熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

スマイルカーブとイノベーション・・・伊藤元重教授

2007年07月08日 | イノベーションと経営
   ITバブルの崩壊以降ここ数年、世界全体が経済成長を謳歌しているが、その原因は、経済のグローバル化とIT主導のイノベーションであることは間違いない。フリードマンの言うグローバル規模でのフラット化故の経済成長である。
   このフラット化したグローバル経済において、日本企業も、嫌でも応でも適切に対応しなければ生きて行けなくなってしまった。
   その為には、グローバルベースで、差別化戦略を推進して企業価値を高めることが必須だが、最も手っ取り早くて有効な手段は、スマイルカーブの両端、下流と上流の分野でイノベーションを追求することである。

   伊藤教授が、いつもの企業戦略論を、ペンシルベニア州政府による企業誘致セミナーでの基調講演「企業価値創造とグローバル戦略」で展開した。
   歴史的バックグラウンドは、フリードマンのフラット化理論、それに、スマイルカーブ論を主体とした企業成長戦略と、そのためのブルーオーシャン戦略を骨子に組み立てられた伊藤教授の企業成長戦略は非常にシンプルで分かり易いのだが、問題は、利益の高い上流にしろ下流にしろ、個別の企業がいかにイノベーションを追求して実現するかと言うことである。

   上流とは製造業で云えば素材産業で、確かに日本でも何でも屋の総合メーカーより素材専門メーカーの方がはるかに利益率が高いし、下流の消費者に直結した分野でブランド価値の高い差別化製品やサービスを提供している企業の業績は非常に高い。
   伊藤教授は、上流については、テクノロジーやニッチを活用した新製品の開発イノベーションの重要性を、そして、下流においては、顧客のニーズを満足させ得るブランドの確率の重要性を強調する。
   スマイルカーブの中間、すなわち、中流に位置する例えば自動車やTV等の家電産業ではいくら優良企業でも利益率が低いことを指摘し、むしろ、成熟産業であっても差別化した企業の方がはるかに利益率が高いことを、例えばリクルートなど3500億円の売上で1000億円の利益を上げているケースで例証する。

   成功する製品は、品質が良いことは勿論だが、iPodのようにビジネスモデルがユニークで、ブランドが高くなければならないとして、松下製品については個別のブランド力がなく、ソニーはビジネスモデルが駄目なので勝てないのだと言う。
   随分前からクリステンセンが指摘しているが、破壊的イノベーションでは必ず製品の質はダウンすると言っているのに、ソニーは、ウォークマンの方が質が高いと言い続けており、まだ、音とデザインの質を高めて差別化するのだと中鉢社長は能天気なことを云っており、ビジネスモデルとソフトで負けている現実を経営戦略に取り入れようとしていない。
   顧客のニーズを完全に無視して、スーパーコンピューターに匹敵するオーバースペックのPS3を開発して、任天堂のWiiにさえ負けて大幅な欠損を続けているのなどは、正に愚の骨頂の経営戦略であり、これは、伊藤理論以前の問題である。

   伊藤教授は、イノベーションを生むためには、異質のものと交わることだと言う。
   東京が日本で最もイノベイティブなのは地方から人々が集まってくるからであり、アメリカがそうなのは移民による民族の坩堝であるからだと言う。
   伊藤教授の言っていることは至極御尤もで、イノベーション論を多少勉強すれば分かる自明のことなのだが、
   問題は、何故、ソニーが前述したように、分かりきったイノベーション戦略を有効に打って経営を改善出来ないのか、何故、松下がiPodやウォークマンに対応する携帯音楽プレーヤーのブランド名を顧客に浸透させて市場に確立出来ないのかなのである。

   伊藤教授は、パナソニックのデジタルオーディオのブランド名を聴衆に聞いたらD-snapなど殆ど誰も知らなかったが、やはり、ゼロックスやリコピー、コダック、ウォークマン、或いは、iPodと言ったように普通名詞になるような強力なブランド戦略をうって市場で知名度を上げない限り、中村改革も実効性は上がらないと言うことであろう。
   ソニーも、松下も、製品はダントツに素晴らしいが、スマイルカーブの下流のところ、すなわち、消費者に直結した顧客満足を創造するためのビジネスモデルやソフトの構築イノベーションに弱い所に最大の問題がある。
   おそらく、良いものを作れば売れると言う製品の質の差別化に注力しすぎる日本人独特の技術神話に根ざしたこの欠点は、日本メーカーに共通した問題であろうと思っている。
   

   
   
   
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