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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

野中郁次郎先生と寺島実郎氏の講演を聴いて

2015年10月01日 | 政治・経済・社会
   さいたま新都心のラフレ埼玉で開かれた「日刊工業新聞創刊100周年 感謝の集い」に参加した。
   講演会の基調講演で、野中郁次郎先生が、「今、求められるリーダーとは」
   寺島実郎氏が、「20世紀と格闘した先人たち」と言う魅力的な講演を行うので、一寸遠かったが、出かけたのである。
   日刊工業が、100年企業の仲間入りしたと言うことで、工業立国日本のいわば羅針盤的な役割を果たしてきたのであるから、貢献は偉大であろう。

   野中先生の講演は、実践知のリーダーとして、動きながら考え抜く、共通善に向けて「よりよい」を無限追求して行く知的体育会系リーダーについて、熱っぽく語った。
   暗黙知と形式知から説き始めて、本田宗一郎やビル・ゲイツを例にとり、アーツとサイエンスの綜合としての経営学、そして、ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された「The Wise Leader 賢愚のリーダー」像を、浮き彫りにして明快である。
   良く似たリーダー論を、ミンツバーグなども語っていて興味深いのだが、感銘を受けるのは、暗黙知と形式知を総合しアウフヘーベンした実践知を実行に移す体育会系のDoerの重要性を強調して、高邁な共通善を追求する思索家 Deep Thinkerの融合体としてのリーダー像を描き出していることである。

   経営者としては、イノベーションの追求が重要であろうが、野中先生が、実践知の起源としたのは、アリストテレスの「フロネシス 賢慮・・・人間にとって善または悪である物事に関する行動能力の、真の理性的な状況」であった。
   実践知は、倫理的に健全な判断を可能にする経験的知識であり、経営者にフレネシスがあれば、特定の時間や状況下で何が善かを判断し、最善の行動をとって共通善に資することが出来ると、説き続けて来たのである。
   「賢愚のリーダー」でさえあれば、東芝やフォルクスワーゲンのような悲しい事態は、起こり得なかったと言うことであろう。

   寺島氏は、最近出版した新書だとして、本を紹介していたが、20世紀と格闘した先人の一人として、三井物産の水上達三社長について語り、その偉大さは、情報収集インテリジェンスにあったと語っていて、興味深かった。

   私が興味を感じたのは、アメリカの経済分析であった。
   何時ものように、立派な資料集を配布して、その一部を引用しながら語るのだが、
   アメリカの実体経済は、基本的に回復基調にあるとして、
   ①化石燃料におけるシェールガス・シェールオイル革命として、2014年に、米国が世界一の原油・LNG生産国に
   ②次世代ICT革命として、クラウド、ビッグデータの時代における主導性
   について、語ったことである。

   石油・ガスで、世界一に躍り出たと言うことは、石油がぶ飲みのアメリカ経済のアキレス腱が、大量の石油輸入の必要性で、そのために、中東の安定と利権確保維持が、最重要課題であった筈だったが、この心配が薄らいできたと言うことではなかろうか、と言うことである。
   そうなれば、アメリカの軍事外交上での中東への入れ込み方なり、比重が下がって来てもおかしくはない。
   寺島氏は、サウジアラビアなどの産油国はともかく、石油とは縁のないエジプトなどへの関与の重要性が低下してきていると言うような表現をしていたが、そう考えれば、オバマ大統領のシリアやイスラム国に対して、かなり、消極的な姿勢が解って来る。(注)

   第一次世界大戦が、サラエボのオーストリア皇太子の暗殺で始まったように、シリアはヨーロッパの問題であって、今や、アメリカが世界の警察の役割を捨てた以上、地政学的グラビティが、再び始動しはじめたと言うことであろうか。

   もう一つ、石油・ガスが大量に産出され安くなってくると、アメリカの石油化学産業など関連産業が動き出して、製造業に追い風になりそうだと言うことで、その意味でも、このオイル革命の影響は大きい。

   ICT革命については、20世紀末から、アメリカが、経済の再生を果たして、再び、世界経済のリーダーに躍り出たのは、正に、このためで、ムーアの法則が、総てのデジタルICT革命の軌道に展開されているようで、まだまだ、アメリカ主導で発展し続けている。 
   正に、起業家精神の権化とも言うべきイノベーション・オリエンテッドなアメリカの底力、そのものの発露なのであろうが、このクラウドもビッグデータも、やっと、緒に着いたところだと言うから、どれだけ、アメリカ経済をドライブするか、このまま、順調に推移して欲しいと思っている。

   株高にやや批判的で、あまり、アベノミクスは、上手く行っていないような話をしていたが、S&Pが、日本国債の格付けを、「経済好転の可能性低い」と、1段階格下げたのであるから、そうであろう。
   
   さて、さいたま新都心へは、初めてであったので、素晴らしい近代的な都市開発に、びっくりした。
   私も、随分前に、上尾に住んでいて埼玉県民であった時期があったので、埼玉県の発展には無関心ではない。
   ところで、この日、東京上野ラインの古賀行で、大船からさいたま新都心に乗ったのだが、横浜までは混雑、東京まではかなりの混み様であったが、東京からは、社内はガラガラで、一挙に客が減ったのには、びっくりした。
   東海道沿線と、上野大宮沿線との経済格差・都市化の差なのであろうか。

   もう一つ驚いたのは、この高崎線と言うか常磐線と言うか北行きの沿線の発展ぶりである。
   私が、上尾から上野で乗り換えて神田まで通っていた頃には、考えられないような進歩である。
   尤も、随分昔のことで、出入り口が前と後ろにしかない列車にギュウギュウ詰めに客を押し込んで運行しながら、絶えずストを繰り返して、客に生き地獄を味わわせて平然としていた国鉄時代のことではある。
   とうとう、頭に来た通勤客たちが、上尾駅を焼き討ちにしたと言う記事を、ニューヨークで、TIME誌で見て、さもありなんと溜飲を下げたのを覚えている。
   余談ながら、あの3.11で日本には略奪も暴動もなかったと世界から称賛されたと言われているが、日本人は、随分過酷な運命にジッとよく耐える国民だと、つくづく思う。

(追記)この中東危機に対する米国の消極的態度については、ブレッド・スティーブンズが、「撤退するアメリカと「無秩序」の世紀」で、「よその国のことには口を出すべきではない」と言う最早中東には興味がなくなったアメリカ人の厭戦気分の台頭とこれに呼応したオバマの徹底的に消極的な外交方針への変更など、アメリカの孤立主義について論じていて、時代の潮流が大きく変わったことを説いている。
   この線上で、安倍政権の安保法制への取り組み・姿勢を考えると、何かが浮かび上がってくる。(2015.10.14)
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