熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

戦略はクラフトのように創作されるもの・・・H.ミンツバーグ

2006年08月21日 | 経営・ビジネス
   今日は少し趣向を変えて夏ボケを吹き飛ばすために、話題を経営学に移してみたい。

   先に「MBAは会社を滅ぼす」を表した著名な経営学者H.ミンツバーグについてのMBA論議について触れたが、別な論文で、
会社の経営戦略など高邁な経営理論に基づいた緻密な計画過程を経て打ち立てられるのではなく、どちらかといえば、「戦略は工芸(クラフト)的に創作されると言うイメージこそ、実効性の高い戦略が生まれてくるプロセスを言い表している」と言っている。

   一般経営学の理論は、戦略策定の前提として、理性、合理的な統制、競合他社や市場に関するシステマチックな分析、自社の強みと弱みの分析、これ等の分析がもたらす総合的な判断に基づいて明快かつ具体的、網羅的な企業戦略が策定される等としている。
   しかし、工芸家が、長年来の伝統技能、自身の献身、ディテールへの拘りなどによって完璧さを期すように、現実には、経営戦略のイメージも、思考や理性ではなく、むしろ長い経験や没頭、手持ちの素材への愛着、バランス感覚と言ったものから生まれるのと同じである。
   形成してゆくプロセスと実行するプロセスが学習を通じて融合し、その結果、独創的な戦略へと徐々に発展して行くのだと言うのである。

   一般的には、戦略は、一種の計画であり、未来の行動を明らかにするガイドであると定義するが、ミンツバーグは、未来を意図する行動を表現するためだけではなく、過去の行為を説明するためにも必要なのだと説く。
   温故知新、未来を描くためには過去を学習することが大切だと強調する。
   戦略立案を「論理的に計画するプロセス」であるとか、戦略は体系的に計画すべきであるとかと言われているが、戦略は策定される場合もあれば、現実には、試行錯誤を通じて次第に自己形成されて行く場合が多い。

   ミンツバーグが特に強調するのは、工芸家の頭とその指は連動しているが、大企業では、この頭と指を切り離して、頭と指の間に不可欠なフィードバック・ループを切断してしまっている点である。
   戦略は日常的な末端の活動から遠く離れた組織の高次元に置いて作成されるものと考えるのは、因習的なマネジメント論の最大の誤りであり、また、企業が成功すると直ぐその成功を自動的にCEOの所為とするのも大きな間違いだと言うのである。
   トップと末端のコラボレーションあっての戦略だとする、これが、現場・現業重視のミンツバーグの面目躍如たる所でもある。

   戦略と言うものは、知らず知らずのうちに生まれて来たり、或いは何らかの意図があったにしても次第に形成されて行くことが多いが、ミンツバーグはこれを「創発戦略emergent strategy」と言っている。
   戦略を策定するためには、この創発の足とプランニングの足との二本足が必須である。何故なら、プランニングは学習を排除し、創発は統制を排除し、一方に偏りすぎるとどちらの方法も意味を失って、必要な学習と統制の結びつきを壊してしまうから、両方のバランスが大切である。
   純粋なプランニング戦略と純粋な創初的な戦略が一本の線上の両極にあって、実際の戦略のクラフテイングは、この中間のどこかで行われて戦略が打ち立てられると言うのである。
  
   優れた戦略は、およそ思いも寄らぬ場所で生まれたり、考えもしなかった方法で形成されたりするので、戦略を策定する唯一最善の方法など存在しないとミンツバーグは言う。

   ホンダは、ハーレイ・ダビッドソン等と戦うためにアメリカのバイク市場参入を目指して進出を図ったが悉く失敗して芽が出なかった。
   社員が移動用に使っていた自社製の小型の簡易バイクが消費者の目に留まって、その後人気が出て成功への道を歩んで行った。
   全く意図しない偶然の成功で、これは、クリステンセンのローエンドの破壊的イノベーションの例であるが、ホンダ社員の貢献は、小型バイクを乗り回しただけだとアメリカの経営学者は皆言うのであるが、本当にそれだけであろうか。
   
   先に逝ったガルブレイスが、「悪意なき欺瞞」で、経済学の通説に如何に誤魔化しと欺瞞が充満しているかを語っていたが、ミンツバーグも同じ様に、経営学の悪意なき欺瞞を少しづつ暴き出している。
   そんな視点から、ミンツバーグを呼んでいると経営学が少しはっきりと見えてくるような気がする。
   
   夕食前、偶々、WOWWOWチャネルで、「勝利への脱出」を放映していた。
   ナチスドイツの将校と連合国軍捕虜とのサッカー国際試合が舞台で、私が見たのは、丁度前半戦が終わってハーフタイムで控え室に帰って来た時、牢から地下壕を掘っていた仲間が部屋の湯船を突き破って出てきて選手達に逃げようと誘った所だ。
   捕虜生活に嫌気がさしていた選手が逃げようとしたが、逃亡を諦めて結局サッカーでドイツ軍をやっつけようと決心して後半戦に戻った。
   ペレの宙返りキックで同点に追いつき、時間切れ寸前で取られたゴール前ペナルティ・キックでゴール・キーパーのシルベスター・スタローンがボールを止めて同点で終わった。
   熱狂した観衆が競技場に雪崩れ込み、群衆の波にまぎれて全員脱出を果たした。

   予期しなかった劇的な幕切れだが、経営戦略の策定などこんなもので、予測など出来る筈はないし、理論どおりには行かないし、すべて偶然である。
   100年前から分かっていたような顔をして理論化して教えるのが経営学。
   ミンツバーグを読むと、ジャック・ウエルチが本当に偉大な経営者だったのかと、問わざるを得なくなるのが面白い。

   
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