熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

フィリップ・コトラー著「資本主義に希望はある」(1)

2016年04月05日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「Confronting Capitalism」と言うこの本、マーケティングの大家コトラ―の資本主義論であるから、意外や意外、実に面白いのである。
   それもその筈で、全く正反対の思想を持つ3人のノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマン、ポール・サミュエルソン、ロバート・ソローから教えを受けたと言うのであるから当然であろう。
   私の学生時代には、経済学は、殆ど総て、サミュエルソンの「Economics」から手ほどきを受けたようなもので、それに、私の場合には、シュンペーターやケインズ、それに、ガルブレイスに拮抗する形で、フリードマンも結構読んだので、コトラ―の資本主義論には、すらりと納得できることが多くて興味深いのである。

   現在の資本主義は、マルクスの容赦なき資本主義批判から比べれば、現代的な企業経営手法によって、効率性と生産性が大いに向上し、イノベーション主導型の資本主義が生活向上のために生み出した数々の技術、そして、消費者への裏切りや事業の悪用を減らし、是資するための法制度や規制に進展などによって、随分改善されてきた。
   しかし、大気汚染や武力紛争、気候変動、エコシステム/生物的多様性等々を筆頭にして、数え切れないほどの害悪をも生み出しており、多くの問題を惹起している。
   コトラーは、資本主義の欠点として、貧困問題の未解決、所得と資産の不平等等経済格差の拡大から説き起こして、資本主義に、市場の方程式に社会的価値と幸福を持ち込む必要性まで、14の欠点を挙げて、個々の問題を詳細に分析検討しながら、その処方箋を示し、あるべき資本主義の将来を提示しようと試みている。

   まず、今回は、貧困問題について、考えてみたいと思う。

   貧困については、地球上の70億人のうち、およそ50億人が、貧困または極貧状態にあり、この貧困が生み出すコストは、貧困層全体にかかる生活コストよりもはるかに上回っており、貧困と言う害毒は、人類全体にまわると説く。


   何が貧困を齎すのかについて、特にアフリカの深刻な問題を論じている。
   アフリカは、独立後に二つの間違いを犯した。
   一つ目は、殆どの国が終身制大統領のいる一党独裁体制を築いて、多くの富を大統領関係者に還流して、他の殆どのグループの利権の管理と配分から遠ざけた。
   二つ目は、アフリカ諸国の大半が、資本主義ではなく、社会主義的な経済体制を築いて、国有企業が、公共事業や基礎産業を運営し、国家と貿易を担って、企業性や創造性を育ててこなかった。と指摘している。
   グローバリゼーションの恩恵を受けて、中国やインドの超貧困層が減少しているのだが、アフリカでは、まだ、悪化の一途だと言う。
   アフリカ問題については、ポール・コリアのブックレビューなどで触れたので、蛇足は避けるが、今回、安倍首相が、ジンバブエの超独裁者ロバート・ムガベを招いて官邸で会談したのは、疑問なしとはしない。
   
   さて、この章で私が興味を持ったのは、経済成長と経済発展は、違う概念だと言う指摘である。
   経済発展とは、普通の人の生活を引き上げ、その人の選択の自由を増加させて、市民に仕事と避難場所を提供し、将来世代が必要とするものに手を付けることなく、今の生活を改善することを目指す。
   一方、経済成長は、GDPで図ったパイを大きくすることで、天然資源の枯渇や環境汚染、地球温暖化などの問題に対処できない。と言うことである。

   余談だが、これに関して、私が疑問に思っているのは、国民総幸福量( Gross National Happiness, GNH)と言う考え方で、非常に素晴らしいとは思うのだが、極めて尺度が曖昧であって、実施されているのは、ブータンだけだと言う。
   GNHは 1.心理的幸福、2.健康、3.教育、4.文化、5.環境、6.コミュニティー、7.良い統治、8.生活水準、9.自分の時間の使い方の9つの構成要素があると言うのだが、大半は、ある程度の経済水準あっての指標であり、一人当たり国民所得が2000ドル台で、国際連合による基準では後発開発途上国(最貧国)に分類されているブータンで、果たして、国民の生活を図る正しい経済発展の基準になるのかと言うことである。

   尤も、GDPについては、サミュエルソンが、半世紀以上も前に、主婦の労働を計量していないのはおかしいと指摘していたし、トフラーの生産消費者の概念を考慮しても経済指標としても一面的だが、それよりも、コトラーの指摘した天然資源の枯渇や環境汚染、地球温暖化などの問題などの外部不経済の問題や、宇宙船地球号を窮地に追い込んでいる経済指標であることを考えてみれば、早急に、代替経済指標を考え出さなければならないことは、事実であろう。

   
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