務づけられている。
日本でも、医療従事者や運送ドライバーなど、働き手の心身のコンディションが人の命を左右する事故となる可能性の高い職種を中心に、
導入が進んでいる。
24年4月からはタクシーやトラックなど、ドライバーの11時間以上の休息時間確保が義務化される予定だ。

下記の表は、勤務間インターバル制度を導入した場合の1日のシミュレーションだ。
例えば11時間のインターバルを取得すると、うち6時間が睡眠に充てられる。
残業時間は上限ラインの80時間だ。
このように、インターバル制度は、労働時間の規制に比べて休息に主眼が置かれているため、睡眠も取りやすくなる。

だが、属人的な働き方を推奨してきた日本企業にこうした制度を普及させるには、業務のありかた自体を見直していく必要があるだろう。
1つに業務に従事する人員を増やすことで、そのノウハウを共有したり、権限移譲を進めたりする必要がある。
「自分と同じ仕事を誰かができる」という、環境が職場に定着すれば、休みを取ることに対する心理的な負担も少なくなる。

例えば、首都圏を中心に展開する回転すしチェーン「銚子丸」を運営する銚子丸は、
22年から働き方改革の一環で、11時間のインターバル制度を導入した。
17年ごろから働き方改革の一環で店舗の営業時間短縮や研修、会議のオンライン化が進んでいたが、
労働時間の削減が進んだ段階で、11時間の勤務間インターバルが実現できるようになった。
その結果、労働環境も改善し、離職率が10%超(18年)から7.5%にまで低下したという。
生産性も向上し、社員1人あたりの1時間当たり売り上げも、約4500円(18年)から約5100円(22年)と、大きく向上した。

東急建設でも18年から11時間の勤務間インターバル制度を導入している。
発注元となる顧客に部門長と営業社員が出向いて勤務制度について説明し、
理解を求めるなど、社外に対しても取り組みを強化した。
その結果、導入前の16年から22年にかけて、現場社員の総労働時間は10%削減した。
働き方改革への積極的な姿勢を見て、新卒採用でも応募者が増えているという。
同社管理本部人事部の太田喜剛参事は
「(現場社員も)自分たちのインターバル時間が確保できないことに課題感を持っていたことから、前向きな反応だった」と導入当時を振り返る。


勤務間インターバル制度の企業導入割合は21年で5%弱。
国は25年までに勤務間インターバル制度の導入割合を15%以上することを目標としているが、
現状の増加率では届きそうにない
(厚生労働省「これからの労働時間制度に関する検討会」2022年3月29日第11回資料「勤務間インターバル制度について」より)

昼寝を推奨する企業も
もっとも、業務インターバル制度の導入が難しい勤務形態や業種の企業もあるだけに、企業の施策に答えはない。
中には、夜間の睡眠不足を日中のパワーナップで補えるようにする、という取り組みを始めたところもある。
IT(情報技術)ベンチャーのネクストビート(東京・渋谷)は、社長自身が旗振り役となって働き方改革を推進。
17年に仮眠や休息のために自由に利用できる「ゆりかごスペース」、
18年にアロマなどを備えた個室の仮眠室である「戦略的仮眠室」を開設した。

ネクストビートの野田千有里CHROは「代表の生産性や健康経営に向けた先進的な姿勢と、
効率性を重視する社内風土が、仮眠室の積極的な利用につながったと考えている」と話す。

ネクストビートのように、社員の休憩時間を長めに確保し、昼寝を推奨する制度を設けている企業は増えている。
呼称もさまざまで「シエスタ制度」「昼寝制度」と呼ばれることもある。
「睡眠に関する施策はどの業界、職種でも工夫次第で必ず導入できる」と、前出の浜田氏は話す。

社員の生産性や創造力向上に、睡眠が関係していることを示す調査研究は進んでいるだけに、
今後従業員の「働き方」ならぬ「休み方」「眠り方」に注目する動きはますます広がりそうだ。
(日経ビジネス 馬塲貴子)
[日経ビジネス電子版 2024年1月29日の記事を再構成]
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