熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:アンガス ・ディートン「アメリカの民主主義を壊したのは誰だ? Who Broke American Democracy?」

2022年11月03日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   Project Syndicateの、ノーベル経済学賞受賞者アンガス ・ディートンの、「アメリカの民主主義を壊したのは誰だ? Who Broke American Democracy ?」が、興味深い。
   
   米国の現在の主流のナラティブは、民主主義が、MAGA(Make America Great Again )の熱狂者、選挙の否定論者、および不利な結果を無視すると脅迫している共和党員からの脅威にさらされていると言う主張だが、ある程度は真実としても、また、より長期にわたる別の、50 年以上にわたり、大学の学位を持たないアメリカ人が、さまざまな物質的、健康的、社会的結果によって生活が悪化するのを目の当たりにしてきたと言うナラティブがある。
   民主主義は平等を前提としており、すべての市民は政治的決定に影響を与える平等な機会を持つことになっている筈なのだが、米国ではあまりにも長い間、政治と選挙制度が、大卒でない人々を犠牲にして、エリートと裕福な人々の利益に応えてきた。
   2016年の大統領選挙で、ラストベルトで、白人の低学歴の労働階級の有権者達が雪崩を打ってトランプ支持者となって戦況を逆転した、あの病症がその現れだが、
   これが、アメリカの民主主義を壊した元凶だというのである。

   米国の成人人口の 3 分の 2 は 4 年制大学の学位を取得していないのだが、政治システムが彼らのニーズに応えることはめったになく、企業の利益と教育水準の高いアメリカ人に有利な政策を頻繁に制定してきた。彼らから「盗まれた」のは選挙ではなく、政治的意思決定に参加する権利であり、民主主義によって保証されている権利であり、この観点から見ると、投票システムの支配権を握ろうとする彼らの努力は、公正な選挙を否定するというよりは、弱者に極めて不公正な選挙を改訂して、選挙で彼らが望むものの一部を実現させようとする試みなのである。

   このコホートに動機を与えている要因は多々あって、
   社会的および個人の健康の確固たる尺度である平均余命は、教育を受けていない男性では 2010 年以降、女性では 1990 年以前から低下しており、
   教育を受けていない男性の労働参加率は数十年にわたって低下しており、2000 年以降女性の労働参加率も低下している。大学の学位を持たない男性の実質(インフレ調整済み​​)平均賃金は、1970 年以降低下傾向に有り、教育を受けていない多くの男性は支援機関から排除されている。
   有権者の 3 分の 2 が、政府は「主に強力なエリートに利益をもたらすために働いている」と考えていて、政治的怠慢が許す政策に苦しんでいるのはこのグループであり、連邦最低賃金は 2009 年以来引き上げられていない。

   議会での決定は、膨大な資金にものを言わせて活発にロビー活動して自分たちに有利な法案を通そうとするエリート集団には対抗不可能で、単一支払者の医療、健康保険の公的オプション、最低賃金の引き上げなど、非エリート層に最も関係する問題は、立法の議題にさえならない。
   労働ではなくビジネスと資本に好意的な見方をする議員を強く選ぶシステムであるから、議会の代表者は、自らの成分を中毒させているオピオイドの製造業者と販売業者に有利な法律を緩和し、調査を阻止したので、これほどまでに虐待されてきた人々の多くが、ひどく不信感を抱く体制が推進するワクチンを受け入れることに消極的であることは、驚くべきことではないと言うのが興味深い。

   もう 1 つの問題は、企業がコストよりもマークアップを増やしていることで、これにより、労働から資本へと収入が再分配される。さらに悪いことに、この傾向は、有効な法的サポートもなく、反トラスト法執行の長期的な弱体化によって助長され、この行為は、企業寄りのグループからの圧力を受けやすいと予想されて選ばれた規制当局と裁判官によって行われたのである。

   2016 年と 2020 年にドナルド・トランプ氏に投票したのは、教育を受けていないアメリカ人で早死にするリスクが高い人の比率が高かった。
   自殺、薬物の過剰摂取、アルコール性肝疾患による「絶望の死」を郡全体で集計し、それらをトランプの得票率と照合することで、確認できたと言う。
   死亡率と選挙否定論者の間にはさらに密接な関係があり、バイデンの当選を承認することに反対票を投じた共和党議員の選挙区では、承認に投票した共和党議員の選挙区よりも絶望的な死亡率が高いことがわかり、これは、怒りに満ち、無駄で、挫折した民主主義ではあるが、民主主義が機能している事例である。と言う。

   民主主義は平等を前提としている。すべての市民は、政治的決定に影響を与える平等な機会を持つことになっている。 MAGA の有権者はかつてないほどシステムを脅かしているかもしれないが、火のないところに煙は立たない。と結んでいる。

    MAGA熱狂者たちが、アメリカの民主主義を破壊したのではなくて、大卒でない人々など弱者を犠牲にして、エリートと裕福な人々の利益に応えてきたアメリカの政治経済社会の疲弊衰退を放置してきた危機的な状態が、その元凶なのだと言うことである。
   このような考え方は、新規でも珍しくもないのだが、アメリカ社会の深刻な格差拡大を、根本的に解決しない限り、民主主義は、崩壊の一途を辿ると正面切って言っているところに注目しよう。

   選挙制度さえ否定するMAGA信奉者などの正気の沙汰だとは思えない言動や行動が、最も信頼に値する筈の一等国のアメリカの実像だとは思いたくないのだが、来週の中間選挙で、更に右傾化反動化しそうな予感がして、不安になっている。

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