中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

(参考)アプリで病気治す時代

2022年12月15日 | 情報

アプリで病気治す時代
WAVE スクラムベンチャーズ代表 宮田拓弥氏
日経産業新聞 2022年12月12日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC290YY0Z21C22A1000000/

スマホやウエアラブルが普及する以前、「どのくらい歩いたのか」「今日の睡眠状態は」「心拍数はどの程度か」など、自分の行動や状態は特別なデバイスを装着するか病院に行かなければ、把握することは難しかった。

自分の体に関して容易にかつ多様なデータが簡単に把握できるようになった今、さらにデジタル技術を活用することでヘルスケア、そして医療を進化させようという取り組みにさまざまなスタートアップが取り組んでいる。

これまでに10社を超えるヘルスケア、医療関連スタートアップに投資をしてきた我々が今注目しているのは、「デジタル治療薬」「OMO医療」「メタバース医療」という3つのキーワードだ。

一つ目の、「デジタル治療薬」とは、医師が薬の処方の代わりに、アプリを使用するという新しい医療技術のことで、デジタルセラピューティクス(DTx)とも呼ばれている。2010年に米国で認可を受けた糖尿病の疾病管理プログラムをスタートに、日本でも20年に禁煙治療補助アプリが認可を受けている。

弊社では頭痛治療のHedgehog MedTechとメンタルヘルスのBiPSEEという二社に投資をしている。いずれもまだ新しいスタートアップだが、多くの人が悩む頭痛や心の病気を、デジタル技術で治療できる時代が来ることを期待している。

二つ目の「OMO医療」は、オンラインとリアルのいいところを統合(OMO : Online Merges with Offline)した医療だ。

基本的には遠隔診療での診断をメインとし、初期の症状の切り分けなどが済んだ段階で予約制で病院に通院する。病院ではすでに事前の情報の登録、診断が済んだ上での予約制での通院であるため診察前に待たされることもなく、効率的、効果的に処置ができるという仕組みだ。

弊社では脳ドックのSmartScan、ペット病院のDr TreatというOMO医療スタートアップに投資をしている。

最後は「メタバース医療」だ。スマホの次の大波として期待されているメタバース。コンピューターの処理性能や通信速度の向上により、多くの人が3次元の仮想空間でさまざまな活動をすると考えられている。

通信の遅れが極めて少ない5G通信を使えば、新幹線のように高速に移動する交通機関の中でも、精緻な手術をメタバース上で行えるようになると考えられている。まだ手術そのものとはいかないが、弊社が投資をしているOssoVRは、メタバース上で手術のトレーニングを行うソリューションを提供することで、世界中の医者の手術の成功率を上げることに寄与している。

スマホやウエアラブルの普及で今の健康状態を把握することは以前より容易になりつつある。医療の進化とデジタルの進化が融合することにより、ヘルスケアや医療はまだまだ進化をしていくと期待したい。[日経産業新聞2022年12月8日付]

 

アステラスなどプログラムを医療機器に 効果や課題は
日経産業新聞  2022年12月9日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC296DJ0Z21C22A1000000/

スマートフォンを病気の悪化防止に役立つ医療機器に変える。そんな「医療機器プログラム」の開発が進んできた。アステラス製薬は2023年3月末までに臨床試験(治験)を始める。ソフトウエア開発のサスメドは不眠症の治療用アプリの承認を申請済みだ。投薬や手術などと並ぶ選択肢として定着すれば、生活の質向上や医療費の抑制につながる。

医療機器プログラムとはスマホやパソコンに人工知能(AI)などで機能を追加し、病気の治療や予防につなげるものを指す。治療用アプリが代表例だ。薬事法が医薬品医療機器等法(薬機法)に改正されたことに伴い、医療機器に組み込まれていないソフトウエア単体も医療機器として認められるようになった。

血糖値を測ってスマホに入力すると「危ない!低血糖の危険があります。今すぐリンゴジュースを飲むなどして、15分後に血糖値を再計測してください」と表示される。そんなアプリがある。デジタル医療関連事業の米ウェルドックの「ブルースター」だ。

これは10年に米国で承認されており「世界初の治療用アプリ」と呼ばれることもある。リンゴジュースについての文言は、治療薬が効きすぎて低血糖による意識不明などを起こすことを防ぐ警告だ。

アプリは単純に警告するだけでなく、専門家へ相談できる機能なども備えている。

アステラスの岡村直樹副社長は、同社として初めての治療用アプリを日本で開発する意義について「薬がアプリなどに代替される未来が来る可能性があり、ノウハウを蓄積したい」と語る。

常に更新が可能

毎日の歩数や運動量を記録する「健康管理アプリ」とは異なり、発売には厚生労働省から承認を得る必要がある。アステラスでブルースターのアジア向け開発を指揮するRx+事業創成部の神田直幸ビジネスプロデューサーは「発売後に機能をアップデートできるのが特徴だ」と語る。

グローバル市場でみれば、医療機器プログラムの実用化は米国が先行した。AIに強いスタートアップが多く、規制当局も企業を支援してきたからだ。これに日本も追いつき始めている。

「料理の塩分を抑えるために、調味料ではなく薬味を使いましょう」。医療スタートアップのCureApp(キュア・アップ、東京・中央)は食生活などを見直して高血圧の悪化を防ぐスマホアプリの提供を9月に始めた。

医師が患者にパスワードを発行し、入力して個人のスマホで使う。独自のアルゴリズムで食事内容や血圧の推移などを分析し、一人ひとりに最適化した助言を表示する。患者は6カ月間、日々の血圧などを入力し医師の指導を受ける。医療費3割負担の場合で、負担額は月2490円(初月のみ2910円)だ。

医療機器プログラムには医療費抑制への期待がかかる。日本で糖尿病の治療にかかる年間費用は20年度の時点で約1兆2千億円、高血圧は約1兆7千億円ともいわれる。症状が悪化すれば日常生活や仕事にも影響を与える。キュア・アップの佐竹晃太社長は「心疾患や脳卒中などの罹患(りかん)防止にもつながり、医療費削減のポテンシャルは大きい」と強調する。

医師の「目」を補助

プログラム医療機器の用途は病気の治療だけではない。「AIの目」による画像診断など、医師の技能を手助けするものも登場してきた。

ここは内視鏡検査の現場。医師は横たわった患者の口からカメラを入れ、胃の内部を慎重に確認していく。そのとき「ピコン!」と電子音が鳴り、医師も気付かなかった病変部の存在を警告した。

これは富士フイルムが開発した胃と食道のがんを検出するソフトウエアだ。9月に承認を取得した。内視鏡システム部の佐伯達彦部長は「AIを活用することで、熟練した内視鏡医がいない地域でも質の高い医療を提供することができる」と意義を語る。

そのほかAI開発企業のAIメディカルサービス(東京・豊島)も、胃の病変ががんになる腫瘍性かどうかの確率をパーセント表示するソフトを開発中だ。

海外で医療機器プログラムは「SaMD(ソフトウエア・アズ・ア・メディカルデバイス)」と呼ばれることもある。厚労省は医療機器プログラムの実用化を日本でも進める戦略「DASH for SaMD」を策定し、企業を後押しする姿勢を示す。

医療機器などの審査を担うPMDA(医薬品医療機器総合機構)に企業への助言を担う相談窓口を置き、今後の申請増加にも備えている。

調査会社のグローバルインフォメーションによればSaMDの世界市場は27年までに864億5162万ドル(約12兆円)と、19年の184億8800万ドルと比べて約5倍となる見通しだ。これからは日本企業もグローバル市場で通用する製品を開発できる可能性がある。

一方で「治療効果」を的確に判定する手法や、病気を見落とす可能性を減らす方策といった課題もある。定着させるには製薬会社などが医師や患者に効果やリスクを丁寧に説明する努力が欠かせない。

VRゴーグルを活用

医療機器プログラムで治療に使う道具はスマートフォンやパソコンだけではない。仮想現実(VR)用のゴーグルを使い、うつ病など精神疾患を対象とした研究開発も進んでいる。今後は製薬会社や医療機器メーカーに加えて高度なソフトウエア技術を持つIT企業の新規参入も考えられる。承認申請が増えても対応できるような審査体制の整備なども必要になってくる。

「私の名前はアリ。お会いできてうれしいです」。VRゴーグルを装着すると、球体の形をしたキャラクターが目の前に現れる。導かれるままにゲームを進めると「自分にとって大切な価値観」に気づくことができる。そんなコンテンツの配信を住友ファーマとVRコンテンツ開発の米ビヘイビアが11月に米国で始めた。これも医療機器プログラムの一つの形だ。

現時点では医療機器プログラムではなく、誰でも使える一般向けコンテンツだ。しかし27年3月期をめどに、人と対話すると発汗や頭痛などが起きる「社交不安障害」を治療する目的で、米国での承認取得を目指す。

医療機器プログラムは、こんなウエアラブル端末での活用も進んできた。帝人ファーマはVRコンテンツ開発のジョリーグッド(東京・中央)と協力し、うつ病を治療するVRコンテンツの臨床研究を日本で11月に始めた。米国では慢性腰痛の治療を助けるVRプログラムが医療向けに実用化されている例もある。

単語の使用傾向を解析

医療機器プログラムを診断支援に使う取り組みでも新たな動きがある。これまでは内視鏡や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像をAIで分析するのが主流だった。これに対し、音声データを分析対象とする企業が出てきた。

「最近どうも物忘れが増えてきているようなんです」といった患者と医師の15分程度の会話音声をAIが分析する。具体的には患者が使う単語の傾向を解析し、認知症の重症度の判定につなげる。AI企業のFRONTEO(フロンテオ)は25年の発売を目指し、そんなソフトウエアの開発を進めている。

同社は新型コロナウイルスの流行に伴って少しずつ広がっているリモート診療も念頭に置いて「過疎地域の遠隔診療につながる可能性もある」と開発の意義を説明する。

一方で、医療機器プログラムを保健医療でどのように位置づけるかは定まっていない。まだ新しい技術で診療報酬の対象になっている製品が少なく、販売後の収益を予想しにくいのが実態だ。参入企業を増やすには収益性の「透明化」も必要になる。

官民でルールの協議を

医療機器プログラムの普及が進むドイツでは、一定の安全性と有効性のあるものは規制当局が柔軟に審査し、早期に発売できる仕組みがある。国際医療福祉大学の田村雄一教授は、「治療用アプリは柔軟な審査制度を用いるのが妥当だ」と指摘する。

審査の姿勢を緩め、危険性のある医療機器プログラムが発売されることを許してはいけないのは当然だ。それと同時に、大手企業からスタートアップまで幅広い企業が開発の意欲を高められるルール作成も重要になる。製品ガイドラインの拡充や最適な審査体制などの課題をどのように解決するかについて、官民が協議すべき時期が来ている。

 

 

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